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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』先代③



「言っておくけど、ここじゃアンタなんかただの小娘なのよ」


 調子を取り戻したのか、尊大に腕を組み、見下すように顔を上げました。


「そのようですね。一体どのような言葉を持って皆様を導いているのですか?」

「本当の事を言ってるだけよ。森を捨てて旅をしている愚かな巫女もどきの所為で、アルツィア様がお怒りになってるってねッ!!」


 なるほど。そういう見方もあるんですね。しかし、嘲笑を浮かべた顔は、”巫女”とは程遠い程に邪悪です。


「……そっちは誰よ。さっきから睨んで、何なの」

「初めまして。”()()”の六花 立花です」

「……へぇ。アンタがね。巫女もどきが何の用よ」


 アリスさんを巫女もどきと呼称している以上、私もそうなのでしょう。睨んでる理由なんて簡単です。さっきから聞いていれば、アリスさんに対して何て物言いを。


「聞きたかったんです。一体どこまで、神さまの声が聞こえていたんですか」

「どういう意味」

「名前は聞けましたか? 姿は、声音は? 虐殺の真実。世界の真実。神林とは何なのか、巫女とは何なのか。どこまで知ってるんですか?」


 どこまで神さまの声が聞けていたのか。理解出来ていたのか。それをずっと聞いてみたかった。どれ程の理解度で、アリスさんを虐げていたのか。


「いきなり喧嘩腰でなんなの!? アルレスィア!」

「いつも私に言っていた事をそのままを話せば良いかと思います」

「そう……意趣返しって訳ね。”お仲間”を手に入れてやってきたって事」

「意趣返しも何も、知りたいだけです。”光”を剥奪されるに至った状況が気になったんです」


 いくら魔王の事があって、アリスさんを早く”巫女”にしたかったとしても、神さまが()()()()()に剥奪する事があるのかと。


「アンタが言った事、知らなくても良い事ばかりだわ」

「と、いうと?」

「”巫女”とは”神林”と共に生きる者。世界の真実なんて知らなくても良い。必要なのは忠実に言いつけを守る事よ!」


 耳が痛いですね。向こうの世界では一切守られていなかった事です。私はそれなりに……守れていた方みたいですけど……。


「その点アンタ達は最低ね。アンタ達の方こそ、声を聞けてないんじゃない? だって、神隠しは起きているんだもの。次の巫女を集めるために!」

「私達が不甲斐ないから、巫女候補を連れて行っているという話ですか」

「そうよ!」

「男の子が連れ去られているのは何故ですか?」

「巫女には守護者が必要でしょう。何れ良き守護者になるのよ」


 筋は、通っているのでしょう。しかし、神さまの声を聞いている私達にとっては暴論でしかありません。この人は、神さまの声を殆ど聞けていなかったのでしょう。そして、会話する事もなかったのだと思います。


 もし、神さまの制約を知っていてこれを話しているのなら……いよいよ最低の人間でしょう。自分が返り咲くために、この町の人間を騙して信仰を集めているのですから。

 それも、アリスさんを貶す形で。


「アンタ達が森を出たいが為に嘘をついてるだけでしょ。森から出たらいけないのよ。結界がなくなっちゃうんだから」

「もし、巫女候補を集めているというのであれば」


 ”光”掌に灯らせ、言います。


「これは何故、まだ私達にあるのですか。貴女のように剥奪される事無く、今でも”巫女”を名乗る権利を残してもらえているんですか」

「次の”巫女”が育つまでの――」

「”巫女”が森にいなければいけないのは正しいです。ですけど、今は神さまの言葉で私達はここに居るんです。もし貴女の言葉通り”巫女”候補を連れて行ったのなら、森に居るはずの子の誰かに、一先ず”光”を移すべき案件です。そうすれば、森に”巫女”が居る事になりますからね」


 私達に”光”を残す必要がありません。もし私達の行動が神さまの意に反していたのなら、ですけど。


「じゃあ偽者なのね。その”光”」

「そう見えますか?」

「見える」


 状況証拠だけだと、押し切れませんね。知らない人にとっては、この人の言にも理があるのが問題です。


「どんなにそれっぽい事を言っても無駄よ。私は私だけを信じている。まぁ、イェルクくらいは信じて上げても良いわ。アンタが殺したイェルクだけはね。ねぇ? 人殺し」


 痛い所をつかれてしまいました。


「人である事を辞めた司祭イェルクを、”巫女”として滅しただけです。それに――」


 アリスさんが私を庇うように前に出ました。私が始めた討論です。アリスさんの手を借りる訳には。


「司祭イェルクは最期、リッカさまに感謝していましたよ」

「――ぇ」


 思いもよらず、私の方が止まってしまいます。


(そういえば……あの時、あの人……何か言ってた、ような)


 私が呆然としている間に、何かを言っていたのは、覚えています。アリスさんはしっかりと、聞いていてくれたんですね。私の代わりに……。


「昔からそう。アンタは自分に都合が良い耳をしてる。そう思いたいだけなんでしょ。妄想女」


 司祭も言っていた事です。都合の良い耳というのが分かりません。アリスさんが伝えてくれた事全て、アリスさんにとって都合が良い事ばかりではありません。中には、”巫女”という物がいかに無力なのかを伝えるものもありました。


 それを知ってか知らずか、この人はアリスさんを妄想女と呼びます。自分の意思に反して手が出そうです。そんな事をすれば、アリスさんの立場が悪くなるので絶対しませんけど……!


(私が口を開いても、あの人に響かない所か……正当性を主張されちゃう)


 現状この町において、私はあまりに無力です。先代巫女であり、この町にとっては誇りとすらなっているこの人と、得体の知れない私では話にすらならないのです。

 かといって、アリスさんを貶されて黙っているなんて……。


「アルツィアさまの存在をいかに伝えるか。”巫女”とはそれに尽きます。ですけど、”巫女”である証明がなければ妄言。あれば神託。伝えるためには、証明が必要です」

「それが”光”だった! だけどね。私は奪われてもなお、ここで”巫女”を続けられている! 私は”巫女”よ! アンタが何を言おうがッ!」

「あなたが”巫女”であった事は事実。そして、町民はこう言ったそうです。今の巫女様はそんなにも不甲斐ないのか、と」


 不甲斐ないなんて、ありえません。アリスさんは長い歴史の中で最も優れた”巫女”。神さまのお墨付きです。


「本当の事でしょう! アンタに変わってから国が大きく荒れ始めたんだからさ!」


 それは、魔王がいよいよ危機感を抱いたから……もしくは、準備が丁度整ったから、です。決して、アリスさんの所為ではありません。


「神隠しに疑問を抱いていませんでした。あなたの言葉を信じたからです。ここまで信頼されるほどの事をあなたはなさったのでしょう。ご立派だと思います」

「上から何を……! でも、これで分かったでしょう。私が”巫女”に相応しい――」

「町民は、あなたにお願いしなかったのですか?」

「は?」

「次の”巫女”はあなたがするべきだ、と。お願いしなかったのですか? 次の候補を攫う必要などない、あなたがするべきだ、と」

「……ッ」


 そういった話は聞いていません。もしかしたら、他の人たちはそう思っているのかもしれませんけど、この人の反応を見る限り……そういった声は上がっていないようです。


「攫われた子達の誰かが務める事に、誰も異を唱えなかったのですね」

「違うわ。私がこれからそれを伝えるのよ。子供達の為に、自分が”巫女”に戻る事を選ぶと」

「では、どうぞ。私達も丁度居る事ですし、譲渡式を行いましょう。アルツィアさまは全て見ています。あなたも知っているでしょう。認められれば、あなたに”光”が戻ります」

「い、今、から?」

「はい。私達は旅の途中ですから、今日中でなければ」


 先代から汗が滲み出てきました。追い詰められているようです。


「あなたの言葉通り私達が不甲斐ないのなら、アルツィアさまも移すしかないでしょう」


 アリスさんは、本気です。もし神さまが選べば、それで良いと……。ならば私も、腹を括りましょう。”巫女”でなくなっても、魔王を倒す……覚悟を。



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