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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
39日目、ハプニングなのです
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『ブフぉルム』修理⑦



 町長さん宅に人の気配があります。帰って来たようです。


「ごめんください」

「今手が離せないので、どうぞお入りください」


 戸を開け、中に入ります。髭を蓄えた壮年の男性です。


「今お茶で、も―――」


 町長さんが動きを止め、じっと私達を見ます。こういった時の反応は、無視すれば良いとやっと学びました。


「”巫女”、アルレスィア・ソレ・クレイドルです」

「同じく、六花 立花です」

「――し、失礼。フランク・ゲェラ。この町で町長をさせていただいております」


 フランクさんに挨拶をし、浄化の話をします。目印となる船は今修理中なので、町長宅の前をお借りします。


「職人達は恐らく仕事を止めてまでは……」

「仕事優先で構いません。私達も船を修理に出しているので、その時に浄化が必要な方に声をかけます」

「ありがとうございます。その様に伝えます」


 ベルタさんの反応を見る限り、この町において”巫女”に対する不信感などはないと感じました。安心して浄化作業が出来ると思います。



 

 ――浄化は終わりました。北に行くにつれ、浄化対象が減っています。もしかしたら、魔王がどんどん吸収しているのかも? 悪意に侵された人が居ないのは嬉しい事です。でも……複雑、ですね。魔王の力となっているのですから。


「先ほどはいつも通りしようと言いましたけど……。この調子で減っていくと、町を一通り歩いて個別にした方が良いかもしれません」

「んー……」


 迷いどころです。


「町長さんに、話だけはしようか。それで人を集めるんじゃなくて、私達が巡回ってことにする?」

「分かりました。それでいきましょう」


 大魔法より、個別浄化の方がアリスさんの消耗が抑えられます。個別にすることで話をする機会も設けられます。悪い事には、なりませんね。


「それでは、船渠にいきましょう」

「うん」


 シーアさん達はどこでしょう。船の状態も気になります。


 船渠は、一番から五番まであるようです。町長さんが言うには、シーアさんは一番に居る可能性が高いとのことです。一応フランクさんに、付いて来てもらいます。


「この船渠にも長が居まして、まずはそちらに」

「はい」


 棟梁と言うのでしょうか。船大工達の長が居るそうです。

 通されたのは、階段をいくつか上った先にある一室。ここに居るみたいです。


「ダグマル」

「へい」


 棟梁さんの名前はダグマルさんというらしいです。私のイメージする大工より、線が細いですね。魔法で重いものを運べるからでしょうか。


「巫女様達の船は一番かね?」

「い、いえ……あのですね……」


 ダグマルさんがフランクさんに耳打ちをしています。みるみる顔を顰めるフランクさんに、ダグマルさんが頭を何度も下げています。


「すんません……。お得意様の船に集中してた職人がやらかしまして……」

「よりにもよって三番とは……。急いで一番か二番に移せないのかね」

「それが……同乗者の、フランジールの妹君が……」

「待ちなさい。妹君まで……?」

「へい」

「船を見ればすぐ分かっただろう!?」

「ですから、集中を……」


 断片的に聞こえてくる話から分かるのは、私達の船はどうやら三番に停まっているらしいです。そして三番だと問題があるらしいという事ですか。シーアさんが納得しているなら、私達も問題ないのですけど。


「あの」

「は、はい! いえ、そのですね。今すぐに対応しますので」

「いえ、対応したシーアさんが納得してるなら、それで良いです。浄化に移りたいのですけど、船渠内を歩いても大丈夫でしょうか」

「へい。それは、もう……」


 三番船渠にどんな問題があるかは分かりませんけど、しっかりと直してもらえると思ってます。まずは浄化を終わらせて、少しお買い物をしたいですね。宿を取らなければいけないかもしれませんし。


「フランクさん。案内ありがとうございました」

「いえ。こちらの不手際で、申し訳ございません」

「気にしてません。そういえば、船の状態ってどんな感じなんですか?」


 話を無理やり変える為に、船の様子を聞きます。


「船首の状態が特に悪く、船室も少しガタがきてます。明日の夕刻までかかる見込みですな」


 明日一杯、ここに滞在となりそうです。マリスタザリアの動向は気になりますけど、この際完璧な整備をお願いしましょう。


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

「もちろんす。任せてください」


 軽く会釈して、浄化の為に船渠に向かいます。せっかく見る機会に恵まれたので、邪魔にならない程度に見学します。



 木造船の作成現場なんて、テレビでチラっと見た程度です。その少しの知識すら、ここでは意味を成しません。


 魔法によって木をばっさばっさと切ったり削ったり、細かい部分は職人さんが手を加えてますけど、殆ど魔法です。


「想いと知識の差で、同じ魔法でも仕上がりに差が出ますから」

「良い職人の条件は、いかに船を知ってるか?」

「そうなりますね。どの職種でも言えますけれど、最終的には本人の力量が出るのではないかと」


 芸術家は自分の手に拘る人が多いです。でも、量産品や時間との勝負となると、魔法が必要になります。そんな魔法も、知らない人が使っても良い物が出来ません。最後に物をいうのは、いかにそれが好きかという事でしょう。


「魔法を使ってない時の手際も、すごいもんね。早くて、何をしてるのか……」


 目では追えていますけど、あれが何をしているのかが分かりません。見学するにも、専門の人の解説が必要ですね。


「ここには、浄化対象者は居ないっぽいね」

「分かりました。では、次に参りましょう」


 今後の練習も兼ねて、希望者を募るのではなくこちらで診てみます。


「二番は――向こうですね」

「うん」


 次に向かいましょう。



「巫女様、行っちまうぞ」

「浄化ってのはしなくて良いのかな」

「放送で言ってたろ。巫女様には分かってるって」


 職人達が立ち去る巫女二人を見ながらこそこそと話している。



「しかし、あれだな。心臓止まるかと思った」

「あんな美人居るんだな。俺の妻が大根に見える」

「誰だよ三番に通した奴。一番だったらもっと見られたのによ」


 突然の清風に意気高揚した職人達が、ハハハと笑っている。


 その職人達の後ろには、額に青筋を立てた女性達が、鬼のような形相で立っていた。



 二番には二人ほど居ました。思えば、個人の浄化は久しぶりかもしれません。アリスさんの”光の槍”が、二人の職人を貫きます。ギョっとした空気が流れますけど、二人に異変がない事で、なだらかに落ち着いていきます。


「気分はどうですか」

「何をするにも、イライラしてたんですけど……落ち着きました」

「あぁ……」


 浄化は問題なく済みました。他に居ないか確認し、次へ向かいます。


 二番の隣にあるかと思えば、三番は少し離れています。二番の横は、四?


「三番って、どんなところなんだろう」

「少しだけ心配になってしまいました」

「私も……」


 後悔先に立たず、ですね。


「先に四番に行って、三番は最後にしようか」

「はい」


 出来れば、四番で聞いておきたいですね。三番ってどんな場所なのかを。


 四番には一人、五番はなし。浄化自体は直に終わりました。そして、三番についてですけど。


「えっと、元々三番があるところに船渠が並んでたけど」

「爆発事故により三番以外が壊れたようです。そして、一番二番、四番五番はこちらに新しく建て直したと」

「でも、三番は使えたからそのままに。最初こそ差が出ることもなく普通に運用されてたけど」

「いつしか、新しく建てた方に人が集まるようになってしまったのですね」

「三番は今、人手不足な上に、工具なんかも古い物をって――うん、ちょっとだけどころか、結構……心配になってきたかも」


 一番二番、四番五番はすでに船があったので、三番に通されたのでしょう。しかし、そんなにも差が出ているなんて……。運がありませんでした。


「三番に行って、様子を見ましょう」

「うん。シーアさん達とも、この町での滞在について話しておきたいし」


 人手に関しては、どうにかして欲しいと思ってしまいます。一応明日の夕刻までというのは、修理時間として考えれば早いと思うので、顧慮してもらえたのでしょうね。



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