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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『トぅリア』後始末④



 夢を……見ています。何故夢だと分かるかというと、ここが私が生まれた世界だからです。


(アリスさん達の世界の方が夢って事も、あるのかな)


 そうなると私はかなり……妄想力逞しいのですね。アリスさんを想像するなんて、無理です。目の前に居て、目に焼き付けて、やっと夢想する事が出来るのですから。


 やっと会えた彼女が夢だなんて、嫌です。早く夢から醒めて、彼女におはようって、言われたい。


「立花」

「お母さん」

 

 もはや、遥か遠い昔に感じる、お母さんです。声も姿も、鮮明に見えます。周りを歩いている人たちは、顔がぼやけて見えたり、へのへのもへじみたいな顔をしてたり、するのに。


「帰るわよ」

「……それは」

「立花。言う事を聞きなさい」

「……」


 昔の私なら、言い訳する事無く後ろを付いて行ったでしょう。でも今は、お母さんの言葉よりずっと大切な事があるんです。


「お母さん」

「立花。ダメよ」

「帰ります」

「そうよ。早く家に」

「ここに、私の欲しい物はありません」

「立花。悲しい事を言わないで」

「……行ってきます」


 アリスさんが居ない世界。それが、私の本当。神さまが私を見出してくれなかったら、ずっとそのままだったのでしょう。胸に何も入っていないかのように、空虚です。力が入らない。私を私たらしめている全てが、なくなっているのです。


 私の街を歩きます。森に向かって、一直線に。”神の森”になら、目を瞑っていても――


「ここ、どこ……?」


 私が、この街で迷うはずが……。


「分かっとるだろ」

「……っ」


 いきなり、後ろから声をかけられました。


「俺が初めから魔法を使っとったらどうなったか」


 声をかけてきたのは、マクゼルトです。血だらけで、私がつけた傷を残しています。

 

 多分、マクゼルトはこんな事を言いません。この言葉は、私が思っている事です。もしマクゼルトが最初から魔法を使っていれば、私はより苦戦を強いられ、奥の手を使う前にやられていたかもしれません。


「次は殺す」


 負け惜しみ。普通の雑魚なら、一笑に付したでしょう。でもマクゼルトなら……次は分かりません。踏み込みをズラしたり、拳圧を私の予想より強く鋭く当てるだけで、私の対処法ではダメージを受けてしまいます。


 私の避け方は、脆いです。だからレイメイさんに頑張って欲しいと言いました。私が次、マクゼルトに勝てると確約出来ないので。


 マクゼルトが霧散し、消えました。私の心に残っていた不安が、夢になって出たのでしょう。これで、森に行けるのでしょうか。


 森がやっと見えてきました。これで、帰れる。そう思ってたのです。……でも、どんなに歩いても森につきません。目の前に、あるのに。


「帰りたくありませんか?」

「アリス、さん」


 森の前に、アリスさんが立っています。私は一目散に、駆け寄ります。


 アリスさんには近づくことが出来ました。でも、森には……近づけません。


「このまま、こちらで過ごしても良いのです。私も共に、居ますから」


 アリスさんなら、こう言ってくれる気がします。でもこれは、私の願望。


 死闘を越えたにも関わらず、自分に納得出来ていません。アリスさんを守るという約束を取り戻すことが出来たとはいえ、戦いは無様としかいえない出来です。アリスさんに心労を与えてしまっては、本末転倒なのです。


 そんな後悔が、私の足を止めているのでしょう。


「私の心の、アリスさん」

「はい。リッカさま」

「すぅー……はぁー……」


 深呼吸して、アリスさんに尋ねます。


「私は、頼りないかな」

「リッカさまが居ないと、私は前に歩けません」


 我ながら、甘いと思います。いかにアリスさんに甘えているか分かります。


「一緒に、行って良い?」

「どこまでも、永久に」


 所詮は、私の妄想。このアリスさんは、私の都合に合わせてくれます。だから、本物に会いたい。


「行こう」

「はい。私もきっと、待っています」

「……うんっ」


 私は一歩、森に……入りました――




 目が覚めると、アリスさんが私の横に居てくれました。じっと私を見て、目が合うとにこりと笑みを見せてくれるのです。


「おはようございます」

「うん。おは、よう」


 いつの間にか、堕ちてしまっていたようです。


「どれくらい……」

「六時間程、です」

「そっ、か」


 日が高く昇り、昼を過ぎている事を伝えてくれます。


「……」


 アリスさんがそっと私を抱きしめます。壊れ物を扱うように、そっと……です。


 私の上に覆いかぶさり、唇を噛むアリスさんの気持ちが、伝わってきます。人質を使われ、思うように動けなかったアリスさんは、刀がなくて囮しか出来なかった時の私に似ています。もどかしくて、辛いのです。


「何も出来ないって……辛いの、ですね……っ」


 アリスさんが涙を流します。


「アリスさんが居てくれたから、マクゼルトの意識が分散してたんだよ? 本当ならもっと……攻められてた」


 アリスさんが常に隙を窺っていてくれたお陰で、マクゼルトの意識は少しだけ、私に集中しきれていませんでした。何も出来てないなんて事、ありません。私を助けてくれたのは間違いなく、アリスさんです。


「傷つくリッカさまを見続けるだけなんて……二度としたくありませんっ」


 私に馬乗りになり、目を見て切実に……涙がぽろぽろと私の頬を打ちます。


「私は、リッカさまを……っ……」


 何かを言いかけて、ハッとした表情を浮かべました。何か、溢れ出そうだったのでしょう。


「とにかく……しばらくは、安静にしていてください……」

「うん」


 アリスさんを抱き寄せ、ゆったりと抱きます。


(アリスさんをこれ以上心配させたくない……)


 一緒に戦っている時ですら心配させてしまうのに、傍観者にさせてしまっては……昔に逆戻りです。


(アリスさんを傍観者にさせない方法……人質を取られるのだけは、絶対避けないと)

「リッカさま。安静にしてください」

「う、うん」

 

 考えるのは、休んだ後ですね。アリスさんが私の胸に顔を埋め、ぐりぐり擦りつけ抗議を上げているので。


「シーアさん達は、大丈夫?」

「はい。船に戻っていますよ」

「あまり確認出来なかったけど、無事なら……良かった」


 アリスさんの状態しか、見る暇がありませんでした。チラッと見た感じ怪我はなかったと記憶していますけど、心配でした。


「さぁ、休みましょう。リッカさまが疲れたままでは、皆さんも安心出来ませんよ」

「はーい……」


 せっかくなので、アリスさんの顔をもっと見たかったのですけど、アリスさんの安心しきった表情を見れたので、よしとします。


「リッカさま……」

「うん?」

「……」


 アリスさんも、疲れていたのでしょう。眠ってしまいました。何かを伝えようとしていたようですけど、ゆっくり待ちます。私は生きているんですから、いつでも聞けます。


「おやすみ。アリスさん」


 こんな時、敬称をつけずに名前だけ呼べれば格好いいのでしょうけど……なかなか、呼べません。


「アリス…………さん」


 くっ……。不貞寝しましょう。夕方くらいに、起きれたら良いですね。


「………おやすみなさい。リッカ」




 城の玉座の間にて、魔王と少女が静かに座っている。


「かえってきたー」


 少女がとてとてと入り口に走っていく。


「戻りました。魔王様」

「ご苦労。マクゼルトは」

「こちらに」


 恭しく頭を下げた影からマクゼルトが出てくる。影はそのまま、居なくなったようだ。


「……」

「ぼろぼろだねーまっくー」


 不貞腐れたマクゼルトが、地面に雑に座る。


「話を聞こうか」

「……負けたよ。あぁ、負けた。あの馬鹿が割って入らんかったら死んどった」

「それすらも防がれた訳か」

「あぁ。俺と戦っとっても、巫女だけは注意しとったらしい」


 やっぱ化け物だよ。あいつぁ。と、マクゼルトは呆れた様に息を吐く。


「ってか、魔力で打ち消すとはな。あんな方法があるとは思わんかった」

「赤の巫女以外では出来ないだろう。最初から魔法を使わなかったのは失敗だったな」

「たのしみたいもんねー」


 少女がマクゼルトの怪我をぺしぺしと叩いている。


「痛ぇからやめろ」

「深いな。完治は無理か」

「まぁ、間に合わねぇだろうな」


 腕の傷が特に深く、完治まで時間を要するようだ。


「戦えれば良い。()()()()

「あぁ、来い。我侭娘」

「わーい!」


 マクゼルトが少女を連れて行く。


「赤の巫女、ロクハナリツカ。異世界か。ふむ」


 魔王は表情を変えない。しかし、その見えない仮面の下は――。



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