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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
34日目、手がかりなのです
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『じおるあ』赤い瞳⑥



「どうですか。ウィンツェッツさん」

「あぁ……」


 ウィンツェッツが、元締めことスヴェンにお酌を受けている。


「すまねぇな。行き成り押しかけて」

「いえいえ。巫女様達とウィンツェッツさんなら大歓迎ですよ」

「恩に着る」

「息子の恩人ですから」

「それは――」

「ウィンツェッツさん、それはもう終わっています」

「あぁ……」


 スヴェンに促されるままに、ウィンツェッツは酒を飲んでいく。


「ライゼルト様とウィンツェッツさんのお陰で、息子達もやっと……冒険者ごっこから脱却できました」

「昔から冒険者の真似事をしてたのか?」

「えぇ。ヴィリ達は父親が冒険者ですからね。息子も影響を受けました」


 少年グループに居る五人中三人が冒険者の子供だ。


「人々の為に戦う姿というのは、男の子にとっては格好良く見えますから」


 お酒を飲みながら自嘲するように、スヴェンが笑う。


「その点私は……」

「……」

 

 拉致監禁事件の際、スヴェンは身代金受け渡しに応じた。そしてお金を渡した後、犯人の一人に倒されてしまった。

 冒険者ならば自衛どころか、息子を助ける事だって可能だったかもしれない。

 息子が憧れている冒険者と自分を比べて、惨めさを感じているようだ。


「息子の為に、形振り構わず出来る事をやれるってのは……格好良いんじゃねぇか」

「え……?」


 ウィンツェッツが気恥ずかしそうに話す。


「戦うだけが、助けるって事でもねぇだろ」

「ウィンツェッツさん……」

「アイツも何れ分かるだろうよ。親父が如何に自分の事を大切に想ってるかを」


 まるで自分の事の様に話す姿に、スヴェンは柔らかい笑みを浮かべた。


「貴方が息子の憧れで良かった」

「止めてくれ……。そういう柄じゃねぇ」


 お酒をぐいっと飲み下し、照れ隠しする。


「程ほどにしませんと、レティシア様に怒られてしまいますよ」

「アイツは俺の保護者じゃねぇぞ……?」


 程ほどにと言いつつ、スヴェンはウィンツェッツにお酌する。

 

「次はどちらへ向かうのですか?」

「あぁ……」

(これは話しても良いのか? もうこの人は知ってるし、良いのか?)


 ウィンツェッツは話して良いか迷っている。


 しかし――。


「チビしか知らねぇんだよ。舵はアイツが持ってるからな」

(つーか今更だが、なんでアイツが行き先決めてんだ?)


 リツカはこちらの世界の地理に疎く、アルレスィアは一応知ってはいるものの、話でしか聞いた事がない。

 ”巫女”二人はレティシアが行き先を決めて欲しいと頼んでいた。


「そうでしたか。一つ一つ巡るという事ですし、次は北東のイェラか北のプレマフェかと思いましたけれど」

「プレマフェには行った事あるな。オペラがあるんだったか」

「えぇ、はい。こちらで買い物をしたご婦人たちは、プレマフェへ行く事が多いですね」

 

 オペラとは歌劇。通常の劇と違い、演者は台詞を歌い上げる。

 マイクを使わずに広いホール全体に声を届ける高い歌唱力と表現力は、見聞きする者全てを感動させる。


「イェラには何かあるのか?」

「元々は何も無い所でしたが、最近は考古学者が出入りしています」

「考古学?」

「はい。遥か昔、まだ虐殺が行われていた時代の遺物が出たとかで」

「遺物、ねぇ」

「何でも、手記や骨などが出たとか」

(アイツ等は絶対に行くだろうな)


 この情報を渡せば、予定に無かったとしてもイェラは候補に入るだろう。

 先を急ぐ旅という事は認識している。レティシアがイェラの話をしない限りは黙っておこうと、ウィンツェッツは結論を出した。


「……ダルシュウがマリスタザリアに襲われたというのは、本当ですか?」


 急な質問にウィンツェッツは眉を寄せる。

 しかし、スヴェンの真剣な眼差しに、ウィンツェッツは負けるように答えた。


「あぁ。一体だけだったがな」

「あの町が最後に襲われたのは三ヶ月前です。その前は一年前と、滅多に出ないのです」

「三ヶ月で一体なら、そんなに驚く事ねぇんじゃねぇか? 王都なんざ、毎日だったろ」

 

 何となく、言いたい事は分かっている。

 魔王の敵である巫女がやって来て、マリスタザリアが出てきた。

 関連付けてもおかしくはない。


「王都には優秀な冒険者が多く居ました。ですが、他の町に英雄は居ない」


 直接的な言葉は使わないけれど、表情が物語っている。

 ”巫女”を襲いに来たマリスタザリアだったと、ダルシュウの一部では思われていると。


「あの町長は、化け物にも負けない屈強な兵と言っていたが」

「まさか。巫女様たちの様に単独で倒せる力はありませんよ」

(そういや王都の兵士も強い訳じゃなかったな。化け物相手じゃ、防衛が精一杯ってとこか)


 剣術により物理的なダメージを与えられるリツカとウィンツェッツ。攻撃魔法の威力が世界でも随一のレティシア、対マリスタザリアにおいて切り札となるアルレスィア。


 攻撃魔法を持っていても、マリスタザリアを殺せるほどの想いを紡ぐのは、容易ではない。

 殆どの者は、マリスタザリアの姿と雄叫びに――心が折れてしまう。


「戦争の傷痕は大きい。皆怖いのです」


 理解して欲しいと、スヴェンは頭を下げる。


(理解も何も、事実だからな。巫女を襲いに来たってのは)


 ウィンツェッツはどう答えるべきか迷っている。


「俺からは、何も言えねぇ」

「えぇ。私の愚痴と思って、聞き流してください」


 巫女達には、息子を助けてもらった恩がある。演説も聞き、心打たれた。

 だけど、ダルシュウの町長とも親交がある。気持ちも分かる。自身も、何時襲われるか分からない恐怖と戦っているからだ。


「何故、マリスタザリアなんてものが居るのでしょう……」

「人間の罪って奴なんじゃねぇか」

「ははは……。ありえそうだ」


 すっかり酔いが醒めたと、ウィンツェッツが酒を呷った。




「お待たせしましタ」

「迷ってたみたいだね」

「良いのは見つかりましたか?」

「はイ。ペリドットのネックレスヲ」


 黄色が薄く混ざった緑色が綺麗なペリドットです。エルさんの金髪に合いそうですね。


「お二人のはもう少しですカ」

「はい。もう少しお時間をいただきます」


 録音機自体にも結構装飾がついていました。あれも、本当の宝石ですよね。


 だからでしょうか、結構なお値段でした。

 外側には装飾が散りばめられていて、買った宝石は内側につけてもらえます。


 ”転写”て撮った写真なんかも入れられるくらいの小物入れになるので、アリスさんの声を聞きながら写真を見れます。

 

「録音機でしたっケ」

「うん」

「巫女さんは”録音”出来るんでス?」

「一応、上級の一段階といったところです」

「それでしたラ、問題ないですネ。多少劣化はしますけれド、気になるほどではないでしょウ」


 ”録音”は、音を閉じ込める魔法です。

 振動を保存する? とかだったと思います。


 下級ではノイズ雑じりの音しか保存できず、上に行くほどノイズが消えていきます。特級ともなると、生の声と変わらないそうです。


 早くアリスさんの歌声欲しいです。

 天使の歌声を以ってしても、アリスさんの歌声には敵わないでしょう。そう確信できます。


 講演の時も、演説の時も、いつも私を守ってくれる詠唱も。アリスさんの声には熱が籠められていました。その熱を歌に乗せたならば、私はきっと――。


「オルゴールにするんじゃなかったんでス?」

「アリスさんのが欲しくて」

「エ?」

「お、お互いの歌声を入れようという話になったのです!」

「あァ、そういウ。そうですよネ。余りにも熱っぽかったものですかラ」

 

 アリスさんの歌声に想いを馳せていたからか、言葉を省略してしまいました。


「何時入れるんでス?」

「平和になった後に、”神林”でかな。あそこなら、森の囁き以外の音がないから」

「リッカさまの歌を万全の環境で録音したいのです」


 森の伴奏とアリスさんの歌声。完璧です!



「お待たせしました」


 商品を受け取り、お会計を済ませます。


「結構大きいですネ」

「小物入れにもなるみたい」


 黒味を帯びています。ローズウッドの様な木で作られているようです。


「またのお越しをお待ちしております」

「ありがとうございました」


 お店から出て、元締めさんの所に戻りましょう。


 買い物が終わったら勝手に入って良いと言われていたそうで、そのまま入ろうとしました。

 でも、吃驚するくらいのお酒の臭いに立ち止まってしまいます。


「水の用意でもしますかネ」

「家を濡らさないようにだけ気をつけてください」


 止める理由もないので、二人共酔いを醒ましてもらいましょう。


 水が二人の顔に直撃します。

 気持ちよく酔っ払っていたと一目で分かりました。

 床に落ちている酒瓶は三本程、二人で飲む量ではないと思います。

 

「もう一回いきますカ」

「い、いえ。もう大丈夫です」

「ぅお……ゲホッ! ゲホッ!」


 咳き込むレイメイさんを無視して、椅子に座ります。


 この町、落ち着いていましたね。

 全体的に悪意は少なく、事件らしい事件はありませんでした。

 だけど――。


「そういえば、ここには盗賊が来なかったんですか?」


 宝石の町です。お金が欲しいならば真っ先にここに来たと思うのです。


「噂の盗賊でしたら、ここは襲われていません。ダルシュウ程ではありませんけれど、警備は万全ですから」


 確かに、警備が万全で当たり前ですね。

 しかし、通りではなくお店の裏や町の外ばかりでしたね。


 警備していると見せることは防犯にも繋がるのですから、しっかりと見回りは見せ付けるべきだと思うのですけど。


「王都から冒険者を雇っています。しかし、一部のお客様達から……町の景観に合っていないからと言われまして、お店の裏や町の外などを見回っています」

「やっぱり成金は嫌いでス」


 シーアさんが不快感を露にしました。


「えっと、何かありましたか?」

「少しだけ」


 苦笑いで、私は答えます。

 もしかしたらあの人たちはこの町のご贔屓で、大切なお客様だったのかもしれません。そんな人たちを完全に言い負かせてしまいました。


「また赤いのかよ。てめぇはいつも――」

「レイメイさん?」

「巫女止めろよ赤いの」

「……? 私は騒ぎを起こすのが得意ですから」


 家の中で暴れるなんてことを、アリスさんはしません。それでも威圧感は本物なので、レイメイさんには効果覿面ですね。

 


 元締めさんとの会話を終え、私達は船に乗り込み町を後にしました。

 少し離れた所で、今日の移動を止めます。


 今日は少し、疲れました。

 

ブクマありがとうございます!

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