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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』先代⑥



「巫女さんも無茶をしますネ。いくら”光”の剥奪はないと分かっていてモ、そんな挑発をするなんテ」

「挑発ではなく本気で言いました」

「アリスさんは……本気で、確かめようって言ってたよ。例え九十九パーセント剥奪はないって思ってても、一パーセントの可能性はあるから」


 それこそまさに、神のみぞ……というやつです。


「私も、取られる覚悟をしてる」

「リツカお姉さんもですカ……?」

「むしろ、私の方が取られるかも?」


 六花立花という少女は”巫女”に相応しいか。と、問われると……即答できません。


「アリスさんが”巫女”のままなら旅は続けられるし、それならそれでも良いかなって」


 あの人を認めた訳ではなく、神さまの意思に任せるという話です。こちらに来たばかりの、清かった私はもう居ません。神さまに再度問いかけるのも悪くありません。


 アリスさんと一緒に居られる時間が減ってしまいますけど、神さまの言葉に従います。それが、”巫女”なのですから。


「実際、リツカお姉さんが剥奪される可能性ってあるんですカ」

「リッカさまの後継者となると、ロクハナから選ばれるはずです。ルイースヒェンさんに移ることはないと思います」

「そういえば、そうだったね」


 六花からしか選ばないと、神さまも言ってました。私以外に六花に女の子はいないので、私は心配ないのでしょうか。


「つーか。お前等しか出来んから旅に出されたんじゃねぇのか」

「私より優れた”巫女”候補が居れば、交代もやむなしでしょう。”巫女”としての旅は終わっても、魔王討伐隊としては続けるのでご安心を」

「心配なんざしてねぇ。ってか、そこのチビを差し置いて優秀な奴なんか居んのか」


 優秀な女の子となると、第一候補は確かにシーアさんです。移譲するにしても、シーアさん以外に居ない気がします。


「共和国から”巫女”って選ばれた事あるんでス?」

「国境が曖昧な時代から”巫女”は居ます。世界中の少女に資格があるでしょうね」

「断る事って出来るんですかネ」

「出来るんじゃないかな? 向こうの話になるけど、断る事も出来るって言われたし」

 

 本当に断る事が出来たかは、分かりませんけどね。天皇陛下まで呼んで、多くの人の前での決意表明。あの場で断れる人が何人居るのでしょう。私の様に、森に好意を抱いてないと辛い役職であることは間違いありませんし。


「こちらの世界でも、断る事は可能です。昔は強制だったようですけど、私が居る間は候補にしっかりと伝えるつもりですから」


 ”巫女”になる事で起こる事全て、アリスさんからの説明があるでしょう。それを受けて、候補は進退を決める事が出来ます。きっと、今までより円滑な代替わりとなるでしょう。


「シーアさんは、エルさんと会えなくなるから断っちゃうよね」

「ですネ。”巫女”になるのが嫌という訳ではないですけド」


 実際問題……誰がなるのでしょう。私は、自分がいかに酔狂な人間なのかを理解しています。私の様に喜んで”巫女”になった人なんて、居なかったのではないでしょうか。


「ま、どうでも良い事なんだがよ。なるようにしかならねぇだろ」

「身も蓋もないですけド、そうですネ。やれば分かる事でス」


 賽は投げられています。後は先代が出てくるのを待つだけです。


「それに巫女さんとリツカお姉さんが旅を続けてくれるなラ、こちらは問題ありませン。”光”が必要ですかラ、新しい”巫女”を引き摺って行くだけですシ」


 シーアさんの軽口が全てを物語っています。結果は分かっているんです。そして万が一があろうとも、私達は変わりません。これはそういう、作戦会議です。


 ただ、私とアリスさんはかなり本気で……話してました。

 ”巫女”でなくなった場合に起こる、”光”の喪失は問題です。だから本気で覚悟をしています。それ以外は、気にしていません。


 ”光”がなくとも、私達は輝けます。道標には問題なくなれます。演説は嘘にしません。


 そして、神さま。アリスさんは生まれた時から神さまを認識しています。”巫女”になる前からです。だから多分、今の私も認識できるはずです。”巫女”でなくなっても話し相手くらいにならなれると思います。寂しい思いをさせなくて、済むと思うのです。



「結果が分かっとるのに、必要だったか?」

「レイメイさん達も覚悟しておいて欲しいですから」

「万が一があるのなら知っておいた方が良いでしょウ」


 剥奪されなかったら、良かった。で、終わりです。


「そんじゃ、移譲式ってのがあるまでは適当に過ごして良いんだな」

「はい。私達は船に乗ったまま待機します。今のままでは、私達の声は届きませんから」

「町を歩くくらい良いんじゃないですカ?」

「さっき歩いた感じだと、私達の事知ってる人達居るっぽいから。今はもう、町中に知れ渡ってるんじゃないかな」


 ”巫女”が”神林”から出て旅をしている。先代の言葉が完全に証明された瞬間です。もはや、先代の言葉は確信へと至っています。私達に対しての不信感は強いでしょう。私達が不甲斐ないばかりに、子供達は神隠しにあったと思われているのですから。


「色々と風当たりは強いだろうけど、シーアさん達は歩けると思うよ」

「そういう事なラ、私は少し散歩をしまス。町の反応も見てきますかラ、後で話しますネ」

「お前が散歩に行くって事ァ……」

「サボリさんも行くんですヨ。神隠し対策でス」

「はぁ……」


 町の様子も気になりますから、シーアさんが散歩に行ってくれるのはありがたいです。私達の仲間って事で酷い目に会わなければ良いのですけど……レイメイさんが一緒ならば、そうそう声をかけられる事はないでしょう。見た目は完全に不良ですし、威圧するように刀を肩に置いてますし。


「気をつけてね」

「はイ」


 シーアさん達を見送り、私達は船室に戻ります。部屋に入るとアリスさんが鍵を閉めました。過激な人たちは居ないと思いますけど、襲撃に備えるのは必要です。


「リッカさま」

「うん?」


 アリスさんが少し、怒っています。


「覚悟は必要ですけど、”巫女”に相応しいかどうかに疑問を持ってはいけませんっ」

「はいっ」


 ずいっと顔を近づけ、ぴしゃりと怒られてしまいました。思わず、敬語で返事をしてしまいます。


「リッカさまはしっかりと”巫女”としての務めを果たしています。私も、”巫女”として常に気を配っております。再びアルツィアさまに問いかけはしますけれど、今までの努力は無駄になりませんっ」


 アリスさんの気迫に押され、いつの間にかベッドが真後ろにありました。膝かっくんを受けた時のように、後ろに倒れこんでしまいます。ぼふっとベッドに倒れた私に、アリスさんが馬乗りになって手を押さえつけました。


「私はリッカさまと、”巫女”として在りたいです。奪われたくありません。貴女さまと出会うきっかけとなった、”巫女”という役目を」

「私だって、アリスさんと繋がってたい……。アリスさんとずっと一緒に居られる”巫女”を辞めたくない」


 それでも、考えずにはいられません。私の、”巫女”としての資質を。


「それも、すぐに分かります。貴女さまは……最高の”巫女”です。私の自慢です」

「アリスさん……」


 優しく微笑んだアリスさんが倒れこみ、私の頭を胸に抱きます。


(貴女さまのお気持ちは深く理解しております……。どうしてそんなに、弱気になってしまったのかも……。だから、お守りします。どんな手を使っても)


 きゅっと腕が締まりました。アリスさんの、強い想いが流れ込んでくるようです。アリスさんに何か、重荷を背負わせようと……しているのかもしれません。


(結果、ルイースヒェンさんをこの町から……追放する事になっても……!)


 このまま享受、しても良いのでしょうか。アリスさんに背負わせて……安寧を取り戻して、私は嬉しいのでしょうか……っ。しかし、アリスさんの決意を無駄にするわけには……。私を守りたいという強い想いが、私を包んでいきます。


 だったら私は……守って、もらいたいっ。そして、アリスさんが背負った物を、私も一緒に――。


「巫女さン。リツカお姉さン。ちょっとマズいでス。甲板にお願いしまス」


 シーアさんの言葉が伝声管から響きます。焦燥を伴った言葉に、私とアリスさんは立ち上がり、お互いの顔を見合わせます。


「リッカさま。いけますか?」

「うん。もう心は、決まったよ」

「はい……!」


 いつも支えられているのです。だから今度は、私がっ!



ブクマありがとうございます!

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