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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『トぅリア』激闘⑧―③



「さテ、話しちゃダメですヨ」

「あぁ」

「ダメって言ったでしょウ」


 ゲシッと脛に蹴りをいれます。


「習慣って出るものでス」

「……」

「行きますヨ」

「……」

「返事ハ」

「喋るなっつったのはお前」

「ほら喋っタ」


 こんな典型的な引っ掛けにかかるでようではダメダメです。もう一回蹴ります。


「ッ……ェ!」

「行きますヨ」


 教会の真実を確かめましょう。後は、”巫女”をどう思っているかくらいは聞いておきます。


 結構新しい教会です。最近作ったみたいですね。木造で、簡単な造りです。ただ建ててるって感じにも見えるんですよね。


 まずは適当な人に声をかけますか。


「すみませン」

「……何か?」

「あの教会はアルツィア様のものですカ」

「余所者に何故教えねばならない?」


 子供だったサボリさんの、誇張された記憶かと思えば……これは筋金入りですね。


「遥か東より私達は来ましタ。こちらの方は声が出せないのでス」

「……?」

「この国で治せるかと淡い期待を持っていたのですけド、それも叶いませんでしタ」

「……」


 サボリさんを見てますね。頭巾を深々と被り、口元も覆っています。これでサボリさんと分かるほど、思い入れなんてないでしょう。


「もはや神頼みしかないのでス。各地の教会を巡リ、祈りを捧げておりまス……」


 涙を溜め、少し震えます。まさに長旅の末辿り着いた感を出します。私の精一杯。会心の演技です。通じて欲しいものですけど。


「……あれはアルツィア神を祀ってない」

「そウ、なのですカ? しかシ……」

「神は何もしてくれなかった。そんな者を祀る必要は無い。あんたもアルツィアなんて讃えるのはやめるんだな。どんなに讃えても、見返りなんてないぞ」


 散々ないわれようですね。何かあったのでしょうか。


「ではあれハ……どなたを祀っているのでス?」

「……あんたが望む者じゃない。すぐに別の所に行くんだな」


 こんな狭い村で一人に尋ねた後に、別の人なんて無理ですね。すぐに広まってしまいます。この人には同情してもらえているのですから、聞けるだけ聞かないと。


「あ、あノ、最後ニ……」

「何だ……」

「”巫女”様がこの辺りに――」

「あ゛!?」

「っ……」


 私に掴みかかろうと手を伸ばしてきました。そんな村人を、サボリさんが制します。


「……チッ」

「……」

「巫女の話なんかするな」

「……どうしテ」

「あんな疫病神、死んだ方がいい」


 疫病神……? まさか、マリスタザリアを呼んでるっていうのが広まって……? いえ、リツカお姉さんが先代を、一応は信じて任せたのです。広まるはずが――。


「ライゼは”巫女”に関わったばかりに……」

「!」


 村人の呟きが全てを物語っています。なるほど、何故かこの村には……お師匠さんのその後が伝わっているようです。


 巫女さん達と出会い、共に戦い、理解しあい、そして……行方不明となってしまった、お師匠さんの。


(巫女さん達の所為になっているのが謎ですけど、この辺りで退散しましょう)


「……嫌なことを思い出させてしまっタ、ようですネ。申し訳ございませン」

「いや、あんたは、関係ないもんな。とにかく、早く行った方が良い。村の連中にもさっきの話が聞こえてたからな」


 頭を深く下げ、サボリさんを連れ戻ります。あぁ、そんなに睨んでたらバレますよ。手首を強く握り制します。


(何してるんでス)

(……まぁ、比較的まともな奴に当たったようだな)

(喋るなって言いましたよネ)

(そりゃ理不尽すぎだろ)


 バレないうちにさっさと退散しましょう。




 少し離れた位置で、一端落ち着きます。


「いやァ、これはマズいですネ」

「何でライゼの事知ってんだ」

「さァ? 何にしてモ、”巫女”としては先ず無理ですネ。顔を知ってるかまでは分かりませんけド、あれだけ憎んでたら調べてそうでス」


 ただでさえリツカお姉さんは、お師匠さんの事で気に病んでいるというのに。


「どうしましょうかネ」

「そのまま伝えりゃ良いじゃねぇか」

「……リツカお姉さんの性格ですト、謝罪しそうなんですよネ」


 役目優先としてくれるでしょうけど、最後には謝罪しそうです。私の考えすぎと思うのと同時に、リツカお姉さんはそうするだろうって思ってしまうのです。


「お師匠さんの家はどこでス」

「鍛治はでけぇ音出すからと、村の外れにある」

「それなラ、後から行くのは可能ですネ」

「まぁ、取り壊されてなけりゃな」

「あれだけお師匠さんの事で憎んでるんでス。残してますヨ」


 そして、あれだけの憎しみなら悪意の一つや二つ。


(魔王が吸い上げてるから悪意は少ないと、お二人は言っていました。ここもそうだと良いのですけど)


 とりあえず、巫女さん達と話しましょう。


「戻りますヨ」

「あぁ――あ?」

「ん。どうしたんでス」

「あんなとこに石碑なんかあった、か?」

「後で良いじゃないですカ」

「……」


 サボリさんが石碑に向かっていきます。全く……まぁ、私も考えを整理しておきたいです。”巫女”どころかアルツィア様すらも嫌悪していましたし、巫女さん達にどう話したものか。



「……」

「何の石碑でス」

「慰霊碑だな。こんなもんもなかった」

「ほぅ。信心深いですネ。余程、あの教会に祀られている人は信用されてるみたいでス」

 

 あの村人達の意識を変えたのは、間違いなくその者でしょうからね。教会を建て、石碑を建て、過去の者を悼む文化を根付かせた訳ですか。追放して遠ざけていた人たちとは思えない成長です。


「この村で死んだ奴等の名前が掘ってやがる。昔から今に至るまでの全てだ」

「ふム」


 もったいぶりますね。何かに気付いているみたいですけど、ただの石碑にしか見えませんけどね。しかし、全員ですか。慰霊碑ならば当然かと思います。でも、良く覚えてましたね。記録でも残していたんでしょうか。


「ライゼの名前も彫ってある。マクゼルトもな」

「でしょうネ。死んだと思われてるんですかラ、どちらモ」


 お師匠さんは行方不明。マリスタザリアとしてですけど、マクゼルトは存命です。


「ライゼの名前が、横棒で消されてやがる」

「ン?」


 見せてもらうと、確かに消されています。どういう事です? 普通に考えるなら間違えたから消したってところです。しかし、この村の人がこんな事するはずがありません。巫女さん達がふらりと散歩でもしましたかね。お二人が慰霊碑として作られている物を傷つけるとは、思えませんけど。


「ついでに言やぁ、マクゼルトもな」

「何ですト」


 石碑に注目し、名前を見ます。本当に消されています。マクゼルトまで訂正されてるなんて、いよいよ私達関係者くらいしか。でも、誰が――


業風(【アヴェヴァンテ】)()き荒ぶ(【アウ・クラツゥ】)()捕らえ(【ファン・シュツ】)刻め(・オルイグナス)


 あぁ――失敗しました。私達の回りで”風”が起きました。サボリさんの物ではありません。何しろこの魔力色……少し、黒いですから。




「……」

「リッカさま。大丈夫ですか?」

「う、うん。少し、おちついた」

「良かったです……」


 アリスさんの採寸をしている最中、私は目が回り座り込んでしまいました。アリスさんと同じように上から順に行い、腰へ。そして最後にバストを、と。していたのです。


(えっと、測ってそして……アリスさんの艶やかな声が聞こえて……)


 まだ、採寸しきれてませんね。


「続き、しないとね」

「はい。お願いします」


 アリスさんが腕を横に上げます。タオルで隠されていた胸が、はらりと、露わに。


(思考を変えてっ。このままじゃ、さっきの二の舞)


 頭をぶんぶんと振り、邪念を外へ。こんな思考していては、ダメなのです。


「えっと……アンダー六十二のトップ……九十一……?」


 ……Hカップ? 圧倒的なまでの差です。思わず自分の胸に手を当ててしまいます。


「……」


 アリスさんが足を擦り合わせています。頬を染めて恥ずかしそうに。でも、少し言い辛そうな?


「あ、えっと。終わった、よ?」

「は、はい」


 アリスさんが服を着始めました。体を前に倒して、下着をつけています。


(私の大きさでも、ああした方が良いのかな)


 私には経験のないつけかたです。


「何か言い辛そうに――――っ?」


 強い胸のざわめきに、言葉が止まります。痛みさえ伴う、最大級の警鐘。アリスさんへの許可を取る事すらせず、広域感知を行いました。


「リッカさま……?」

「…………!?」


 突如膨れ上がった悪意と暴風。


「アリスさん。準備、して」

「分かりました」


 シーアさん達は何処に。まだ村の中でしょうか。感知にかかりませんでした。


(無事で、居て)



ブクマありがとうございます!

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