『いえら』負の遺産
A,C, 27/03/30
夢を……見ました。
そこは、アリスさんの世界。魔王を倒し、平和になった世界。
アリスさんが、ちゃんと隣に居てくれている世界。平和になっても、私とアリスさんの関係は変わらず、ずっと一緒に居ることができる世界。
共和国でシーアさんの案内を受けている光景。
雪山で、アリスさんと遊ぶ光景。
私の名前。アリスさんがくれた、リッカという名前の元である雪。アリスさんが、そこに飛び込みました。
私は、後を追って飛び込み、アリスさんと抱き合って――。
王都で、レイメイさんとライゼさんと一緒に、王国の兵士たちに剣術を教えている光景。
椅子に座ってその光景を眺める、アリスさんとシーアさん。
レイメイさんとライゼさんが模擬戦を行って、レイメイさんがぼこぼこにやられて――。
王都を歩く光景。
アリスさんと私、シーアさんエルさん。エリスさん、アンネさん……。女子会、というのでしょうか。
ロミーさんとリタさんのお店に寄ったり、ラヘルさんのお店に寄ったり。途中でクランナちゃんに出会ったり。
何故か神さまも居て、皆で笑いあう光景。
私は、こんな未来が――。
「リッカさま」
「ぅ……ん」
「おはようございます」
アリスさんの微笑みに迎えられて、起き上がります。
「おは、よぅ」
「はいっ」
アリスさんに頭を撫でられながら、まどろみから醒めていきます。
そうでした。昨夜考えていた事を、実行しないと……。
「アリスさん」
「はい。どうしました?」
「私を、好きにして?」
「………へ?」
「いいよ。アリスさんなら」
まだ眠気が残っています。でも、ちゃんと言わないと。
「何でも、言って?」
「ぁ……は、ぅ……」
アリスさんの白い肌はどんどんと熱を帯びていきます。
私にもたれかかるように、胸に顔を埋めてぎゅぅっと力を込めて抱きしめてくれます。
「その権利は、いつまででしょう」
「んー。ずっと?」
「回数の程は」
「アリスさんが望むなら、何度でも」
「では、一回目は……。このまま」
アリスさんに押し倒されるように布団に戻っていきます。
再び、アリスさんの香りと温もりに包まれて――まどろんでいきました。
「今日はイェラへ向かいましょう」
「どんな町なんだろう」
朝の修行を終えたので、朝食を食べています。
今日はいえらという町に行くそうです。
「ここも住宅地と聞いていますけれド」
「聞いた話だが、何でも虐殺時代の記録とか遺体が見つかったそうだ。考古学者が出入りしてるってよ」
レイメイさんが、いえらについて補足しました。元締めさんから聞いたのでしょうか。
「元締めさんから聞いたんでス?」
「あぁ」
「でしたら確かな情報ですネ」
「おい」
あ、この冷やしおでんみたいなのおいしい。魚介ベースの出汁です。出汁だけでこの味わい深さ。
京都の料理ってこんな感じなのでしょうか。口に入れるとふんわりと香ってきます。
噛めばじんわりと出汁を感じ、大根であれば大根の、人参であれば人参のうまみがぎゅっと出てきます。
練り物は出汁を良く吸っています。アリスさんの料理は、出汁を食べる楽しさがあります。
「カセンツん時も俺の方が合ってたろうが」
「私は確かに皮肉屋ですけド、今回は違いますヨ」
「何?」
「誰とも知れない人の情報ではなク、元締めさんからの情報だから確かって話でス」
「紛らわしいんだよ!」
「まァ、私も悪かったとは思いまス。散々弄ってきましたからネ」
「……」
「サボリさんに対する不信も少しだけあったとはいエ、言い方が悪かったでス」
「お前は他人を弄らねぇと気がすまねぇのかよ」
「生きがいでス」
今日は和食みたいな味わいです。このパンも、米粉パンの様な味がします。
「リッカさま。どうですか?」
「今日もおいしいよ! このお出汁は何で取ったの?」
「お魚のアラとお野菜のブイヨンですね」
魚介やお肉などの動物性食材は、昆布や野菜と合わせるとうまみに深さが出ます。
味の深さは動物性と植物性の相乗効果。
味が澄んだように感じるのは、丁寧な灰汁取りによるものでしょう。
雑味のないスッとした舌触り、喉を通る時、清涼感さえも感じる程です。
「すっごくおいしい」
「良かったです」
アリスさんが目を細めて微笑みます。朝の陽光に照らされ、神々しさすら感じます。白銀の髪がキラキラと煌いているのです。
「次のイェラまでは二時間程でス」
「日課は終わった?」
「日課じゃねぇ」
違うんですか。毎朝シーアさんに弄られるのが日課だと思っていました。
「日課ですヨ」
「それはてめぇだけだろ」
楽しんでないと毎朝付き合ってあげないと思うんですよ。
朝食を食べた後、出発します。
いえら、ですか。虐殺時代の記録、遺骨が発見されたという。
その時人々はどんな気持ちで生きていたのでしょうか。全員が、聖伐の名の下に虐殺を行っていたのでしょうか。それとも、罪悪感を感じていたのでしょうか。
記録と遺骨は、魔力を持った人のものなのでしょうか。それとも、犠牲となった――。
どちらであっても、その時の想いを知るチャンスかもしれません。
私はまだ、両極端しか知りません。
聖伐を信仰した司祭と、聖伐は虐殺だったと考えてくれたコルメンスさん。
中立である神さまは、多くを語りませんでした。自身が生んでしまった悲劇だから、どちらの味方にも、なれなかったのです。
今回のチャンスは、神さまがくれたものかもしれません。自分の目で見て確かめろと、言っている気がします。
私は聖伐を否定します。それを貫くために、知らなければいけません。”巫女”も他人事ではないのですから。
しかし……考古学者はそれを知って、どうするのでしょう。学会で発表したとして、どの様な結論を出すことになるのでしょうか。
行けば、分かりますね。
食器洗いを少し中断して、甲板に向かいます。
「まずは」
「マリスタザリア狩りですね」
近くに、出現したようです。
「シーアさん。マリスタザリアが出たみたいだから」
「俺にやらせろ」
「分かりましたから」
盗賊では満足に戦えなかったみたいですし、物足りなかったようです。
「どちらでス?」
「北側。目視出来ると思う」
「では止めましょウ」
段々と動物が戻ってきたのかもしれません。これからは、野良マリスタザリアにも気をつけなければ。
「お手伝いは必要ですカ」
「いらねぇ」
「悪意だけ見たら、余り強くはないと思う。でも、隠せるなら小さく見せることも出来るはずだから、注意だけはしておいて」
「はイ。一応船番しておきまス」
アリスさんと私、レイメイさんは船を降りて問題の場所へ向かいます。
「ヒッ……」
「あ? おい赤いの――」
活歩で加速し、刀を抜きながら魔法を発動させた私は、今まさに襲われようとしている人の前に躍り出ます。
相手は、犬……ですよね。
「下がってください」
「え? あ……」
いきなり言われても、動けませんか。
目の前に集中します。私の後ろは気にする必要はありません。
犬が、視界から居なくなりました。
(”疾風”――じゃない。身体能力でこの速度)
私の”強化”、全力発動くらいの動きを見せてきます。
驚く事はありません。
相手に嗜虐性はなく、殺意が高い。そしてまだ、野生が強い。
(私より、戦意をなくした弱者を狙う)
獣の本能が勝るなら、後ろで震えている男性を襲うはずです。
「な、なんとかしてちょうだい!」
気の抜けるような声と女性の様な話し方に、少し力が抜けます。
(男性、だよね?)
気にするのは、後ですね。
男性の後ろに迫った犬目掛けて刀を振り下ろす。これくらいなら、避けます。
だから――。
「想いを乗せた――光の蹴撃!」
刀の振りに合わせた突き返し蹴り。
足は犬の顔へ迫る。でも犬は、大口を開けています。
私の脚を、餌だと思ってくれたようです。
「――シッ!!」
”光”と”強化”を纏った蹴撃。
口が閉じきり、私の脚を噛み砕くよりも速く――犬の顎より上は、消し飛びました。
餌と思って動きを止めてくれれば良し。避けても、次の一閃は避けられないでしょう。
攻撃の選択肢が増えるって、良いですね。
「おい。俺がやるっつっ」
「リッカさま。大丈夫ですか」
「うん。ありがとう、アリスさん。アリスさんも怪我はない?」
「はい」
私が後ろを気にしなかったのは、アリスさんが居てくれたからです。
盾を張る必要もない程の相手でしたけど、長引けば危険も増しましたから。
「おい」
無視する形になってしまって申し訳ないです。アリスさん優先ですから。
「人命優先です」
「チッ……。おい女。無事か」
なんというか、配慮が行き届いていますね。しっかり女性として扱うなんて、思いませんでした。
「あら、ありがとぉ。坊や。少し腰が抜けちゃったけど、大丈夫よぉ」
気を取り乱していましたけれど、落ち着きを取り戻したみたいです。
「坊やって年齢じゃねぇ……」
「そっちの可愛い子たちもありがとぉ」
大袈裟なジェスチャーで感謝を表現しています。主に、くねくね? とした感じに。
「こんな場所で何をしていたんですか?」
護衛もつけずに……と、思いましたけれど。
王都やだるしうのような大都市でないと、護衛なんて居ませんね……。
「イェラに帰る途中だったのよぉ」
「一人で、ですか?」
生物学上は男性といっても、一人で移動するには危険すぎます。
「えぇ。そうよぉ」
このままでは、そのまま一人で行ってしまいそうですね……。
「私達もこれからいえらに向かうので、一緒に行きますか?」
「あらぁ……。でもそうなると……」
何か問題があるようです。どうしたのでしょう。
そうこうしていると、シーアさんが船をこちらに寄せてくれました。
「とりあえず、船の中で話しましょう」
ここだと落ち着けないでしょうから。
ブクマありがとうございます!
3桁嬉しいです!
これからもよろしくお願いします!




