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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
43日目、手遅れなのです
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『オルデク』実験②



「アイツ等の風呂、いつも長くねぇか」

「ヘンタイさんはやっぱりヘンタイでス」

「……」

「女性のお風呂事情を気にするとハ」


 まァ、普通より長いとは思います。でも、女性が二人入ってればこんなものでしょう。リツカお姉さんは完全に疲れきってますし、ゆっくり休むべきです。


「そんで」

「ン?」

「赤いのはどうなんだ」

「気付いてたんですカ」

「馬鹿にすんな」


 リツカお姉さんの異常。サボリさん改めヘンタイさんまで気付くとは。


「戦争後、意識を取り戻した際リツカお姉さんは感知と魔法が使えなくなってましタ」

「そういや、そんな事もあったな」

「今回、それは大丈夫でしたけド、魔力が少ない気がしまス」

「一晩寝ても回復しなかったって事か」

「回復量が少ないですネ。時間が経てば戻るでしょうけド、今日は何もしない方がいいと思いまス」


 そういっても、やるんでしょうけどね。


「原因は言うまでも無くアレでス」


 死ぬ寸前まで撃ち込んだ、魔力の大砲です。魔法に危殆はありませんけど、あれは魔法じゃないですからね。


「こちらを心配させないように振舞ってますけド」


 巫女さんはリツカお姉さんの事で分からない事なんてないですし、私はそこそこ魔力を感じられます。


「ヘンタイさんは良く気付けましたネ」

「……存在感が薄い上に、殺気が甘かったからな」

「あァ、良く向けられてるかラ」

「まぁ、違ぇねぇな」


 気付いてるなら話は早いです。


「私達の所為でそうなったのは分かってますよネ」

「……あぁ」

「なラ、やる事は分かってますネ」

「あぁ」


 兎にも角にも、私達が頑張るべきです。巫女さんにも、歯痒い思いをさせています。二度と在ってはいけません。


「背後に気をつけなければいけませン」

「赤いのみてぇに常に気を張るなんざ無理だろ」

「”警報”でも使いますカ」


 一応、踏み込めば音が出る魔法はあるのです。


「常に鳴りそうだな」

「ですよネ」


 巫女さんの”拒絶”と違って、細かい設定なんて出来ません。入ったら鳴ります。それこそ、葉っぱでも鳴ります。使い物になりません。


「ヘンタイさんが頑張って感知してくださイ」

「無茶言うな。一朝一夕で出来るようになって堪るか」


 これもまた、そうですよね。そんなすぐ出来たら、リツカお姉さんは苦労しなくて良いです。


「無茶でもやらないとダメなんですヨ」


 さて、そろそろ上がった頃ですね。

 対応策を考えないといけませんけど、まずは目の前の問題ですね。


 オルデクですか。女子供の行く町ではないです。巫女に対しての不信感はそんなにないでしょうけど、それとは関係なく白い目で見られるでしょう。


(あのお二人の事ですから分かってないでしょうけど、きっと声をかけられますよ。お客からも店側からも)


 それを退けるのが私の役目です。気合を入れましょう。リツカお姉さんが動く前に私が動くのです。


(それすらも難しいんですけどね)


 魔力とは関係なしに、リツカお姉さんの感知は健在です。


「息抜きくらいは良いですけド、巫女さん達が呼んだらすぐ来てくださいヨ」

「息抜きの必要もねぇっつってんだろ」

「皆そう言うんでス」


 行く前は。でも、行ってからは何だかんだで入るんですよ。


「入るお店にも気をつけてくださいヨ。椅子に座るだけで十万ゼルとかありますかラ」

「何だよそれ」

「席代ですヨ。世の中にはそういったお店もあるんでス」

「阿漕な商売だな」


 ほんと、そう思いますよ。




 体はリラックスしすぎて蕩けています。心は軽く、気分は超高揚です。ただ、心臓に悪いです。

 看病モードのアリスさんに、隅々まで洗ってもらいました。


「そろそろ上がりましょう」

「ぅん。シーアさんも、入るからね」


 立ち上がり、湯船から出ます。確かに……体が重いみたいです。普段魔力の補助を受けていたのだと、実感します。魔力のない、普通の体はこんなにも……言う事を聞かないのですね。


(これが私の世界での普通。これに違和感があるって事は、馴染んでる証拠)


 逆に考えましょう。魔法に馴染んできたのだと。これを受け入れれば、魔法はもっと私に力をくれるのです。何も不思議がる事はありません。


「オルデクに着くまでに、服を完成させますね」

「見てても良いかな? どういう風に作るか興味あったり」

「是非見ていて下さい。リッカさまが見ていてくれた方が、良い物が出来ますから」

「うんっ」


 にこりと微笑んだアリスさんが、私の服を手に取りました。


「?」

「さぁ」

「き、着るのは自分で」


 スッと私の肩に手を置いたアリスさん。見えていても、体が動きませんでした。というより、全く動こうとしなかったので……私は抵抗する気が初めからなかったみたいです。


「早くしませんと、シーアさんが待っていますから」

「ぅぅ……」


 しゃがみこんだアリスさんの肩に手を置いて、着替えを受け入れます。看病というより、介護……? アリスさんは嬉しそうですし、私も……恥ずかしいながらも、受け入れるあたり……楽しんでいるのでしょう。



 部屋に戻り、アリスさんが糸を用意しています。


「この糸は、アルツィアさまの髪から作られています。これでこちらの布を縫い刺繍を施します」

「溶かし込んでるんだっけ」

「はい。布はこちらですね。薄くみえるかもしれませんけれど、温かいです」

「これとは違うの?」


 今着ている物も、それなりに温かく伸び縮みします。肌触りも良く、まるでシルクで作られた毛布を着ているかのような。


「こちらの方が温かいですね。その分伸縮性に難があるので、その辺りを調整しましょう」


 アリスさんがさらりと魔法をかけると、布が宙に浮き服の形になっていきます。それが仮縫いまでされるのです。まるで、アニメ映画に出てくるワンシーンです。


「ふふふ」

「ぅ?」

「可愛らしい」


 仮縫いが終わるまでの少しの間、アリスさんが私の顎をこちょこちょと、猫にするようにくすぐります。


「もっと瞳を見せて下さい」

「ん」


 目を閉じてされるがままだった私は、目を開けます。アリスさんの目線と絡み合います。


「キラキラしていて、綺麗です」

「アリスさんも、きれい」


 撫でていた指が、顎に添えられます。くいっと、顎を持ち上げられ、じっと見つめ合うように――


「……」

「……」


 しばし見詰め合い、次第に距離が近づいていっていると、浮いていた服が落ちました。どうやら、仮縫いが終わったようです。


「ぁ……」

「……残念です」


 名残惜しそうに、アリスさんが作業に戻ります。私も、残念です。もっと見ていたかったのに。


「……」


 じっと、アリスさんの横顔を見ます。真剣な表情も可愛くて、凛々しくて、心が洗われるようです。


 最近ずっと、ささくれ立つような出来事ばかりでした。ゆっくりとアリスさんを見れることが、こんなにも嬉しい。


 邪魔してはいけないので、抱きつけません。その代わりなのか、私はどんどん、近づいてしまいます。


 アリスさんの肩に頭を置き、手元を見ます。淀みなく、頭の中の設計図の通りにアリスさんの手が動いています。


「……っ」

「眠いですか?」

「ご、ごめん……」

「ふふ……。どうぞ、私の肩をお使い下さい」

「でも……」

「傍に居てくれるだけで、嬉しいです」

「……うん」


 しっかり見ていようと思ったのに……眠気が襲ってきてしまいました。アリスさんに甘えて、私はそのまま……眠りについてしまったのです。


「すぅー……すぅ……」

「ふふ」

 

 アルレスィアが、慎重に、細心の注意を払ってリツカの頭を膝に移す。頭を数度撫で、作業を再開する。


 静かで、柔らかい空間に、リツカの寝息だけが小さく聞こえる。アルレスィアは、ただひたすらに喜んでいる心を必死で押さえ込む。そうしなければ――リツカを愛でるだけで一日が終わってしまうだろうから。


「起きた頃には、新しい服を用意していますからね」


 全ての想いを込め、服を編み上げる。首元のボリュームタートルネックは、よりふわふわに仕上げていく。合わせて、カーデも作るようだ。桃色だったローブは、赤を基調に白いラインがアクセントとなっている。白いカーデに合うように作られていく。


 体のラインが出て恥ずかしいと思っていたリツカに合わせ、少しゆったりとしている。スリット部の露出は仕方ないとしても、間違っても下着が見えないように一工夫を施す。蹴り技を頻繁に使うようになったリツカに合わせていく。


 全ては、リツカの為に。アルツィアの一部で魔力制御をしなければいけない。お洒落らしいお洒落は出来ない。せめて普段着となる巫女服は可愛いものに。

 

「喜んでくれるでしょうか」


 アルレスィアが少し心配そうに呟く。そんな心配は杞憂だ。リツカならば気に入ってくれる。何よりアルレスィアが心を込めて作っているのだから。

 その気持ちはしっかりと、伝わるだろう。


 仕上げに、魔力を少し通してみる。本当に薄っすらと入れられた桃色の刺繍に、アルレスィアの銀色が灯る。

 リツカの赤を彩るように、白いラインが映える。綺麗なドレスにも見える、ローブの出来上がりだ。




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