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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
43日目、手遅れなのです
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『トぅリア』後悔③



 村について最初に見たのは、腕でした。


「魔法か?」

「”爆裂”なんかあれば出来るでしょうけド、音が出ますヨ」

「これだけの破壊を生む魔法で無音はありえません。つまり――」

「体術、だね」


 私以外の、()()では無理でしょう。化け物でなければ。


「緊急事態だから、一緒に行こう」

「分かりましタ」

「私とリッカさまで全方位を感知します。二人は、左右と後ろを目視でお願いします」

「あぁ」


 村の探索に入ります。風向きで漂ってきていましたけれど、血の臭いが強く、腐臭は弱いです。それもそのはず……衝撃で、体の殆どが弾けています。肉体の一部は偶に散乱していますけれど、大部分は、塵となっているのです。


「どんな力で殴ったんだよ」

「マクゼルトの攻撃が当たるとは、こういう事です」

 

 何も、今回が特別という訳ではありません。少しムキになっているとは思いますけど……それでも、マクゼルトに殴られるって、こういう事です。私は運が良かっただけだと、初めて殴られた時から思っていました。


「これだけ見たら、私はついでだったと思うんだけど」

「恐らく、こちらも本命だったと思います」

「私を殺した後、この村も含めて全滅……?」

「はい。隠れるように行ったのは、リッカさまに負けてしまったからでしょう。音を聞いて、私やシーアさん達が戻ってきてはいけませんから」


 手負いのマクゼルトと、謎の幹部格。アリスさん達に勝てないと判断したのか、大事を取ったのか……。どちらにしても、隠れて虐殺を行ったようです。


「これだけ、無残に……乱雑にやられているというのに……頭だけは残っていません」

「腕や脚は、あるのにね」

「そういえば目が合いませんネ。合いたくないですけド」

「頭を正確に狙ってる証拠だね……」


 頭や顔を狙うのは、殺意の表れです。そして、憎いと思っている場合が多い。顔も見たくない等、強い殺意は……急所へと攻撃を向けます。心臓や顔です。


「レイメイさんは、ライゼさんから何か聞いていないんですか?」

「アイツから、ジジイの話は余り聞いてねぇ。厳格者だったってのは聞いたがな」


 ここまでの憎しみ。どう考えても、一朝一夕の恨みではありません。積年の恨みというものです。


「あぁ、だが」

「何か思い出しましたか」

「ジジイは村人と殆ど喋らなかったと言ってたな」


 もう、その頃には嫌っていたのでしょうか。


「寡黙だからとか何とか言ってたから、分からんがな」

「愚痴のようでした?」

「そこまでは覚えてねぇな。刀を打ちながら話しとったから顔はみてねぇ」


 何かあったのは、確定かもしれません。


「こう言っては何ですけド、調べるなら今しかないかト」

「誰かが来ちまうと、俺等の所為にされるだろうよ」


 言い訳を聞いてもらえれば良いのですけど、正直……北では良い思いをしていないので、不安です。バレる前に退散したいのは山々なのです。

 それでも、このままにしていく訳にもいきませんし……。


「マクゼルトと村の確執も気になるけど」

「とりあえず、ライゼさんの家へ行きましょう」

「もし誰か来たら、説明しないとね」


 疑われるかもしれませんけど、それ以上にこの状況を解決しないといけません。


「弔わないと」

「手前ぇを嫌ってる人間を弔うなんざ、面倒とは思わんのか」

「皆違うんですから、嫌いな人も居るでしょう。この村の人達は勘違いで嫌ってた訳ですし、話し合いする余裕があれば変わったかもしれません」


 私は人として生きたいです。好き嫌いで、最低限の尊厳まで失いたくはないと思います。死んでまで嫌われてたら、魂が救われません。

 ……まぁ、場合によりますけど。それもまた、人でしょう。


「ライゼさんの家に行く前に、祈りだけ捧げましょう。せめて天へと昇れるように」

「ありがとう。アリスさん」


 ニコリと微笑んだアリスさんが、私の意志を汲んでくれます。周囲は地獄ですけど、天使のごときアリスさんが祈ってくれれば……天国へと昇れることでしょう。

 

 血みどろには慣れません。アリスさんが傍に居なければ、長居も捜索も出来ないくらいです。この光景こそが、魔王がこの世にもたらす未来の姿だと思います。


 どんな理由で魔王が動こうとも、マリスタザリアの存在は確実に……この光景を作り出す。それを止めるために、この地獄で止まる事は出来ません。



「ここだ」


 祈りを捧げた後、私達はライゼさんの旧宅へと案内を受けました。レイメイさんはしっかりと、覚えていたんですね。


「あんなに嫌ってるって言ってるのニ、場所はしっかり覚えてるんですネ」

「うっせぇ」


 場を和ませるように、シーアさんが軽口をぽんっと叩きます。弄り七割って所ですけど。


「他の家より大きいですね」

「鍛冶屋だからかな」


 住むだけでなく、職場も兼用していたのでしょう。


「埃がすごいですネ。換気しまス」

「うん」


 シーアさんがそよ風程度の強さで”風”を送りました。埃がどんどん飛んでいきます。


「ここ、人が入った形跡があるね……」

「最近の物です。先を越されましたね……」


 マクゼルトが、回収したのでしょうか。


「あの脳筋が細かくやるとは思えないんだが」

「私も同感でス」


 マクゼルトだけなら、家を壊しそうな気がしますけれど……。


「あの時居たのは、マクゼルトだけではありません」

「うん。もう一人は抜け目なさそうだったね。あのタイミングでアリスさん達を狙った手腕。正直言って、大っっ嫌い」


 勝利目前。私がマクゼルトへの勝利を確信できるタイミングでの奇襲。完璧でした。完璧すぎてムカつきます。私が……アリスさんへの特別な感知がなければ……。やっぱり、私がアイツを殺します。


「一応探してみよっか」

「では私はこちらを」


 アリスさんは居住スペースの右側を、私は左側です。右は箪笥や押入れ、左は調理場等の水回りが主です。地下収納とかあれば、見ておきたいです。


「私達は工房の方行きまス」

「使える道具があったらもらっていくか。刀の整備が楽になる」

「泥棒ですカ」

「元俺の家でもあんだから、ライゼも文句言わねぇだろ」


 シーアさん達が工房スペースに行ってくれます。



(こっちにはないかな)


 浴室にあるはずがありません。思いの外整理されてるなぁという感想だけです。男の二人暮らしだったはずなのですけど。


(レイメイさんの方が几帳面っぽいよね)


 ライゼさんの運転とレイメイさんの運転。比べてみると一目瞭然と言いますか。


(後は、調理場)


 冷蔵室はないですね。流し台の下は、鍋等です。包丁もありましたけど、流石に綺麗な刃をしています。ライゼさんの作る包丁はさぞ売れたことでしょう。


「リッカさま」

「どうしたの?」

「日誌がありました」

「……あったの?」

「はい」


 それは、おかしいです。もしマクゼルトの意思でここが検められたのなら、日誌のような物はなくなっているはずです。


「マクゼルトじゃない?」

「分かりません。足跡はいくつもありました。内一つは、人よりも大きいものであったのは確かです。しかし……」

「日誌は残ってた、と……。だとしたら、まだ見つけられる可能性があるかな」

「はい。探しましょう」


 いくつも足跡があったことが気がかりです。マクゼルトが入ったのは間違いないでしょうけど、それ以外に入る可能性があるのは村民です。後で村の方も探したいところですけど……。まずは家からなくなった物を探すとしましょう。何があって何がないか。レイメイさんの記憶を掘り起こして検証しなければ。


「じゃあ私は、地下収納みてくるね」

「気をつけて下さい。埃も多いでしょうから、こちらを」


 アリスさんが私の口元に指を這わせます。


拒絶(【ルフュ】)せよ(イグナス)


 どうやら、マスク代わりのようです。マスクと違って匂いはしっかりと嗅げますし、息苦しさもありません。


「ありがとう。アリスさん」


 つつっとアリスさんの指が離れていきます。その仕草が妖艶で、どきどきです。


「お気をつけて」

「うん」


 優しい微笑を浮かべたアリスさんに見送られ、地下に降ります。何があるでしょうか。


 

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