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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』北の洗礼⑤



「つーかよ」

「なんでス」

「アイツ等、何であんなにキレてたんだよ」

「私達がマリスタザリアを呼んだと思ったからじゃ」

「その上で、戦っていないように見えたからです」


 レイメイさんが言いたい事は、何となく分かります。レイメイさんが反撃してなかったとはいえ、戦っていないとは言えません。なのに、町民は最初から疑ってかかっていました。


「それは私の所為ですネ」

「あ゛?」


 レイメイさんがイラっとしています。さんざん自分に文句いっておいて、といった風です。


「まぁ、話は最後まで聞いてくださイ」

「言い訳してみろよ」

「私に独り言癖があるのは知ってるかと思いますけド、その時は共和国語なんですけどネ」


 考えを纏めるためにシーアさんは独り言を行います。いわゆる、指差し確認のようなものだと思っています。


「町民の中に共和国語を聞き取れる人がいましテ」

「そんで」

「簡単に言えバ、虐殺時代のアルツィア様の気持ちが分かりましタ」

「あ?」

「あぁ……」

「……不幸、ですね」


 思わず、頭を抱えてしまいます。

 随分と端折った話でしたけど、大体分かりました。中途半端な聞き取りで、不幸なすれ違いが起きたようです。


「牧場での騒ぎをお祭りと言ったのが間違いでしタ。本当にマリスタザリアが出るとは思いませんでしたのデ」

「楽しんでるみたいに、思われちゃった?」

「ですネ」


 シーアさんが私達の仲間と認識されている以上、レイメイさんもそう思われているでしょう。レイメイさんの回避修行が、ダンスにでも見えたのでしょうか。


「お前も悪いんじゃねぇか」

「少し表現を間違えた事は認めますけド、聞き間違える方が悪いと思うんですよネ」

「だったら俺ばっかり責めるんじゃねぇよ」

「サボリさんのは言い訳出来ない程の失態ですシ」

「赤いのが負けるくれぇの敵が現れたんだぞ。少しでも強くなる必要があんだろが」

「そこまでです」


 今回のは、いつものじゃれ合いではありません。完全な喧嘩です。とめないと。


「今回の件。全部が不運な勘違いによる物です。誰が悪いとかはありません」

「普通であれば、勘違いを正せるだけの余裕はあったはず。でも、あの町はちょっと……事情が違ったからね」


 ルイースヒぇンさんが、私達の秘密を言い当ててしまいました。マリスタザリアを引き寄せるという。何にしても、不幸だったのです。


「私達が争う必要はありません」


 荒れる気持ちも分かります。それでも、私達が喧嘩する必要はありません。


「今回の事で、私達の行動方針は結構固まったと思うんだ」

「はい。”巫女”である事を隠さなければいけない場合が、確実にあるという事です」


 ルイースヒぇンさんが煽動したから、あのようになったのだと思います。でも、元”巫女”とはいえ……あそこまで意識を変えられるものでしょうか。私は、そうは思いません。


「北は”巫女”やアルツィアさまの威光が通じないのですね」

「悲しいけど、”神林”が南に位置してる以上、遠くまで声が届かないのは仕方ないと思う」


 ブフぉルムでの決意は、まだまだ甘いものでした。


 北では、”巫女”なんてただの人なのです。それは理解しているはずでした。でも、いざ突きつけられると少しだけ寂しく思います。それはつまり、”巫女”と神さまに……少しも期待してないって事ですから。


「これからお二人が広めていけば良いかト」

「さっきみてぇにならなきゃ良いがな」

「その為に慎重になろうって話ですヨ」

「手っ取り早い確認方法を、見つけたんだ」


 メルクで気付いた事です。あの町はルイースヒぇンさんが居たので微妙にズレてしまっていました。でも、今後はある程度信頼出来るかと思います。


「”巫女”って言いふらす事無く町を歩けば良いんじゃないかな」

「もし私達を知っていれば、それなりに反応を見せます。その反応が好意的であれば、という事ですね」

「うん。町長に会うのも、その後で良いと思う」


 私達を知らなかった場合も、”巫女”を公表しない事にします。

 相手を信頼しない。最低の確認方法かもしれません。でも、私達は役目を完遂する為に、不要な争いを避けたいのです。


「もし今回の様に否定的だったらどうしまス? 浄化出来ないんじゃないですかネ」

「とりあえずは、私の”光”で視界を一瞬奪い、その隙に撃ち込みます。今回は疲労によりそれは出来ませんでしたけど……次からは出来ます」

「それでもギリギリの手法だから、別を考えないといけないけど……。とりあえずは、これでいこうかなって」


 ”巫女”として、栄誉が欲しいわけではないのです。浄化さえ完遂出来れば問題ありません。


「もう聞き込みとかも……最低限が良いかもね」

「聞き込みは、冒険者として行いましょう」

「まぁ、それくらい慎重な方が良いんじゃねぇか」

「私としてハ、巫女さん達が安全なら何だって良いでス」


 ”巫女”として生きたいですけど、押し付けになってはいけません。”巫女”が嫌いという人も、世の中には居るのです。隠れる事も、仕事なのかもしれません。


「方針なんて変わって当然くらいの気持ちで居た方が良いでス。各町ごとに決めてもいいくらいですヨ」

「相手に合わせすぎるのも面倒だろ」

「それは同感ですけどネ」


 相手に合わせすぎては、蝙蝠になってしまいます。誰にでも良い顔なんて、なれません。私達を嫌っているかどうかを確かめてからでも、良いですよね?




「さテ、方針が決まった所デ」

「まだあんのか」

「当然でス。魔王の事を考えなくてハ」

「何の為にあそこに現れたのか、かな」

「私達の妨害だけならば、いつものように悪意だけをばらまくはずです。でも今回は、本人の意思を持った人形として現れました」


 あれが魔王。余裕と意志を感じました。私が死ななかった事に驚いてはいましたけれど、狼狽したりはしていませんでした。私の反撃は予想通りというか、そうでなくてはいけないといった感情だったように思います。


「魔王の言葉も気になります」

「戦う気はなかったけど、確かめる。だね」

「はい」


 魔王は確か、そんな事を言っていた気がします。確かめるというのは、私達の戦力でしょうか。もしそうなら、私だけで倒したかった。【アン・ギルィ・トァ・マシュ】は、見せたくなかったです。


「私が動けなくなった魔法も、なんだったんだろ……」

「私も、何をされたのか分かりませんでした……本当に、あれは……」


 アリスさんの瞳が揺れ、震えだしました。思い出してしまったようです。私の、死を――。

 強く、アリスさんを抱きしめます。私の心音を聞かせるように、胸に。


「体術の方はどうだったんでス?」

「マクゼルトの見様見真似、かな。それでも威力は、圧倒的だったけど」


 見様見真似で、私と互角。少しは押せていましたけど……。やはり、あの拳圧をどうにかしなければ。


「サボリさんが焦るのも無理ないですネ」

「今度から化け物は俺によこせ」

「切羽詰っている時に回避修行開始する人に任せるのはちょっと」


 本気で戦っても、充分修行になるはずなんですけどね。


「明日から本気で修行つけて上げます」

「本気だと」

「明日になれば分かりますよ」


 攻撃を当てないでも、殺意って飛ばせるんですよ。


「私達は少し、休みます」

「分かりましタ。次の町に着いたら呼びまス」


 アリスさんも私も、少し疲れてしまいました。次の町まで休ませてもらいます。……って、まだまだ日が高いですね。


 次は確か、ゾぉリでしたね。神隠し被害者が居たはず。でもお子さんはもう助け出しましたし、きっとゾルゲに向かっているでしょうから、居ないでしょうね。話を聞くのは無理そうです。


 次のことは町についてからで……まずは休みましょう。


「休む前に、お風呂に入りましょう」

「うん」


 血が乾いて、少し気持ち悪いです。服も、肘付近から黒く。


 服を脱ぐ私を、アリスさんがもじもじとしながら見ています。


「離れたく、ないです」


 アリスさんからの、可愛らしい申し出に――。


「おいで?」

「――はいっ」


 私はクスリと笑い、両手を広げるのでした。



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