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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
40日目、休息の重要性なのです
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『ブフぉルム』ちょっと休み④



「はぁ……はぁ……」


 さっきまでアリスさんの体を洗ったり洗われたり……。隅々でした。息が上がるほどのどきどきです。


「ふふ。可愛い……」


 湯船に浸かり、後ろから私を抱いているアリスさん。頭を撫でながらクスクスと笑っています。心臓はドキドキしているのに、体がからどんどん力が抜けていきます。ちぐはぐな反応が思考を鈍らせていきます。


「あ……ぅ……」

「ふふふ。よし、よし」


 ぼんやりとした頭で、少しだけ思考します。


(そういえば、いつも私が……)


 前、ですよね。私もアリスさんを抱きしめたいなぁと思うのです。

 でも――私の背中にあたる柔らかさ。これが私にはありません。硬い椅子にしかなれないのです。


 それでも、浴槽よりは柔らかいのではないでしょうか。


「ありすさん。わたしも」

「替わりますか?」

「うん」


 もぞもぞと浴槽内で動き、入れ替わります。アリスさんの体が目の前を通り過ぎます。そのまま通り過ぎるのを待つ事で、私はアリスさんの後ろへと回れるのですけど――。


「リッカさま?」

「うん……」


 私の思いとはうらはらに、体が勝手にアリスさんに抱きついてしまいました。背中から抱きつく予定が、向かう形で……。


(あれ……これ、すごく――)


 大変な状況なんじゃ。


「……はぅ」

「ふふふ。甘えんぼさんですね」


 ぎゅっと抱きしめられ、アリスさんの柔らかさに溺れていきます。誰にも見せられない光景です……。まるで赤子の様に、アリスさん……。


「そろそろ上がらないと、逆上せますよ」

「うん……」


 実際、逆上せているのかもしれません。ぼーっとしてしまいますし。アリスさんの上気した表情が非常に艶やかに見えてきて……。


「あら……。失礼しますね」

「あぃ……」


 なんか、ふわふわします。アリスさんにお姫様抱っこされて、お風呂の外へ。目の前がぐるぐるします……。アリスさんの顔が近づいて、額に何かが触れて……意識が少し、途切れました。




「大丈夫ですか?」

「うん……。ごめんね。ちょっと予定狂っちゃって」

「いいえ。私も少し調子に乗ってしまいましたから」


 申し訳なさそうに、アリスさんが水を差し出してくれます。アリスさんが悪い事なんて何も……。むしろ私は天国に居た記憶しかないのです。


 お風呂付の宿だったので、誰かに見られる心配はありません。バスローブを羽織っただけの私を、アリスさんが介抱してくれています。


「巫女さーン。どうしたんですカ」

「リッカさまが少し逆上せてしまいました」

「巫女さんの裸に興奮――」

「シーアさん?」

「なんでもないでス」


 昨日の続きで一緒に東方のお店を回る予定だったシーアさんが、扉の前から声をかけてきます。待たせてしまったようです。


「もう少しかかりそうですネ」

「はい」

「でハ、私は先に回ってまス。東方の料理を食べられるお店があるみたいなのデ、そこで時間を潰してますヨ」

「分かりました。後ほど向かいます」


 軽い脱水なのですけど、軽く見ないほうがいいでしょう。こんな所で崩れていては先が思い遣られます。


「リッカさま……」


 隣に座ったアリスさんが、私の頭を抱きしめます。お風呂上りの、甘い香りが私の鼻孔を強烈に擽ります。脳に直接当たっているかのようです。


 特に何かを話したいという訳ではないようで、じっと私を抱きしめ撫でます。


「そのまま横になった方が楽ですよ」

「じゃあ、ちょっとだけ」


 バスローブのまま、アリスさんの膝枕で横になります。胸元が少し肌蹴てしまいますけど、気にはなりません。


「リッカさまが余りにも可愛いから、ついやりすぎてしまいます」

「されるがままというか……反撃したくても出来ないというか……」


 私もアリスさんを、どぎまぎ? させたいのですけど……。


「私もどきどきしているんですよ?」


 感じてください。と、私の手をとって、自身の胸に当てさせました。どっどっと、いつもの心音より少し元気に跳ねています。


「私も、ずっと……」


 今度は私の心音を感じて欲しくて、アリスさんの手を誘導します。


「リッカさま、今は――」


 アリスさんの体温を、素肌で直接感じたからか、更に心臓が脈打ち始めました。


「ぁ……リッカ、さま」

「もっと、感じて欲しいな」


 アリスさんの頭を胸に引き寄せ、耳で、頬で感じて貰います。アリスさんの心音も、少し離れているにも関わらずどくんどくんと聞こえて来ました。


 お互いの心音と吐息だけが聞こえる空間で、私はアリスさんに――没頭しました。




「あ? 何で一人なんだ」

「リツカお姉さんが逆上せたそうデ、介抱中でス」

「何だそりゃ……」

「”強化”とか武術とかで勘違いしますけド、リツカお姉さんは普通の女性ですからネ?」


 リツカお姉さんの世界とは環境が大きく違うようですし、体の負担が大きいんじゃないですかね。ただでさえ無理する人なんですから。


「正直、昨日の事で痛感しましタ。長旅の辛さヲ」

「お前等は慣れてねぇだろうからな」


 私はお姉ちゃんの外遊にちょっと付き合った程度でしかありませんし、巫女さんとリツカお姉さんに至っては、旅行自体初でしょう。アルツィア様も無茶を言いますよね。森にずっと居た人達に、いきなりこんな旅を課すんですから。


「環境はころころ変わりますシ、人との交流も負担に感じちゃいまス。絶え間ない事件は精神的に追い込まれるには充分すぎますヨ。全ク」

「お前がそこまで愚痴るとはな」

「自分の疲れを実感した時ニ、ある意味折れてまス。開き直ったとも言いますけド」

 

 急ぎ足だった事に、私も巫女さん達も痛感してます。マリスタザリアの所為で一つの町に留まるのに、慎重になってしまいます。今もひやひやですよ。リツカお姉さんが居るから、後手に回らないっていうのが救いです。って、ここでもリツカお姉さん頼りっていうのが情けないですね。


「船が戻ってきたラ、皆で話し合う時間を設けましょウ。今後の活動についテ」

「俺も腹を括った。使えるとこがあったら組み込め。舵もなるべくやってやるよ」

「急に優しい感じにならないで下さイ。気持ち悪いでス」

「てめぇ……」


 思わず憎まれ口を叩いてしまいましたけど、ありがたく組み込ませてもらいます。成人男性は私達とは体力が違いますからね。リツカお姉さんの体力にも吃驚しますけど、その体力に体がついていってない気がします。


(やはり、魔力の所為ですね)


 向こうにはなかった魔力を手に入れ、それを最大限運用しています。正直言って、目を丸くしてしまうほどに。内功と言いましたか。魔力自体を打ち込むなんて、そんなの考えもしませんでした。


 でも、それがリツカお姉さんの体力の源であり、毒です。巫女さんが気をつけているとはいえ、魔王討伐の旅にはリツカお姉さんが必要不可欠。そしてリツカお姉さんは、巫女さんの為なら何だってする人です。止めるに止められないのです。そしてそれは、私も同じです。


(リツカお姉さんなしで、この旅は成り立ちません。戦いも日常も)

 

 私が疲労で狂ったのは痛恨の極みです。リツカお姉さんがまた、無茶をしかねません。より一層の、リツカお姉さん疲労警戒が必要ですね。


「旅も新たな地へ踏み出すのでス。ここからはより一層、四人の連携が必要になるでしょウ」

「王国の支援もねぇからな。俺達だけで完結する必要があるって事か」

「そうでス。それハ、リツカお姉さんと巫女さんの負担に直結しまス」

 

 私とサボリさんの負担なんて、些細なものなんですよ。感知にしろ聞き込みにしろ戦闘にしろ事件解決にしろ、二人が要なんです。負担が偏っています。それ以外で私達が頑張ろうにも、二人の負担が減る訳ではありません。


「巫女さんとリツカお姉さんハ、私が頑張りすぎてると思ってるようですけド、そのままお返ししたいでス」


 私達は意識して、二人を支援する必要があります。


「いいですカ。体調管理には気をつけるようニ。そしテ、二人の負担は最小限ニ、でス」


 これを徹底します。


「マクゼルトを倒すのがサボリさんの目標でしょウ。それはそれで良いでス。でモ――大本たる魔王を倒せるのは巫女さんとリツカお姉さんだけでス」

 

 マクゼルトを倒しても、魔王を倒せないと意味ないです。そして魔王を倒せるのは、アルツィア様から直々に”お役目”を頂いた二人だけです。対マクゼルトなんて通過点。サボリさんにはもっと上を目指してもらいます。


「魔王戦。二人の負担を減らすために私達は力をつけなければいけませン。マクゼルトなんていう通過点を終点にしないで下さいヨ」

「あぁ。それは問題ねぇ。初めから魔王狙いだ」

「それはそれで大言壮語ですけド。その意気は買いまス」

「お前は憎まれ口を叩かんと死ぬんか」

「そういう星の元に生まれましタ。諦めてくださイ」


 二人の体調を最優先。そして私達も、ある程度は休息を取る必要があります。どんな状況でも最上の動きをするために、って事です。


「それでハ、料理店へ行きまス。しっかり栄養補給しなければいけませン」

「お前は栄養を過剰摂取しとると思うが」

「そういうサボリさんハ、その無駄な巨体を維持するだけの栄養を摂れてるとは思えませんネ。付き合う許可を与えましょウ」

「俺はしっかり管理出来て――っておい! 魔法使ってまで――!!」

「東方の料理は未知ですからネ」


 楽しみです。全制覇を目指しましょう。



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