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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『トぅリア』激闘⑧―①



「コホンっ。さテ、次ですネ」

「舵が放せねぇ俺の脛を蹴ってた謝罪はねぇのか」

「いつもの事じゃないですカ」

「いつも謝れと言ってんだろ」

「それで謝った事もないでス」

「変えようって気持ちはねぇのか」

「んーーー。ないでス」

「てめぇ……」


 次の町を知っているのはレイメイさんです。舵を完全に任せ、しばらく航行します。


「元老院の計画が、いつ頃影響するか分からないけど」

「もう暫くは大丈夫だと思います。ゾォリと同様の対応をしましょう」


 今すぐに喧伝したとして、広まるにはまだ時間がかかるはずです。指名手配という事は、顔写真とかも作られるのでしょうか。そうなると、私達の顔を見てから出てくる反応がより険しい物になるでしょう。それが判断基準となるはずです。


「改めて確認します。トゥリアとはどのような町ですか?」

「人口二百人居るかどうかって村だな。農地と牧場があるだけ、特産もなけりゃ店は一つを除いて無ぇ」

「その一つが?」

「ライゼの鍛冶屋だ。包丁やらなんやらは必要だったからな。それを作ってた」


 農具やらも必要だったでしょうからね。ライゼさんを追放してしまって一番困ったのはトぅリアの人たちなのではないでしょうか。


「隣町やら少し離れた場所から買いに来る奴はそこそこいたが、殆どの客はトゥリアの連中だ。そんで、トゥリアの奴らとは物々交換だったな」

「全員親戚みたいな村って事ですカ」

「まぁ、そんな感じだ。部外者の俺が馴染めなかったのもそれが理由だったしな」


 閉鎖的な村ですか。活動がし辛そうですね。ライゼさんの知り合いとなれば大丈夫という淡い期待すら、ライゼさんの息子たるレイメイさんが疎外されていたという事実で消え去ります。


「悪意やマリスタザリアへの対応はどのように行っていましたか」

「悪意の方は知らねぇ。多分だが、町の連中から()()()()が出たら追放するだけだな。化け物に関しちゃ、立ち去るまで隠れるだけだ」

「追放ですか」

「それがあの村の普通だ。俺が住んでた時も一人やられてた。それが悪意によるものだったかは知らねぇがな」


 捕まえるでもなく、矯正するわけでもない。ただ追放して見ない振りですか。厄介です。


「訪問者にはどんな対応をしていましたか」

「まず殆ど来ねぇが。ライゼの店に来た奴に対しては遠目で見るだけだったな。会話した事ねぇんじゃねぇか? 俺がでかくなってからは、ライゼが売りつけに行ってたからあんま覚えてねぇ」


 排他的ですね。活動出来るのでしょうか。不安しかないです。


「”巫女”の事はどう思ってるんでス?」

「話題に出た事すらねぇ。つぅか、普段の会話で”巫女”とか出ねぇだろ」

「共和国では偶に出てましたヨ。後、王都周辺でモ」

「北の特徴って事かな」

「そういや、王都についてからだな。”巫女”の話を聞いたのなんざ」


 興味がないって事ですね。そうなると、浄化も知らないでしょう。神誕祭に行く事もないですよね。


「どうしまス?」


 マッサージ作戦も、排他的な村では効果がないです。そんな村にやってくるマッサージ師なんて信頼されるはずがありません。いっそ、”巫女”と正直に話し、頭を下げた方が良いでしょう。


「とりあえず、村の空気を感じてみない事には」

「対応はそれからですね。訪客に対しての扱いが分かっただけでも心持が違います」


 もし知らないままだと、最初の対応を誤って終わりだったかもしれません。


「苦労してたんですネ」

「野垂れ死んでたかもしれねぇんだ。それよりゃマシだろ」

「じゃあお師匠さんに会ったら感謝の言葉からですネ」

「それは無ぇ」

「ライゼさん、泣いて喜ぶでしょうに」

「アイツが……?」


 心底ありえないといった表情を、レイメイさんが浮かべました。


「心身ともに限界でしょう。そんな時に仲違いしていたレイメイさんから”父”と呼ばれるんです」

「皮肉なり笑ったりするだろうけど、悪い顔はしないと思うよね」

「ですネ。泣いて抱きしめるはずでス」

「何であの話から俺が弄られる流れになるんだ」


 捨て子で、ライゼさんが拾わなければ野垂れ死に。確かにデリケートな問題です。でも、それをさらりと言えるくらいには受け入れ、その事でライゼさんに感謝していると思っているのです。触れないよりは、ずっと良い関係だと思えます。


「まァ、冗談を言い合える仲くらいにはなれたって事デ」

「はぁ……。一方的に弄られてるだけに感じるんだがな」

「そうですか? 私は結構やられてるような」

 

 まず、”赤いの”って。巫女やチビガキもどうかと思いますけど、赤いのって何ですか。もっとあるでしょう。えっと……。あれ。私って……赤い以外に特徴が……?


「そりゃお前が阿呆だからだ」

「余程お眠りになりたい様子。今日の私は余力を残していますよ」

「コイツには冗談が通じないみてぇなんだが」

「リツカお姉さんは冗談に含まれませんのデ」

「阿呆ばっかだ」

「今アリスさんの事を貶しましたか?」

「それももう良い」



 そうこうしているうちに、着いたようです。岩場から離れ、森林地帯へ。そしてその森に隠れるように、村はありました。


 痩せた森。土が悪いみたい。水も少ないのかな。日当たりも悪い。下の葉が栄養失調になっちゃってる。


 あぁ、気になるところばかりです。剪定したい。しかしこれも森なのでしょう。人の手が入っていない、まさに自然。私が手を加えるだけが良き物とはなりません。やはり、森には森の表情があるのです。


「森の方見て黙って、何やってんだ」

「静かに。今良いところなのです」

「こっちはリツカお姉さんの観察でス。こうなったらしばらく戻りませン」

「阿呆ってより変人じゃねぇか」

「また威圧されますヨ」

「まぁ、いい。停めるぞ」



 いつの間にか停まっていました。この辺りは、木漏れ日が綺麗ですね。多分、ここが森の中心です。


「リッカさま。そろそろ降りましょう」

「うん」


 にっこりと微笑んでいるアリスさんに手を引かれ、船を降ります。村からは少し離れた場所に停めたようですね。人が全く入った形跡の無い森を歩く事になります。


「枝とかに気をつけてね」

「はいっ」


 初めての来客に、森が緊張しているかもしれません。何が起こるか分からないです。


「気をつける必要あるか?」

「偶に生きてるってくらい活きの良い枝があるんです」

「は?」

「踏みつけると勢い良く跳ね上がって足に刺さったり」

「……」

「顔付近まで飛んできて目に木片が飛び込んできたり」


 激しい表現を使いましたけど、本当です。人の入らない森において、地面は森の一部。人の手が加えられていない事で枝や石等が無造作に散乱しています。適当に歩くと、手痛い仕返しを受ける事になります。


 石の上に枝が落ちて、斜めになっている枝を踏むと……梃子が働いた枝は勢い良く跳ね上がり、足に。慎重になって悪い事はないです。足元に注意しましょう。


「こっちに人は入らないんですネ」

「狩をするやつらも居るが、こっちとは逆の方に行く」

「ここには居ないんでス?」

「居るぞ」


 獣の気配はしています。今は魔力を少し練って威圧する事で、獣避けにしています。マリスタザリアでもない限り、魔力を本能で感じ取り逃げますから。


「木と木の幅が狭いから、獣の方が有利だよね」

「そういうこった。開けた方がやりやすいってんで向こうに行くんだよ」

「狩で楽しようなんテ、やる気あるんでス?」

「ねぇな。牧畜と畑はあんだ。狩なんざ暇潰しだからな」


 暇潰しとはいえ、貴重なお肉です。牧畜をやっているとはいえ、ミルク等の乳製品ばかりになるでしょう。お肉は狩が主です。それでも、労力よりもやりやすさを取る辺り、食に対する執着はないようです。


「もう直見えるぞ」


 光が強くなってきました。森の終わりが近いです。北部に入ってから、まともな浄化をしていません。ゆっくりさせてもらえないものでしょうか。



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