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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
40日目、休息の重要性なのです
505/934

『ブフぉルム』ちょっと休み

A,C, 27/04/04



 私の右フックに反応し、下に――いえ、後ろに避けようとしているレイメイさん。一歩深めに間合いを詰め……。


「――シッ!」

「フッ……ぐ……」


 痛打を受けたレイメイさんが、膝をつきます。これで十五回目ですね。始まって四十分で十五回目。昨日より進歩しているように見えます。けれど。


「おい……」

「何ですか」

「お前に打たれる度に動けなくなるんだが」

「そうなるように打ってます。その方が、死んだ感じが強いでしょう」


 今日は、完全に当てています。膝にきているのか、立ち上がるのに時間がかかるのです。疲労度だけみれば、昨日よりずっと強く襲い掛かっていることでしょう。


 レイメイさんはもっと危機感を持って欲しいです。ただのお遊戯じゃないのですから。今までの戦いでレイメイさんには、臨死体験こそが必要なのだと理解しました。


 昨日はどれくらい避けられるかのテスト。今日は完全に滅多打ちです。痛みと共に絶望を噛み締めてもらいましょう。


 ()()()()とは無関係に、滅多打ちです。本当に無関係ですよ。予定より強めに叩いてますけど、無関係です。


 今日は一日時間が空くので、二時間か三時間はやるつもりです。一時間毎の休憩を挟む予定はあります。


「この光景を見た人はどう思うんですかネ」

「不埒を働いた男性を、リッカさまが成敗している状況です」

「女の子にボコボコにされる長身の男ですカ」


 見様によっては、いじめです。


「リツカお姉さんは疲れないんですカ?」

「一方的に攻撃できてるし、本気じゃないからね。そんなに疲れてないよ」


 ちょっと汗ばんでるくらいです。


「それに比べテ」


 私と比べて疲れきっているレイメイさんに、シーアさんが冷めた目を向けています。


「今日のコイツ見たろうが……いや、見えてねぇわ……」

「はイ?」

「視界の端くらいには映るんだがな……」


 疲れている所為か、ふわふわした受け答えしか出来ていません。


「見えない相手から攻撃を受けるって、精神的に疲れますし」


 マクゼルトが同じ事をするかは、戦ってないので分かりません。もう少し長く戦っていれば、相手の出方が分かったのですけど……。一撃で沈められたのが悔やまれます。


 一応考えの中では、マクゼルトは小細工しないと思っています。私を一撃で膝をつかせた後、マクゼルトはゆっくり真っ直ぐ私に向かってきました。ただ……勝利を確信していただけかもしれません。考えが確信となるには、少し弱いです。


「初めてやり合った時から思ってたが……コイツ消えやがる……」

「私も正面から見たことがありますけド、そんなにですカ」


 シーアさんが言っているのは、最初の町で誘拐されたシーアさんを助けた時の話だと思います。


「私の、()()()()()を目で追うからそうなるんです」


 取捨選択しなければ。フェイントなのか、そうじゃないのかを。


「体験してみたいでス」

「じゃあ、レイメイさんはそのまま休憩で」

「あぁ……」


 地面に仰向けになり、大の字で寝ています。十分くらいの休憩をとりましょう。


「実戦と思って、私と対峙してね」

「分かりましタ」


 返事するやいなや、シーアさんは魔力を練り上げました。今にも撃ち込んできそうです。


「いくよ」


 無造作に歩き出し、近づいていきます。シーアさんは自然体。単純にスピードで振り切る事は可能ですけど、全力で――。


「――」

「……?」


 わざとらしく、地面をジャリっと鳴らし――。


「ぇ」

「こっち」


 シーアさんが振り向いた方と逆に、私は立っています。


「――あレ?」

「今度はこっち」


 振る向くシーアさんに合わせて、私は移動します。


「思ってたのと違うんですけド」

「んー。これを連続で繰り返しながら殴ってるだけだから、一応は合ってるよ?」


 レイメイさんの時はもっと激しく動き回っていたので、シーアさんに疑問符がついてしまいました。でも、やっている事は一緒です。


「頑張って私を視界に入れてみよう」

「……(【ギャレ】)風よ(・イグナス)!」


 私が後ろに居るのは分かっているので、シーアさんが”疾風”で消えました。


 負けず嫌いのシーアさんが、そう動くのは分かっています。


「ふふん――あレ」

「こっちこっち」


 私は”疾風”の出口が分かります。後はそこに合わせるだけです。それに、”疾風”で動いているシーアさんでも、私の活歩を追う事は出来ません。


「むむむむ……!」


 意地になったシーアさんが、一生懸命動いています。先ほどまでのいじめの様な光景から、姉妹の戯れに変わった気がします。



「リッカさま。シーアさん。お茶ですよ」

「今行くよ」


 アリスさんに呼ばれて、一度切り上げます。五分くらいでは、私を捉える事は出来ませんでしたね。


「もうちょっト、だったんですけどネ」


 肩で息をしているシーアさんが、アイスティーをごくごくと飲んでいます。


「どこがだ?」

「レイメイさんよりは、付いていけていたように見えましたけど」

「何……」

「ふふん」


 アリスさんの言うとおり、シーアさんの方が飲み込みが早かったです。実際は私が攻撃するので変わりますけれど、何度か危ない場面がありました。


「このままだと、シーアさんがマクゼルトと戦う事になりそう」

「私としても因縁がない訳じゃないですシ、構いませんヨ」


 レイメイさんを煽るのに使います。シーアさんとはよく張り合ってますし、効果覿面かと。


「絶対ぇ避けきってやる……」

「いつもそう言ってボコボコですよネ」

「うっせぇ。早くしろ」


 再開する気のレイメイさんが立ち上がりました。


「私は今から休憩なんですけど」

「疲れてねぇっつたろうが」


 確かにそう言いましたけど、アリスさんが入れてくれたアイスティーを飲む暇くらいは欲しいです。


「……」

「おらさっさとしろ」


 アリスさんによる無言の威圧も意に介さず、促してきます。慣れたとでもいうのでしょうか。アリスさんの代わりに、私が()()()()()()()良いのですけど――。


「少しでもリツカお姉さんが疲れてないト、()()()無理ですもんネ」

「あ゛!?」

「万全のリッカさまから逃げ切るなんて、誰にも出来ないでしょうから」

「巫女さんのお茶を飲む事も出来ずニ、意気消沈したままのリツカお姉さんじゃないと無理ですよネ」

「……」


 眉間にどんどん皺が刻まれていくレイメイさんを悪い笑みで見ながら二人が捲くし立てています。


「五分後だな。五分後絶対に再開するからな」

「はい」

 

 思いの外効いたのか、レイメイさんが座り込みその時を待ちます。

 こう言ってはなんですけど、どんなに効いたとしても、そのまま敢行した方が良かったと思います。まだまだ、絶対に避けきれないですよ。私はまだ……()()()()を忘れてませんから。


「あ、このお茶美味しい」

「ジャスミンティーですよ」


 少し火照った体に、清涼感が染み渡っていきます。疲れが吹き飛ぶよう。


「不穏な空気が流れた気がするんだが」

「リツカお姉さんが昨日の事を忘れる訳ないじゃないですカ」

「昨日……?」

「忘れちゃったんですカ」


 レイメイさんはもう忘れてしまっているようです。思い出すまで修行を終えない事を決めました。今日一日動けないんです。どうせなら、()()()使いたいでしょう。限界まで追い込むので、覚悟しておいてください。


「お昼から、見回りと聞き込みしよっか」

「はい。ついでに、昨日回れなかった所を見たいです」

「そうだね。漢方みたいなのが並んでる所も気になるし」

 高麗人参みたいなのがありました。


「リッカさまの世界の、お薬でしたっけ」

「天然の、植物とか野菜を乾燥させて粉末にした物、だったかな」


 病院で処方されたり、薬局で買えたりする物しか知らないので、詳しくは分かりません。


「本当なら毒があって食べられない物も使うんだったかな」

「少量ならば問題がない物ですね。こちらでも、麻酔に使ったりしています」

「毒を以って毒を制す、だね」


 悪事に対して悪事を以って解決に当たるという意味合いもあるようですけど、私はその意味が好きではありません。暴力に対して暴力で解決する。今の、私です。好きではない言葉を体現している事が、非常に心苦しい。


「もしかしたら薬屋かもしれないから、何か買う?」

「そうですね……。外傷は私がなんとかします。内服薬もある程度は揃えてますけれど……東方のお薬も気になります」

「うん。それじゃあ、寄ろうか」

「はいっ」


 修行は遅くとも九時までとし、少し休んだ後の計画をアリスさんと話します。

 船が直るまで、東方の文化に触れましょう。


 連合、西方については少しだけ学びました。次は東方についてです。西方と違って東方は、良き隣人という印象です。この街並みを見る限り、交流をしようとしている事は分かります。


 まだこの町でしか見ていませんけれど、何れは、ブレマやダルシゅウに商品を卸し、何れは王都へといった所でしょうか。


 色々と考えが過ぎります。でも、ニコニコと新しい食材との出会いに思いを馳せているアリスさんを見るとすぐに、意識はそちらにいくのでした。



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