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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
40日目、休息の重要性なのです
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ちょっと休み③



「ご無事で何よりです」

「うむ。変わりないようで安心した」

「留守の間ありがとう。オルテ」


 ”神林”集落の入り口にて、ゲルハルトとエルタナスィア、オルテが話している。


「はい。どうやら長の見立て通り、アルレスィア様達に……」

「それはよい。これからすぐに取り掛かる。何人か見繕い連れて来るのだ」

「分かりました」


 すぐに防護壁作成に取り掛かると、ゲルハルトとオルテが動き出す。


「おかえりなさい。エリス様」

「あら、エルケ。ただいま」


 聞き辛そうに膝を擦り合わせているエルケに、エルタナスィアは微笑んでいる。何を聞きたいのか分かっているけれど、聞かれるまで待つつもりだ。


「アルレスィア様と、リツカ様は……お元気、でしたか?」

「えぇ。二人も貴女とエカルトの事を気にしてたわよ。元気にしてるかって」

「ほ、本当ですかっ」

「えぇ」


 エルケが嬉しそうに頬を染める。


「リツカさんの事好き?」

「……良く、分かりません」


 頬を染めたままフイと顔を背けるエルケに、エルタナスィアは笑みを強くする。


「ねーちゃ、おかおまっか」

「え、エカルトっ!」


 いつの間にか来ていたエカルトが、エルケの顔を見て笑っている。


「良い子にしてた? エカルト」

「はい!」


 エカルトの頭を、エルタナスィアが撫でている。


「二人の事、もっと話して上げたいけれど。また後でね」

「はい。お待ち、しております」

「はい!」


 集落の者に声をかけながら、エルタナスィアが集会所に入っていく。王国と巫女二人の状況を話し、集落の人間が執るべき行動を話し合う。


「集まりましたね」


 子供達を除いた全ての者が集まっている。


「まずはあの子達の話をしましょうか。巫女として大きく成長した二人の話を」


 エルタナスィアの話を静かに、真剣に聞いている。


「王国で冒険者として日々を過ごし、コルメンス陛下や国民からの信頼も厚いように感じました。神誕祭の演説は()()()()()()()()()()()くらいです」


 今この時に至り、どちらが間違っていたかを痛感している集落の者達を、エルタナスィアがチクリと責める。


 リツカが現れ、魔王の存在を証明するかのように訪れたマリスタザリア。”光”を持ち、アルツィアを見ることが出来るリツカの登場がもたらした変化は大きい。


 虐げられてきた――というのは誇張だけど、アルレスィアは苦しんでいた。笑顔の下でどれ程の辛酸を嘗めてきたのか。


「二人と協力者二名は、今北に向かっている最中。魔王は北、北西付近に居る可能性が高いとの事です。恐らく今は――ゾルゲかブフォルム辺りに居るでしょう」

「あの、エルタナスィア様。ブフォルムからどちらに向かう予定なのでしょう」

「北の町を一つずつ回りながらですから、メルクかしら」


 エルタナスィアの言葉に、集会所の中がざわめく。


「長達は、先代と反目していた為知らぬのも無理はないことですが……実は――」

「……え?」


 エルタナスィアが立ち上がり、瞳を揺らした――。



「そうでありましたか……。リツカ様は、もう?」

「うむ。後遺症などもない」

「……」

 

 ゲルハルトから、リツカが生死の境を彷徨う程の傷を受けた事を聞いたオルテ。その顔は悲痛に沈み、後悔しているようだった。


「後悔しているのか。()()()()を」

「リツカ様も一人の少女……。ご自身を守るだけでも精一杯であったはず……私は……」

「オルテよ。リツカ殿はお前からお願いされずとも、同じことをしただろう。それがあの子の、生き様なのだ」

「長……」


 ゲルハルトの背を見ながら、オルテは苦い表情をする。確かにリツカならば、誰に言われずともアルレスィアを守るだろう。その生き様を、初っ端から見せられている。


 しかし、集落全ての想いを託した事もまた事実。オルテは黙って送るべきであったのではないかと、今でも思っていた。


「長……王都で、リツカ様としっかり話せたようで、安心しました」

「む、う。私を何だと思っておるのだ……」

「リツカ様は、長の態度を気にしておられた様子だったものですから」

「集落に居た時からか……?」

「はい」

「……」


 あれ程露骨に睨んでいれば誰でも分かるというものだけど、ゲルハルトは睨んでいたという自覚がなかったようだ。


「それは……しかしだな」

「お気持ちは分かります」

 

 オルテも、幼きアルレスィアを知っている身だ。それでもアルレスィアの心を開く事は出来なかった。少し離れた所から守ることしか出来なかった歯痒さを、オルテも感じていた。


 そんな二人と違い、リツカは会った瞬間から、アルレスィアの心を掴んで離さない。複雑な心境になるのも仕方がないだろう。


『男のジェラシーは恥ずかしいけどね。ハハハッ』

 

 エルタナスィアは順調に町の状況を整えていく。食糧の備蓄、避難経路の確保、近隣との協力。


 ゲルハルトは防護壁を作っている。土壁を作り、鉄で補強していく形だ。鉄板は地面深くまで刺していく。


 結界があればしなくてもよい整備だ。しかし、結界も殆ど機能していない。辛うじて遠ざけているにすぎない。魔王がその気になれば、いつだって戦場になりえるだろう。


『私が居るから、保てているだけ、か』


 イェラから発掘された悪意が問題だったのだろう。魔王の力は大きく膨れ上がってしまった。それに、子供達の魂で行っている事も気になる。


『まだまだ道半ば。()()()()()は順調に昂ぶっているけれど、どんな苦難が待ち受けているやら』


 湖に向かうとしよう。



「良かったのですか? 連絡しなくて……」

「良いわ。あの子には、リツカさんがついているもの」


 エルタナスィアと集落の者が話している。アルレスィアにはリツカがついている。そしてリツカにはアルレスィアが。


 心配せずとも良い。私もそう思う。しかし――。


『少し、発生()きすぎている」


 アルレスィアも歯痒いだろう。リツカの本音が、早めに聞ければ良いのだけど。


 湖の中では、アルレスィアとリツカが仲良くお風呂に入っている。ウィンツェッツの修行を終えた頃だろう。二人の仲睦まじい姿は、私も嬉しく思う。深いところで理解し合っている二人だから出せる優しい空間が、そこにはある。


 リツカが最後の一歩を踏み出せればと、思っている。でも。


『焦ってはいけない。まだ先はある。リツカが自覚するまで、気長に待つさ』


 それにしても――。


『アルレスィアは少し成長したみたいだけど……リツカの体型は、驚く程変わらないなぁ』


 あの姿がリツカに合った、最も美しいプロポーションとはいえ。


 リツカの背中を洗っている。あれが今日の”お願い”みたいだね。


 アルレスィアの表情は、零れんばかりの笑顔だ。今にも抱きついてしまいそうな程の距離で、背中、肩、腋、お腹――くすぐったそうに、それでいて恍惚の笑みを浮かびそうになるのを必死で堪えているリツカを、アルレスィアが慈しみ、愛おしく撫で洗う。


 耳元で力加減は丁度良いか聞いている。必然的に触れ合う体。リツカの体が大きく跳ねる。もう何度も一緒に入っているはずだけど、リツカの初心な反応にアルレスィアはご満悦のようだ。


 抱きしめ、リツカの頭に頬擦りしている。


『このまま観察するのも良いけど』


 流石に、二人の空間を邪魔するわけにはいかない。向こうからは分からないとはいえ、ね。


 二人の仲が良いのは純粋に嬉しい。ずっと見てきた二人だ。特別な存在は居ないと言いつつも、私にとって特別となってしまった二人だ。


 プライベートはなるべく見ないようにするけど、最後まで見届けさせてもらうとしよう。


『未来は君たちで斬り拓いていくんだ。私にも君たちの”光”を見せておくれ』

 


ブクマありがとうございます!

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