『いえら』負の遺産⑤
「俺はアメリーを幸せにしたいと思った。だから、ティモとして彼女の傷を癒してる。俺は手記や遺骨よりも、彼女を幸せにしたいと思ってる」
白けているアリスさんと私を気にもせず、クラースは話し続けています。
「なぁ。分かっただろ? 俺はハンターをやめたいんだよ。そしてアメリーと暮らしたいんだ」
「ティモとしてか?」
「……そうだよ」
レイメイさんの質問に少し固まって、怒った様子で答えました。
そろそろ――我慢の限界です。
「アメリーさんの為ですか?」
「あぁそうだ。アメリーの傷を癒せるのは俺だけだ」
「俺? あなたではなく、アメリーさんの恋人でしょう」
私は、怒りを込めた口調で切り捨てます。
「だから、俺――」
「貴方はティモさんではありません。クラースという盗人です」
”変化”中は、なり切っていたのでしょう。アリスさんが強い口調で言った事に、クラースは固まっています。
「自分の欲求の為に、騙しているだけですよ」
固まったクラースに、私は追撃をかけます。
「騙してないだろ。アメリーは塞ぎこんでいた。現に何度か自殺すらしたという。それを俺は止めたんだぞ」
「だから、止まったのは恋人が帰ってきたからです。決して、クラースという盗人のお陰ではありません」
自分すらも騙しているのでしょうか。益々――イラつきます。
「盗人でもありませんね。あなたはアメリーさんの傷すら奪えなかった。あなたはただの詐欺師です。アメリーさんを騙して、更に傷つけているだけの――悪夢ですよ」
夢からは覚めなければ。
「あなたはすぐにでも、アメリーさんに伝えるべきです。本当の姿で、アメリーさんを支えるべきです」
確かに、恋人の存在はアメリーさんの中で大きいのでしょう。
だからといって……それを見た人が、恋人になりきって騙して良い事にはなりません。
「自分の姿で、想いを伝えるべきです。嘘で支え続けるよりずっと良い」
このクラースという男は、想いを甘く見ています。
私はアリスさんを間違えません。絶対に。
アメリーさんも、恋人を間違えないでしょう。ただ……縋りたいのです。悪夢であっても。
「たかだか……二十かそこら生きただけのガキが何を……」
「そのガキより長く生きた、二十数年生きた人なのに分からないのはどうかと思います」
「俺は三十――」
「無駄に年を重ねたんですね。私の倍生きても、人を弄ぶ事しか出来ないなんて」
あなたのは恋ではない。
ただ、アメリーさんを使って遊んでいるだけです。自分の欲を満たしているだけです。
「本当の姿を出せないのなら、あなたはさっさと消えるべきでしょう」
私は、怒っています。人の心を弄ぶ、この男に。
自分の想いを自分の姿で言えないなんて、どうかしている。
ハンターだというなら……亡き恋人に縛られてしまい、命すら捨ててしまおうとしているアメリーさんの心の傷を奪いきって欲しいものです。
「あなたは所詮、詐欺師の盗人です。ハンターというには程遠い」
立ち去らないのであれば、兵士を呼ぶまでです。
忘れているのでしょうか。アリスさんは一言で、あなたの魔法を無効化出来るという事を。
真実は時に人を傷つけます。でも、夢程――虚しいものはありません。
現実を知り、一歩を踏み出す。人に備わった、生まれながらの本能。騙されたままでは、進めません。
「レイメイさん。この人は逮捕します。ですけど、アメリーさんの状態が気になりますから、しばらく様子見です」
「あぁ。見張れば良いんだな」
「はい」
アメリーさんの方からも話を聞きます。
精神状態次第では、少し考える必要があります。
アリスさんがシーアさんに連絡を入れました。
詐欺師とアメリーさんを離すために一芝居うってくれたシーアさんに、お礼を言わないといけません。
「ただいま。……? どうしたの、ティモ」
「あ、あぁ。何でもないよ」
まだ言う気はないようです。
この際、町長さんや町民からも聞いておきましょう。
「私達は町の様子を見てきます」
「俺はコイツとちょっと飲んでるわ」
レイメイさんが、親指で詐欺師を指差しました。
飲むのは余り、と言いたい所ですけれど、男同士の酒盛りというのは良い理由だと思ったので了承します。
「はい。では後ほど」
「よろしくお願いします」
「アメリーさんありがとうございましタ」
レイメイさんたちから離れた辺りで、シーアさんに真実を話しました。
「気持ちの悪い男ですね」
周りに聞かれないために共和国の言葉で話した私達の情報に、シーアさんが嫌悪感を顕にしました。
「そうだね」
「アメリーさんを傷つけずに、なんとか解決したいです」
私達の行動方針は決まっています。アメリーさんを傷つける事無く、あの詐欺師から離す事。
「私もアメリーさんから話を聞いてきました」
シーアさんはアメリーさんからの情報収集までしてきてくれたようです。
「三年前、採掘作業中にティモさんは、道具だけ残して行方不明になったそうです」
「原因は、分かってないんだよね?」
「はい。恋人のアメリーさんとの仲も良好、町でも有名な恋仲だったそうです」
恋人を想って、自ら命を絶とうとする人ですから……。
だからこそ、そんなアメリーさんを弄ぶ詐欺師が許せないのです。
「それから二年と少し経って、ティモさんが帰って来たそうです。あのお馬鹿ですね」
「本人は、この町に来てアメリーさんの存在を知ったって感じだったけど……」
「ですね。帰って来た当初、記憶の混濁が激しいみたいで、アメリーさんの事すら覚えていないような状態だったと言っていました」
「では、その後は」
「はい。巫女さんたちが聞いた話から思うに、思い出した振りをして、アメリーさんと恋仲を継続したんでしょう」
恋をしたという話から、最初は盗むための演技だったのだと思います。しかし、アメリーさんを本当に好きになってしまったのでしょう。
「その後は、記憶の混濁が激しいティモさんを支えながら過ごしていたとのことです」
この時点で、穏便に済ませることは不可能だと悟りました。
「今、詐欺師の正体をアメリーさんに教えてしまったら……」
「確実に、傷ついてしまいます」
アリスさんと私は、思わずため息をついてしまいます。
「傷つくだけならまだ良いです。壊れる可能性すらあります」
シーアさんの言うとおり、話を聞く限りアメリーさんの想いは軽くありません。
ただ失っていただけでなく、別の男によって弄ばれていたなんて事になれば……危険です。
「慎重になる必要が、ありそうだね」
少し、考える必要があります。ただ真実を話すだけでは、アメリーさんは壊れてしまいますから。
しばらく、三人で町で聞き込みをしました。
皆さんの浄化後の調子を聞きながら、さりげなくアメリーさんとてもさんの関係を聞いてみました。
そして分かった事は……。
「やっぱり、アメリーさんに伝えるのは……」
「慎重にならざるを得ません」
「ですね」
アメリーさんを知らない詐欺師と、アメリーさん本人には分からない部分を、町民たちはしっかりと教えてくれました。
まさに、死人とも言える程であったアメリーさんの元に帰って来たてもさんですけど、町民たちは人が変わった様なてもさんに不信感を抱いたそうです。
でも、アメリーさんの喜び様を見てしまっては何もいえないと……そのままにしていると。そのままにしているうちに、本当に記憶が混濁しているだけなのかも? と思えてきたそうです。
そんなにも喜んだアメリーさんに現実を突きつけるのは、酷です。でも、夢のままで幸せになるには……あの詐欺師は軽薄すぎます。
アメリーさんへの想いを感じる事が出来たなら、アメリーさんの為に動こうと思っていました。
でも、詐欺師から感じたのは……アメリーさんへの独りよがりな情欲のみ。放置は出来ません。
「巫女様方、準備が整いました」
町長さんからの言付けを受けた人でしょうか。手記や遺骨を見せてもらえるとの報が届きました。
「レイメイさんが見張ってる事だし……先に見せて貰おうか」
「良いんです? また気を抜くかもしれませんよ」
シーアさんは心配しています。
「あそこまでアメリーさんに執着してるから、逃げる事はないと思う。それに、逃げても私ならすぐに追いつけるから」
「逃げたら問答無用で正体を暴きます。そして、アメリーさんをケアするしかありません」
そう何回も失敗を繰り返さないとは思っています。
レイメイさんも、女性の心を弄んでいる詐欺師には怒っているみたいでしたし。
……盗賊の時も怒っていたのに、あれでしたね。




