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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』北の洗礼③



「あれは、【アン・ギルィ・トァ・マシュ】……?」


 そこまでの敵って事なのでしょうか。それとも、最短で殲滅する為ですかね。


「私も向かった方が……いえ、今私がここを離れると」


 町民を足止め出来ません。マリスタザリアを見られなければ、まだ言い訳出来るかもしれません。


「何だあれは!?」

「赤の巫女に似てる……?」

「おい! 一体何をする気だ!?」


 情報って本当に武器です。王国では、適当な噂にイラっと来た事もありました。でも、ここまで何も知らない、噂すら聞いてないっていうのは、それはそれでイラっとします。


(今流行りの”巫女”の事を、元”巫女”からしか聞いてないってどういう状況ですか)


 来訪者とかから聞いた事ないんですかね。まぁ、今更ですね。


「……? 【アン・ギルィ・トァ・マシュ】が揺らいで?」


 巫女さんに何かあったのでしょうか。いえ、リツカお姉さんに……っ!?


「うわッ!?」

「何この光――!?」


 【アン・ギルィ・トァ・マシュ】が発光を……? 


(向こうが気になりますけど、魔力は感じてます。大丈夫でしょう)


 何か起こる度に悪い方へ向かってしまいます。町民をここまで信じ込ませるなんて。


(リツカお姉さんとサボリさんの修行、見てて良かったですね。私も少しは、避けるのが上手になってます)


 かといって、どんどん増えてる町民相手にどこまで逃げられるか。


「ただ平和に暮らしてただけじゃないか……何でこんな事をする!?」

「私達は何もしてませン」

「ルイースヒェン様の言った通りになったのよ!?」


 適当に言ったのか、王都の事を知って考察したのかは分かりませんけど、あながち間違っていないのが問題です。嘘だと言えませんからね。


(マリスタザリアを倒したら、私達は退散した方が良いんじゃないですかね)


 私達が居た方が、より悪意が澱みそうです。


「牧場で化け物共が暴れてるぞ!!」

「ほら……! ルイースヒェン様の方が正しいじゃない!?」

「そこで巫女さん達が戦ってるでしょウ」

「巫女とその仲間は居るが……戦わないで見てるだけだぞ!!」


 巫女さんが【アン・ギルィ・トァ・マシュ】を出したんです。もう巫女さんは動けないでしょう。それでもまだマリスタザリアが居るのなら、一体だけ本物の化け物が居たんですね。マクゼルトみたいな。


 そうなると巫女さんが動けないのと同様に、リツカお姉さんも戦闘不能になっている可能性が高いです。マリスタザリアの相手はサボリさんになるんですけど。


(まさか、また()()()()()が?)


 何にしても変な所を見られて、また悪い方にいったみたいですね。


「もうバレてしまっているのなら、牧場に行きますか」

(一撃でマリスタザリアを殺しきり、この町を離脱しましょう)


 巫女さん達なら説得するでしょうけど、町民と遊んでる場合ではないです。




「な――ッ!?」


 ルイースヒぇンさんに説明を終えた辺りで、マリスタザリアの一団が大爆発に巻き込まれました。あの魔力色は、シーアさんです。間近で爆発を見ることになったレイメイさんが、爆炎の向こう側に。


「大丈夫かな」

「驚く余裕はあったようですから、逃れられたはずです」

「ちゃんと逃げれるくらいの猶予は与えましたヨ」


 ”疾風”で飛んできたシーアさんが、私の様子を見て納得したといった表情を浮かべました。


「先程までの状況、町民が見てましたヨ。もう言い訳できそうにないでス」

「本当に運がないわね」

「あなたにだけは言われたくありません」


 レイメイさんはマリスタザリアに攻撃する事無く避けているだけ。私達は離れた場所でそれを見ているだけ。町民からはそう見えていたでしょう。実際レイメイさんは遊んでいるようなものですけど……。


「ン? 仲直り出来たんですカ」

「んー……。仲直り、ではないかな?」


 お互い嫌ったままですし、ちょっと素直になっただけ? 仲良く見えるかもしれませんけど……。んー、複雑です。もやもやってします。


「お゛い゛」

「やっと戻ってきましたカ」

「てめ゛ぇ゛……」

「全員揃ったので、町民が集まってくるまでに決めます」


 黒い煤をつけ、服がぼろぼろになったレイメイさんを軽く無視します。残念ながら、怪我をしていないレイメイさんに構っている暇はありません。町民はもうここに向かっています。


「リッカさま。どうですか?」

「”光”は向こうまで届いてたけど、地下までは」


 それに、負の感情が強いです。


「先代巫女様は、余程この町で信頼されているようで」

「お褒めに預かり光栄ね。赤の巫女様」


 もう私達がどうこう出来る問題を超えています。


「私の言葉は全然通じませんでしたけド、お二人ならどうでス?」

「無理かなぁ」

「今まで受けた事のない感情がこちらに向かっています。正直、私達の言葉は逆効果でしょう」

「議論なんざいらねぇだろ。さっさと船に戻るぞ」


 私の治療は終わっています。行こうと思えばいけます。


「そうは、いかないんですよ」


 立ち上がって、腕の調子を確かめます。


「全員地下から出て来てる。多分私達が何もしてないって事で、町民達でマリスタザリアを倒す気だよ」


 シーアさんが倒しきっているとは知らないでしょう。爆発が起きた事から、より緊張感を高めているはず。


「何が起きてるのかを町民が理解するまでに一瞬時が止まるはず」


 緊張してやってきて、マリスタザリアが一体も居ない。そんな事になれば思考が一瞬止まるでしょう。

 刀と剣をアリスさんに預け、私は町の方へ歩き出します。


「リッカさま……?」

「私がやる。アリスさん達は隠れてて? ルイースヒぇンさんはそのままで」

「私が居ると勘違いされるわよ?」


 今の町民なら、私が脅しているとか人質とか思うでしょうね。でも、怒りの瞬間も体は固まります。思考の沸騰は正常な判断を狂わせるのです。


「三秒あれば事足ります」

「三秒?」

「リッカさま、それは」


 腕輪は汚れ一つありません。魔力の通りも良い。”強化”と”光”なら発動出来ます。でもそれだと、二人が限界。浄化対象者は十名を越えています。


「信頼回復は望めないけど、”巫女”としての仕事はする」


 ちょっと疲れるだけです。心配はいりません。


「町を救ってあげたんですから、せめて事後処理くらいしてくださいよ」

「はぁ……。ま、良いわ。この町だけの評判って事にしてあげる」

「それで良いです。せめて私達が魔王を倒すまで、町に留めて置いてください」


 戦後の話なんて、その時にならないと分かりません。今分かってる事は、今ここで悪評が溢れると……今後の活動出来ないって事です。


「リッカさま、私が――」

「【アン・ギルィ・トァ・マシュ】と私の治療、それも……私の肘の治療で、アリスさんの魔力がギリギリなのは分かってるよ」

「っ……」


 アリスさんが出来るのなら、それが一番です。

 私がやればきっと、町民の怒りは更に大きくなるでしょう。ルイースヒぇンさんの言い訳が、更に厳しい物となるはずです。だからって、それがどうしたっていうんです。


 私にとっては、アリスさんの体調優先。これ以上の魔力消費は生命に関わります。


「シーアさん、アリスさんをお願い」

「分かりましタ。サボリさんは船の準備しておいてくださイ」

「まだ文句言い足りねぇんだが」

「もたもたやってるからこうなったんですヨ?」

「グ……」


 もうそこまで来ています。


「――私の強き(【マモ)想いを抱き、(フォルテス】)力に変えよ(・オルイグナス)


 もって十秒。頭痛との闘いです。逃げる為の力を残さなければいけないので、長くても五秒で全員の悪意を沈めます……っ。



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