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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『トぅリア』激闘⑧―⑨



「アリス……さんっ!」

「――私の敵(【ファイド・)に潜み(ファシュテ】)し悪(=【マリス)の魔(・マギ)法を―(・ハゥアプ】)―斬り離す(・オルイグナス)!!」


 アルレスィアの魔法が、レティシアとウィンツェッツの檻を破壊する。そのアルレスィアの周囲に――鎖が現れ、巻き付き始めた。


「っ……リッカ、さま……」


 諦めたようなアルレスィアの声が、リツカに最後の力を与えた。


「ァアアアアァァァっ!!」


 鎖を素手で掴んだリツカが吼える。鎖は締まる事を止めない。引かれている鎖が、リツカの掌を傷つける。それを無視しリツカは刀で鎖を、斬った。


 普通ならば、雑な斬撃で斬れる筈もない鉄が軽々と斬れる。視界が血で赤く染まっているリツカは気づかない。刀がまるで、リツカの血を吸ったかのように真紅に光り輝いている事に。


「リツカお姉――」

「っ私の領域を守る(【シルテ=ドム】)強き盾よ(・オルイグナス)!!」


 アルレスィアがレティシアまでを収めるように”領域”を発生させた。それと同時に、黒い魔力を纏った”何か”が、”領域”を何度も叩く。


(レイメイさんは……届かなかっ――)


 ウィンツェッツを収め、それでいて強度を出すには……時間が足りなかった。


「――オォッ……!」

「!?」


 ウィンツェッツが空から、アルレスィアの”領域”に飛び込んできた。


 リツカがレティシアとウィンツェッツを睨む様に見た時、ウィンツェッツは己に”何か”が来ていると直感した。空へ一度”疾風”で逃れた後更に”疾風”を行い、飛び込んできたようだ。


「――――シッ!!」


 三人の無事を確認したリツカは、振り向き様に剣を投擲する。場所は――マクゼルトの背――影だ。


「ッ」


 マクゼルトはピクリとも動けなかった。内腿を切り裂き、背後の地面へ刺さった剣は絶大な破壊力で地面に深々と刺さる。無理やり纏わせた”光”でもって、影の中さえも威力を発揮した。


「一人くらいは()れると思ったのですがね」

「お前……」


 マクゼルトの背中に出来た影から、声が響く。


「何してやがる。俺の戦いに、水を差しやがって」

「あのままでは死んでいたでしょう。魔王様をそれを望んでいない」

「……」

「貴方にはまだやるべき事がある。分かっていますね」

「……クソが」


 マクゼルトは今にも、背後の声に襲い掛かろうとしている。それでも襲い掛からないのは、魔王の言葉が絶対だからだ。


「マクゼルトは返してもらいますよ」

「……それを、許すとでも?」


 満身創痍のリツカが、一歩前に出ようとする。


「っ……」

「リッカさまっ」


 意志と反して全く動かなかった足との齟齬は、リツカを前のめりに倒れさせる。アルレスィアが支えなければ、意識も手放していただろう。


「では、何れ」

「あ、ごっふーなにして――」


 マクゼルトが闇に溶ける。その寸前、鈴を転がしたような可愛らしい声が聞こえた。それを聞いたアルレスィアは、目を大きく見開き、瞳を揺らしたのだった。


「ぇ……?」

「アリス、さん?」

「――い、いえ……感知は、私がします。どうか、そのまま……リッカ……」


 アルレスィアの優しい声が、リツカの耳を撫ぜる。意識を手放す訳にはいかないリツカはそれでも、目を閉じ……守りきれた事を、噛み締めずにはいられなかった。




 アリスさんの膝枕で、治療を受けつつ私は……霞んでしまう目で、一生懸命、アリスさんを……見ています。


「もっと……」


 思わず、口を開いてしまいます。全身の治療で、必死なアリスさんに声をかけるのは、控えた方が、良いのでしょうけど……。


「もっと……格好良く、戦いたかった、な……」

「十分……十分、格好良かったです……リッカさま……っ」


 内臓を先ず治し、体の表面へ。傷痕一つ無い、まっさらな体に、戻してくれます。血に塗れる事も厭わず、私を……抱きしめてくれます。


(あぁ……良かった……。今度は、守れた……)


 強く、実感します。あの時出来なかった、戦いを……私は完遂、出来ました。


(勝利で飾れなかったのは、残念だけど……)


 もうちょっとで、勝てたのに、殺しきれませんでした。ライゼさんの事も、聞き出せませんでした。


「……」

「どうしたんでス」

「お前ぇも悔しそうじゃねぇか」

「自分も悔しいって認めるんですネ」

「……何も出来んかったからな」

「あのお馬鹿を村に帰したじゃないですカ」

「慰めにもなんねぇよ」


 シーアさんとレイメイさんが、私の傍に立って俯いています。


「リツカお姉さんハ、大丈夫なんですカ?」

「傷は治せました。後は……消耗した魔力が戻るのを、待つだけです」

「消耗した、か」

「……けほっ」


 ちょっとだけ、消費しすぎました。寿命が縮んだかも、しれません。


「ごり押しにも程があんだろ……」

「レイメイさんなら……もっと楽に、出来ますよ」

「何……?」

「そのまま、”風”の練習をして、ください」


 魔法として魔力を消費するのではなく、そのまま打ち出すなんて、消費が激しくなって当然です。少ない魔力で大きな奇跡を。それが、魔法です。奇跡を使わなかった私では、限界があります。


「レイメイさんと、マクゼルトが、同じ魔法を使ってたのは、幸運」

「そう、ですね……。”風”同士ならば、相殺も容易のはずです……」


 私の様に、ただぶつけるだけでは余計に力が必要です。でも、同じ”風”なら……風向きも調整すれば、小さい力でも……。


「マクゼルトよりも、立場が上みたいな幹部が、居るみたいだから……私はそっちと戦わないと……」

「リッカさま……今は、休息を優先させてください……」

「う、うん……」


 次の戦闘を考えてしまった私の目を、アリスさんの手が塞ぎました。今は、休まないといけません。


「サボリさんがマクゼルトを倒さないといけないって事でス」

「あぁ……元々、そのつもりだ」

「正直言って良いですカ」

「何だ」

「勝てまス?」

「……」


 シーアさんの言葉に、レイメイさんが固まります。


「リッカさまの攻撃で、斬れませんでした」

「魔法を纏ってからは全部必殺でしたよネ」

「全身全霊をかけ、相手の力を利用してやっと、鎧を突破出来ていました」

「生身でも恐ろしく硬そうでしたけド」

「骨が、鋼鉄の様でした」


 アリスさんが私のかわりに、シーアさんの疑問に答えていってくれます。


「サボリさんは斬れるんでス?」

「それよりも、動きについていけるかどうか、ですね」

「リツカお姉さんが本気でやっテ、それよりも速く見えましタ」

「実際、速かったと思います」


 一瞬でも気を抜けば、私は死んでいました。余裕なんて一切なく、気力を根こそぎ奪われてしまいました。


「サボリさン。いけますカ?」

「……やるっきゃねぇだろ」


 幹部一人で、これです。手の内の殆どを曝したであろうマクゼルトは、レイメイさんに託したいのが本音です。


「まァ、私も手伝いますヨ。リツカお姉さんの戦いを見て勉強出来ましたシ」

「……この際、一対一に拘ったりしねぇ。勝手にしろ」


 シーアさんが手伝ってくれるのなら、出来る事は多いです。


「とりあえズ、戻りましょウ。あの村の事も話さないといけませんシ」

「リッカさま、失礼します」


 アリスさんにお姫様抱っこされ、船に戻ります。もう、意識が……持ちそうに……。




「リッカさま……?」


 意識を手放したリツカを、アルレスィアが心配そうに見る。今アルレスィアの腕の中に、無防備なリツカが居る。


(気にしなくて、良かったのに……)


 アルレスィアの目から、涙が零れる。リツカの後悔を、アルレスィアは知っている。あの日、アルレスィアを守りきれなかったと、リツカはずっと想っていた。無様にも負けたと、涙すら流して。


(私だけの、お姫様……。貴女さまの想い、確かに……私の心に、届きました)


 微笑み、リツカの額に頬擦りする。血が固まり、汚れてしまっているけれど……アルレスィアにはそんな事、関係なかった。その姿は、アルレスィアを守る為に奮われた強い意志の結晶。たとえリツカ本人が、汚いからと遠慮しようとも、アルレスィアは同じことをしただろう。


 船に戻り、すぐにでもリツカの体力回復に努めたいアルレスィア。しかし、それを許してくれない存在が近づいている。


「……」

「巫女さン……?」


 アルレスィアの様子に、おずおずとレティシアが声をかける。リツカの状態を考えれば、そうなるのは当たり前なので、驚きはしない。ただただ、レティシアは自身の無力を呪ってしまう。


「村民が、やってきます」

「……そうですカ。私達で対応しますかラ、先に戻っていてくださイ」

「しかし……」


 ”巫女”として、この場を収める必要があると、アルレスィアは立ち止まる。


「……さっキ、何も出来なかったんでス。これくらいさせてくださイ」

「古巣の始末は任せろや」


 レティシアとウィンツェッツがそのまま村民を迎える為に戻り始める。


「ありがとうございます……。船で、お待ちしております」

「はイ」


 会釈したアルレスィアが、急いでその場を離れていった。



ブクマありがとうございます!

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