『ブフぉルム』修理⑥
浄化をしようと町長さんの所を目指そうとしました。しかし、そろそろ”巫女”という事が枷になる可能性もあるんですよね。相手が”巫女”を信じてくれる人なのかそうではないのか、その判断は難しいです。どうしたものでしょう。
「リッカさま。私達はどう隠そうとも”巫女”です。どの町でも”巫女”と名乗りましょう。それで協力が得られず、浄化を受け入れて貰えなかったなら……次へ進む選択もやむを得ないと思います」
「……分かった。町の殆どの人が、”巫女”を嫌ってても……一人でも信じてくれる人が居て、助けを求めてたらいけないもんね」
「はい……!」
周りが一瞬で敵に変わりかねない宣言となるでしょう。それでも、アリスさんは守りきります。そして、”巫女”を求める人の為に、私達は”巫女”を名乗り続ける事を、決めました。
これからの、”巫女”としての活動方針も決まりました。ならばもう、迷う事はありません。町長さんの所に向かい、浄化を申し出ましょう。
「手を差し伸べよう」
「はい。私達は――”巫女”です」
町長さん宅に向かいましたけど、留守でした。
「何処行ったのかな」
「待っていれば戻ってくると思いますけれど、いかがなさいましょう」
明日までかかるでしょうし、待つのも良いでしょう。しかし、時間を有効活用したいですね。
「先に、神隠し被害者の所に行こうか」
「分かりました。ゾルゲ町長さんから名前は聞いております。尋ねながら参りましょう」
「うん」
名前はベルタ・ポダルトさん。娘のギラちゃんが目の前で消えています。場所は、あそこのアンテナショップのようです。
「先に、店内を見てみようか」
「はい。探しましょう」
東方の物が多く並んでいるらしいお店です。乾物等の、普段見ないものが多く見えます。あれは、干ししいたけでしょうか。
アリスさんの興味を引きそうなものが結構あります。ゆっくり見てみたいですけど、そうもいかないようです。
「み巫女様でしょうかっ」
「はい。貴女は――」
「ベルタ・ポダルトです! お待ちしておりました……っ」
ゾルゲの町長さんからブフぉルムの町長さんへ連絡をした時に、私たちの事を話したようです。そしてそれはベルタさんに伝えられたのでしょう。どうやらずっと、待っていてくれたみたいです。
「まずは、こちらを見てください」
お店の奥で話を聞かせてもらいます。まずは岩山で見つけた子の写真を見せます。この中に居れば良いのですけど。
「あぁ……っ! うちの子ですっ! 良かった……良かったぁ……」
泣き崩れ、ベルタさんは膝をつきました。まだ状態を話していません。悲しませる結果になろうとも、今話さなければいけません。
「ベルタさんにとって、辛い話になりますけれど……伝えなければいけない事があります」
「な、……なんで、しょう」
「実は、お子さんは……」
説明を聞いていくベルタさんの表情が青ざめていきます。過呼吸を起こし、苦しそうに下を向いてしまいました。ポタポタと涙を流し、膝を濡らしていっています。
アリスさんが”治癒”で治していますけれど、心までは……治せません。
「私達は子供達の魂を取り戻す為に注力します。ベルタさん。どうか、その時を教えて欲しいのです」
「は、い……」
辛うじてではありますけれど、ベルタさんが前を向いて話をしてくれます。
「朝食を食べ、ギラと造船所の方に泊まっていた夫の所に向かう最中でした……。道中、友人と会った私達は、少し話をしました。ギラも、友人の子と追いかけっこをしたりして……」
ギラちゃんの写真を見ながら、ぽつぽつと話をしてくれます。
「急に子供達が騒ぎ出して……ギラのほうを見ると、ギラが……ギラがぁ……」
「……辛い話をさせてしまって、申し訳ありません。ギラちゃんは、煙の様になって……?」
私たちの慰めの言葉なんて、ベルタさんは欲しくないと思います。なので私達は、解決の為に、愚直に進むのです。
「ぐすっ……はい……。バチバチと火花が散ったかと思うと……ギラが足元から……」
「煙が向かった方向なんかは、わかりませんか?」
「確か……北だったかと……少し、西側……」
イぇラで出た悪意のように、北西へ向かったのですね。やはり……魔王? バチバチと出たという火花も気になります。
「その時のギラちゃんは、慌てたりは……?」
「して、ません。そのまま受け入れて……」
状況は、オルデク以外と似ているようです。
「ギラは……生きている、のですよね?」
「はい。生きています。魔力の多くを抜かれ衰弱し、魂がないので反応はありませんけれど、確かに生きています」
「魂に関しては、私達に任せてください。取り返してみせます」
「……はい。私達はすぐにでもギラの所に……」
「行ってあげてください。ご両親が隣に居た方が、ギラちゃんも安心するはずです」
魂がなくとも、ギラちゃんには分かるはずです。だから、これ以上引き止めるのは野暮ですね。火花の謎と向かった先。方向が分かれば目指すところは一つです。
「辛いのに、ありがとうございました」
「いいえ……。どうか、ギラを……」
頭を下げて懇願するベルタさんに強く頷きます。必ず、とは言えません。それでも尽力します。
立ち去るベルタさんを見送ります。今から旦那さんと一緒にゾルゲに向かうのでしょう。私達はアンテナショップの片隅で状況を整理する事にしました。
ゾルゲから来てくれた親御さんは五名。そのうち三名は再会を果たせました。そしてベルタさんは再会出来たので、子供達十名のうち、四名は一先ずの安心を得られた事になります。残りの子供達六名と、再会出来なかった二名の親御さんの子……八名が未だに消息不明、身元不明となっています。
「”伝言”が届きました。ゾルゲの町長さんからです」
「うん」
アリスさんが”伝言”を受け取っている間に、思考を纏めます。
あの場で見つけたのは、早い段階で神隠しされた子達です。大体同じ時期に連れ去られていますけれど、それでも早い遅いはありますから。ゾぉリで連れ去られたという、最初に神隠しを教えてくれた方のお子さんも居ました。
(魂を抜き終えた順にあそこに……? そうとしか思えないよね)
「リッカさま」
「うん?」
「二名、増えました」
「……場所は、分かる?」
「メルク。次の町ですね」
狙ったとしか思えない位置で神隠しが起きました。どこからでも、簡単に神隠し出来るぞと、言いたげですね。
「次の町でも聞き込みしないと」
「はい。名前と住所は控えました」
「ありがとう。じゃあ、町長さんの所いこうか」
頷くアリスさんの手をとり、向かいます。私の歯痒さを払拭するように、ぎゅっとアリスさんが手を握り返してくれます。すぐにでも解決の為に動きたいですけど、焦って動いては相手を喜ばせるだけと、自制します。
(地に足つけて、頑張る)
クスリと笑顔を見せてくれるアリスさんに、勇気をもらいます。私の足場は常に揺るぎません。私の軸はブレません。これも負担なのかもしれません。それでも、自分一人で抱え込むのは、違うから。
「行こっか」
「はいっ」
隣にいるアリスさんに頭を寄せ、目を閉じます。心を落ち着かせ、私は一歩を踏み出します。
「まさか明日の夕刻までかかるなんテ」
「お前の所為だろうが、お前の」
船の修理自体は問題ないのですけど、時間がかかりますね。こんな事なら女王の名の下、全職人を動員してもらうべきでしたかね。
(まぁ、そんな事しませんけど)
リツカお姉さん達なら納得してくれるとは思ってます。でも、まぁ――少しばかりやりすぎた気がします。気が急いていたのは認めますけど、ここまではっちゃける必要はなかったですね。
「丁度良いですシ、完全な修理をしてもらいましょウ」
「はぁ……。まぁ、こっから先修理なんざ出来ないだろうからな」
「元々予備の船ですからネ。整備も最低限でしタ。ガタがきていたのでしょウ」
「そこまで分かってて無茶させんな」
気にしても仕方ないです。ゆっくり休むとしましょう。
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