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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』先代⑭



「アルツィア様が悲しみますよ」

「……ッ。それが、何? 言ってるじゃない。寂しいけど、そんなのどうでも良いってッ!!」

()()()()があったので、私の前であなたの事を話すことは殆どありませんでした」


 あんな事……アリスさんを襲おうとした事ですね。思い出させないように、話を避けていたのでしょう。


「でも一度だけ、話してくれた事があります」

「……」

「無理やりつれてきてしまった少女が居たと。気が弱く断れずに諦めて、”神林”にきた少女には悪い事をしてしまったと」

「殆どの”巫女”が、そうでしょ」

「はい。無理やりだった子の方が多かったかもと、珍しく自嘲気味に言っておりました」


 やりたい事はいくらでもあるのに、神さまに出来る事は少ないです。歯痒い思いを何度もしてきた事でしょう。その中でも、”巫女”達の事は一入だったようです。


「長い”巫女”の歴史の中で、一人だけ道を踏み外してしまった子が居たと言っておりました」

「……ッ」

「ずっと心配していましたよ。最後まで力になれなかったと」

「……止めなさい」


 瓶の蓋から手を離しました。


「ずっと後悔していましたよ。選んでしまった事を」

「……止めなさ、い」


 瓶を持っていた手が下がっていきます。


「私の繋ぎ。あなたはそう思っているようですけど、アルツィアさまはそんな事を思っていません。早い段階で私に渡す事は決めていたようですけど、あなたの状態も気にしていたのです」

「止めなさいッ!!」


 瓶を強く握り締め、下を向いています。


「そんな事、どうでも良いのよ……。私の人生を滅茶苦茶にして、そんな……母親面しないでッ!!」

「”巫女”として生きた人ならば、分かるはずです。アルツィアさまの心が」

「ッ……」

「声は聞こえずとも、暖かさは感じていたはずです」

「そんな物に、何の意味があるのよ……ッ」


 先代は大きく揺らいでいます。

 先代が感じていた暖かささえも、司祭との交流で薄らいでいったのでしょうか。そうでないと、嫌われたとは思わないはずです。


「止めたい癖に、私の神経を逆撫でして……ッ!!」

「私が優しく出来るのは、リッカさまだけのようです。私はあなたに、本当の事を告げるだけです。あなた自身が気付くしかないでしょう」

「な、にを……気付けっていうのよ!」


 偽りの心で暴走している先代に気付いて欲しい事。私は、分かります。


(何を……? 分かってるわよ……ッ! でも、それが出来たら世話ないわ……)

「ふざけないで……。人に相談なんか、出来るわけないでしょッ!?」

「出来なかったのではありません。しなかったのです」


 先代は諦めていたのです。人に理解される事を。


「司祭イェルクには話さなかったのですか」

「一番話したらいけない人間じゃない。私が”巫女”を嫌ってるなんて知ったら、何もしてくれなくなるでしょッ!?」

「いいえ。あの人は”巫女”の中でもあなたを敬っていました。”巫女”の辛さを話せば、より援助したはずです」

「あなたみたいに、私には分からないのよッ! 話してからじゃ遅い……。失くしてからじゃ遅いのよッ!」


 疑心暗鬼と、なっていたのです。”巫女”としてしか見られていなかった結果、自分であるために殻に閉じこもっているのです。


「もう良いでしょ……ッ。私の為に……この町では……最低で居て――ッ!!」


 瓶の蓋に再び、先代の手が向かいます。魔法を発動している私は、いつでもいけます。


「あなたがそれで良いのなら、それでも構いません」

「――は?」


 先代が止まり、こちらを見ました。


「分かり合うことは無理でも、歩み寄る事は出来ます」

「歩み、寄る……?」

「私達の名誉を犠牲にする事で”巫女”の呪縛から逃れられるのならば、差し出しましょう」

「どう、して……」


 アリスさんが”巫女”の名誉を捨てる事で、先代は呪縛から解放される。


「あなたが私を苦しめたように、私もあなたを苦しめていたのです。お互い、それを理解していました」

「……」

「でも、歩み寄る事をしませんでした」


 少しでもお互いが歩み寄れば。アリスさんはそう言います。


「それならば、今ここで歩み寄りましょう。”巫女”の名誉で救えるものがあるのなら、安いものです」

「アルレスィア……。変わったわね。本当に」

「でしょうね」

「貴女が”巫女”を安い物、だなんて」

「安いです。この旅で多くを学んだ私にとっては、ですけど」


 アリスさんが覚悟を決めています。だったら。


「アリスさん。私も使って」

「リッカさま……」

「二人で”巫女”だよ」

「……分かりました。勝手に決めてしまって――」


 アリスさんの唇に指を当て、その先を止めます。


「言ったでしょ? 我侭して良いって」

「――はいっ」


 名誉なんていりません。救えるものを救う。それが”巫女”ならば、私達は”巫女”で在り続けられます。


「はぁ……だから、睦み合うなって……。ま、良いか……馬鹿らしくなってきたし」


 とりあえず止まってくれた先代が、瓶を見ています。


「歩み寄る、か。馬鹿ね……。さっきあれだけ罵った相手にそれを言う?」

「本音でぶつかり合った方が良い事もあるのです」

()()()?」

「私の全ては、()()です」

「……出会いの差、か……」


 アリスさんと先代が、歩み寄っています。


「……?」


 それって、なんでしょう。


「この子、なんでキョトンとしてるの?」

「その、お気になさらず」

「やっぱりガキんちょか」

「……何で馬鹿にされて?」


 急に、先代から呆れられました。確かに私はあなたから見れば子供ですけど、ガキって呼ばれるような年齢じゃないです。


「リッカさまを馬鹿にしないで下さい。歩み寄りを止めますよ」

「アルレスィアもガキんちょだったのね……。アンタが最初からそうだったら、私もムキになんて……」

「今アリスさんを馬鹿に……?」

「何なのよアンタ達……面倒ね!?」


 ため息をついた先代は、瓶を見ています。その瓶を開けても悪意は出ませんけど……この際、出ても良いです。マリスタザリアはここで全て殲滅します。


 そして、マリスタザリアが来た事で町民は先代を信じます。”巫女”の名は地に落ち、先代はそれを使って元”巫女”を払拭する。神隠しの事は、きっとどうにかするのでしょう。


 どうせ、私達は前に進む以外の選択肢はありません。そして私達が進めば、何れは神隠しは解決します。……いえ、してみせます。それまでの時間稼ぎをすればいいのですから。


 どちらにしろ、先代は元”巫女”ではなく、一人のルイースヒぇンとなるのです。


「あげるわ」

「え」


 投げ渡される瓶。私はそれを手に取ります。


「マリスタザリアが出ても出なくても、貴女達を陥れるのなんて簡単だし?」

「アリスさん。私ちょっとだけイラっとしちゃった」

「私も少しだけ後悔しています」


 一度歩み寄ると決めたのです。諦めてはいます。それでも、この軽い感じはイラっとしても仕方ないですよね。この町からもっと広がるかもしれないんですから。


「浄化どうしよう」

「町民は今、ルイースヒェンさん宅の地下に集まっています。今から戻り、”光”を当てましょう」

「それなら、同意はいらないね」


 私の浄化だとどうしても、同意なしだとただの暴力ですし。穏便に済ませる今を狙いましょう。


(少しは、気が晴れたわね……。何処にでも行きなさい。しばらくは言わないでいてあげるわ。また耐えられなくなった時に、アンタ達を利用する)

「ルイースヒェンさん」

「何?」

「今から家に行きますけれど、よろしいですか」

「好きになさい。それが終わったら、すぐに出ていく事ね」

「分かりました」


 許可は貰いました。予定通り浄化を行い、この町を後にしましょう。神隠し被害者から話を聞く事は出来ません。でも、私達の悪評が広まる前にこの町周辺での用事を済ませるべきでしょう。広まってからでは、何も出来ません。


 ふと気になって、瓶を見ます。これは多分、悪意瓶です。やっぱり何も感じません。なのに、このざわめきは……?



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