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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『ゾぉリ』旅の終わり⑥



「別ニ、私の為に悪役になる必要はないんですヨ?」

「気にすんじゃねぇよ。俺でも分かる事ぁあるんってんだ」

「何でス?」

「戦いの要は間違いなく巫女二人だ。だがな、日頃の行動じゃお前が居ねぇと話にならねぇって話だ」


 アルレスィアとリツカ。二人の”巫女”と同じ視点で物事を見られる存在がレティシアだ。アルレスィアとリツカには、致命的な制約がある。二人一緒でなければ、お互いの能力が落ちることだ。


 性質の話ではなく、気持ちの問題だ。


 リツカとアルレスィアを理解しているレティシアは何も言わないけれど、ウィンツェッツは疑問を持っている。


「あの阿呆二人は別行動が出来ねぇ」

「……」

「それを辞めりゃ出来る事は多かっただろうがな」

「それハ」

「分ぁってる。俺も何だかんだで、見ることが多かったからな」


 レティシアの言葉を遮り、ウィンツェッツが話を続ける。


「赤いのの事は分かねぇが、巫女の事ぁ分かる。あの阿呆。巫女が居ねぇと簡単に死ぬだろ」

「……」

「巫女が一番知ってる。だから、離れられねぇ」

「もっと詳しい事情があるんでしょうけド、概ね同じ意見でス」

 

 リツカに対する総評として、命知らずという面がある。勇敢と言えば聞こえはいいけれど、結局は死に急ぎと取られる。


「俺からすりゃ、お前もお人好しだ」

「……」

「すぐに失墜する阿呆なジジィ相手に悪役になったとこで、俺がどうこうなるわけじゃねぇ」


 まだ確定している訳ではないが、共和国を連合に売り、同盟国である王国を魔王の生贄に捧げようとしている元老院。エルヴィエール経由で国民に知られれば、簡単に地位を失うだろう。そんな脆い地位に縋っているのだ。


「だって頼りないものですかラ」

「うっせぇ。悪者に仕立て上げられるくらい出来るってんだよ」

「ほんト。丸くなりましたネ」

「これが元々だ」

「違和感しかないので止めてくださイ」

「どこまでもムカつくガキだな……」


 最初はただの野蛮人という評価だった。何か理由があると分かってからも、粗暴な男という印象は拭えない。無力を嘆いているのは分かった。しかしそれ以上に、簡単に歪んだ脆弱性が受け入れられなかった。


「まァ、有り難く利用させてもらいまス。私も最後まで成し遂げたいのデ」

「俺もお前等を利用してんだ。勝手にしろ」


 今でもその評価は変わっていない。それでも少しは成長したと、レティシアはしみじみと思っていた。




 レイメイさんを利用しての緊急回避。我ながら、最低な方法を伝えたものです。何より、ただのその場凌ぎでしかないという事が問題です。根本的な解決にはなりませんし、()()()()()には対処出来ません。


「シーアさんも、何が最も大切なのかを理解しています」


 アリスさんが私の腕を抱き、頭を寄せてくれます。


「女王として、仮初の世界を生きるか――平和な世界でエルヴィエールとして生きるか、です」


 シーアさんが思い描く世界は……エルさんが平和に、笑顔で生きる世界です。その時にエルさんが女王のままが最高なのでしょう。でも一番は……エルさんの笑顔です。


 シーアさんはそれを選んでくれると思います。本質は私と一緒です。大切な人の為に、大切な人が想う世界を守る。その果てにあるのは、笑顔ですから。たとえ地位を失おうとも、笑顔があれば任務完了です。


 そうであって欲しいと、思います。でも……無事だと確信していても、どんなに信頼していようとも……心配せずにはいられないのもまた、同じなのです。


「エルさんが女王という立場を追われる事は、()()()ないだろうけど」


 絶対です。それだけの事を、エルさんは共和国にもたらしています。それでも――。


「傍で支えられないって、辛い……もん、ね」

「……シーアさんの選んだ道は、過酷です」


 前を向き続ける事で誤魔化していた感情に直面した時、シーアさんに襲い掛かる憂慮は凄烈です。


「だからこそ、私達の役目を果たしましょう。シーアさんの覚悟に報いるには、それが一番です」

「……うんっ」


 シーアさんの選択がどんなものであろうとも、です。



 町に着くと、昨日のお騒がせな女が来たと言わんばかりの視線を受けました。仕方ない事とはいえ、歓迎されていないと見せ付けられるのは悲しいです。


 町の中央で広域を行います。一つ、ありますね。


「町の最北端かな」

「一つ、ですか」

「昨日の騒動の所為なのか、魔王に近づいてるからなのか、判断に迷うね」

「悪意が少ないのは良い事なのですけど、不気味なのは確かです」


 魔王の考えを読むのは、もはや不可能です。対峙して解りました。あの人が私達に執着しているのは確かでも、その理由が一切解らなかったのです。アリスさんですら、解らなかったのです……。


「今は、一人で良かったかな」

「はい。浄化を終わらせた後、昨日の事を町長さんに謝罪をしたいと思っていましたから」

「そうだね。騒ぎを起こしちゃったし……」


 今もひそひそと、不審者を見るような目で観察されています。町の真ん中で立ち止まって、神妙な表情をしていれば仕方のない事とは思います。これ以上騒ぎを起こさない為に、浄化を急ぎましょう。


「いこっか」

「はい」 


 思ったより縦長な町です。少しだけ時間がかかってしまいますね。かといって早歩きすると、また目立ちますので……ゆっくり急ぎます。



 町の北に行くほど、寂れていっている気がします。


「嬢ちゃん達、そっちには行かない方がいいぞ」


 日向ぼっこをしているご老人による忠告を受けました。


「何の用事かは知らないが、女子供が行く場所じゃない」

「何があるのですか?」

「そっちは負債者の強制労働施設だ」

「何故、隔離するような」

「さてね。兎に角、無法者が多い場所だ。行かない方がいい」


 そうは言っても、浄化対象者はこの向こうです。


「その負債というのは、法に則っているのですか?」

「……いいや。所謂闇金だ。返せない程の金利に溺れてるんだよ」


 近づかない方が良いというのは理解しました。監視員が居るでしょうし、その監視員はつまり……そういった人だという事も。ですけど、浄化対象が居るのならいかねばいけません。


 何より、負債者の全てが、私欲で借りたって訳でもないでしょう。中には、どうしようもなくという話もあるかもしれません。


 暴利ならば、王国の法の下、矯正しなければ。


「昨日も新人監視員みたいなのが増えたみたいだしな。お嬢ちゃん達には危険すぎる」

「定期的に増えるのですか?」

「そうだなぁ。週に一回交代があるな。昨日は周期が違うもんだから良く覚えてる」


 新人、ですか。


「細長い剣を肩に担いでな。人殺しにでも来たのかってくらいの面だったよ」

「……」

「……」


 少し、覚えがありますね。そういえば、別の所から町に入ると言ってましたね。ここからだったんですか。


「ご忠告ありがとうございます。ですけど、私達にも譲れないものがありますので」

「ま、無理には止めないがね」

「ありがとうございました」


 闇金ですか。借りた分は返さなければいけないと思います。でも、騙し取ったり違法な金利はいかがなものかと。口出しはしませんけど、心に留めておきます。お役目が終わった暁には、コルメンスさんに報告しましょう。


「強制労働って言ってたけど……」


 言い辛いですけど、この町で何をさせているのでしょう。近くにある岩山から何かを採ってくるという訳でもなさそうですし、特産品があるという訳でも……。


「岩山によって王都から隠れていて、この場所の設置に文句を言わない町民という好立地となっています」

「裏の仕事って、事?」

「もし足が着いても、ここが見つかるだけです。そして……処分も」


 こちらの世界に、生命保険はありません。冒険者には一応、似たような制度があったように記憶していますけど、保険制度の中に、死んだ場合に払われるものはありませんでした。通院、入院、身体、精神的ハンデに対しての物だけだったはずです。行く行くは、全国民に適応したいという話でしたけど……。


 何が言いたいかというと、こちらの世界において、闇金においての最終手段……生命保険による強制徴収はないという事です。 


 つまり、ただ単純に……邪魔になったから殺すという事です。人を物としてしか、見ていないのです。


「退治しておいた方が、良いのかな」

「下手に手を出し、この町に危害があってはいけません。それに、根本的な解決をしなければ、この問題は終わらないでしょうから」

「やっぱり、王国兵に任せるべき……だよね」

「そう、思います」


 目的を忘れてはいけません。時には、目を瞑らなければいけない時もあるのです。



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