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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
43日目、手遅れなのです
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『トぅリア』後悔⑤



「何だよ、これ」


 一人の男が村に帰って来た。辺り一面血の海。腕や脚が落ちており、壁には何かの欠片がこびりついている。


 今にも吐いてしまいそうな男は、死の世界に足が震え始めた。


(誰か、居ないのか)


 じりじりと村を歩き出す。誰でも良いから生きていて欲しいと、縋っている。


「誰か……ッ」


 一件ずつ扉を開ける。教主に言われて作った、教会の地下も見てみる。一件開ける毎に、男の目から涙が零れていく。


「何が、あったんだよ……ッ」


 項垂れ、膝をつき、歩みを止める。


「……ッ?」


 静かな地獄に絶望する男の耳に、物音が聞こえてきた。


「あっち、か? あっちは……」


 男は再び、歩き出した。




「何かありましたカ」

「金床、鉄槌、砥石」

「そっちじゃないでス」

「無ぇ」


 シーアさん達の方も、なかったみたいですね。


「そちらハ、何か見つけたみたいですネ」

「日誌が一冊程ありました。もしかしたら、村の方に保管されているかもしれません」

「遺品整理でもしたんですかネ」


 ライゼさんが死んだと思っている人達です。遺品整理の為に入ったっていうのはありそうです。


「持って行ってなかったのに、なくなってるっていうものありませんか」


 レイメイさんに、追放される前と後で消えた物がないか尋ねます。


「覚えてねぇな。ライゼの私物は殆ど持って行ったはずだが、あん時はキレてたからな」


 ライゼさんが、レイメイさんの方ではなく村人の言葉を信じたって話でしたね。


 暴力を振るってしまった以上、謝るのは筋のような気もします。でもそれが、村の為であったのなら……考慮して欲しいと思うのもまた、仕方ない事なのだと私は考えます。


「村の方に行ってみましょう。もしかしたら、誰か来ているかもしれません」

「教会とか出来てるから、外との交流を始めてるかもしれないしね」

「そこまで簡単に意識が変わるとは思わんが、教主くれぇは居るか」

 

 教会を作ろうと諭した人が居るかもしれません。いくらライゼさんが私と関わった事で死んだと思っても、教会を建ててまで改宗しようとなるかといえば……そうは、なりませんね。


 元々宗教に縋るような人達ではなかったという話ですし、誰か居ると考えるのが自然だと思うのです。


「説明が難しい状況ですシ、余り来て欲しくないですネ」

「そういう訳にもいかないので、何とか王都に連絡を入れたいところです」


 ただの殺人事件ならば、近くの警察機関に任せますけれど……。村を丸々となると、警察では対応出来ないでしょう。犯人も分かっている事ですし、王国兵に任せたいところです。


「今の私達って、他人から見たらどう写るんだろ」

「村人を皆殺しにした後物色する強盗ってとこか」

「冗談になりそうにないですネ」

「一回出ようか」


 大変残念な事に、すでに村に人が入ってきています。真っ直ぐこちらに向かっているのは、物音に気付いたのかもしれません。異常なまでに静かになった村ですから。



「あんた等……そこで何してる」

「待って下さい。怪し」

「あの村で何した!? 何処にやったかって聞いてんだよ!」


 私達を犯人と決め付けてしまっているようです。状況からして私達が犯人に見えるかもしれませんけど、まずは落ち着いて欲しいと、説得を繰り返しました。


「私達が来た時には、すでに」

「そんなの信じると思ってんのか!? だったらなんでそんな冷静なんだよ!」


 誰かに見られると、疑われると思っていました。でも、村人に見つかったのは運がなかったのでしょう。完全に、沸騰してしまっています。


「おい、いい加減落ち着けよ」

「お前も仲間なんだろ……!? そんな奴の――お前……」


 レイメイさんに気付いた男性は、漸く叫ぶのをやめてくれました。その代わり、怒りは強くなったように感じます。


「ウィンツェッツ……か!?」

「あ? 誰だお前ぇ」

「恨みはあるだろうがここまですることかよ!!」

「……はァ?」


 困惑の表情を浮かべたのち、今にもキレそうなレイメイさんを手で制します。これ以上複雑化させないで欲しいです。


「まだ恨んでんのか!?」

「だから、何の話だよ」

「追放の話だ! 俺等が嘘ついたこと、まだ恨んでんのかって言ってんだよッ!!」

「あぁ、あいつ等か。恨んでねぇ。こんな村、出て行きたくて仕方なかったからな」


 どうやら、レイメイさんが追放されるきっかけとなった人のようです。


「顔すら覚えてねぇのに、恨むも何もねぇだろ」


 この人からの疑いを晴らす事は出来そうにありません。事を荒げる事無く、王国兵に連絡を入れたいところです。


「ここはサボリさんに任せテ、連絡を入れにいきましょウ」

「でも、届かないんじゃ」

「コランタンさんになら届くはずでス。通報してもらいましょウ」


 なるほど。直通は無理でも、それならばいけそうですね。


「私達は一応、ここを見てるから。お願いできるかな」

「分かりましタ」


 シーアさんが少し離れ、”伝言”を開始してくれました。


「………あ、先日はどうも。実はですね」


 繋がったようです。レイメイさんの方に戻りましょう。


「もういい加減にしろよ。てめぇ」

「何だ殺すか!? 他の奴等みてぇによッ!!」

「人間は殺さねぇっつってんだろ」

「お前にとっちゃ俺等は人間じゃねぇってか!?」

「狂ってんのかてめぇ」


 まだ冷静さを残してはいますけど、レイメイさんもいつキレるか。村人の男性はもはや、混乱状態です。何を言っても悪い方へいくでしょう。


「大体お前等は何なんだよ!!」


 男性が視線を私達に向け、怒鳴り散らします。


「私達は――」


 どうしましょう。”巫女”に悪い印象を持っている村の人に、本当の事を話すべきでしょうか。


「待て。教主様から聞いた事がある。巫女っていうのは、銀髪と赤髪だってな……!」


 教主様。それが、あの教会や慰霊碑を建てるように命じた人ですか。


「異教の人間は、人間じゃねぇってか!?」


 レイメイさんに罪を擦り付けるような、最低の人間が何を。と、口から出てしまいそうになります。正直、ここまで思い込みが激しいのはどうかと思います。これで三人目ですか。宗教関係の、思い込みが激しい人と出会うのは。


(ルイースヒぇンさんは違うか。あの人は、司祭とは違いますし)


 思い込みじゃなくて、そう思わないと壊れてしまうって感じでした。縋っているのです。


 でもこの人は違います。司祭タイプです。司祭は、最期には感謝していたとアリスさんが教えてくれました。この人にも、根気良く語りかければ分かってもらえるかもしれません。


 でも、話し合いをさせてくれません。


「おい」

「はい」


 レイメイさんが私達を呼びました。


「こいつは俺が対応しとく。お前等は続きを始めろ」

「……良いんですか?」

「大事にはしねぇよ」


 少し心配ですけど、任せます。相手が余りにも的外れな事を言うと、レイメイさんは冷静になる傾向にあったはずです。


「待てよ……! 話すらしねぇってか!?」

「さっきまで話そうとしてたろうが。それを悉く潰したてめぇが何言ってやがる」

「あんだと!?」


 任せても大丈夫そうです。


「コランタンさんに頼んで通報してもらえる事になりましタ。到着は明後日になるようでス」

「分かりました。では、私達は捜査をしましょう」

「あの人はレイメイさんが対応してくれるみたいだから、その間に」

「はイ」


 本当は、住民として捜査に協力して欲しいのですけど……。


 私達が来るのがもう少し遅かったり、あの人が来るのがもう少し早かったりすれば、協力してもらえたのかと考えます。結果として、手伝ってもらえなかった。と、私は思ってしまいます。


 あの様子からして、レイメイさんにすぐ気付いて、復讐にきたのかと言っていました。巫女というだけで、異教徒だか何だかと責めてきたのです。もはや、話し合いは無理でしょう。あの人の中で、私達が犯人となっています。そこから脱却する事はないと思います。


 北部に入って三つ目。これからの旅は、少し……不安しかありませんね。


「……」


 でも、そんな私の不安は簡単に消えます。アリスさんが私の手を握ってくれるから。


 マクゼルトの独断で行われた虐殺。あの時私が起きていれば、と後悔がつきません。それでも私は止まる事はないでしょう。でも、もう少し……覚悟するのに時間がかかってしまいます。

 

 だからもうちょっとだけ、アリスさんの温もりを――ください。



ブクマありがとうございます!

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