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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
39日目、ハプニングなのです
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『ブフぉルム』修理⑧



「ん。帰って来ましたネ」

「あぁ、お前から言えよ」

「分かってますヨ」


 シーアさんとレイメイさんが待合室で待っていました。


「船の状態なんですけどネ。明日の夕刻までとなりましタ」

「うん。棟梁さんから聞いたよ。泊まる場所と明日の予定を話したいけど」

「まずは、浄化をします」

「職人さんの仕事優先って事にしたんでしたネ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。個人的な浄化ハ」


 シーアさんが意味深な事を言いました。確かに浄化を受けたという実感を強く持てそうです。


 三番船渠は人が少ないという話だったのですけど、今は結構な人数で作業しています。もしかしなくとも、優先して貰っているようです。少しだけ自室が気になります。許可を貰って上りましょう。


「すみません。一度部屋を見たいのですけど」

「あ、はい。どうぞ。今舷梯を」

「いえ」


 アリスさんを抱え、いつもの要領で上ります。作業を中断させてまで見ようとは思っていません。少しだけ確認するだけです。




「え、え?」

「まァ、そういう反応になりますよネ」


 私はリツカお姉さんの魔法を知っていたので、()()()に驚きましたけど。


「重てぇ人間持ってあれだけ跳べばそうなる」

「後でリツカお姉さんに言っておきまス」

「あ?」


 まだ気付いてません。鈍い人ですね。アーデさんにも平気な顔で失礼な事を言いそうです。今のうちに矯正しておきましょう。


「巫女さんの事重いって言ってたっテ」

「おい待て言葉の綾――」

「明日の早朝鍛錬は過去最高の物になるでしょうネ」


 見物ですね。何回死亡判定が出るでしょう。六十回は超えるでしょうね。クふふふっ!



 船室はまだ、傷みを診ただけのようです。物を弄った様子は見受けられません。


(日記は、仕舞いこんでる。録音機は、緩衝材代わりに厚手の布に包んでる)


 ちゃんと、なってますね。


「アリスさんのは大丈夫?」

「はい。日記も録音機もしっかりと」


 アリスさんも、確認を終えたようです。


「大丈夫かな」

「はい。部屋に入られても問題ないかと」


 ドアや床の軋みは気になっていましたし、()()()()ですよね。何故か不満を感じている私の心に疑問符が出てしまいます。


 アリスさんとの共同スペースなのですから、快適な方が良いに決まっています。快適な部屋こそ、健やかな安らぎが生まれるというもの。その為の修理です。不満を感じるなんて、失礼にも程があります。


「じゃあ、降りよっか」

「はぃ……」


 少し頬を染め、私の胸に寄り添ったアリスさんを抱えて、船を降ります。私達の用事は終わったので、浄化をしましょう。でもその前に……今のアリスさんを私以外に見られたくないので、小休止です。




 アリスさんがいつも通りの凛とした姿になったので、再開します。この三番船渠で最後です。


「どうですか?」

「一人居るかな」


 少し濃い方が一人です。私だと結構強く打ち込む必要があるくらいには、悪意がたっぷりです。


「声かけてくるね」

「はい。準備しています」


 目の届く範囲に居るので、呼びに行きます。女性の職人さんです。力仕事を魔法で行えるので、男女で仕事が分かれるという事が少ないみたいです。きっちり分かれているのは、冒険者や兵士でしょうか。少なからず居る女性冒険者も、サポート役が殆どなんですよね。


「すみません。少しばかりお時間をいただけませんか」

「あ……へい」


 イラついています。仕事を中断させられた事、いきなり呼び出された事、その他諸々のイラつきでしょう。


「すぐに終わりますから」


 声かけはしたので、アリスさんに合図を送ります。

 回りの人が一瞬目を瞑る程の輝きと共に、”光の剣”が飛翔してきます。私の横を通り抜け、対象者へ。悪意が抜け、浄化の成功を確認しました。他には――居ません。


「ありがとうございました」

「……? あ、あぁ……?」


 自身の変化に少し戸惑っている方に頭を下げ、その場を後にします。



「先ほども言った通リ、明日の夕刻までかかるそうでス」

「お前の所為でな」

「レイメイさん。それはもう良いです」

「修理が必要になったのは確かですけど、あの場においてはあれが最適だったと思います」


 船を止めて対面してからの攻防となれば、そこそこ時間がかかったと思います。体術を使えそうな気配がしました。レイメイさんの修行相手にはなったかもしれませんけれど、時間で見れば最適解であったと思っています。


「明日の夕刻出発で良いと思うけど」

「次の町であるメルクには、明後日到着になるでしょう」

「そんなら、明日も泊まれば良いんじゃねぇか」

「宿に関してモ、一泊より二泊の方が安いですネ」


 元々趣味らしい趣味が少ないメンバーです。食べ歩きやお酒なんかもありますけど、出費自体は抑えられています。それでも、いつまでかかるか分からない旅です。どうしても欲しかった宝石は買いましたけれど、それ以外の所で帳尻を合わせたいと思っています。


 そういう意味では、まとめて泊まった方が良いのでしょう。――しかし。


「マリスタザリアの動向次第かな。今日明日でこの町にマリスタザリアが来たら、出て行くことになると思う」

「魔王が造ったマリスタザリアでなくとも、気をつけるべきでしょう」


 私達がマリスタザリアを引き寄せていると思います。なので、一つの町に留まるのは最小限です。偶に我侭を言いますけど、迷惑をかける事は出来ません。存在自体が迷惑と言われるとどうしようも――。


「船が動けるようになるまでは滞在します。休養日と思って過ごしてください」

「うん。分かった」

「あぁ」

「東方の料理も気になりますしネ」


 私達も、東方の食材は気になっています。干ししいたけみたいなのは、こちらに来て始めてみました。漢方の様な物もありましたから、色々見て回るとしましょう。


「少しお店を回りに行こうか」

「はい。先ほどの特産品店も気になります」

「チラっと見ただけだもんね」


 他にもお店はあるようですし、今日明日で全部回ります。


「私も一緒に回りまス」

「はい。何度も食べたい料理なんか見つけたら言って下さい。何とか再現しましょう」

「東方の料理は、どれも毛色が違うもんね」


 中華やアジア料理に似ているような感じです。


「俺は酒場に行っとく」

「飲むには、まだ早い時間だと思いますけど」

「宿も決まってないのですから、酔わないように注意してください」

「場所を見るだけだ」


 一昨日は作戦前と言う事で控えてもらいましたし、昨日は少し嗜んでいたようですけど、シーアさんと一緒という事で普段より酔ってませんでした。今日は別に良いとは思うのですけど、何かあった時に困りますからね。




 一旦別れ、町を歩きます。一件目は、先ほど入ったアンテナショップ。私は醤油の代わりとなる物を探しています。


(これは、バルサミコ酢? こっちはオイスターかな。こっちは……何だろう)


 この黒い物は醤油に近い雰囲気ですけど……。やはり、味が分からないと選びようがないですね。


 アリスさんとシーアさんは、珍しい食材を買い溜めしているようです。私は、どうしましょう。調味料となると、試しに買うというのは難しいですね。使うかどうか分からないものですし……。


「むぅ」

「こちらの商品ですか?」


 店員さんが見かねたのか、声をかけてくれました。


「はい。どんな味なのかと思いまして」

「でしたらこちらをどうぞ」


 差し出された瓶は、封が切られています。試食品だったのでしょうか。目の前にありながら気付かないとは……少し、恥ずかしいですね。


「いただきます」


 気になっていた三種を飲ませてもらい、味を確かめます。バルサミコ酢とオイスターソースは正解でした。分からなかった物は、ウスターソースでしたね。


「ありがとうございました。欲しい物とは少しだけ違いました……」


 そういえば、お酒も……純米酒が良いですよね。みりんも欲しいですし。


「お探しの物は、どのような味でしょう」

「少し塩気が強い、豆を発酵させた物です」

「豆を……。それですと、こちらが一番近いかと」


 色が薄いですけど、見た目は一番醤油に近いでしょうか。


 味は……。


「……! 近いです」

「良かったです。また何か必要な物がありましたら、お声をかけていただければ」

「ありがとうございます」


 購入候補ですね。他にも探してみましょう。アリスさんへの手料理。なんとしても私だけの手で。



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