表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
前日譚.日常を噛み締めるということ
4/934

立花はおちる  A,D, 2113/02/24



 今日の学園は休みなんですけど、卒業式が近いということでお手伝いをしています。会場の椅子の位置の確認や全体の流れの確認、リハーサルのお手伝いとして在校生代表役などなど。実際の代表は私ではありませんが、今日は都合がつかなかったそうです。


 もともとこの学園は、普段の生活指導が徹底されています。リハーサルもそこまで時間をかけずに終わりました。三年生の方達が、私に手を振りながら出て行っています。少し、もの悲しさを感じてしまいますね。


「お疲れ様、六花さん」

「いえ、大きな問題もなく終わって何よりですよ」


 生徒会長さんからの労わりの言葉と飲み物をもらいました。会長さんも卒業なんですよね。椿を除けば、何だかんだで一番お世話になったかもしれません。


 この学園に生徒会選挙はなく、校長含む教師陣、現生徒会による信任によって選ばれます。つまり今、この学校で一番優秀な生徒さんが会長さんです。


 会長は新三年生から選ばれ、卒業式に移譲されます。一年間の任期中、学園運営のほとんどを任されます。珍しいと思われるでしょうけど、理由があるのです。

 

 この学園の卒業生の三割が、系列大学に進学します。たったの三割です。残りの生徒達はすぐに就職します。何故なら、成績優秀者と生徒会所属者は――高等部卒業後すぐに就職しても、大卒者の待遇と変わらないからです。

 

 この学園ではそれだけの実績つめる上に、生徒会ともなれば信頼をされるということです。そんな学校ゆえに、卒業式は在校生の人生も左右します。失敗は許されないのです。


 ただ、次の生徒会長は大体予想はできています。でもあの子は、大学にいくでしょうね。先輩が待ってますし。ふぅ、惚気話は程ほどにして欲しいです。昨日も結局、夜中までメールが来てましたから。


「六花さんが次の会長でもいいと思うんだよね、私」


 会長さんが私を見ながら爆弾発言。私の成績、会長さんも知ってるはずなんですけどね。スポーツやダンス、音楽以外は全滅ですよ。進学ぎりぎりです。


「私には、その話はきませんよ。会長さん」


 会長さんが眉をよせ怪訝そうに窺っています。実際成績は、進学出来るだけの物があれば良いらしいです。優秀なら優秀なのが一番ですけど、会長さんと教師が選べば問題ないのです。


 だけど私は、成績が関係ないという噂が本当であっても、会長職の話はされません。


「校長から話が来るかと思いますが、私は”巫女”ですので」


 思い出したように会長さんが手を叩きます。


 まー、忘れますよね。もはや形だけみたいな職という認識でしょうし。むしろ良く思い出してくれた、とさえ思います。


 普段の私は、何でも屋みたいに動いています、その姿は、清楚なイメージのある巫女には、絶対に見えないでしょう。


 だから、私に生徒会関係の話はきません。卒業後すぐ巫女として”神の森”に住みます。私に候補者枠を使うことはもったいないので、母にお願いして話し自体こないように仕向けました。


 私は森で住めるのを楽しみにしているのです。そのための根回しは完璧にしています。


 余談ですけど、後にも先にもきっと私だけでしょう。こんなにも早くお役目を継ぐことになるのは。それでも、不安も心残りもありません。本当に神さまがいるかはわかりませんが、あの森を、湖を守れるのは、嬉しいことですから。



 お手伝いを終え、私は今日も森に向かいます。


 ……私は街を歩いていても、ふわふわとした気持ちになります。浮遊感というか、本当に浮いているんじゃないかってくらい、リアリティのある感覚なのです。それは何故か、この季節になるとそれが強くなるのです。


 心が落ち着きません。目に見える光景全てが、しっくりきません。自分はこの世界の住民ではないのでは? とさえ思ってしまいます。景色が遠のく。空が高く、地面が近く。まるで、私が歪んでいるような感覚なのです。


 そんな私ですが、あの森にいると心が落ち着くのです。


 ただ時間が流れる、それだけで満たされていくのです。森と湖と一体化していくような感覚。葉の一枚一枚と会話出来るような、超感覚を手に入れたような。葉を伝い落ちる水滴、それに映った景色さえ見える気がします。


 いつからでしょう。あんなにも溶けるような感覚になったのは。


 覚えているのは、小学校低学年である七歳の頃。初めて森に一人で入ったときでしょうか。気づけば星が輝いていて、従姉妹が探しにきていて、怒られて。母からも、怒られて。


 それでも感じたことのない充足感と、また行きたいという欲求がとまらないのです。だから……私の心の穴を埋めるために、何度も、何度も行きました。森に居ると、私は満たされたのです。

 

  でも、最近は……。


  どうしてあんなにもせつなく

  そして……こころにあながあいているような

  かんかくに、なってしまうのでしょう。

  ものたりない、もっと、もっと――もっとちかくに…………


 私はこの気持ちに気づかない振りをしました。気付くのが私は……嫌いなのです。気付いたらきっと、()()が押し寄せてくるから。



試行錯誤中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ