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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
39日目、ハプニングなのです
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『ブフぉルム』修理⑤



「ごちそーさまー」


 暗い城で少女が椅子から飛び降りる。


「どうだ」

「んー。うすい」

「そのようだな。まだ言葉が拙い」


 頬杖をつき、鋭い眼光で少女を見ている。その者の感情は読めない。


「ねー。あのこがほしい」

「あぁ、あの」

「そう! ちらっとしかみえなかったけど、すごくおいしそうだった!」

「まだダメだ」

「えー」


 頬杖をついている者の膝に両手をつき、頬を膨らませる少女。その少女の頭に手を置き、諭すように言う。


「まだ来られても困るのでな。何れ食べる機会は来る」


 頬杖を解き、玉座から立ち上がる。その者の目はギラギラと菖蒲色に輝いていた。


「まだまだ届かない。ならばもっと、もっとだ」

「んー?」

「付いて来い。遊んでやろう」

「わーい! まおーとあそぶのひさしぶりだ」


 魔王の後ろをついていく少女の顔は綻んでいる。魔王と少女の関係は謎だけど、決して悪いものではないように見えた。




 ブフぉルムが見えてきました。そのまま入るのも良いでしょうけど、見える位置まで来たので遅めの昼食にします。シーアさんも、町が見えていれば安心するでしょうから。


「おい起」

「料理が出来るまで、そのままで構いません」

 

 起こそうとしたレイメイさんを、アリスさんが止めました。三十分程ですけど、もう少し休んでもらいましょう。


「一応見ていて下さい。変わった事があればすぐに呼んで欲しいです」

「あぁ」


 レイメイさんに一言お願いしてから、アリスさんと厨房に向かいます。


 軽い物を作ってもらい、甲板へ。雲が少し増えています。一応パラソルも用意しておきましょう。

 お昼はスープとサラダ、目玉焼きにベーコン、バターとジャムで食べるパンですね。


「シーアさんを起こしてください」

「おい起きろチビ」

「ふぁ………。お昼ですカ」


 もぞもぞと起き上がり、目を擦っています。


「ん……? これは、リツカお姉さん達の……」

「おはよう。少しは休めたかな」

「えぇ。自分でも知らず知らず溜め込んでたようでス。リツカお姉さんの事を言えませんネ」

「リッカさまがシーアさんくらい正直ならば、私も嬉しいのですけど……」

「はは……。ごめんなさぃ」


 丁寧に私たちの毛布を畳み、枕をその上に置いています。晴れていれば、そのまま干すのもありだったでしょうけど、あいにくの曇天です。


「私の部屋から持ってきても良かったんですけどネ」

「勝手に入るのも悪いと思ってね。気にしなくて大丈夫だよ」


 取りに行くついでに、少しやらないといけない事もあったので。


「そういう事なラ。でハ、少し顔を洗ってきまス」


 シーアさんを待って、食事にします。



「ちゃんと着けましたカ」

「真っ直ぐで迷うわけねぇだろ」

「同じ景色だと結構分からないものなんですヨ」


 寝起きとは思えない程の速度で料理が消えていきます。お腹が空いていたようです。


「修理工場には私が持って行きまス。リツカお姉さん達は先に町へお願いしますヨ」

「神隠しの事もあるから、レイメイさんは置いて行くよ」

「気にしすぎと言いたいところですけド、私も誘拐なんて真っ平ですシ」

「二回目になるもんな」

「もう二度とありえませんかラ」


 そういえば、最初の町で誘拐されましたね。人質として。共和国が近づくにつれシーアさんを知っている人は多くなってきました。王族の妹であり魔女。『エム』を与えられた最高峰の戦力であると。しかし、だからこそ狙われます。今まで以上に気をつけてもらわないといけません。


「船の修理が終わるまでゆっくりしてて。結構広いっぽいけど、二人で回れるだろうから」

「これからも共に戦うのですから、休める時に休んでください」

「……分かりましタ」


 何も、シーアさんを軽んじている訳ではありません。むしろ重きを置いているからこそです。


「でハ、入り口で降ろしまス」

「お願いします」

 

 浄化後、町で探索です。神隠しの被害者に話を聞くのを最優先とします。魔王の事はもう、聞いても分からないと思うので省きましょう。この周辺での異変を聞く事が代わりになると思います。


 後は、醤油ですね。


「ご馳走様でしタ」


 シーアさんが最後のパンを食べきり、食事を終えます。アリスさんと私は片付けを、レイメイさんは再度運転を。今日はシーアさんの休養日という事で良いでしょう。



 ブフぉルムは、造船のためだけの町に見えます。生活スペースは最低限。生活に必要なお店は充実して、船の修理や購入者の為の宿泊スペース。東との交流で輸入しているのでしょう。アンテナショップのような場所はあります。それでも、船大工が快適に過ごせるように整備されているようです。


「滞在するのには、困りそうにないかな?」

「はい。船の修理には一日以上かかるでしょうから、今日は泊まりになるかと」


 宿泊は避けたかったですけど、整備から修理になった以上致し方ありません。


「では後ほド」

「うん」


 舷梯を降ろすのも面倒なので、アリスさんを抱え飛び降ります。少し砂地ですね。

 入り口近くに居た人たちを少し驚かせてしまいましたけど、問題なく町に入ることが出来ました。さて、まずは町長さんですね。




「ここですネ」

「みたいだな」

「すみませン。修理に来たんですけド」

「あぁ? あぁ、三番に行ってくれ。右端だ」

「どうモ」


 三番、あれですね。


「あ? あの船どっかで――」

「おーい早く持ってきてくれ」

「あぁ、あいよ」

 

 三番は、結構寂れてるような気がしますけど、気のせいですかね。


「すみませン。修理お願いしたいんですけド」

「あぁ、じゃあ船止めて降りてきてくれ」

「はイ。鍵はどうすれば良いですカ」

「鍵?」

「この船、鍵つきなんですヨ」

「……? ……おいおい、ちょっと待ってくれ」


 職人と思われる人がバタバタと慌て始めました。職人なら知ってるでしょうね。これが王族専用船だと。とはいえ、そこまで慌てるようなものではないはずですけど。もしかして、乗っていると思っているのでしょうか。


 新にやって来たのは、ここの長でしょうか。仕立ての良い服を着ています。


「あ、あの。もしやと思いますが……エルヴィエール・フラン・ペルティエ様でしょうか」

「その妹でス」

「レティシア様、でしたか」

「はイ。女王陛下は乗ってませんかラ、そんなに畏まらなくて良いですヨ」


 王族に対し失礼を働いてはいけないというのは分かっています。それでも、過剰反応すぎですよ。飛び入りでやってくるほど、女王陛下は失礼ではありません。


 女王陛下の名代としてここに来るのなら、私でも連絡を入れます。ここへはただのお客として来たに過ぎません。


「ただの通りすがりの修理希望者でス。気にしないで下さイ」

「は、はぁ……」

「では……船を見させていただきます。鍵は、船室に問題があるのならば開けておいて欲しく……」


 船室ですか。一応見てもらった方が良いですよね。


「少し待って下さイ。もう二人にも確認しないといけませン」


 見られて困るもの云々ではなく、女性の部屋に入れるわけにはいきません。ですけど、修理が必要なら入ってもらうしかないです。


「巫女さんですカ」

《どうしました?》

「船室の方も修理がいるかもしれないんですけド」

《確かに、扉が軋みを上げていましたね。それでは、船室に入って良いかという確認ですか?》

「はイ。大丈夫ですかネ」

《一応毛布を取りに戻った際に整頓しておきました。私物の扱いにだけ気をつけていただければ幸いです》

「分かりましタ。伝えておきまス」


 流石、準備が良いです。


「あのー」

「船室の方も見て欲しいでス。女性の部屋なので配慮していただければ幸いでス」

「えぇ、一応女の職人も居ますので……。あのー、先ほど巫女さんと聞こえたのですけど」


 ガンガンと音が響いている場所で、良く聞こえたものです。


「まァ、気にせずニ」

「へ、へい」


 簡単に巫女さん達の素性をバラすのは、辞めた方が良いですね。今後を考えて注意しておきましょう。

 今回は手遅れでしたけど。



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