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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
34日目、手がかりなのです
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『じおるあ』赤い瞳



「トーマスくん」

「はい。代表」

「巫女様達は行ったよ」

「……はい」


 トーマスは、見送りには行かなかった。バルバラをじっと見つめている。


「僕がもっと、バルバラさんの事を支えられていれば……」

「トーマスくん……」


 眠ってしまったバルバラに謝罪するように、頭を垂れる。


「巫女様達が、最大限の配慮をしてくれた。私達も裁判では証人となろう」

「はい……」


 トーマスは、バルバラの前髪を梳き、顔が見えるようにする。


「僕は君を、待っているよ」


 優しく告げて、涙を流した。 



「青年と少女たちだったが、大人顔負けの判断力でしたな」


 代表は、兵士に語りかける。


「そうですな。しかし……巫女様はどうやってバルバラ氏の事を調べたのでしょう。あんなにも的確な指摘……」

「それだけは、私共にも分かりません。話したことなど、なかったのですが」

「赤の巫女様の攻撃も良く分かりませんでしたし、巫女というのは特別なのですな……」

「はい……。恐ろしくすら、あります」

 

 捜査も捜索も、相手の嘘も、何もかも必要ない。

 ただ一睨みしただけで、全てを見透かしたように朗々と告げられたバルバラの心。シスターが祈りの言葉を読み上げるが如く、バルバラの犯行を丸裸にした。


 隠し事など無意味。”巫女”は神の目を持っているのだと、町長は震えてしまった。




 とある暗闇。

 城の様な場所にて、二人の者が闇から溶け出してくる。


「まおー。まっくー」

「あん? お前どこ行っとったんだ」


 マクゼルトに、赤目の少女が飛び掛りしがみ付いた。


「ちょっとざぶけゅまでね」

「何?」

「こら。言わない約束でしょう」


 仕方の無い子だ、とフードの男は肩をすくめる。


「あ。そうだった。ごめんねまっくー。いまのなし」


 赤目の少女はケラケラと笑いながらマクゼルトによじ登って行く。


「おい」

「なんですか」

「何しに行った」

「魔王様の命で、巫女達に少し探りを」

「殴って良いか」

「ごめん被ります。いくら死なないからといって、痛くない訳ではないので」

 

 舌打ちしてマクゼルトは頭を掻こうとするが、赤目の少女が登っていて出来なかった。


「で。何しに行っとったんだ」

「巫女の感知範囲を調査してまいりました」

「手は出してないんだろうな」

「えぇ、貴方が()()()()()()は手を出しませんよ」


 意味深な言葉と笑みに、マクゼルトは眉間に皺を寄せる。


「……まぁいい。感知はどんなもんだった」

「広いですね。特に、赤の巫女は恐ろしい」


 恐怖など感じていない表情で、フードの男は笑う。


「えっとねー。2きろだよ。かげのなかも、あくいけしても、ぜんぜんかんけいなかったんだよねー」

「これを見てください。刺されてしまいました」


 フードの男が、自分の肩を見せる。そこには血の痕と、深い刺し傷があった。


「お前が傷をつけられたのも驚きだが、影の中も攻撃範囲ってか。面白ぇじゃねぇか」


 マクゼルトが楽しそうにカカカッ! と嗤っているのを、赤目の少女が真似て笑う。


「巫女の方はどうだった」

「そちらは魔王様と共に。赤の巫女は貴方の獲物だから先に話してあげたんです。感謝してください」

「かんしゃしろー」

「へいへい。分ぁっとる」


 三人が歩き出す。


「あ、まっくー。あそんで!」

「あ?」

「赤の巫女と戦うのを我慢出来たら、貴方と戦って良いと約束したんですよ」

「何勝手しとんだ」


 ため息をつくマクゼルト。


「いいでしょー。あのおにんぎょうさんともー」


 マクゼルトに肩車されながら、赤目の少女は駄々をこねる。


「……アイツとも戦って良いと言ったんか」

「えぇ。ダメでしたか?」


 マクゼルトは苦々しい顔を少しだけ見せる。


「……魔王との話し合いが終わったらな」

「やたー!」

「ただし、俺に一発入れられたらアイツと戦わせてやる」

「よーし、がんばるぞー!」


 赤目の少女が楽しそうに足をぱたぱたとさせている。


「さっきたたかったけど、たのしくなかったしなー」

「戦わせたんか?」

「それも命令だったので。そろそろ戦闘できるかどうかを見て来いと言われたのですよ」

「で。どうだった?」

「まだ甘いですね。ですが、もう直にでも完成するでしょう」


 クツクツと笑うフードの男を、冷めた目でマクゼルトは見ている。


「はやくまおーのとこいこー」


 無邪気に喜ぶ少女。

 だけど、五人を苦も無く殺し、なんの感情も向けなかった残虐な少女だ。


「そろそろまっくーになら、かててもいいとおもうんだけどなー」

「馬鹿娘が。まだまだ負けん」

「むー。ばかっていうほうがばかなんだよー」


 少女の無邪気な笑い声だけが、城に響いていた。




 まだ、昼過ぎなんですよね。

 なんだか、どっと疲れています。


「次はジョルアでス」

「宝石で有名でしたね」

「宝石かぁ」


 ちらりと、アリスさんの瞳を見ます。アルマンディンとかあれば、欲しい。


「……」


 アリスさんと視線がぶつかってしまいます。お互い頬を染め、俯いてしまいました。


「宝石か。興味ねぇな。俺は船に居るぞ」

「構いませんけド、戸締りだけはしますヨ」


 盗賊相手に手を抜き船を取られかけてしまったレイメイさんに、シーアさんは冷めた目を向けています。


 同じ過ちを二度もするとは思いませんけれど、ここでばっちり船を守りきれば、シーアさんも許すと思います。


「甲板で寝とるからそれでいい」


 レイメイさんはそれほど気にした様子はなく、ごろっと横になりました。

 だんだんと暖かくなっては来ていますけど、風邪をひいてしまうのではないでしょうか。


「ジョルアではどうしまス?」

「浄化と、何か事件があればそれの解決かな?」

「基本的には、いつもと一緒で良いと思います」


 影もしっかり見ます。私も、同じ過ちは繰り返したくないです。


「でハ、浄化後は少し買い物しまス」

「そうだね。私もちょっと、気になるかな」

「私も欲しいものが一つ程あります」


 アルマンディンがなくても、綺麗な赤い宝石が欲しいです。


 シーアさんが、次の町について教えてくれます。


「ジョルアはそこまで広い訳ではありませんけれド、観光地でス。人は多いと思いますヨ」

「やっぱり女性が多いのかな」

「恋人や妻の為にという男性も、多いのではないでしょうか」


 結婚指輪とか、結婚記念日とかですかね。


「貴族とかもお忍びで来るそうですヨ」

「貴族、居るんだ」


 貴族制は廃止されたと聞いていたのですけど、どこかでひっそりと居るのでしょうか。


「キャスヴァル領の奥地とカ、他国とかに隠れ住んでいるようでス。財産を没収されると思ったのでしょうネ。廃止される前に散り散りになったそうでス」

「コルメンスさんは財産没収する気はなかったのですよね」

「はイ。暴利をむさぼっていた悪徳貴族からは検討したそうですけド、穏便に済ませる予定だったそうでス」


 重税を課していたり、ってところでしょうか。

 先代時代は王政が滞っていたとの事です。ですから、貴族による統治が主だったのです。

 つまり、やりたい放題だったと。


「お忍びで来ている貴族はまともな人たちですヨ。本当に酷い人たちは他国で好き勝手やっているそうでス」

「もしコルメンスさんが見つけた場合は、何かあるのですか?」

「悪徳貴族でもない限リ、見てみぬふりでス」


 本当に、穏便に済ませるんですね。


 でも、捕まえられたりしないのであれば……。


「捕まらないなら、隠れ住む事ないと思うんだけど……」

「貴族としてではなく、ただの人として静かに暮らす事が楽しくなったのではないでしょうか」

「結構肩肘張った生活になりますからネ。権力って服を脱ぎ捨てて身軽になったラ、そっちの方が良かったっていうのはありそうでス」


 権力とは無縁でしたけど、敬われる事が嫌いだった私にとっては、その気持ちが分かる気がします。


「まァ、権力を捨てきれずにいる貴族も居るわけですかラ。隠れてこそこそしてるのハ、少なからず権力に未練があるんじゃないですカ」


 取られるかもって気持ちが、隠れるって行動に出てるんですね。


「貴族になんテ、関わらないに越した事はありませんヨ。特にお二人はネ」

「……?」


 シーアさんが意味深な事を言います。


「共和国でも面倒事ばっかり起こしてましたからネ」


 経験談ということでしょうか。

 エルさんが統治する共和国でも、そういうところはあるのですね。


「しょっちゅうお姉ちゃんに縁談持ちかけたりでス。国民も大臣達モ、貴族なんかにお姉ちゃんは似合わないと思っていたのデ、そんな事許しませんでしたけどネ」


 面倒事の中でも、シーアさんにとってはそれが一番嫌だったようです。

 エルさんを取られるからでしょうか。微笑ましい嫉妬ですね。

 女盗賊とバルバラさんの嫉妬も、これくらいなら私も素直に謝ったのですけど。

 

 でも。


「それと、私が関わらない方が良いっていうのは……どういう関係があるのかな?」

「……」

「えっト」


 アリスさんが言い辛そうにして、シーアさんはそんなアリスさんを窺っています。


「あくまデ、例ですかラ。お二人は巫女として人気ですシ、貴族的には欲しいんじゃないですカ。この国では貴族人気は地に落ちてますかラ、人気回復のためニ」

「確かにそんな理由なら、関わらない方が良いかな」


 国民たちのご機嫌取りに使われたくありません。

 自分達の行いを鑑みて、真摯に向き合って払拭するべき案件ですから。


「そうですね。もし見かけたら()()()()()()()()()しましょう」

「そうしてくださイ。例によって例の如くなのデ」


 アリスさんとシーアさんは偶に、私には分からないところで通じ合っています。


「……むぅ」


 胸が痛くて、少し俯いてしまいます。


「リッカさま……? あぁ……ごめんなさいリッカさま……」


 アリスさんが、私を抱き寄せてくれます。アリスさんの胸に顔を埋めるような体勢に、先ほどまでの痛みも苦しさもどこかへいってしまいました。


「仲間外れにしたかった訳ではないのですヨ。ただそノ、リツカお姉さんにはまだ早い話と言いますカ」

「私で早かったら……アリスさんもシーアさんも早いんじゃ……」

「リッカさまには私が教えますっ。ただもう少し待って下さい。纏まった時間が必要ですから、今はまだ無理なのです」

「うん……。待ってる」


 アリスさんにしがみ付いて、アリスさんが頭を撫でるのを受け入れました。


(帰った時にこのままだと、エリスさんに怒られそうです。巫女さんが)



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