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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
35日目、同じ人間なのです
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『いえら』負の遺産⑥



 町長さんの家に到着しました。この中に、手記があるのですね。


「ごめんください」

「お待たせしました。どうぞこちらへ」


 町長宅の地下に案内されます。


 地下にはランプの光のみで仄暗いです。

 通路にはいくつかの部屋があり、結構な広さを感じます。


「この地下は、魔力を持たなかった者たちが隠れ住んでいた形跡があったとのことです」

「どうやって、魔力を持たなかった者たちと?」

「見たことのない装置や、魔法を使わずに火を起こすための道具などがあったのです」


 火打石や、火起こし器でしょうか。


「魔法を使わずに、ですか」

「木を使って燃やしていたそうです」

「木? 燃料としてですカ?」

「いえ、燃料とは別です」


 魔力がなかった人たちは、向こうの世界と同じ進化を遂げようとしたのかもしれません。

 

「棒で板を削って、摩擦で熱を持った木屑を藁なんかの燃えやすい物に入れて空気を送り込むと、火が出るんだ」

「リツカお姉さんの世界ではそうやって火を起こしてたんでス?」

「もう、何千年も前の話だけどね」


 今ですと、ボタン一つです。


「見たことのない装置というのは?」

「その装置に手記が入っていたのです。壊さないように開けるのが難しく……」


 物を入れておく装置となると――。


「こちらです」

「金庫?」


 いきなり文明が飛躍しました。

 火を起こすのに木を使っていた人たちのところに、金庫。


「”開錠”で良いんじゃないですカ? 私達の船の様に個人認証があるようには思えませんけド」

「仕組みが私共たちの技術とは違うため、”開錠”が反応しなかったのです」


 仕組みを理解していないと、鍵開けの魔法は反応しないようです。


「あの船って、そんな機能あったの?」

「私と巫女さん以外が開けようとしてモ、反応しませン」


 盗賊達は私達の船をこじ開けようとしていましたけど、シーアさんが言うには鍵を持った人以外が開けようとすれば、完全に閉ざされてしまうそうです。


 それを開けるためには、王族の鍵が必要との事。

 盗まれなかったので気にしていませんでしたけど……そうだったんですね。


 そうなるとレイメイさんは怒られ損……。

 しかし、気を抜いていた事が問題だったわけですから……怒った方が良かったのでしょうか。


「本来ならばお姉ちゃんが居ないと開けられませン」


 もし抉じ開けられていたら、しばらく足止めだった訳ですね。

 それならば、怒られても仕方ないとは思います。

 本来ならばという言葉さえ、なければ。


「今は私も持っていますかラ、問題ないですけどネ」


 やっぱり、レイメイさんは怒られ損だったかもしれません。


 

 それにしても、立派な金庫です。鉄製の、ダイヤル式。

 日本に木製のダイヤル式が登場したのは、江戸後半だったと習いましたね。

 

 火は原始的であったのに、この金庫は技術力が跳ね上がっています。

 虐殺が何千年も前と考えれば、この技術力の高さに驚愕すらしてしまいます。


 もし手を取り合っていれば、魔法と機械文明によって全く違う世界を築いていた事でしょう。


 ただ、機械は環境を汚染しますし……。今の環境を維持出来ていたかは微妙な所なんですよね。

 神さまが言っていた事です。機械が発達した世界と、魔法が発達した世界。どちらが良いかなんて、言えないと。


 この技術の差については、考え方を変えてみるべきでしょう。

 魔法によって、向こうの世界とは全く違う進化を遂げた世界。生活が違えば、発展の度合いも変わってくるという事です。


 火を簡単に起こす技術よりも……何かを隠す技術が必要だったと、考えるべきです。


「こちらです」


 真新しい手袋をつけ、丁寧に取り出してくれます。少し扱い方を間違えれば、崩れてしまいそうです。


「これは何れ、王都に渡そうと思っています。コルメンス陛下にならば預けても良いと、町の総意で決まりました」

「おに……陛下は先々代の意思を継ぐ者ですからネ。しっかりと後世に伝えてくれるでしょウ」


 シーアさんが、少しだけ自慢げに頷いています。自慢の兄が褒められて嬉しいといった様子です。


「読む事は、可能でしょうか」


 ここまで劣化が進んでしまっていると……触るのは憚られます。


「原文そのままに書き写した物があります。後ほどお渡しいたしましょう。ぜひ、時間がある時に」

「ご配慮、ありがとうございます」


 時間がかかったのは、模写してくれたからみたいです。


「次は遺骨へ」

「はい。お願いします」


 もう少し奥に進む必要があるようです。


「手記も遺骨も、魔力を持たない者たちでした。手記には当時の様子と、武器と思われる物の設計図などが記されていました」


 移動しながら、町長さんが話してくれます。


「遺骨には、当時受けたであろう魔法の痕跡が見受けられました」


 戦った傷という事でしょう。

 激しい抵抗を行っていた証、ですね。


 武器を作り、少しでも抵抗しようとしていたのです。

 魔法に対抗するために、きっと……飛び道具を作っていたはずです。

 私なら、そうします。


 ”疾風”で瞬間移動してくる敵。それでなくても、魔力により純粋な筋力などが上がっています。

 そんな敵を倒すならまず、詠唱前に喋れなくする。


 だったら、やる事は一つです。銃や弓で、遠くから撃つ。

 しかし、作る前にやられてしまったのか……。はたまた通用しなかったのか。虐殺は、完了してしまいました――。



「町長さんも、考古学者なんですか?」

「いいえ。私は、扱い方を習っただけです」

「考古学者が出入りしているとお聞きしましたけれど、今は居ないのですか?」

「ティモが考古学者でして、仲間たちと発掘していたのです」

  

 てもさんは行方不明になってしまいました。その仲間達も、発掘終了後に、てもが居ないと意味ないからと、解散したそうです。

 

「その後何人かの考古学者が尋ねてきて、先ほどの研究結果をお聞きしました。その学者達も、現物を持っていけないからと最近ではめっきり」


 然るべき場所で、しっかりとした研究をしたいという人たちも居たのでしょう。

 でも、町長さんは拒んだとの事です。ちゃんと還ってくる保証がなかったからです。だから王都に預け、正規の研究に託す事にしたと。


「死者を弔うには、学者の研究は少し騒がしすぎますから」


 てもさん達の後から調べていた学者達は少し、騒がしかったようですね。


 地盤沈下でもあったのか、道はここで止まっています。掘り起こされた場所には、棺桶がありました。中を見せてもらうと、百七十センチ前後と思われる遺骨が眠っています。


「男性ですね」

「どうやって見分けるんですカ?」

「骨盤を見るのが簡単です。女性の骨盤の方が広がっていますから」


 こちらの方の骨盤は、シュッとしています。


「左腕に切断痕があります。右足は……爆発に巻き込まれたようです。右眼底が砕けています。――戦闘の痕です」


 左腕は、骨と骨が鉄でくっ付けられています。強引な治療……。”治癒”なんてものはないので、劣悪な環境下で手術したようです。


 右足は骨が焼けたような痕があるとの事です。高熱で傷口が焼かれたそうです。

 右目の痕は、殴られた? いえ、石飛礫でしょうか。”土”か、マリスタザリアに襲われてしまったのか……。


 戦闘の痕が見えるほど、しっかりと残っています。

 必死の抵抗。生きようとした意志が、ここには詰まっているのです。虐殺を受け入れていた訳じゃないんです。受け入れるはずがない……。


 不条理に奪われた命に、やり場のない悲嘆が生まれてしまいます。


 私は自然と、祈りました。

 アリスさんが、祈りの言葉を紡いでくれます。


 あなたたちを追い詰めた”巫女”を、あなたたちは許さないでしょう。それでも、祈る事を許して欲しいのです。

 

 せめてこれからは、日のあたる場所で静かに眠って欲しい。もう隠れる必要なんて、ないんです。


 安らかな眠りを――。



ブクマありがとうございます!

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