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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『トぅリア』激闘⑧―②



 ”神林”集落が二つ入るくらいの住宅地です。奥には牧場と畑。純粋な広さでいうと、集落換算で五つ分程。


「普通の村ですネ。悪しき者は追放なんて前時代的行為をしている村には見えませんけド」

「あの頃と殆ど変わってねぇ。こっち見ろ」

 

 レイメイさんが指差したのは、一本の道です。でも、通った形跡が極端に少ないです。


「あまり使ってないみたいですネ」

「行商が偶に入るくれぇだろ。その行商も、二度は来ねぇ」

「地図に載ってないわけ、だね」

「完全に孤立の道を選んでいるようですね」


 その辺りの理由も気になりますけど、深入りする気はないです。


「一つだけ違ぇのがある」

「何ですか?」

「あれだ」


 レイメイさんが指したのは――。


「教会?」

「この村の人間が神頼みなんざするわけねぇ」


 随分な言われようですね。


「お前等の教会じゃねぇのか」

「いえ。アルツィアさまの物ではありません」

「だとすると、誰を祀ってるんだろ」


 この世界の神様は、神さまだけのはずです。


「わざわざ教会を立ててまで神頼みするんだから、信頼してるんだよね……。神さまじゃないなら、私達は他宗教の使徒なわけだから……」

「まず、対立が起こってしまいます」


 宗教の問題は根深く、強烈です。


「こういう時は聞くのが一番でス」

「先に言っておくが、俺は無理だぞ」

「どうしてでス」


 シーアさんは完全に、レイメイさんに行かせるつもりだったようです。私もレイメイさんが適任だと思ったのですけど、そういえばレイメイさんは。


「俺は追放された身だからな。覚えてる奴が一人でもいたら俺が活動できねぇどころか、てめぇらも動きにくくなるぞ」


 この町でも人気者だったというライゼさんと共に追放となったレイメイさんです。忘れられているはずがありません。その頃とは雰囲気がまるで違うでしょうけど、分かる人には分かるものです。


「じゃあ私が行くしかないですネ」

「んー……。私達も変装すれば行けるかな?」

「髪を隠すだけで”巫女”とは分からないと思います」

「どうですかネ。ただでさえ余所者として目立つ中デ、変装している怪しい人間でス。話を聞くなんて出来るんでしょうカ」


 絶対無理ですね。私もそんな人には近づきたくありません。


「というより髪の色だけが”巫女”の判断材料ではないのですけド」

「写真が届いてない場所だと、噂くらいだし。噂で流そうと思ったら髪の色くらいしか伝えられないんじゃないかな」


 アリスさんの事なら、千……いえ、万の言葉を並び立てても足りないくらい言える私ですけど、他の人はそうではないですし。


「いえあれですヨ。一言付け加えるだけでス」

「うん?」

「人間離れしてるっテ」

「それって褒め言葉なのかな……?」

「褒め言葉でス」

 

 王都では怪力だのなんだのと言われた私です。人間離れって言われて嬉しいとはなりません。


「そういう事なのデ、本当なら”巫女”を隠すなんて不可能なんですヨ」

「つっても、全員が全員知ってるわけじゃねぇだろ」

「今の世の中。自分が生きるので手一杯でス。噂だけの存在である”巫女”を気にする余裕なんてないでしょうからネ。でもここは教会がありまス」


 本来なら、疑問に感じても……こんなところに巫女が? といった考えでもってバレないところです。ゾぉリではそうでした。でも、教会の存在が前提を覆します。


「もしあれガ、独自のアルツィア様信仰なら問題ありませン」


 本来の教会と違う装飾。ゆえにアリスさんは違うと断言しました。しかし、ここは鎖国していると言っても過言ではない村。独自の信仰でもって神さまを信奉しているかもしれません。


「問題は違う場合でス。この世界において神とはアルツィア様一人を指しまス。そんな中で別の神を信仰すル。それだけで”巫女”は近づかない方が良いってくらいの事態でス」

「そいつらにとっての邪教。そんで”巫女”連中は敵の親玉ってとこか」

「でス」

「だがよ。それと今回の事になんの関係がある」

「リツカお姉さんからしっかり習ったでしょウ。敵を知る事こソ、戦いの第一段階だト」

「……”巫女”を研究してるって事か」

「可能性の話ですけどネ」


 私達の容姿が分かっているだけでなく、敵と認識されている可能性です。


「邪教の徒なんて思われたら浄化なんて無理でス。村からすぐに離れた方が良いかもしれないって話になりまス」

「まずは、あの教会を調べるのが先決って事か」

「そういう事でス。そしてお二人はまズ、船に戻ってくださイ」

「んー……」

 

 話は納得しました。でもですね。シーアさんはまだ神隠し候補なのです。


「変装は俺がすりゃいいだろ。一言も喋らなけりゃバレる心配もねぇ」

「言葉を話せない可哀相な男と同情した娘って事デ」

「可哀相とは何だ」

「主従とか兄弟じゃ怪しまれまス。サボリさんは主って柄じゃないですシ、私の兄は一人だけですシ」

「設定は何でも良い。行くぞ」

「でス」


 とんとん拍子に話は終わり、二人が入っていきました。取り残された私達は仕方なく、船に戻ります。


「シーアさん達を待つ間に、お願いを使ってもよろしいでしょうか」

「うん。今日はどうする?」

「北に行くほど寒くなって行きますので、防寒着を作ろうと思っています。その採寸にご協力をお願いしますっ」

「そういえば、最近ちょっと寒かったような」

 

 この”巫女”服はそれなりに防寒出来ていたと思ったのですけど、ここまで北に来ると肌寒さを感じますね。


「シーアさんは自前の物を持っているでしょうし、レイメイさんは買うでしょうから。着の身のままであったリッカさまには私が御作りいたしますっ」

「手作り」


 アリスさんの手作り。


「採寸って事は」

「はい。今のローブでは薄いので、厚めにしようかと」


 全身を測るんですね。それにしても、手作り。


「お手伝い、よろしいですか?」

「もちろんだよ。アリスさんの手作りすっごく楽しみ」

「それでは、船へっ」


 ただの採寸ですけど、アリスさんは嬉しそうです。それに、胸の前で握りこぶしを作って気合も充分。私は測ってもらうだけですけど、気合を入れましょう。


 そして覚悟しましょう。……全く育っていないバストを直視するために。



 船に戻り、船室へ。採寸なので服を脱ぎます。そんなに汗をかいたわけではないのですけど、一度お風呂に入りたいと思ってしまいます。


「出来れば、下着も」

「う、うん」


 より正確な数値が欲しいようです。体のラインがそれなりに出てしまう服です。丁寧な採寸をしなければ、崩れたりするでしょう。小さすぎるとラインが出すぎて大変な事になりかねませんし……。


 それにしても……。


「……」


 お風呂でいつも見せています。むしろ抱き合ったりと、色々と。しかし、部屋で、こう……見られながら脱ぐというのは、また違った恥ずかしさが。顔が赤くなり、もじもじとしてしまいます。中々脱ぐ手が進みません。


「さぁ」


 アリスさんの手が、私の下着を脱がせていきます。もたもたしていては、シーアさん達が戻ってきます。急がないといけないのです。だから私はアリスさんに、身を任せました。 


 ドキドキしていて過程を思い出せません。ただ、全部脱がなければいけないかと思いましたけど、上だけでした。下まで脱ぐ必要は、なかったですね。


「……」

「えっと……」

「そ、それでは」

 

 こほんと一つ咳払いしたアリスさんが、測定を始めました。腕回り、首回り、手首回り、ウエスト、ヒップ。ミドルヒップ、背丈や肩幅……バスト回り。

 

 完全に脱衣しての採寸なんて初めて、ですね。採寸自体、制服の時だけでしたし。その時は薄手の服のままでしたね。アリスさんにならば問題ないのですけど、流石にじっと見られるのは、心臓どきどきです。


 マッサージの時やお風呂で洗ってもらっている時と違い、採寸しやすいようにと位置調整の為に触れられる。しっかりと測るために真剣な表情で私を調べていくのです。頭がぼーっとしてしまうような……アリスさんに見惚れてしまいます。


「アンダー五十六のトップ六十八ですね」

「か、変わってない……」


 告げられたサイズによって、現実に戻ってきました。

 Bカップに届くかどうか、でしょうか。細身の所為か、Aと言われるくらいのものです。


「まだまだ成長の余地はありますっ」

「そうだと、良いけど」

「下着が小さいのも原因の一つかもしれません。この際新調しましょう」

「うん……ありがとう。アリスさん」

「はいっ」


 希望はあるようです。マッサージ効果は……まだ始めて一月も経ってません。もう少し頑張りましょう。豊胸マッサージに、もっと効果的な方法があったような気がしたのですけど、思い出せません。いつか思い出した時にでも、試してみましょう。


「それでは次を」

「うん」

「この後、私のもお願いしますね」

「うん。分かった――――?」


 それはつまり。今この状況の逆。私がアリスさんの――。


(大丈夫かな。心臓もつかな)


 が、がんばります。



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