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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
35日目、同じ人間なのです
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『いえら』負の遺産

A,C, 27/03/30



 夢を……見ました。

 そこは、アリスさんの世界。魔王を倒し、平和になった世界。


 アリスさんが、ちゃんと隣に居てくれている世界。平和になっても、私とアリスさんの関係は変わらず、ずっと一緒に居ることができる世界。


 共和国でシーアさんの案内を受けている光景。

 雪山で、アリスさんと遊ぶ光景。


 私の名前。アリスさんがくれた、リッカという名前の元である雪。アリスさんが、そこに飛び込みました。

 私は、後を追って飛び込み、アリスさんと抱き合って――。


 王都で、レイメイさんとライゼさんと一緒に、王国の兵士たちに剣術を教えている光景。

 椅子に座ってその光景を眺める、アリスさんとシーアさん。

 レイメイさんとライゼさんが模擬戦を行って、レイメイさんがぼこぼこにやられて――。


 王都を歩く光景。

 アリスさんと私、シーアさんエルさん。エリスさん、アンネさん……。女子会、というのでしょうか。


 ロミーさんとリタさんのお店に寄ったり、ラヘルさんのお店に寄ったり。途中でクランナちゃんに出会ったり。

 何故か神さまも居て、皆で笑いあう光景。


 私は、こんな未来が――。

 



「リッカさま」

「ぅ……ん」

「おはようございます」


 アリスさんの微笑みに迎えられて、起き上がります。


「おは、よぅ」

「はいっ」


 アリスさんに頭を撫でられながら、まどろみから醒めていきます。


 そうでした。昨夜考えていた事を、実行しないと……。


「アリスさん」

「はい。どうしました?」

「私を、好きにして?」

「………へ?」

「いいよ。アリスさんなら」


 まだ眠気が残っています。でも、ちゃんと言わないと。


「何でも、言って?」

「ぁ……は、ぅ……」


 アリスさんの白い肌はどんどんと熱を帯びていきます。

 私にもたれかかるように、胸に顔を埋めてぎゅぅっと力を込めて抱きしめてくれます。


「その権利は、いつまででしょう」

「んー。ずっと?」

「回数の程は」

「アリスさんが望むなら、何度でも」

「では、一回目は……。このまま」


 アリスさんに押し倒されるように布団に戻っていきます。

 再び、アリスさんの香りと温もりに包まれて――まどろんでいきました。

 



「今日はイェラへ向かいましょう」

「どんな町なんだろう」


 朝の修行を終えたので、朝食を食べています。

 今日はいえらという町に行くそうです。


「ここも住宅地と聞いていますけれド」

「聞いた話だが、何でも虐殺時代の記録とか遺体が見つかったそうだ。考古学者が出入りしてるってよ」


 レイメイさんが、いえらについて補足しました。元締めさんから聞いたのでしょうか。


「元締めさんから聞いたんでス?」

「あぁ」

「でしたら確かな情報ですネ」

「おい」

 

 あ、この冷やしおでんみたいなのおいしい。魚介ベースの出汁です。出汁だけでこの味わい深さ。


 京都の料理ってこんな感じなのでしょうか。口に入れるとふんわりと香ってきます。

 噛めばじんわりと出汁を感じ、大根であれば大根の、人参であれば人参のうまみがぎゅっと出てきます。


 練り物は出汁を良く吸っています。アリスさんの料理は、出汁を食べる楽しさがあります。


「カセンツん時も俺の方が合ってたろうが」

「私は確かに皮肉屋ですけド、今回は違いますヨ」

「何?」

「誰とも知れない人の情報ではなク、元締めさんからの情報だから確かって話でス」

「紛らわしいんだよ!」


「まァ、私も悪かったとは思いまス。散々弄ってきましたからネ」

「……」

「サボリさんに対する不信も少しだけあったとはいエ、言い方が悪かったでス」

「お前は他人を弄らねぇと気がすまねぇのかよ」

「生きがいでス」


 今日は和食みたいな味わいです。このパンも、米粉パンの様な味がします。


「リッカさま。どうですか?」

「今日もおいしいよ! このお出汁は何で取ったの?」

「お魚のアラとお野菜のブイヨンですね」

 

 魚介やお肉などの動物性食材は、昆布や野菜と合わせるとうまみに深さが出ます。

 味の深さは動物性と植物性の相乗効果。

 味が澄んだように感じるのは、丁寧な灰汁取りによるものでしょう。

 雑味のないスッとした舌触り、喉を通る時、清涼感さえも感じる程です。


「すっごくおいしい」

「良かったです」


 アリスさんが目を細めて微笑みます。朝の陽光に照らされ、神々しさすら感じます。白銀の髪がキラキラと煌いているのです。


「次のイェラまでは二時間程でス」

「日課は終わった?」

「日課じゃねぇ」


 違うんですか。毎朝シーアさんに弄られるのが日課だと思っていました。


「日課ですヨ」

「それはてめぇだけだろ」


 楽しんでないと毎朝付き合ってあげないと思うんですよ。



 朝食を食べた後、出発します。

 いえら、ですか。虐殺時代の記録、遺骨が発見されたという。


 その時人々はどんな気持ちで生きていたのでしょうか。全員が、聖伐の名の下に虐殺を行っていたのでしょうか。それとも、罪悪感を感じていたのでしょうか。


 記録と遺骨は、魔力を持った人のものなのでしょうか。それとも、犠牲となった――。

 どちらであっても、その時の想いを知るチャンスかもしれません。


 私はまだ、両極端しか知りません。

 聖伐を信仰した司祭と、聖伐は虐殺だったと考えてくれたコルメンスさん。


 中立である神さまは、多くを語りませんでした。自身が生んでしまった悲劇だから、どちらの味方にも、なれなかったのです。

 

 今回のチャンスは、神さまがくれたものかもしれません。自分の目で見て確かめろと、言っている気がします。

 私は聖伐を否定します。それを貫くために、知らなければいけません。”巫女”も他人事ではないのですから。


 しかし……考古学者はそれを知って、どうするのでしょう。学会で発表したとして、どの様な結論を出すことになるのでしょうか。

 行けば、分かりますね。


 食器洗いを少し中断して、甲板に向かいます。


「まずは」

「マリスタザリア狩りですね」


 近くに、出現したようです。


「シーアさん。マリスタザリアが出たみたいだから」

「俺にやらせろ」

「分かりましたから」


 盗賊では満足に戦えなかったみたいですし、物足りなかったようです。


「どちらでス?」

「北側。目視出来ると思う」

「では止めましょウ」


 段々と動物が戻ってきたのかもしれません。これからは、野良マリスタザリアにも気をつけなければ。


「お手伝いは必要ですカ」

「いらねぇ」

「悪意だけ見たら、余り強くはないと思う。でも、隠せるなら小さく見せることも出来るはずだから、注意だけはしておいて」

「はイ。一応船番しておきまス」

 

 アリスさんと私、レイメイさんは船を降りて問題の場所へ向かいます。


「ヒッ……」

「あ? おい赤いの――」


 活歩で加速し、刀を抜きながら魔法を発動させた私は、今まさに襲われようとしている人の前に躍り出ます。


 相手は、犬……ですよね。


「下がってください」

「え? あ……」


 いきなり言われても、動けませんか。


 目の前に集中します。私の後ろは気にする必要はありません。

 犬が、視界から居なくなりました。


(”疾風”――じゃない。身体能力でこの速度)


 私の”強化”、全力発動くらいの動きを見せてきます。


 驚く事はありません。

 相手に嗜虐性はなく、殺意が高い。そしてまだ、野生が強い。

 

(私より、戦意をなくした弱者を狙う)


 獣の本能が勝るなら、後ろで震えている男性を襲うはずです。


「な、なんとかしてちょうだい!」


 気の抜けるような声と女性の様な話し方に、少し力が抜けます。


(男性、だよね?)


 気にするのは、後ですね。

 

 男性の後ろに迫った犬目掛けて刀を振り下ろす。これくらいなら、避けます。

 だから――。


想い(【グフュ・)を乗(アンズィ】)せた―(=【フラス)―光の(・トリィツ】)蹴撃(・オルイグナス)!」


 刀の振りに合わせた突き返し蹴り。


 足は犬の顔へ迫る。でも犬は、大口を開けています。

 私の脚を、餌だと思ってくれたようです。


「――シッ!!」


 ”光”と”強化”を纏った蹴撃。

 口が閉じきり、私の脚を噛み砕くよりも速く――犬の顎より上は、消し飛びました。


 餌と思って動きを止めてくれれば良し。避けても、次の一閃は避けられないでしょう。

 攻撃の選択肢が増えるって、良いですね。


「おい。俺がやるっつっ」

「リッカさま。大丈夫ですか」

「うん。ありがとう、アリスさん。アリスさんも怪我はない?」

「はい」


 私が後ろを気にしなかったのは、アリスさんが居てくれたからです。

 盾を張る必要もない程の相手でしたけど、長引けば危険も増しましたから。  


「おい」


 無視する形になってしまって申し訳ないです。アリスさん優先ですから。


「人命優先です」

「チッ……。おい()。無事か」


 なんというか、配慮が行き届いていますね。しっかり女性として扱うなんて、思いませんでした。


「あら、ありがとぉ。坊や。少し腰が抜けちゃったけど、大丈夫よぉ」


 気を取り乱していましたけれど、落ち着きを取り戻したみたいです。


「坊やって年齢じゃねぇ……」

「そっちの可愛い子たちもありがとぉ」


 大袈裟なジェスチャーで感謝を表現しています。主に、くねくね? とした感じに。


「こんな場所で何をしていたんですか?」


 護衛もつけずに……と、思いましたけれど。

 王都やだるしうのような大都市でないと、護衛なんて居ませんね……。


「イェラに帰る途中だったのよぉ」

「一人で、ですか?」


 生物学上は男性といっても、一人で移動するには危険すぎます。


「えぇ。そうよぉ」


 このままでは、そのまま一人で行ってしまいそうですね……。


「私達もこれからいえらに向かうので、一緒に行きますか?」

「あらぁ……。でもそうなると……」


 何か問題があるようです。どうしたのでしょう。


 そうこうしていると、シーアさんが船をこちらに寄せてくれました。


「とりあえず、船の中で話しましょう」


 ここだと落ち着けないでしょうから。



ブクマありがとうございます!

3桁嬉しいです!

これからもよろしくお願いします!

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