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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
41日目、洗礼なのです
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『メルク』先代②



 メルクは、湖の畔にありました。少し濁っているのが気になりますけど、見た目に爽やかです。川も久しぶりに見ましたね。小さな林と合わせて、見た感じ()()だとまるで――”神林”。


「似てます、ね」

「うん。見た目だけ、だけど」


 雰囲気は、少し暗いです。本当に似ているだけです。似すぎているだけです。

 何故か心がざわめきます。あの湖と林を見ていると、眉間に皺が寄りそうになります。


「喜ぶと思ったラ、意外と冷静ですネ」

「んー……なんか、ときめかない……」

「私も、違うと言いますか……」


 アリスさんも同様みたいです。この胸のざわめきは一体……。


「行けば分かるでしょウ。偶々似てるだけの林にムカムカしてるだけかもしれませんヨ」

「んー。それなら、良いんだけど」

「私達はしばらく様子を見ます」


 いきなり予定とは少し違う事になってしまいました。巫女を名乗るのは一旦待ちます。


「そういう事なら私達が先に降りますカ。町長さんに話すのは後にしテ、町の様子をチラっと見てきまス」

「お願いします」

「ありがとう」


 シーアさんを酷使してしまいますけど、今回の違和感は特殊です。悪意でもなんでもない、ただのざわめき。それも、アリスさんも困惑するほどの。()()()()()()()()が嘘の様に、私はこの町を疑ってしまっています。心変わりが酷いと思います。しかし、そうなってしまうだけのざわめきなのです。




 船を泊めて、私とサボリさんが降ります。リツカお姉さん達はお留守番です。何かを感じているようですけど、その何かは結構信じられます。


「別の奴のざわめきとかなら鼻で笑うが、アイツらじゃな」

「ですネ」


 今までもリツカお姉さんの嫌な予感は当たってます。恐らく今回もでしょう。何しろ、巫女さんも一緒ですからね。


「私達も慎重に聞いてまわりますヨ」

「あぁ、店とかは後が良いか」

「道行く人の会話でも聞いてみましょウ。丁度神隠しの話でもちきりみたいでス。反応を見れるでしょうかラ」


 早速神隠しの話をしている一団が居ます。バレないように聞いてみましょう。



「三軒先のベアリットさんの子の事だけど」

「神隠しでしょう? あの方が怒ってたわね。自分だったらーって」

「でもそうでしょ? あの方の時はこんな事なかったんだもの」

「そうよねー。今の巫女様って余程不甲斐ないのかしら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて」



 これは、ちょっと判断に困ります。


「なんだ、ありゃ」

「察するニ、現巫女を貶める内容みたいでス。そしテ、神隠しは完全に巫女さん達の所為って思われてますヨ」

「勝手な言い分だ。気にする必要はねぇってのは分かってるが、ちっとばかしムカつくな」


 私も同じ気持ちですよ。一体どういう状況なんですか。大体男の子も攫われている事の説明がつきませんよ。


「とりあえズ、戻って報告しまス」

「ああ」


 はぁ……。いくら北の奥地に近づいたからといって、こんなに変わります? あぁ、違いますね。あの方っていうのが関係してるんでしょうね。一体誰なんでしょう。巫女さんなら知ってそうな気がします。



「戻りましたヨ」

「おかえり。どうだった?」

「どうもこうモ、お二人は巫女である事を隠した方が良いでス」

「え?」


 気をつけるとかではなく、隠すべきとなるなんて。


「詳しくお聞かせください」

「町の中心付近で主婦達が話してたんですけどネ。あの方って人の所為デ、神隠しは巫女さん達が不甲斐ないからって事になってますヨ」

「連れて行かれたガキ共は巫女候補だとよ」

「男の子も居るんだけど……」


 何が、どうなってるんです。

 神隠しを私達の所為にされるって考えはありました。でも、不甲斐ないから……? あの方って一体……。


「……」

「アリス、さん?」

「まさか……」


 私の問いかけに応えられない程、動揺しています。こんな事、一度も……。ただ、私の様に落ち込んでいる訳ではないようです。あの方という人に、驚いて……? 


「リッカ、さま」

「うん?」


 アリスさんが何かを決意して私の名前を呼びました。


「私は、”巫女”である事を隠したくありません」

「巫女さン?」

「おい、聞いてたのか」


 シーアさんとレイメイさんが困惑します。


「あの方っていうのが、関係してるんだね?」

「はい。私は……逃げたくありません」

「……分かった。じゃあ、その人の所に行こう。”巫女”として」


 アリスさんが見せる、対抗意識。そして、町の人たちの反応が示すあの方の正体。ここまで来れば、分かります。その人はきっと、私にとっても無関係ではありません。


「私も会いたいって思ってた。そして――言いたい事が沢山ある」

「リッカさま……」

「一緒に行こう」

「はいっ!」


 アリスさんの過去を知った時から、その人にはずっと言いたかった事があるんです。司祭という無知な存在ではなく、知る事が出来る立場に居ながらアリスさんを虐げてきた、その人には。私はずっと……文句を言いたかったんです。


「何か良く分かりませんけド、今は触れないほうが良いですネ」

「また修行が増えるのは御免だ。俺は聞き込みに行くぞ」

「私もそうしますかネ。巫女さン、私達は行きまス」

「分かりました。こちらも用事が済み次第合流します」


 私の怒気に気付いたのでしょう。シーアさんとレイメイさんが退散してしまいました。


「ごめんね」

「何があるのかは何となく分かりましタ。巫女さんに関係してテ、リツカお姉さんが怒っちゃう相手って事ですネ」

「まぁ、お前がキレる時なんてのはそんくらいだしな」


 呆れられてしまったのではなく、慣れてしまったようです。それはそれで問題がある気がしますけど、呆れられるよりはずっと良いですね……。




 ”巫女”を隠さないとはいっても、”巫女”であることを喧伝する事はしません。無用な不信感なんて持たれても困ります。まずは、元凶たる”ある方”を尋ねるとしましょう。


「こちらです」

「分かるの?」

「この町の造りから考えるに、あそこしか考えられません」


 アリスさんの瞳が見る先は、核樹役をしている木の隣の家です。一際豪奢な造りで、この街の雰囲気にはあっていません。


「町長の家よりも、役場よりもずっと豪華だね」

「そういう人でした。お変わりないようです」


 自己顕示欲ともいうのでしょうか。誰よりも上昇志向が強いようです。


「あの人は確実にリッカさまにも何かを言うでしょう。ですから本当は会わせ――」

「アリスさんを一人でなんて行かせないよ。昔の事もあるし、この町を見たら……良い事なんて何一つないから」

 

 アリスさんは言ってました。まだ未練を持っていて、何れは返り咲くつもりだと。まさにそうなのでしょう。この町()()、私達よりずっと信頼されているようです。


「分かりました。共に、参りましょう」

「うん」


 会いに行きましょう。()()()()に。




 扉をノックして、暫く待ちます。


「誰」


 少しドスの聞いた声が、短く聞こえました。


「お久しぶりです」

「……ッ!」


 ガタガタと、扉から聞こえます。鍵を開けているのでしょう。


「アンタ……ッ!!」

「まさかここで会うとは思いませんでした。ルイースヒェンさん」

「ッ……! ふん……それで、何の用? 私の町に」


 私の町、ですか。


(故郷なの?)

(出身を聞いた事はありません。私と違って、集落生まれという訳ではないようですけど……)


 ここに居座っている……という訳ではないようです。しっかりと馴染んでいるように見えます。ここが故郷なのかもしれませんね。



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