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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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転移41日目 記入日 A,C, 27/04/05



 日記を書くのが億劫になったのは初めてかもしれません。書き始めからこんなにも憂鬱を滲ませるのも全て、メルクでの一件が原因なのです。


 まず早朝訓練。レイメイさんは私を追えているようでした。このまま一ヶ月くらい続ければ、組み手くらいならば問題なく出来そうです。同格でなければ、私の修行にはならないのです。早く強くなって欲しいですけど、じっくりと考えながら成長してもらいたいと、思っていました。



 今日の、彼女のお願いは、マッサージです。マッサージは得意です。彼女も、満足してくれたと思います。例の如く、私も彼女からマッサージされた訳ですけど、私の方が、とろけてましたよね。たぶん。自信があったマッサージですけど、彼女のテクニックの前では、私のは児戯だったようです。


 本当はもっと、彼女にしてあげたかったのですけど。私をマッサージしているときの彼女が余りにも嬉しそうだったので、言い出せませんでした。明日のお願いもマッサージ、とはなりませんね。



 到着した町の名前はメルク。最初に見た時の感想は……”神林”に似ている。でした。

 思えばこの時から、彼女の中では思い浮かんでいたのかもしれません。


 先代巫女の、存在が。


 ルイースヒぇン。それが先代巫女の名前です。司祭の言葉に耳を傾けたばっかりに、巫女としての力を失っていった方です。

 先代は彼女の才能に嫉妬し、虐げていました。私は……許したくない気持ちは今でも強いです。でも、ルイースヒぇンさんの人生を、悲しいとも思ってしまうのです。


 ”巫女”に翻弄されただけの人生だったのです。多分私の感情は、同情。こんな感情を向けられても、ルイースヒぇンさんは苦い顔をするでしょう。でも、同情を禁じえないのです。

 仲良くは、なれませんけど。


 ルイースヒぇンさんが”巫女”の悪口をメルクに広めた所為で、私達は大変な目に会いました。町民から睨まれ、蔑まれ、最後にはマリスタザリアを町に差し向けた張本人とまで言われました。

 浄化は一応しましたけど、あの精神状態でどこまで正常でいられるでしょう。


 精神的に疲れたのは、いうまでもありません。彼女も、悲しんでいました。魔王を倒して悪意の総量が減り、神さまの調整が行われるまでの辛抱です。調整されれば、また……平和な毎日が、訪れるはずです。

 人里に迷い込んだ熊みたいに、マリスタザリアが偶に現れることは……あるでしょうけど。


 余り思い出したくないです。あんな、直接的な敵意を向けられる事なんて殆どないです。それも、町民から……。認識の差がここまで人間を……憎悪で染め上げるなんて。今後に活かす以外に、気持ちの整理がつきません。何もせずに過去の事するには、衝撃が強すぎました。


 魔王の一端、欠片まで出てくる大惨事でしたし……昨日休憩にしておいて、良かったです。疲れたまま今回の事に直面していたら、行動不能になっていたかもしれません。魔王はそれほどまでに、強かったのです。


 謎の、行動阻害魔法。マクゼルトよりは荒いながらも、確実に私の命を狙っていた拳。私と対峙して、あそこまで落ち着いていた人を見たのは初めてです。今のままでは、勝てません。彼女の、渾身の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】でやっとだったのですから。


 感じた力も、圧も、マクゼルトの数倍。良い経験だったと、思います。これは今後に活かせる、最高の経験でした。私はまだ弱く、今のままでは魔王と戦っても数秒で死にます。それが分かっただけでも、大収穫。


 彼女を悲しませない為に。死なない戦いをするんです。


 

 外が騒がしいです。どうやら、レイメイさんがやっと帰って来たご様子。まさか律儀に、こちらの連絡を待っていたとは思いませんでした。連絡しなかったこちらが悪いので、シーアさん共々謝りはしました。


 でも、シーアさんには今でもぐちぐち言っています。昔、どんな事があっても報告しろと言って来たのはお前だろうが、とレイメイさんの声が聞こえました。それで怒ったのか、口論が始まってしまったようです。


 昼間の、元老院との口論でイライラしているシーアさんに、少しばかりしつこく愚痴りすぎたようですね。レイメイさんが明日動けなくなる前に、止めたほうがいいでしょうか。


 今私の膝枕でお腹に抱きついている彼女が、もぞりと動きました。思わず、寝顔を見てしまいそうになりましたけど、しっかり隠れています。残念……。いえいえ、お役目完遂後のご褒美なのですから、残念がってはいけません。


 彼女を起こすわけにはいかないので、外の騒ぎには耳を塞ぎます。明日の早朝修行に支障が無い程度でお願いします。



ブクマありがとうございます!

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