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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『ゾぉリ』旅の終わり②



「注目してる人たちの目線には負の感情がないから、少しは活動しやすいかな?」


 向いている視線。その中の男性からの視線を警戒しつつ、確認します。


「浄化対象者には”巫女”である事を伝えてみましょう。ただ一人目の反応が悪ければ、次以降は冒険者として協力を求めるという事でよろしいでしょうか」

「うん。流行り病の疑いがあるからその治療で、とかね」

「速さが鍵ですネ。噂が広まるのは早いでス」


 嘘は……良くないとは、思います。でも、角が立たない方法と考えた時に、これくらいしか思い浮かびませんでした。


 本当はゆっくり、丁寧な対応をしたいのですけど……気分を一新してから望んだ最初がアレだったので、警戒心を強く持ってしまいます。


「騙すようで申し訳ないと思います。しかし……あながち間違いではないと、思いますので」

「そうですネ。最近の流行、悪意病でス」

「……何れは王国からの発表がここにも届くだろうし、そうなった時に思い出してくれれば、良いかな?」


 隠して騙した事が、その時に怒りとなって花開かなければ良いのですけど。


「今後もそれで良さそうですネ」

「まずはこの町で上手くいくか確かめないと」


 そろそろ中心だと思います。ここに来るまでに悪意を感知していません。



「リッカさま、いけますか?」

「うん。多分一回で大丈夫」


 少しだけメルクの強制”抱擁強化”が響いているみたいですけど、まだいけます。


「……本当ですか?」

「う、うん」

「私でも分かりますヨ」


 決して無理をしてる訳じゃないです。これは本当です。ただ、広域となるとどうなるか分かりません。順調に上手になってはいますけど、広域の疲労感と強制”抱擁強化”による疲労は似ているのです。それだけが、少しだけ心配なだけで、無理をしている訳では――。


「明日にした方が良いんじゃないですカ? 巫女さんも万全ではないですシ」

「そうですね……」

「うぅ……」


 浄化が必要な人が居るかどうかくらいは、今分かった方が良いかと思うのです。


「レティシア・エム・クラフト様」

「はイ?」


 スーツの様な格好をした、歳にして六十後半といった男性三名が声をかけてきました。シーアさんの名前を呼んだ時の発音が、共和国の言葉でしたね。


「これはまた、このような場所で会うとは思いませんでした」

「お知り合いのようですね」

「まぁ、良く知ってますよ。お姉ちゃん共々苦労させられてます」

「苦労?」


 共和国の言葉に切り替えたシーアさんが、皮肉たっぷりに男性達を見ています。良い感情ではありませんね。苦労という言葉に込められた感情は、色々な物が混ざっています。


「それはこちらも同じですよ。おてんばも大概にして頂きたい」

「貴方達が不甲斐ないから、私もお姉ちゃんも仕事が増えてるんですよ」

「こちらにはこちらの考えがあります。それをお二人が守らないからでしょう」

「いいえ。貴方達は確かにそれを行う資格を持ってます。でも、国民が認めていませんよ。支持率みました? 次の選挙で誰も受かりませんよ」

「次の選挙が、それとは限りませんぞ」

「お姉ちゃんを引き摺り下ろそうなんて下らない事を考えているのなら、辞めておいた方がいいですよ。私を相手にしているのと同じくらい簡単だとでも思ってるんです?」


 出会ってすぐこんなに激突を。初めてって訳でもなさそうです。何度も繰り返されてきたやり取りのような、手馴れた感じです。内容は違うまでも、喧嘩自体は何度もしてそうですね。


「何の用で話しかけてきたかは知りませんけど、貴方達暇人と違って私は忙しいんです」

「ただの旅行にしか見えませんな」

「こちらも仕事で来ているのですよ」

「女王陛下の方にも向かっておりますぞ」

「ならばさっさとしてください」


 アリスさんと私は、しばらく静観します。簡単に口を挟んで良い雰囲気ではないです。


「大体、どうやって私の場所を――って、情報部ですか」

「えぇ。貴女が居らずとも優秀な者達です」

「でしょうね。()()()()()()選んだ人たちですから。さっさと用件を話して下さい」

「では、レティシア様及びエルヴィエール女王陛下には即刻――――共和国への帰国を願います」


 静観しようと思っていましたけど、そうも言ってられないようです。




 レティシアが男達と口論を繰り広げていた頃、王都でもまた――。


「丁度帰るところです。その程度の話ならば、”伝言”でも良かったのですよ」


 エルヴィエールが無表情に応えている。これは珍しい事なのだ。他人と話す時エルヴィエールが表情を浮かべないなんて、()()()達相手でしか見れない。


「神誕祭だけという話が、何故こんなにもかかったのですかな?」

「それは報告がいっているでしょう。王国の危機に際して、共和国は全面的な支援をすると」

「それで、何故女王陛下はお帰りにならなかったのですかな」

「私が引き止めたんです」


 エルヴィエールを責める男達に、コルメンスが堪らず声を上げる。


「北側からもマリスタザリアが現れましたので、すぐに出国するには危険が大きいと判断しました」

「そうでしたか。コルメンス陛下のご判断は正しいと思っております」


 含みを持たせ、男達は鷹揚に頷く。その姿に、エルヴィエールは眉を少し動かした。


「何か?」


 エルヴィエールの言葉に、男達は意味深な笑みを浮かべる。


「いえいえ。そうでした。コルメンス陛下」

「何でしょう」

「ご婚約おめでとうございます」

「……ありがとうございます」

 

 コルメンスですら嫌な顔をしてしまうほどに、感情の篭っていない祝いの言葉だ。エルヴィエールに至っては、今にも怒鳴らんばかりに下唇を噛み締めている。


「私情で女王陛下を引き止めたりなどは、ありませんでしたか?」

「そんな皮肉を言うためだけにわざわざ?」

「いえいえ」


 コルメンスとエルヴィエールの婚約を祝っていないのは、この者達くらいのものだろう。


「もう良いです。すぐに帰ります。コルメンス様。次はアルレスィアさん達と共に参ります」

「あ、あぁ。待っているよ。連絡だけは小まめに取ろう。シーアも心配していたから」

「もちろんです。アンネ、コルメンス様をよろしく」

「はい。お任せください」


 男達を無視し、エルヴィエールはにこりとコルメンスとアンネリスと話し始めた。コルメンスは面食らいつつも、その意図を汲み普段通り接する。


「皆さん。よろしくお願いします」

「お任せください。この命に代えても」

「ありがとう」

「ハッ!」


 護衛達に挨拶を行い、エルヴィエールが船に乗り込んでいく。


「貴方達も仕事にお戻りください。()()()を空けてはいけませんよ」

「ご安心を」

(どうせシーアの方にも何人か行ってるんでしょう。だったら、殆ど残ってないじゃない)


 話し終えたエルヴィエールが、男達を見ることはもうなかった。水と油のような二者がそれ以上会話する事はない。


 コランタンが辞めた後の元老院は、反エルヴィエールとして有名だ。元々若すぎるとして反対していた者達が、どんな手を使ったのか元老院として返り咲いた。


 仕事らしい仕事といえば、エルヴィエールの粗探し。国民の殆どは呆れているけれど、一定数支持されている。独裁とならないように、反対派も必要ではある。エルヴィエールが強硬策を取らないのは、そういった背景があるからだ。


(シーアの方は……大丈夫ね。あの子が口喧嘩で負けるとは思えないし、今は――アルレスィアさんも居るもの)


 レティシアの心配は必要ない。まずは国内の不安を取り除く事に専念するために尽力する。エルヴィエールはそう考えを改め、思考を切り替える。


(まずは、現状をしっかりと伝える事ね。国民を落ち着かせて、マリスタザリアの動向を調べないと。『感染者』の選別と保護も必要。不確定ではあるけど、北西って話だったわね。シーアは止めるでしょうけど、こちらでも探しましょう。あの子達だけに負担を強いたりしないわ)


 やる事は山積みなれど、エルヴィエールは共和国に帰りつくまでに纏めるだろう。元老院がどんな策を取ろうとも、エルヴィエールは乗り切る。温室育ちに見えて、エルヴィエールはずっと――苛酷な環境下で闘っていたのだから。



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