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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
2日目、彼女の温もりと共になのです
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私の守るもの⑦


 剣は明日までに用意してくれるようです。

 許可をとるだけ、とのことでしたが。ふむ?


「リッカさま!」


 アリスさんが笑顔で走り寄ってきてくれます。私は、草木が生えない程度には整備されているはずの集落内が、光り輝く花畑になったような気分になります。


 笑顔で迎えましょう。この笑顔を曇らせないように、頑張るという気持ちを忘れないために。


「アリスさん、準備はもういいの?」


 旅の準備。主になんでしょう。私は旅行にいったことがないですからね。って、アリスさんもでしたね……。危うく同じ過ちを犯すところでした。


「はい、お母様が用意してくださいました」


 アリスさんが歩きだしたので、それについていきます。


「アリスさんも私も、旅に出たことないだろうしね。旅って何がいるのか、あまりわからないよ……」

「そうですね。私も初めてで……。不謹慎ですが、少しドキドキしてしまいます」


 アリスさんが、笑ってもいいか迷っているような表情で言いました。


 これからの旅は、楽しい旅行というわけにはいかないでしょうからね……だからといって、緊張しっぱなしもよくないのです。


「そうだね。私も、ちょっとだけドキドキしてる。だから……ちょっとくらいは楽しもう? ずっと緊張しっぱなしなんて、最後までもたないからね」


 きっと、私たちにとっては最後になるかもしれない旅、外出。それを楽しもうと提案します。


「――はい、少しだけ」


 まだ完全な笑顔ではありませんが、了承してくれたことに安堵します。アリスさんが少しでも楽しめるように、頑張ります。



 そこでアリスさんが抱えてるものに目が行きました。


「アリスさん、その抱えてるのって」


 私がアリスさんからもらった日記帳、それと同じ表紙の本です。もしかして、アリスさんの日記?


「はい、日記です。これからこれを”神林”の湖にもっていきます」


 なるほど、私にしたのと一緒です。


 これまでの私たちの生きた証。私たちの写し身たる日記。それによる結界維持を行うのですね。


「アリスさんも、日記書いてたんだね」


 少し、読んでみたい気もします。しかしいくらなんでもダメでしょう。


 私も、今書いてるのは見られたくありません。いくらアリスさんでも……というより、アリスさんだけには見られたくありません。恥ずか死にます。


「はい。”神林”に初めて入ったときからずっと書き認めています」

「私も、”神の森”に初めて入ったときから書き始めたよ」


 私と一緒ですね。私は半生ですけど、アリスさんはどれくらいだろう。私より少し大人に見えます。


「一緒、ですね」

「うん、一緒」


 アリスさんが柔らかい笑みで、一緒を強調して言いました。一緒……アリスさんと、一緒。


 ……と、”神林”の入り口が見えてきました。アリスさんと一緒という事実に、意識がショートしそうになっていたようです。


 私がカチコチと緊張してしまったからか、アリスさんの笑みが大きくなりました。私も、クスリと笑みが零れてしまいました。 


 私達は一緒に笑い合いながら、”神林”へ進んでいきました。



 何気なく一緒に森へ入っていきましたけど、良かったんでしょうか。いや、もう1回入りたかったのはありますよ? でも、着いて行って良かったのかなぁ、と。


 結界が綻んでいるとはいえ、この森は”神の森”とは圧倒的なまでに生命力が違います。そんな森、もう二度入れないかもしれないんです。行きたいんです!


「一緒に行きましょう? リッカさま」


 顔に出ていたのか、アリスさんが笑顔で私に同行を許可してくれました。


「あぅ……顔に出てたかな?」

「えぇ、結構、最初から出ていました、ね」


 顔をむにむにと触り、自分の頬が綻んでいないか確認していた私に、衝撃的な言葉が投げかけられました。最初……から……!?


「ぇ……ぁ」


 顔が一気に紅潮していくのが分かります。アリスさんにバレるのは、避けたかったのです。というより、アリスさん以外も、ですけど……。


「リッカさま、”神林”や”神の森”のことになると人が変わったように無邪気になるんですもの」

「ぁ……きゅぅ」


 アリスさんがくすくすと笑います。全部バレてました。おかしーなー、同級生にはバレたことなかったのになー……。私の気持ちを読みきったのは、私が知る限りアリスさんと母だけです。


 私は奇声を出すことしか出来ません。完璧に隠せていたと思っていた森に対する感情を読まれ、恥ずかしさで頭がいっぱいいっぱいでした。


 だから、私の横で……拗ねたような、それでいて優しさに満ちた顔で微笑むアリスさんを見逃しまうのでした。


 私が羞恥から回復して、暫くはお互いのことを話しながら歩きました。


 お互いの好きな食べ物を話しては。


「私、スープ料理がすきなんです、だから一生懸命練習したんですよ?」

「アリスさんのスープ大好きだよ」


 アリスさんの顔が赤くなってしまったり。


 お互いの得意なことを話しあっては。


「運動が得意かなぁ、武術関係は一通りやったけど、護身術と剣術が一番しっくりきたかな?」

「だから、いきなりのことでもあそこまで戦えたのですね。心臓が裂けそうなほど、心配したんですよ……でも、かっこよかったです」


 赤くさせられたり。


 お互いの昔話など、色々と。そして、湖につき、日記を沈めて、森から出て行きました。


 これは本当に、誰にも話すつもりのない事ですけれど――”森”よりも、アリスさんとの会話が楽しかったですね。


 こんな事初めてです――――って、アリスさんと七花さんくらいしか一緒に入った人は居ないんですから、初めてっていうのもおかしな話ですね。



 夕食の食卓には、昨日受けた歓迎よりも更に豪勢な料理が並んでいました。でも、スープはありません。日記を持って行っていて、時間がなかったのです……。


 誰にもバレないようにひっそりと落ち込んでいたつもりでしたけれど。


「その、これからは毎日作れますからっ」


 と、アリスさんからの言葉に元気を取り戻しつつ、この集落で最後になる晩御飯を食べました。


 やっぱり、アリスさんにはお見通しなのです。


 食後、ゲルハルトさまからの”お役目”への激励を受けました。


「過酷な旅になろうが、二人でなら、やれよう」


 祈りと想いを受け、晩餐会は終わりました。


 あと……ゲルハルトさまからの鋭い視線は、もうありませんでした。




 私は今、お風呂につかっています。本当は、朝も入りたかったのですけど、順番制というのを聞いていたので、入って良いか聞き辛かったりしました。後、神さまのことでいっぱいいっぱいだったのです。


「はぅ……ふぅ」


 変な息がもれてしまいます。自分が思っている以上に疲れていたようで、このまま寝てしまいそうになります。


 ぼーとしながらも、私の頭では今後でいっぱいでした。


 アリスさんを守るために、一緒に居続けるために、失わないために……。


(アリスさんを想うと、強くなれる気がする。落ち着く)


 アリスさんのことでいっぱいになる頭を、別のことを考えることで落ち着かせます。


「明日からは、こんな風に入れないかもしれないし」


 王国、そう聞いています。詳しい説明は道すがら聞く予定です。


「王国、かぁ……お風呂文化なのかな」


 ここがお風呂だから、そうなのかな? でももしかしたらシャワーだけ? 聞く予定ですけど、思考は新天地に向いていました。


「――いっぱいつかっておこ」


 次いつ湯船に浸かれるか分からないので、しっかりと堪能しましょう。


(――-少し……のぼせてきたかも? あがりましょ――)


 そのとき、ガタッっと扉が開き、綺麗な、銀色の髪と、白い肌が――。


「あぅ……」


 私は意識を、手放してしまいました。


 湯船に倒れこむ私の耳に、「リッカさま!?」と言う声が、聞こえた気が……しました。



 気づくと、アリスさんの部屋のベッドの上でした。


「のぼせて、それで……?」


 顔が紅潮していくのがわかります。最後に見えたのは、夢……?


「また……」


 この部屋で、服を着て、寝ていたということは……私は倒れた上に、アリスさんにまた救われたという事です。


「はぁ……アリスさんに、お礼を言わないと」


 逆に考えましょう。アリスさんが来てくれなかったら大惨事であったと。


 そのとき、部屋の扉が開きます。


「リッカさま?お加減は」


 アリスさんが心配げに、声をかけてくれました。


 お風呂に入ってきたのか、頬が少し紅潮しています。アリスさんがお風呂に入れるくらい、気絶してたようです。


 本当に、心配ばかりかけてしまう、私です。そこには町での便利屋立花さんは見る影もありません。


「アリスさん。ありがとう、お陰で助かったよ」


 体を起こしながら、答えます。


「いえ……無事で、よかったです」


 昨日の今日で、また目の前で気絶してしまったのです。アリスさんが落ち込むのも頷けます。


「少し、のぼせちゃったみたい。もう大丈夫だよ」


 大丈夫であることを示すために、立ち上がります。


「急に立ってはいけませんよ」


 注意を促してくれながらも、私のその姿に安堵してくれたのか、アリスさんに笑顔が戻りました。


「もう、夜も深くなってるね。寝たほうがよさそう、かな?」

「そう、ですね」


 外の様子を伺うと、もう誰も外にはいませんでした。


「……」


 アリスさんが、何か言おうと迷っています。私はそれを、まちます。


「リッカさま、もしよろしければ」


 意を決してアリスさんが声を出しました。


「一緒に、ねませんか?」


 何か言われてもすぐ答えられるように構えていましたが、思考がとまります。


「その、明日から一緒に寝ることもあるかと思いますので……その練習に」

「――――」


 もじもじと言葉を続けるアリスさんが可愛くて、見とれてしまいました。


「そう、だね……。練習、しようか。大事だもんね」


 私は、かろうじてそれだけいえました。


「はいっ」


 アリスさんの満面の笑みに、私に生まれかけた邪な考えは霧散しました。


「リッカさま……」

「なぁに?アリスさん」

「やれるでしょうか……」


 アリスさんが不安そうにいいます。


「やれるよ、私たちなら」

「はい。私たちなら」


 私たちは、手を繋いで、眠りにつきました。



3日目。


いよいよ物語がスタートといったところですか。


前振り長すぎですかね?

間延びしすぎですか・・・。


テンポ、大事。です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人とも可愛いです [一言] 確かに少し長いが、でも面白いです
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