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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
42日目、故郷なのです
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『ゾぉリ』旅の終わり⑤



「どうしたんでス」


 じっと座り、空を見上げているウィンツェッツに、レティシアが声をかける。


「ライゼが羨んでたってのを思い出してた」

「何をでス?」

「”強化”だ」

「あァ。剣士なら誰もが欲するって言ってましたネ」


 ”強化”が持つ将来性は高い。扱う人間次第な所はあるけれど、使いこなせばどこまでも強くなれる。


「”強化”だけの時はまぁ、赤いのが強ぇからだろうって感じだったんだがな」

「”抱擁強化”は別格でしたカ」

「まぁな」


 敵としてみる”抱擁強化”は、ウィンツェッツの目に焼きつく程に鮮烈だった。


「アレを使って尚、勝てねぇ敵が居るんだよな」

「魔王ですネ。マクゼルトになら何とかってリツカお姉さんと巫女さんは言ってましたヨ」

「今の赤いのとまともに打ち合えれば、マクゼルトとは戦う権利がもらえる、か」

「前からそう言ってた事ですけド、実感しましたカ」

「斜に構えてる場合じゃねぇってのは、分ぁった」


 それだけ言うと、ウィンツェッツは立ち上がり筋力トレーニングを始める。まずは基礎を固める。そして、少しでもリツカに反応出来るようにならなければいけない。仮に目で追えたとしても、体がついていかなければ意味がない。


「お師匠さんといえバ」

「あぁ、次だな」


 トゥリア。地図にはないけれど、ライゼルトが生まれ育った村だ。


「サボリさんも住んでたんですよネ」

「まぁな」

「どんな感じだったんですカ」

「どんな、か。あの阿呆はそこでも頼りにされとったぞ」


 最初に出てくる印象が、ライゼルトが頼りにされていたという話だった事に、レティシアは悪戯な笑みを浮かべる。それに気付いたウィンツェッツは顔を顰め逸らした。


「お師匠さんの性格ってその時と変わってないんでス?」

「昔の方が落ち着いてたぞ。お前等に良い様に言われてるのを見て驚いたくらいだ」

「私からすれバ、今の方が落ち着いてるんだと思いますけどネ」

「あぁ?」

「誰かと話して笑って怒っテ、馬鹿をしたりっテ、普通じゃないですカ」

「……」


 レティシアが足をプラプラとさせながらウィンツェッツを見ている。


「親を亡くシ、新しい家族が出来テ、お師匠さんも一生懸命だったんでしょうネ」

「そうは、見えなかったがな」

「苦労を見せないのモ、親の仕事なんですヨ」

「そういうもんか」

「そういうもんでス」


 船室から足音が聞こえてくる。どうやらアルレスィアとリツカが朝食を運び出しているようだ。


「……って、何で俺はガキに諭されてんだ?」

「年齢の割には子供なサボリさんが不甲斐ないんですヨ」

「あ゛?」

「追いかけっこなら付き合って上げますヨ。サボリさんなんかには捕まりませんけド」

「上等だ。赤いのに比べりゃお前なんざ秒で捕まえてやる」


 甲板に出た二人は、何故か飛び出していったレティシアとウィンツェッツにぽかんとした顔を向ける。そして数瞬後理解し、ため息をついた。


「何ていうか」

「仲が良いですね」


 二人共本気で逃げ、追いかけている。それを仲が良いと言えるかは微妙なところだろう。歯に衣着せぬ物言いが出来るくらいの仲という意味での仲良しならば、あっているだろうけどね。




「朝早くに失礼」


 船の下から声がしました。シーアさん達が飛び出して行った後すぐに、元老院達が来てしまったのです。


()()()()()お疲れ様です」


 やっと日が昇ってきたところです。時間にして六時半。訪問するには早すぎる時間です。


「レティシア様はどちらですかな」

「居ませんよ。お昼頃に出直してください」


 まだ朝食も食べていないのです。


「そうですか。ではこちらで待たせていただきます」


 この人達は私達を怒らせる為なら何でもするんですね。


「ご自由に」


 それだけ言うと、舷梯も下げずに私達は無視する事にしました。共和国の為にシーアさんを連れ戻しに来た訳ではなく、ただ邪魔する為に来た人達に礼を尽くしたくありません。




「ちょっと待ってくださイ」

「観念したか」

「いいエ。船に誰か来てまス」

「あ? ゾォリの人間か?」

「いエ」

 

 こんなに早く来るなんて思いませんでした。船には上がってないようですけど。


「ちょっと”伝言”しまス」

「遊びじゃねぇんだが」

「こっちも遊びじゃなくなりましタ」


 巫女さんに”伝言”っと。


「来てしまったんでス?」

《はい。今船の下で待っています》

「追い返せ――なかったんですネ」

《リッカさまが昼出直すように伝えたのですけど、待つと返されまして》

「相変わらず面倒な人達でス。今帰っても大丈夫でス?」

《遮音してます。裏からお戻りください》

「はイ」


 迷惑な人達です。とりあえず戻って、対応を決めないといけません。


「戻りますヨ」

「あぁ、昨日言ってたジジィ共か」

「でス。今来てるみたいでス」

「は?」


 何の連絡もなく、こんな朝早くに訪問してくるって呆れるほどですよね。しかも出直すでもなく待つなんて。


「流石のサボリさんでも驚くくらいの無法っぷりでしょウ」

「俺は結構真面目だろが」

「……?」

「本気で首傾げんな」


 冗談はさておき、さっさと戻りましょう。




「おかえり。どっちが勝ったの?」

「私でス」

「ザケンな。お前が止めなけりゃ俺の勝ちだったろうが」


 逃げる相手を捕まえるには思考を読む事です。陽動等を駆使して相手を操作出来るならもっと楽に捕まえられます。


「食べながら決めましょう」

「そうだね」


 勝手に待っている人達です。待たせていても良いでしょう。


「このまま無視し続けてはお役目の邪魔になってしまうのデ、私が話している間にお願いしまス」

「それはありがたいけど……」


 このままあの人たちに付き纏われては、浄化の際邪魔にになってしまいます。シーアさんが惹きつけている間に浄化をするのが一番ではあるのですけど……。


「それですと、シーアさんが大変ではないですか?」

「もう結果は決まってるんでス。後は流すだけですヨ」


 旅を続けると決めているのです。今更何を言っても、暖簾に腕押しです。でも私は少しだけ、不安があるのです。


(シーアさんには()()()()()()があるから、それを突かれたら――)


 揺らぐかもしれません。


「安心して行って来てくださイ。私は大丈夫でス」

「…………分かった」


 不安を押し殺し、シーアさんを信頼する事にしました。出会ってから一月程。シーアさんにはいつも助けられ、信頼には信頼で応えてくれる――良き友です。この世界で出会った、数少ない信頼できる一人なのです。


「お言葉に甘えます。すぐに浄化を終えて戻ってきますので」

「はイ」


 シーアさんは、ただの冒険者仲間ではありません。シーアさんが居るから、私達はここまで来られたと言っても過言ではないのです。シーアさんの想いは知っています。でも……共に最後まで、一緒に戦って欲しいと思っています。


「私が話しかけたラ、見えない所から町にどうゾ」

「分かりました」

「レイメイさんはシーアさんと一緒にお願いします」

「俺が居て何か変わんのか?」

「実力行使に出られた時に、シーアさんが反撃した時とレイメイさんが反撃した時では印象に差がありますので」

「……俺に悪役をやれって事か?」

「最低なお願いとは思っています。でも、シーアさんの立場が悪くなるのだけは避けたいです」


 私達の都合に合わせてもらう以上、最低限の身の保障はしなければ。


「まぁ、良い。チビガキと違ってしがらみなんざねぇからな」

「すみません」

「お前等三人と違って身軽な俺だから出来るって事もあんだろ」

「考えすぎといえなくもないですけド。ご厚意感謝しまス」


 少しばかり後ろ髪を残しながら、アリスさんと私は浄化に出かけます。もしもの時の覚悟は、してないといけませんね。



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