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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』北の洗礼②



「リッカさま。先に治療です」

「でも……」


 片手しか使えない状態です。万全を期すなら治療をするべきですけど……。


「お前等……邪魔してんじゃねぇ!!」


 レイメイさんがマリスタザリアと戦いながら私達を怒鳴りつけました。


「弱体化までさせやがって……!」

「こっちも、必死だったんです」

「うっせぇ! これ以上邪魔すんな! 下がってろッ!!」


 元気は有り余ってるようです。動きも良い。私たちに意識が向いているのに、後ろからの攻撃を正確に避けています。実戦での経験値を積むチャンスです。邪魔しない方が、良さそうですね。


「死にそうになったら割って入りますから」


 死なれると困るのは、こちらも一緒なんですよ。


「ボロボロの阿呆の助けなんざいらねぇ!」

「……」


 レイメイさんの悪口に、アリスさんが”光”でマリスタザリアをより弱体化させようとしています。


 レイメイさんは久しぶりのマリスタザリア、それも魔王産という事で昂ぶっていたようです。それを邪魔されて、口が悪くなっています。


 私を阿呆と言ったからか、ボロボロのと馬鹿にしたからか、アリスさんがレイメイさんへの報復を考えているようです。


「戦闘狂さんもああ言ってますし、リッカさまこちらへ」

「う、うん。でも、大丈夫なの? 【アン・ギルィ・トァ・マシュ】使ったけど……」


 ”治癒”を行う事で、アリスさんが無理をしてしまうのではないでしょうか。


「リッカさまの怪我は、肘以外は大きい物がありません。今の私でも大丈夫です」

「肘を治すのは、無理しちゃうんじゃ?」

「私の心配よりご自身の心配をお願いしますっ!」


 ズイと私に顔を近づけたアリスさんに、ドキドキしてしまった私は何度も頷きました。


 そんな私を見て、大きく頷いたアリスさんが私の背を押し始めました。


「何が、起きたのですか……?」


 避けれたはずの蹴りを避けずに、防ぐ事が出来ない攻撃を無防備に受けました。私には確実な死が待っているはずでした。でも、私はここに居る。


「私の攻撃が入って、両断した後……何故か私の足が地面から離れなくて」

「リッカさまが動けず困っていたのは、見えましたけれど……そんな事が……?」

「うん。魔法らしいんだけど……」

「魔王が……言ったのですか……?」

「うん。何か……違和感でしょ?」


 魔王は何故、あんなにも私達に()()()()()()()のでしょう。


「まるで、私達に成長を促すような……。その時も、いつでも魔法の気配には気をつけろって感じで、私に言ってきたんだよね」

「魔法の戦いに慣れてきたとはいえ、リッカさまはまだまだ経験が足りません。それを、指摘したという事ですね」

「うん。ちょっと、不気味かな」

「何が目的なのか、更に分からなくなりました……」


 私への攻撃は殺意が篭っていました。私が最終手段を使わなければ死んでいたでしょう。でも、そこに至るまでは余りにも……意味不明です。勝ち誇るでもなく、私への忠告をするなんて。


「目的も分からないけど……魔王の力は……」

「想像の上を行っています。今のままでは、勝てないかもしれません」

「私達も、強くならないと、ね」

「はい……っ」


 レイメイさんだけじゃありません。私達も、もっと強く……!


「そのために、回復に専念してください」

「う、うん」


 今のアリスさんに肘を見せたらどうなるのでしょう。……アリスさんなら、分かってます。だからこんなにも怒っているんです。


(本当は今にも、意識飛びそう……でも)


 アリスさんを心配させたくないから、意識だけは……手放しません。

 どんなに骨が……外に……。


「安全圏に行ったらすぐに治療を開始します」

「うん。ルイースヒぇンさんも、連れて行こう」

「……そう、ですね」


 ぽかんとしているルイースヒぇンさんを置いて行くことは出来ません。あのままでは死んでしまいます。とりあえず、町に近い位置まで下がらなければ。




(気に食わねぇ)


 ウィンツェッツがマリスタザリアと戦いながら眉間に皺を刻んでいく。


 アルレスィアの【アン・ギルィ・トァ・マシュ】で悪意が減ったマリスタザリアは、今のウィンツェッツには少し物足りない。


 しかし――。


(今の方が、手前を確かめるには丁度良いなんてなぁ……)

「気に食わねぇ!!」


 途中から声に出し、苛立ちを言の葉に込める。まだまだ力が足りないと見せ付けられているようで、ウィンツェッツは屈辱を感じていた。


「つぅか……あの赤いのは何をしやがった……?」


 戦いながらも、視界の隅から見えていた。がマクゼルトのように拳より大きい衝撃。死ぬはずの蹴りを受けながら、完全に受け止めたような動作をしたリツカを見ていた。


(何で、死んでねぇ……!)


 死を望んでいる訳ではない。確実な死を回避した事が疑問なのだ。ウィンツェッツは敵を倒しながら思考していく。右からの”風の刃”を自身の”風”をぶつける事で相殺。その後対象を斬る。それでもなお、ウィンツェッツの思考は止まらない。


(アイツ……。マクゼルト戦も考えてんのか……?)


 確実に力をつけている。それを実感出来る程の戦場。それもまだ、リツカには届かない。その事がウィンツェッツを焦らせる。


(俺には魔王ってのは見えなかったが、赤いのを見れば()()。アイツが苦戦した。そして生き残った)


 アルレスィア、リツカ、レティシア。魔力を見ることが出来る者にしか分からない世界。しかし、リツカの様子から推測は出来る。ウィンツェッツは、リツカの様子からある程度を理解する。


(今の俺じゃ、マクゼルトもやべぇ)


 ウィンツェッツは、マリスタザリアへの反撃を辞めた。


(俺を殺す気で来てる奴の、本気を避ける。でねぇと、一向に進まねぇ……!!)


 アルレスィアに抱かれた状態で”治癒”を受けているリツカが眉を顰める。ウィンツェッツがただ避けるだけに移行した事で、怒りを覚えているようだ。それでも、ウィンツェッツは先を見る。


(ここで怪我しようもんなら、マクゼルトには勝てねぇ)


 あくまでマクゼルトを見るウィンツェッツと、目の前の脅威を見るリツカの差。リツカは今にも動きたいといった風に唇を噛む。


 しかし――。


「アリスさん、レイメイさんが」

「後ろに逃さない限り許しません」

「うぅ……」


 ウィンツェッツがマリスタザリアを逃さない限りは、アルレスィアはリツカを放さない。リツカは、アルレスィアの意思を尊重する。ルイースヒェンは、そんな二人を見ながら首を傾げた。


(そろそろ説明してくれないかしら)


 ルイースヒェンの疑問に、アルレスィアは答えない。リツカの怪我を治す事に集中している。


「あっちは良いの?」

「良くないです」


 ルイースヒェンが、ウィンツェッツの方を見ている。リツカは同じ方を見ながら苦々しい表情をしている。


 アルレスィアの【アン・ギルィ・トァ・マシュ】により浄化されたマリスタザリアからは、魔法か体術を使えるだけの戦闘経験値が剥離されている。


 先程よりずっと弱くなったマリスタザリアならば、すぐにでも殲滅出来るはず。なのに、ウィンツェッツは未だに戦い続けていた。


「私達以外に、()()が見えた人居るのかな」

「マナと悪意で作られた人形ですから、レイメイさんには見えていなかったはずです」

 

 ウィンツェッツに魔王の人形は見えていない。それでも、リツカが押されていた事は見て取れた。それが余計に、ウィンツェッツを焦燥させてしまう。


「……? そろそろ説明してくれない?」


 ルイースヒェンが痺れをきらし、説明を要求する。ルイースヒェンには、何が起きているのか分からない。


 急に傷ついたリツカと、アルレスィアの【アン・ギルィ・トァ・マシュ】である巨大リツカ、未だに数多く蠢いているマリスタザリア達。ルイースヒェンの理解は、置き去りとなっていた。


「せっかく止めて上げようとしてたのに、運の無い子達ね」

「元はと言えば、あなたの所為でしょう」

「もう説明しても、信頼回復は無理かな……」


 リツカとアルレスィアはため息をつき、ルイースヒェンに説明を始めた。



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