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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
34日目、手がかりなのです
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『じおるあ』赤い瞳④


 シーアさんとレイメイさんは、元締めさんと町へ行きました。元締めさんの家で、少し話すそうです。


「アリスさん……。ごめん……」

「謝らないで下さい。エレノラさんも気にしていませんよ」

「……」 


 そうは見えませんでした。


 まだ何か、話したそうにしていたように見えます。

 それなのに、約束という枷で……アリスさんを私優先にしてしまいました。

 自己嫌悪で、涙が零れてしまいます。


「リッカさま」

「アリス、さん」

「私はエレノラさんと友人ですけど、それは彼女が――集落を出る前までの話です」

「どういう、こと?」


 アリスさんが、少し困ったような顔をしています。

 私を慰めるための嘘を言っている訳ではありません。本当の事を、言っています。


「集落での私の扱いは、知っていますね」

「うん……」


 ”巫女”になる前まで、アリスさんは……迫害を受けていました。


「あの方はそういった迫害に関係なく、私と友人になってくれた方でした。子供だったから、大人の話を理解していなかったというのもあるかもしれません」


 クスクスと笑いながら、話しています。


「私はエレノラさんの前では、アルツィアさまの話をしませんでした。ただの友人として接するために。ですけど、彼女は見てしまったのです。私がアルツィアさまと話しているのを」

「……」


 アリスさんの表情は変わりません。思い出を楽しむかのように、話します。


「だからでしょう。大人達が言っていた事を、エレノラさんは理解したのです。そして、私を不気味だと思ったという訳です」

「っ……」


 自分が自己嫌悪で傷ついていた事を、一瞬で払拭し――今度は怒りによって目の前が赤く染まります。


「少し傷つきましたけれど、今となってはそういう物だと思えます」

「……」


 アリスさんが私を、甲板に置かれた椅子に座らせ、抱きしめてくれます。


「人は未知を避けます。避けて遠ざけてしまいます。でも、リッカさまは私に寄り添ってくれました」


 アリスさんが、私を慈しむように頬擦りします。


「私には、リッカさましか見えません。リッカさまが苦しんでいる時に、傍に居られない事の方が嫌です」

「アリスさん……」


 アリスさんを、抱きしめました。

 冷たかった涙は、少し暖かさを手に入れたように、私の頬を優しく撫でている、気がしました。




 恥ずかしい……。

 あれは、嫉妬ですよね……。どうして、何に嫉妬したのかが分かりません……。でも、嫉妬でした……。


 アリスさんに迷惑かけて、アリスさんに過去を話させてしまいました。あまつさえ、友人に怒りまで感じてしまって……。


「うぅぅ……」

「さぁ、可愛いリッカさま。元締めさんのところへ向かいましょう」

「まだ、顔赤いよ……」


 涙で目元も赤いです。頬も……。それに、アリスさんからあんな言葉を貰えて、絶対口元緩んでます。


「それではこちらを」


 アリスさんが私に布を被せます。


「熱が引くまで、被っていましょう」

「うん……」


 アリスさんの手をとって立ち上がり、元締めさんの家まで向かいます。

 シーアさんと合流して、宝石を買いにいかないといけません。


 ひらひらと布が靡きます。その度にちらちらと私の顔が見えるのですけど、影になっているので赤くなっているのはバレないでしょう。

 日差しが強い訳でもないのに布を被っている私に、視線が刺さります。


「やっぱり目立つかな」

「客観的に見ると、確かにこれは危険ですね……」


 アリスさんがしみじみと言います。

 

「見られる――しかし――」

「アリスさん?」

「もう少しで元締めさんの家ですので、そこまで我慢してくださいね?」

「うん」


 アリスさんにだけ見える笑顔で、アリスさんの腕に抱きつきました。


「やはり、危険です……」


 小さく、本当に小さくアリスさんが呟きました。



 元締めさんの家につくと、シーアさんが丁度出てきました。


「もう大丈夫なんですカ?」

「うん。心配かけてごめんね」


 今度はシーアさんがげっそりとしています。


「どうしたの?」

「リツカお姉さんが布を被っている方が気になりますけド、まァ……元締めさんとサボリさんがお酒を飲んでましてネ。あの二人、絡み酒だったので逃げてきましタ」


 祖父のお葬式を思い出しますね。

 普段見ない親戚等がやってきて、お酒を飲むんです。

 そして酔い始めると、お酌して欲しいとか、最近どう? とか聞かれるんです。

 お酌してと言ってきた殆どの親戚が、母に投げられていましたけれど。

 結局一言も話さずに、七花さんに連れ出されましたのを覚えています。

 

「何かと理由をつけて飲みたがるんですかラ、ダメ人間すぎまス」


 シーアさんが呆れた目で嘲笑を浮かべます。


「ダメ人間さんは、しばらくここに居るのかな」

「ですネ」

「それですと、元締めさんに聞くのは無理そうですね」


 この町一番の宝石店を案内してもらおうと思っていたのですけど、無理そうです。


「ご心配なク、ちゃんと酔い始める前に聞いておきましタ」


 流石シーアさん。抜かりありません。


「こちらでス」

「うん」

「お願いします」


 シーアさんの案内を受け、お店を目指します。


 そろそろ、布を外しましょう。


「外してしまわれるのですか?」

「うん。もう大丈夫だから」


 アリスさんが名残惜しそうな表情をしています。私のこの姿が気に入っていたのでしょうか。


 それならまだ着けていようかと思っていたら、安堵にも似た表情になっていたので、布を仕舞いました。


「巫女様方! 宝石をお探しで?」

「もう買う場所は決めていますかラ」

「うちでどうですか!」

「元締めさんから紹介がありましたかラ」


 シーアさんが次々と来る呼び込みを退けていきます。


 なるほど確かに、他のお客さんを差し置いて私達に声をかけています。

 それは逆効果だと思うんです。贔屓は争いの元です。どれ程の集客効果があるか分からないのに。



 結局、紹介のあったお店に行くまでに結構な人に声をかけられました。


「ここでス」


 シーアさんが到着を告げると、呼び込みをしていた人たちは諦めたように去っていきました。その目には敗北感が見え隠れしているように感じました。


「どうやら本当ニ、自他共に認める一番の様ですネ」

「こんなにあっさり諦めるなんて、圧倒的って事かな」

「呼び込みを全くしていません。腕に自信があるのでしょう」


 他のお店は、自身のお店の商品を身につけたりしてお客さんを呼び込んでいます。

 まずお店に入ってもらわないことには、話にならないからです。

 でもこのお店は、完全に呼び込みを排除しています。

 口コミ等の情報だけでやっていける程、繁盛しているお店という事ですね。

 つまり、お値段も張りそうです。


「いらっしゃいませ」

「元締めさんからの紹介で来ましタ」

「はい。連絡を受けております。レティシア様、アルレスィア様、リツカ様ですね」

「はイ」

「ジョルア・シュマクのバプティストです。お待ちしておりました」


 ドレスコードが必要なのでは? と思ってしまう程の豪華さです。表の方は、回りの家と変わらなかったのですけど……。


 シャンデリア。ガラスのショーウィンド。姿見。どれも瀟洒な雰囲気を醸し出しています。


 宝石も、シャンデリアの明かりを受けてキラキラと輝いています。宝石の中で光が瞬いているように見えます。


「お二人はどうしますカ」

「私達は少し見て回ります」

「シーアさんはどうする?」

「私は案内してもらいまス」

 

 店内は案内があった方が良いほどに広いです。でも私達は、買う物が決まっているようなものですから。


 シーアさんが、ばぷてすと、さんの案内を受けています。ある程度の構想はあるのでしょうね。一直線にお店の奥の方へ向かっていきました。


「少し回ろうか」

「はい」


 アリスさんと手を繋いで、見て回ります。


 ラピスラズリやダイヤ。アクマリン、カイヤナイト。色々な物があります。品揃えと、一つ一つの質の高さがこのお店が一番の所以でしょうか。


 しばらく眺めていると、目的の物を見つけました。


(アルマンディン。こんなに赤色が強いのは見たことがない。値段は――いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……)


 結構、安いですね。

 向こうの世界でこの赤さのアルマンディンは、市場に出回らないほど貴重と、テレビで言っていました。それがこのお値段……。


 戦争の際、コルメンスさん計算ですけど……選任のお給料が出ました。明らかに、多めに給与が出たのです。

 だから買えなくはないです。こういうのを、浪費というのでしょうか。


「リッカさま、見つけましたか?」

「うん。アリスさんは?」

「私も、見つけました」


 手にとって見せようとしたところ、アリスさんにくいっと腕を引かれて止められました。


「少し、遊びましょう」

「遊び?」

「はい。お互いの選んだものがどれか当ててみませんか?」


 私はアリスさんのを当て、アリスさんは私のを当てるというゲームです。

 

「いいね。負けちゃった方はどうする?」

「勝った方をお姫様抱っこで船までという事で、どうですか?」

「それだとご褒美に――いや、やろっか」


 ご褒美は魅力的ですけど、私が抱える方でも良いですね。


「お互い読むのはなしです」

「うん」

「では、始めましょう」


 膨大な宝石の中から見つけなければいけません。

 でも、今まで見た物の中からでしたら、そこまで多くはありません。


(アリスさんのイメージカラーだと、白銀、赤かな。ルビー、ダイヤ、トルマリン、ムーンストーン)


 じっと宝石を見ていきます。

 その中の一つに、スピネルがありました。赤い、スピネルです。私の目の色に一番近いのは、これかもしれません。


 スピネルを、店員さんに頼んで取ってもらいます。

 扱い方のレクチャーを受け、手に取り、鏡で見ます。少し、私の目の方が暗い赤でしょうか。


 でも、これが一番近いです。


(これだと、良いなぁ)


 アリスさんをチラと見ます。


 アリスさんも私と同じように、自分と宝石を比べていました。その手に持っているのは、アルマンディン。


 アリスさんと目が合います。


「ふふっ」


 二人で、笑いあいました。


「簡単、だったかな?」

「はい。リッカさまも、簡単だったようですね」

「これだったら嬉しいなって」

「私も、そうです」


 微笑み合い、お互いの手に持った宝石を買いました。


 そして、このスピネルはアリスさんへプレゼントします。

 私の瞳は、アリスさんしか映しませんから。



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