旅立ち
A,C, 27/02/27
私の朝は早いです。 五時には起き、軽いストレッチを行い、ランニングをします。
そんなわけで、隣で眠っているはずのアリスさんの寝顔を見ようと思っていました。
「……」
「……」
どうやら、アリスさんも早起きのようです。目が合い。見詰め合うような形になってしまいした。
見てみたいですね、アリスさんの寝顔……。
おはようございます。とお互い挨拶をし合い、着替えます。ちらちらっと、アリスさんからの視線を感じました。
恥ずかしいということは、ないはずです。一緒にお風呂に入ったときはアリスさんは恥ずかしがってはいませんでした。……見つめすぎて恥ずかしがらせてしまいましたけど。
私も恥ずかしくは、ないです、たぶん。体におかしなところがないのは確認しましたし。流石に、裸で触れ合うのは、心臓に悪いですけど……。
そんな、私ですが。アリスさんの裸を見ると胸が高鳴ってしまいます。見るだけでこんなにも高鳴るようなことは、今までなかったのですけど……。こと、アリスさんに限っては、その枠組みには入らないようです。なんでだろう?
あまり見るのは失礼ですし、さっさと着替えてしまいましょう。今日は、もう出発なのですから、気合をいれねば。
旅の荷物はそこまで大掛かりのものではありませんでした。
着替えが数点、これは特注である神さまローブのため、買うことができないからです。着替えに付随して、裁縫セット。服を直せるほどの技術は私にはないので、アリスさん任せになってしまいます。
王都までの、保存食。干し肉や保存の効く発酵食品、チーズのようなものやパンが当てはまりますね。道中は三,四日とのことですから、五日分入ってます。流石にスープは無理です。残念……。
簡易寝袋。ただの寝袋です。
お金が百万ゼル。剣の値段が、切れるだけの安物で七万ゼルとのことでしたので、かなり……渡されましたね。
あと、身分証。
ん……?
「身分証……!?」
「どうなさいました? リッカさま」
アリスさんが、驚いて大きな声を出してしまった私を見ます。
「あ、あのアリスさん。私身分証もってないよ。入国審査とか大丈夫……?」
困った事になりました。恐らく、というか確実に、王都には入国審査のようなものがあるはずです。その際私は提示できません。
「ご安心ください。私のものがあれば大丈夫です。これでも私、この国の”巫女”ですから」
えへん、とは言いませんでしたが、そう言ってもおかしくないほどに胸を張って私に問題はないと伝えてくれます。
「よかった、びっくり、したよ」
行き成り躓くところでした。私の声は、ドキリとした心臓の所為で躓いてしまいましたけど。
「でもいずれは必要になりますから、王都についたら審査を受けて発行しましょう。私が保証人になりますので」
アリスさんが居ないときに必要になったら、困りますもんね。
「うん、ありがとう。アリスさん」
身分証が必要な理由はそれだけでないようです。
「それに、ギルド登録もしなければなりませんし」
「ギルド?」
聞きなれない単語が出てきました。確か、組合、協会って意味でしたかね。
「はい、でもそれは移動中にお話ししましょう。まずは朝食です」
「はーい」
アリスさんの笑顔に導かれて食事処を目指します。もうアリスさんの前でお腹を鳴らすのはごめんです。
広場に、神さまが座っていました。
『やぁ、おはよう』
片手をあげ、気だるげに挨拶をしています。
「おはようございます。アルツィアさま」
昨日は目礼だけでしたけど、今日はお互い挨拶するんですね。昨日は何かあったんでしょうか?
『気にしてはいけないよ、リツカ』
ばっちり心を読んできます。
「おはようございます、神さま。……そうさせていただきます」
触らぬ神になんとやら、神さまを目の前にしてそんな言葉を思い浮かべてしまうとは、少し、恐ろしいですね。
『私は祟りなんておこさないよ、安心なさい』
よっ、と声をあげ、神さまが立ち上がります。
『じゃあ、私は出発まで適当に”神林”にいるよ』
そういって手を振りながら森へ消えていきました。
「では、参りましょう。リッカさま」
「はい」
アリスさんに促され、食事処の扉を通りました。それにしても、神さまは何か気だるげでしたけど、一体どうしたんでしょうね。