『トぅリア』激闘⑧―③
「さテ、話しちゃダメですヨ」
「あぁ」
「ダメって言ったでしょウ」
ゲシッと脛に蹴りをいれます。
「習慣って出るものでス」
「……」
「行きますヨ」
「……」
「返事ハ」
「喋るなっつったのはお前」
「ほら喋っタ」
こんな典型的な引っ掛けにかかるでようではダメダメです。もう一回蹴ります。
「ッ……ェ!」
「行きますヨ」
教会の真実を確かめましょう。後は、”巫女”をどう思っているかくらいは聞いておきます。
結構新しい教会です。最近作ったみたいですね。木造で、簡単な造りです。ただ建ててるって感じにも見えるんですよね。
まずは適当な人に声をかけますか。
「すみませン」
「……何か?」
「あの教会はアルツィア様のものですカ」
「余所者に何故教えねばならない?」
子供だったサボリさんの、誇張された記憶かと思えば……これは筋金入りですね。
「遥か東より私達は来ましタ。こちらの方は声が出せないのでス」
「……?」
「この国で治せるかと淡い期待を持っていたのですけド、それも叶いませんでしタ」
「……」
サボリさんを見てますね。頭巾を深々と被り、口元も覆っています。これでサボリさんと分かるほど、思い入れなんてないでしょう。
「もはや神頼みしかないのでス。各地の教会を巡リ、祈りを捧げておりまス……」
涙を溜め、少し震えます。まさに長旅の末辿り着いた感を出します。私の精一杯。会心の演技です。通じて欲しいものですけど。
「……あれはアルツィア神を祀ってない」
「そウ、なのですカ? しかシ……」
「神は何もしてくれなかった。そんな者を祀る必要は無い。あんたもアルツィアなんて讃えるのはやめるんだな。どんなに讃えても、見返りなんてないぞ」
散々ないわれようですね。何かあったのでしょうか。
「ではあれハ……どなたを祀っているのでス?」
「……あんたが望む者じゃない。すぐに別の所に行くんだな」
こんな狭い村で一人に尋ねた後に、別の人なんて無理ですね。すぐに広まってしまいます。この人には同情してもらえているのですから、聞けるだけ聞かないと。
「あ、あノ、最後ニ……」
「何だ……」
「”巫女”様がこの辺りに――」
「あ゛!?」
「っ……」
私に掴みかかろうと手を伸ばしてきました。そんな村人を、サボリさんが制します。
「……チッ」
「……」
「巫女の話なんかするな」
「……どうしテ」
「あんな疫病神、死んだ方がいい」
疫病神……? まさか、マリスタザリアを呼んでるっていうのが広まって……? いえ、リツカお姉さんが先代を、一応は信じて任せたのです。広まるはずが――。
「ライゼは”巫女”に関わったばかりに……」
「!」
村人の呟きが全てを物語っています。なるほど、何故かこの村には……お師匠さんのその後が伝わっているようです。
巫女さん達と出会い、共に戦い、理解しあい、そして……行方不明となってしまった、お師匠さんの。
(巫女さん達の所為になっているのが謎ですけど、この辺りで退散しましょう)
「……嫌なことを思い出させてしまっタ、ようですネ。申し訳ございませン」
「いや、あんたは、関係ないもんな。とにかく、早く行った方が良い。村の連中にもさっきの話が聞こえてたからな」
頭を深く下げ、サボリさんを連れ戻ります。あぁ、そんなに睨んでたらバレますよ。手首を強く握り制します。
(何してるんでス)
(……まぁ、比較的まともな奴に当たったようだな)
(喋るなって言いましたよネ)
(そりゃ理不尽すぎだろ)
バレないうちにさっさと退散しましょう。
少し離れた位置で、一端落ち着きます。
「いやァ、これはマズいですネ」
「何でライゼの事知ってんだ」
「さァ? 何にしてモ、”巫女”としては先ず無理ですネ。顔を知ってるかまでは分かりませんけド、あれだけ憎んでたら調べてそうでス」
ただでさえリツカお姉さんは、お師匠さんの事で気に病んでいるというのに。
「どうしましょうかネ」
「そのまま伝えりゃ良いじゃねぇか」
「……リツカお姉さんの性格ですト、謝罪しそうなんですよネ」
役目優先としてくれるでしょうけど、最後には謝罪しそうです。私の考えすぎと思うのと同時に、リツカお姉さんはそうするだろうって思ってしまうのです。
「お師匠さんの家はどこでス」
「鍛治はでけぇ音出すからと、村の外れにある」
「それなラ、後から行くのは可能ですネ」
「まぁ、取り壊されてなけりゃな」
「あれだけお師匠さんの事で憎んでるんでス。残してますヨ」
そして、あれだけの憎しみなら悪意の一つや二つ。
(魔王が吸い上げてるから悪意は少ないと、お二人は言っていました。ここもそうだと良いのですけど)
とりあえず、巫女さん達と話しましょう。
「戻りますヨ」
「あぁ――あ?」
「ん。どうしたんでス」
「あんなとこに石碑なんかあった、か?」
「後で良いじゃないですカ」
「……」
サボリさんが石碑に向かっていきます。全く……まぁ、私も考えを整理しておきたいです。”巫女”どころかアルツィア様すらも嫌悪していましたし、巫女さん達にどう話したものか。
「……」
「何の石碑でス」
「慰霊碑だな。こんなもんもなかった」
「ほぅ。信心深いですネ。余程、あの教会に祀られている人は信用されてるみたいでス」
あの村人達の意識を変えたのは、間違いなくその者でしょうからね。教会を建て、石碑を建て、過去の者を悼む文化を根付かせた訳ですか。追放して遠ざけていた人たちとは思えない成長です。
「この村で死んだ奴等の名前が掘ってやがる。昔から今に至るまでの全てだ」
「ふム」
もったいぶりますね。何かに気付いているみたいですけど、ただの石碑にしか見えませんけどね。しかし、全員ですか。慰霊碑ならば当然かと思います。でも、良く覚えてましたね。記録でも残していたんでしょうか。
「ライゼの名前も彫ってある。マクゼルトもな」
「でしょうネ。死んだと思われてるんですかラ、どちらモ」
お師匠さんは行方不明。マリスタザリアとしてですけど、マクゼルトは存命です。
「ライゼの名前が、横棒で消されてやがる」
「ン?」
見せてもらうと、確かに消されています。どういう事です? 普通に考えるなら間違えたから消したってところです。しかし、この村の人がこんな事するはずがありません。巫女さん達がふらりと散歩でもしましたかね。お二人が慰霊碑として作られている物を傷つけるとは、思えませんけど。
「ついでに言やぁ、マクゼルトもな」
「何ですト」
石碑に注目し、名前を見ます。本当に消されています。マクゼルトまで訂正されてるなんて、いよいよ私達関係者くらいしか。でも、誰が――
「業風吹き荒ぶ。捕らえ刻め」
あぁ――失敗しました。私達の回りで”風”が起きました。サボリさんの物ではありません。何しろこの魔力色……少し、黒いですから。
「……」
「リッカさま。大丈夫ですか?」
「う、うん。少し、おちついた」
「良かったです……」
アリスさんの採寸をしている最中、私は目が回り座り込んでしまいました。アリスさんと同じように上から順に行い、腰へ。そして最後にバストを、と。していたのです。
(えっと、測ってそして……アリスさんの艶やかな声が聞こえて……)
まだ、採寸しきれてませんね。
「続き、しないとね」
「はい。お願いします」
アリスさんが腕を横に上げます。タオルで隠されていた胸が、はらりと、露わに。
(思考を変えてっ。このままじゃ、さっきの二の舞)
頭をぶんぶんと振り、邪念を外へ。こんな思考していては、ダメなのです。
「えっと……アンダー六十二のトップ……九十一……?」
……Hカップ? 圧倒的なまでの差です。思わず自分の胸に手を当ててしまいます。
「……」
アリスさんが足を擦り合わせています。頬を染めて恥ずかしそうに。でも、少し言い辛そうな?
「あ、えっと。終わった、よ?」
「は、はい」
アリスさんが服を着始めました。体を前に倒して、下着をつけています。
(私の大きさでも、ああした方が良いのかな)
私には経験のないつけかたです。
「何か言い辛そうに――――っ?」
強い胸のざわめきに、言葉が止まります。痛みさえ伴う、最大級の警鐘。アリスさんへの許可を取る事すらせず、広域感知を行いました。
「リッカさま……?」
「…………!?」
突如膨れ上がった悪意と暴風。
「アリスさん。準備、して」
「分かりました」
シーアさん達は何処に。まだ村の中でしょうか。感知にかかりませんでした。
(無事で、居て)
ブクマありがとうございます!