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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
38日目、覚悟なのです
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黒の魔法④



 倉庫の中は整頓されています。銃も、いくつかありますね。


「これは……」

「エッボが作っていた、人を殺す道具です。扱いに注意してください」

「は、はいッ!」


 薬や悪意瓶に意識が向きすぎていました。そうです、銃も……。


「後で、事務所かエッボの私室に行かないと。多分、顧客名簿があるはず」

「悪意瓶や薬、銃の取引先ですね」

「うん。コルメンスさんに渡しておきたいし、私達も写しを貰っておこう」

「倉庫にあるかもしれません。そちらも探します」

「私は悪意瓶探すね」

「はいっ」


 字をまだ満足に読めない私では、名簿を探すのに時間がかかります。役割分担です。


「皆さんは、何か怪しい物があれば回収を。空の瓶には触れないように、私に知らせるだけでお願いします」

「分かりました! 総員捜索開始!」

「ハッ!」


 十畳以上ある倉庫。二十人で探しても時間がかかる程です。手分けしてもらいます。反社会勢力の倉庫です。何があってもおかしくない。


(私物も混ざっていますね)


 使い道が分からない棒や鳥の嘴みたいな道具。拷問器具でしょうか。

 こっちは、完全に拷問器具ですね……。血がついてる。


 兵士の方達も色々と押収しています。銃に始まり、拷問器具、調べ終わった書類や雑誌類。よく分からない粉……危険薬物でしょうか。

 奥の方はまだ手付かずですね。


「リッカさま。名簿はここにはないようです」

「書類自体少ないね」

「あの書類は殺害名簿でした。全てに判が押されていたので、廃棄予定だったのかと」

「かなり分厚かったけど……」

「全て、ですね」


 見たく無い物ばかりですね。早く瓶を見つけて、製造工場に向かいましょう。

 アリスさんと合流して、瓶を探します。

 奥の、この辺りだと思うのですけど。


「あったよ。アリスさん」

「悪意が入っていると確定しているものはどれでしょう。まずはそれを浄化しておきます」

「うん。えっとね――」


 六個ある溜まり切った悪意瓶を取り出します。そして、”箱”と”拒絶の世界”で、瓶ごと浄化しきりました。


「それでは少し、調べましょう」

「うん」


 まずは浄化したての瓶を調べます。開けてみたりじっと眺めたり。


「悪意が吸収されていくようには見えませんね」

「浄化したら機能が消える?」

「他の物も見てみましょう」


 まだ浄化をしてない瓶を手に取ります。でも、何も感じません。


「アリスさん。両手だけに”箱”お願いできるかな」

「はい」


 まだ溜まっていない瓶を開けようと思います。悪意が出て来ても良い様にアリスさんに”箱”をかけてもらいます。


 アリスさんが再度魔力を練ります。


「開けるね」


 魔力が充実した辺りで瓶を開けました。


「出てこないね」

「……」


 アリスさんは思案顔です。


 私も考えます。

 これは、ただの瓶にしか見えません。


「私達は前提を間違えているのかもしれません」

「前提……悪意を、吸収する?」

「はい。これ自体に……それはないのかもしれません」


 吸収機能のない、ただ悪意を留めるだけの瓶という事でしょうか。実際に悪意は留められているのですから。でも、吸収する事は出来ない。だから、これはただの瓶も同然。


「そうなると、さっきの六個の悪意瓶も、エッボのも、歌劇場のも……」

「魔王の仕業、ですね」

「私達の観察もしくは、邪魔?」

「悪意を誰かに貯めてもらい、最終的に魔王が回収する用とばかり……。実際は、魔王が手ずから悪意を込めて居たのでしょう」


 私達の通り道に悪意瓶を用意して、ベストのタイミングで詰めるのです。そして魔王は遠くからそれを見る術がある。


「エッボ戦の時、急に悪意瓶に反応が出た……」

「魔王によって込められたのでしょう」


 思えば、エッボは何故悪意瓶に溜まったと分かったのでしょう。悪意が見えない、エッボに。それは、魔王によって合図を送られたからだと推測します。


 魔法の反応がなかった事から、”伝言”ではありません。そうなると……溜まったら瓶が揺れるとか言っておけば、瓶の揺れに反応してエッボは分かります。


「ここにあった六個は、どう考えよう」

「魔王が、暴発を狙ったのでしょうか」


 悪意が入ってないと思っていたはずの瓶に、悪意が入っていた。それを開けると悪意が噴出します。その場所を汚染する事が可能です。


「これはバラまくつもりだったのかな」

「そうだと思います。六個だけだったのは、分かりませんけれど……」

「それは、直接本人に聞こう」


 魔王とは長い話をすることになるでしょうね。


「一応”箱”の中で開けていくね」

「はい。”浄化”はいつでも出来ます」

「うんっ」


 もしも入っていたらいけないので、全て開けます。全部で六十個程。これくらいでは、私達の推測を確定させるには少ないですけど……そこそこ信憑性を帯びるはずです。


「やっぱり、ないね」

「瓶があるだけで、魔王に悪意を込められる危険性があります。ここで全て割りましょう」

「うん。でも、王都にあるのは開ける事も壊す事も禁じないと」

「そうですね……。私達から離れて時間が経っています。再度悪意を込められていた場合、王都が汚染されます」


 私達が居ない場所で、迂闊な破壊や開封は行えません。悪意を吸収する機能がないと仮定しても、今後の行動には一切……変更がないという事です。瓶を開けるには細心の注意を払いますし、見つけ次第破壊です。


「エリスさんになら、アリスさんも連絡出来る?」

「はい。この距離ならば、私の”伝言”でもまだ通じます」

「お願いしていいかな」

「お任せください。お時間をいただきます」

「うん。私は他にも瓶がないか見てくるよ」


 アリスさんにエリスさんへ、コルメンスさんへの伝言をお願いします。瓶は私達が帰るまで、誰にも触れさせないように保管して欲しいと。




「ありました?」

「リ、リツカ様!」


 急に声をかけた所為か、兵士さんが吃驚して敬礼をしてしまいました。


「空瓶はこ、こ、こちらです!」

「ありがとうございます。お預かりします」

「ハッ!」


 この後も、見つけた人たちから受け取ったのですけど……皆緊張しています。やはり、エッボという強大な組織の倉庫。何があってもおかしくないのです。気を張っている時に声をかけてはいけませんね。


「リッカさま?」

「とりあえず、七個見つかったよ。残りは、皆の探索が終わってからにするね」

「先に開けますか?」

「んー。魔法一回で済ませたいから、待とう?」

「ありがとうございます。こちらは”伝言”を終えました。すぐにコルメンスさんにお伝えしていだけれるとの事です」

「うん」


 形状が少し違う空き瓶。もしかしたら悪意瓶ではないのかもしれませんけれど、私達にはそれが分かりません。魔法によって瓶が悪意を閉じ込める事が出来ているのならまだしも、瓶自体が悪意を閉じ込めています。これでは、科学の領域。感知でどうこうではありません。

 

「エリスさんはどうだった?」

「元気そうでした。後、指輪を大切に保管していると。……少々余計な一言がありましたけれど」

「余計? んー。元気そうなら良かったかな。指輪はどうって?」


 自分の目で確かめて選んだ職人さんによる渾身の品です。信用してないわけではありませんけれど、アリスさんの指を飾る物なのです。綺麗な物がいいです。


「見てからのお楽しみだそうです」

「はは……。だよね……」


 エリスさんなら、言いそうです。


「リッカさまの様子を気にしていましたよ」

「私?」

「はいっ。変わらず可愛く、愛らしく、毎日()()()やっていると答えておきました!」

「仲良しなのは本当の本当だけど、可愛く愛らしいって……」


 私の顔は、燦々と照っている朝陽よりも真っ赤な事でしょう。アリスさんが両手をぽんと合わせ、頬の横に持っていき、首を可愛らしく傾げています。


 あぁ……可愛い。こんな場所でなければ、すぐにでも押し倒すほどの勢いで………抱きしめていたのに。



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