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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
3日目、しばしの別れなのです
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二人で歩く世界



(どういうこと……? 今言葉を)


 気にしても、しかたないのでしょうか。今の私は冷静とは思えません。聞き間違えと思い、もう動かない馬に戻った死体の元から、去ります。


 悪意の浄化さえすれば、人は元に戻るそうです。しかし……動物と、深く汚染された人間は……殺さなければ、なりません。


 つまり私は、いずれ……人を殺さなければ、いけません。

 

「―――っ」

(浄化できる人に関しては、”光”で、出来る)


 アリスさんも実践はしてません。あくまで神さま調べ。分からないことのほうが多い旅なのです。時間が許す限り、試行錯誤の連続でしょう。


 今は、状況の確認を急ぎます。


「アリスさん、皆は無事?」


 みれば行商人が五人になっています。


「はい、皆さま無事のようです。騒ぎが収まったのを感じて、商品を取り戻しにきたとのことです」

「無事なら、よかった」


 商魂たくましいですね……。いえ、これが普通なのでしょうか。集落でも皆、通常営業でしたし……。行商の方達は震えてはいますけど、全員無事のようです。


 それにしても、立て続けに二体……。


「あんなに、立て続けに出るの?」


 あんなにポンポン生まれては、いずれ対応できなくなってしまう可能性があります。


「負の感情が集まる場所には、悪意が生まれやすくなります。マリスタザリアが現れると、爆発的に負の感情が生まれますから……その所為だと思います」

「ふむ……。人が集まっている場所だと、最後まで気を抜かないほうがいいんだね」


 恐怖や怒り、悲しみが増えると危険ということですか。マリスタザリアが一体でも生まれれば、もう一体が生まれる可能性が爆発的に増えるという事です。なんて厄介な、種族なのでしょう……。


 今回の敵は動きがそこまで早くはありませんでした。何より、生まれたてだったから対応出来たにすぎないと、気を引き締めます。


 兎に角。このまま行商の方達に怯えられては、また出てくる可能性があります。安心させないと。


「大丈夫ですか、皆さん。もう敵はいませんよ」


 できるだけ安心させられるように、笑顔で伝えます。うまく笑えてるでしょうか。


「あ、あぁ……大丈夫です。ありがとうございました」


 俯き気味なのが気になりますが、大丈夫そうです。


 アリスさんを見ると、こけた際に怪我したと思われる方を治療している最中でした。


かの者に癒しを(【ヒルテ】・イグナス)……」


 アリスさんの暖かな魔力が、傷口を覆い、治します。これがオルテさんを治した、”治癒”ですか。


 現実離れした光景と経験を数多くしましたけれど、”治癒”という魔法はその際たるものかもしれません。傷がこんなにも早く、簡単に治るとは……。


「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」


 行商人たち全員で感謝を述べています。感謝はムズ痒く感じてしまいますけれど、助けられたという実感があるので、嫌いではありません。


「まさかとは、思いますが……”巫女”様でしょうか?」


 行商の方がアリスさんに質問しました。どうやらアリスさんの詳細は、この国では常識レベルで知れ渡っているようです。


「はい。アルレスィア・ソレ・クレイドルです」


 アリスさんが祈りに手を組み淑やかにに応えました。


(いつもなら、笑顔だったような?)


 んー? と首を捻って考え込んでしまいますけど、行商の方達が私を見ていたので、思考が途切れてしまいます。


「あの、”巫女”様……。では、こちらの方は?」


 さて、どう応えればいいのだろう。


「この方は私のパートナーであり、同じく”巫女”を務めております。ともに”お役目”につき、旅を始めた所です」


 アリスさんが私の代わりに応えてくれました。


「おぉ、そうでしたか……。あなた様もありがとうございます。お陰で誰一人死ぬことなく事なきを得ました」

(巫女はアルレスィア様だけでは……)


 どうやら、納得してくれたようです。疑問は残っているように感じますけど。


 ありがとう。と、アリスさんに伝えるために微笑みます。


「――では、積荷を戻しましょう。お手伝いいたします」


 アリスさんは私に笑顔で応えて、積荷を直す作業を買って出ました。私も手伝おうかと、腕まくりをしようとしましたけど――その必要はなかったようです。。


「お心遣い感謝します。ですが、ご安心を」


 リーダーと思われる方の指示とともに、複数の人の魔法が発動されます。


 みるみる内に元に戻る積荷。直る台車。逆再生の様に直っていきます。折れた木材も、歪ではありますけれど、荷台としての機能を取り戻していました。


(魔法って、便利だなぁ)


 でも、馬はどうするんですかね。


「馬は二頭残っておりますので、このまま曳けるでしょう」


 リーダーの人が指した先には、馬を連れた人が居ました。というより、馬はいるんですね。ホルスターンが特別? 牛は別にいるのかな?興味がつきない世界に私の好奇心は最高潮です。


 でも一番の疑問は、馬のマリスタザリアを見たのに……平気で馬を近づけられる事、ですね。


「いかがでしょう、よければ近場までお連れしますが」


 行商人の方たちが提案してくれます。でも、積荷の転がり方。逆でしたよね。王都とは。


「私たちは、王都に向かってますので」


 お気遣い感謝します。とアリスさんが頭を下げました。


「そうでしたか……では、何かお礼を」

「いえ、”巫女”として当然のことです。どうか、お気になさらず」


 何かを出そうとしている方を、アリスさんが止めました。私も、何かをもらうのは違うと思ったので、何も言いません。


「……わかりました。本当に、ありがとうございました。では」

「いえ、あなた方の旅に、どうか神のご加護があらんことを」


 行商人の方たちが頭を下げ、アリスさんが祈りました。


 簡単にマリスタザリアが生まれる世界。この世界でアリスさんがしてくれる祈りの、なんと心強い事でしょう――。



 そのまま、別れて。私たちは王国への道を進みます。


「申し訳ございません、リッカさま。全て勝手に決めてしまって」

「んーん、アリスさんのお陰で助かったよ。私まだこの国の勝手がわからないし」


 アリスさんが謝っていますけれど、私は本当に気にしていないのです。


「それに……アリスさんともう少し二人で、この世界歩いていたいんだ」


 こんな素敵な世界を初めて歩くんです。少しだけ、わがままを言っちゃいます。


「――っ。はい、リッカ、さま。私も歩きたいです」


 アリスさんが頬を染め、笑顔で応えてくれました。

 

 私は、自分が恥ずかしいセリフを言ってしまったと――その時ようやく気づいてしまったのです。



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