私と彼女の魔法④
瞳が赤く燃え、ローブの紋様から鮮やかな深紅が輝き出します。
(力が、溢れてくる……。視界がクリアになる)
昨夜ほどではありませんが、それでも劇的に強化される体の調子を確かめます。
『ふむ……昨夜は無理やり発動だったから、色々混じってたのか。これが純粋なイグナスってことだね。初発動にして、この純度』
神さまが期待を込めた目で私を見ます。
「リッカさま……。お体に異常はありませんか?」
アリスさんが私を心配してくれます。
「何も、ありませんよ。アリスさん。むしろ調子がよすぎるくらい」
今なら、守れる。そう自信をもって言えるほどの変化。
『よし、もう解いて大丈夫だよ』
「……ど、どうやってでしょう?」
『あー。集中切ればいいんだが。ふむ……」
神さまが悪戯を思いついた子供のようににやけます。
『アルレスィア、このままじゃ昨夜の二の舞だ。消耗しきって倒れてしまう』
「えっ?」
「それを早く言ってください!!」
アリスさんがものすごい剣幕で神さまを怒鳴り、私を心配そうに強く抱きしめます。
「リッカさま、集中を解いてください! それで魔法も霧散します!」
私は、別のことで集中してしまいます。
(あ……あわわ)
視界がよりクリアになったことで、鮮明さを増したアリスさんが、私の全てを包み込んでいきます。
「はぅ……」
かくして、私の集中は解け、魔法は体から霧散し。顔を真っ赤に染めて、アリスさんにしなだれかかるのでした。
アリスさんが私を心配して寄り添ってくれています。神さまはそんな私たちを、ニコニコと悪戯が成功した喜びと、そして何か別の感情の篭った目で見て居ました。
『とりあえず、”強化”は成功したね』
ええ、成功しました。と、神さまをじとっとした目で見ます。
『次は媒介が必要だね』
「媒介?」
『アルレスィアの杖のようなものさ』
制御を手助けするものでしたよね。
『その認識で間違いないよ。アルレスィアは杖だけど、リツカは杖じゃダメだね。自分を強化して戦うんだ、剣や槍のようなものがいいだろう?』
たしかに、そうですね。杖道も習ってはいましたけど、剣術と武術がメインでしたし……。
『どんなものがいい?』
「んー。刀、が一番いいですけど」
こっちの世界にあるんですかね。というより、私はこれからどんな”お役目”を渡されるのでしょう……。
『刀ね、ないんだよね。鍛冶屋に頼むしかないよ』
しばらくは普通の剣で我慢しておくれ。と神さまがいいました。
『まぁ、代わりは用意しておくよ。人間は殺したくないだろうから、別の武器としてね』
「っ――」
これから私が伝えられるであろう”お役目”。その一端を垣間見たようです。
ちょっと待っていてくれ、と神さまがどこかへ行きました。スッと消えますけど、現れるときもスッと来るんでしょうか。そうだとしたら……驚きすぎてしまいますね。
「私の杖も、アルツィアさまが用意してくれたんです」
神さまがどこかへ行き、待っている間にアリスさんが教えてくれます。
「そうなんですね。私のも用意してくれているんでしょうか」
この際、徒手空拳でも構わない気がしますけど。
「きっと用意してくださいますよ……。”お役目”のことを思えば、必要なことですから」
アリスさんはお役目を知っているようです。でも、その顔には葛藤が見て取れました。
……神さまが教えてくれるのを待つしかないようです。
『お待たせ。これでいいかい』
神さまの手ににあったのは……木の棒。
「木刀、ですか」
見た目は木刀です。強度も、その木が放つ存在感も、普通の木とは段違いですけど。
(アリスさんの杖を見たときと同じ感覚)
『”神林”の奥、そこにある”核樹”から創った木刀だよ』
「ちょ、ちょっと、待ってください。いいんですかそれっ」
そうやって焦る私を、アリスさんが懐かしむように見ます。
『驚き方も――。コホンっ、問題ないよ。私の手によるものだからね』
「でも、干渉することは……」
『”巫女”限定、さ。この抜け道がないとやってられないんだ。世界の運営は』
神さまが初めて見せる、弱音。それに困惑しつつ、木刀に視線を落とします。
『それに、私の姿が見えないとこういったこともできないんだ。あまり意味のない心配だよ』
そうなんです、かね?
『そうなんだよ、リツカ』
神さまと話す間も私は、木刀を抱き締めています。
『核樹で創ったからね、頑丈だし、魔法の伝わりもスムーズだよ』
手に、馴染みます。
抱きしめていると、まるでアリスさんに抱きしめられたときのような……暖かい……。
『恍惚としてるところ、悪いけどね。うん、大事にしておくれ。あと、悪用しちゃダメだよ。しないだろうけど』
一応ね? と釘を刺されました。
「はいっありがとうございます」
思わず声は弾みます。
あの森の木から作られたもの……宝物です。これを悪用なんてとんでもない。しっかりと保管しなければ。
『うん、できれば使っておくれ……?』
心読めるんでしたね。でも使うのもったいないです。
『うれしいやら、なんやら。複雑だよ、私は』
―――アルレスィア、そんな目で見ないでほしい。しかたないんだよ。と、聞こえてきますが、私の目は木刀と森へ注がれていました。
ひとしきり、木刀を愛で現実に戻ってきます。
『やっと戻ってきてくれたかい。アルレスィアの視線にアレ以上晒されたら流石の私も……あぁ、なんでもないよ。聞かなかったことにしておくれ』
? どうしたんでしょう。
『ああ、その木刀はあとで加工するからね』
「えっ?」
と私は疑問を挟む暇なく固まります。
『言ってるじゃないか、媒介だって。それがないと魔法使うのに苦労するよ』
じゃあ、いつかはこれを手放さないといけないと……?
『そうなるね。あぁ……そんなに泣きそうな顔をしないで。その木刀を使って新しい武器作ってもらうんだ、それで我慢しておくれ』
私は露骨に落ち込んでしまいます。
『でもそれまでは、その木刀と、集落にある予備の剣でなんとかしておくれ。昨夜のようなアレの相手には木刀では致命傷を与えられないから』
―――。あれの、相手をまた……?
『……。次はアレのことを話そう。そして世界で今なにが起きてるのかを知って欲しい。”お役目”の話は最後だよ』