私の守るもの
悪意の王、魔王による脅威。これの打破。そしてその後、神さまの手で世界を調整して、解決。
これが大まかな流れといいます。
魔王は、悪意の塊。しかも、人として生を受けてしまった。だから神さまの手ではどうすることもできないのです。
神さまは、魔王がもしただ人として生きるのなら、それでもいいと言いました。私はそうは思いませんけど、全てを愛すると言った神さまは、そんな魔王ですら愛するといいます。
でも、魔王は世界を壊すために動いているようです。世界に悪意をばらまき、更なる悪意を生み出す。その連鎖。力をどんどんとためていきます。
災害という合図の起きない世界に、神さまは干渉できません。それを知っているのか、悪意を自身に溜め込んでいるのです。一体何が目的で世界を壊すのか、それは神さまにも分からないのです。
『その解釈でいいよ。リツカ。出来のいい子は本当にかわいいね。撫でてあげ』
「……」
神さまが私に近づこうとしましたが、アリスさんが間に入りました。
『初めて会話できた我が子なんだから少しくら』
「いいえ、だめです」
私も、この年齢で撫でられるのは恥ずかしいので、アリスさんの行為が嬉しいです。
それに私は、これからのことに集中していました。
(私の、やるべきこと。魔法を使いこなす。武器を手に入れる。相手を知る。くらいかな……? まずは、これをしないと)
アリスさんを守るために、失わないために。心のメモへ書き込んでいきます。私のやらなければいけないことは多いのです。
(――絶対に失いたくない)
どんなに困難でも、これだけは、この気持ちだけは、なくさない。最悪、私が死んでも――。
そんな私をアリスさんが心配そうに見ていました。
「リッカさま、思いつめないでくださいね……?」
アリスさんの心配を受け、私の心の緊張がほぐれていきます。
「ありがとうございます。アリスさん」
私はアリスさんが居てくれるだけで、力がわいてくるのです。
「ところで、リッカさま」
? アリスさんが、おずおずと私を呼びます。
「そろそろ、敬語は辞めていただいて、構いませんよ?」
「……ぇ?」
「昨日、集落の子たちに話しかけていたように。どうぞ私にもっ」
力強く、私に提案します。
「えっと?」
私は困惑してしまいます。どうしたものかと。
「昨日のリッカさまが自然体に感じましたっ、ですから私にもっ」
目を輝かせ、アリスさんはズイっと私につめよります。そんな私たちを神さまがお腹を押さえ笑いを堪えることなく笑ってみています。
「これから寝食をともにし、旅をするのですっ。さぁ私にもっ」
寝食を共に……。邪な考えが出てくるのを必死に押さえつけます。それにしても、こんなにもぐいぐいくるアリスさんも、いたんですね。
まだ出会って1日もたってないのです。これからもどんどん、アリスさんとは親密になるでしょう。アリスさんの新たな一面を見ることができます。だから――。
「えっと、アリスさん。―――わかり……分かったよ、アリスさん」
私は根負けし、いえ、こうやって私にお願いするアリスさんを無碍にしたくなくて……? 何か違いますね、この感情。とりあえず、お願いを聞き入れることにしました。
「じゃあアリスさんも、敬語やめよ?」
にこり、と意地悪に提案します。
「いえ、私はこれが自然体ですので」
アリスさんは顔を赤くして、しずしずと離れて、高台を降りていこうとします。
「ちょ、ちょっとアリスさーん!」
私は急いで後をついていきます。絶対にアリスさんの敬語なしボイスを聞くんだ。と心のやることメモに追加しつつ。
『まったく、本当にリツカが関わると人が変わる。アルレスィアが他人にあんな提案をするなんてね』
クツクツと鈴を転がしたように笑う神様。
(……でも、いい傾向だ。この調子なら、あのトリガーも――)
神さまの独り言を聞く人は、誰も居ませんでした。