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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
34日目、手がかりなのです
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『ざぶけ』朝の惨劇⑦



「リッカさま。先にシーアさん達に連絡をしてもよろしいでしょうか」

「うん。シーアさん達に、町の兵士さんの中で動ける人が居たら連れて来て貰おう」

「はい。そうお伝えします」


 最後の遺体。私の事を嫌っていた女性を検める前に、シーアさん達に探索の打ち切りと次の行動をお願いする事にします。

 アリスさんを守るように、私は周囲に細心の注意を払います。

 

 弱者から搾取する不届き者でしたけど、こうなってしまっては……ただの、犠牲者です。


 ふと、大男が大事に抱えている大きな袋を見ます。

 中には――。


「……? ただの、紙?」


 いえ、ただの紙ではありません。何か書かれています。


「これって、私?」


 紙幣程の大きさに切り分けられた紙は、札束のように紙帯で巻かれています。

 その紙は全て、王国が発行した私の似顔絵でした。


 なんでこんなにあるのか、とか。もしかして各町に配られたりしたのか、とか……色々と考えてしまいます。

 というより、なんでこんなに沢山……?


「これと同じものですね」

「あっ。本当だ」


 アリスさんが”伝言”を終え、私に一枚の紙を見せてくれます。それも、私の似顔絵でした。


「どこにあったの?」

「私のです」

「持ってたんだ」


 少し、恥ずかしいですけど……アリスさんであれば構いません。


「大切にしてました」

「うん。綺麗に保管されてたの、分かる」


 折り目なく、綺麗にぱりっとした一枚の紙のままです。

 どうやって保管していたのでしょう。


「持っていても、良いですか?」

「アリスさんになら、持っていて欲しい」


 えへへ、と少しだけ、にやけてしまいます。

 

「私もアリスさんの欲しいなぁ」

「”転写”でよければ、船に戻った際に」

「うん!」


 私が気落ちしないように、アリスさんが明るい声音で約束してくれます。


 こんな血みどろな景色のところでする会話ではないと思いますけど、気分が落ち込むような光景なだけに、私はアリスさんの事ばかりを考えてしまうのです。

 純粋に、アリスさんの似顔絵が欲しいっていうのも……あるんですけどね。


 アリスさんが、魔法を私の似顔絵にかけて小さくしました。先ほどの”縮小”のようです。

 そして、指輪ケースのようなものに、丁寧に仕舞い込みました。

 そうやって持ってたんですね。


 少しだけ朗らかな空気で気分を落ち着けてから、最後の遺体と向き合います。

 下半身は比較的綺麗な状態ですけど、上半身は……腕は複雑に折れ曲がっています。強い力で殴りつけられたのでしょうか。


「蹴りによるものですね」

「”強化”した私なら……同じ事は出来るだろうけど……」

「マリスタザリアの力で、武術による蹴りを放ったのでしょう、けど――」


 マクゼルトならば可能です。ですけどこれも……。


「女性の、足?」

「……はい」


 武術を扱う女性幹部は、確定のようです。


「口封じ?」

「可能性はあります」

「手がかりは、この剣だけかな……」


 ライゼさんの剣に似た物だけです。

 

 盗賊を拘束から解き放ったのは、影の者。助けて逃がした後、ここで口封じを行ったという事でしょう。

 ここで気になる事が、いくつか生まれました。


「確か、ライゼさんの剣はマクゼルト製だったよね」

「ライゼさんは、そう言っていました」

「これ、マクゼルトが作ったんじゃないかな」


 形も刃の鋭さも、似すぎですから。


「斬り傷はマクゼルト、体術による傷は女幹部という事ですか」

「……あの時マクゼルトは何も持ってなかった。体術に自信があるからだろうと思ったけど、剣士は戦場に……剣を置いて行くことはない」

「では……」

「体術と剣術が使える人が、まだ……一人か二人居るって事かな」


 手がかりと言えるかは分かりませんけれど、幹部の数は三人から四人程と情報が更新されました。


「わざわざここまで逃がして口封じをしてるって事は」

「姿を見られたくなかったのでしょうか」

「それが一番、現実味があるね。姿が特徴的で、すぐにバレてしまうからなのか……。ただ単に、私達に情報を渡したくなかったのか……」


 何にしても、私達に姿を見られる訳にはいかなかったようです。


「後は、バルバラさんに聞くしかありませんね。町に残されたという事は、情報は持っていないと思いますけれど」

「そうだね。一応、聞いてみよう」


 最後に、アリスさんをある場所に連れて行きます。


「悪意は、この場所からいきなり途切れてる。”転移”みたいなのを持ってる敵が居るのかもしれない」


 痩せた男よりもう少し西側にいったところ。全ての遺体が見える位置からいきなり無くなっています。


「少ないものですけど、手がかりは手に入れました」


 アリスさんが私の肩に手を置きます。


「人数と、魔王の関与、移動手段です。このまま北に進んでいきましょう」

「――うん。道はまだ、続いてる」


 アリスさんと共に、決意を新にしました。


 シーアさん達が近づいてくるのを感じました。気配は五つ。兵士さんを結構引き連れてきてくれたようです。




「これハ、中々酷いですネ」

「お前が?」


 シーアさんは顔を顰め、レイメイさんは私を見て問いかけてきます。


「リッカさまではありません」


 アリスさんが怒声を含ませ答えてくれます。

 いくらレイメイさんでも、私がするわけないって分かってますよね……。冗談でも笑えませんよ……?


「ま、そうだよな」

「分かってるのにわざわざ聞くっテ、性格悪すぎでス」

「一応だろうが!」


 シーアさんとレイメイさんが、仲良く喧嘩を始めました。


 別行動していましたけれど、シーアさんとレイメイさんが無事でよかったです。

 私達の戦力を削るなんて事は、魔王ならば平気で行うのですから。


「お怪我の方はいかがですか」


 応援に駆けつけてくれた兵士さんたちに尋ねます。


「はい! 我々は比較的軽症だったので、巫女様の治療の段階でほぼ治っておりました!」

「ア。あなたを治したのは私ですヨ」


 アリスさんに感謝を伝え笑顔を見せていた兵士さんは、シーアさんの言葉に少し落ち込んだ様子を見せました。


「そ、そうでありましたか。ありがとうございます!」


 やけになったのか、大声でシーアさんにお礼を言っています。


「ついでに言えばあなたもでス」

「うす……」


 シーアさんが治したのは二人、そのうちのもう一人も来ていたようで、残念そうにしています。

 ちょっとだけ胸がざわつきます。


「じゃあ自分は……」

「巫女さんでしょうネ」


 喜ぶ兵士さんを、残りの二人が恨めしそうに見ています。

 先ほどから私の心はざわつきっぱなしです。


「いえ。あなたは軽症だったので、町の医者にお願いしました」

「……」


 落ち込む兵士さんを、先ほどとは打って変って慰める二人に、私の心にすかっとした風が通り抜けました。

 

 何か良く分かりませんけど、心が落ち着いていきます。


「そろそろよろしいですか」

「は、はい。申し訳ございません。赤の巫女様」


 状況を説明し、捜査の打ち切りと盗賊事件の終息を、告げました。




 町に帰る途中、レイメイさんに剣を見せます。


「……」

「どうですか」

「間違いねぇ。ライゼの剣と同型だ。ずっと使ってたから、分かる」


 レイメイさんが、懐かしむような手つきで剣を一振りしました。


「これがあの現場に?」

「はい。大男とシーアさんが捕らえた――」

「ハゲでス」

「……坊主の人は、それで致命を与えられていました」


 あれはハゲではなく、剃ってると思うんです。剃刀の質が悪いのか、剃り残しやむらが――って、今はどうでも良いんです。


「この剣なら素人でも斬れるだろうが」

「あれは剣術の心得がありました。良い太刀筋です。出会えば、死合は必至でしょう」

「……」


 レイメイさんが剣を見ながら、眉間に皺を寄せていきます。


「その剣は証拠品ですけど、兵士の方は私達に任せてくれました。レイメイさんに預けておきます」

「あぁ」


 本来は押収されるのですけど、魔王に繋がる手がかりとして借り受けました。


「しかシ、後味の悪い結末でス」

「逃げずに居りゃ、投獄で済んだのにな」

「……」

「リッカさま?」


 考え込む私に、アリスさんが気付き、声をかけてくれます。


「大男が大事そうに抱えていた、あの紙束が気になって」


 明らかに、札束に見せかけた紙の束でした。

 そんなものを、何故あんなにも大事そうに抱えていたのでしょうか。


「リツカお姉さんの信奉者だったのでハ」

「それならば、なぜ切り刻むような真似をしたのか理解に苦しみます。綺麗に保存し、折り目すらないようにするはずです」


 盗賊が大事にするものなんて、お金しかありません。


「あれはお金だった?」

「”偽装”ならバ、お金に見せることは可能ですけド」

「手触りなどは変わりません。慣れた者であればすぐにバレてしまいます」


 偽札を作る魔法はあるようですけど、実用的ではないようです。


 ざぶけも私達の船も、丸々無事でした。

 お金や食料に困った盗賊が、苦肉の策で偽札を作ろうとした。そう思いましたけど、魔法では騙せないようです。

 

「私の似顔絵をわざわざ使ってたから、気になっただけなのかも」

「気になっても仕方ありません。あんな使い方、許せません」


 アリスさんが眉間に皺をよせ、怒りを露にしています。綺麗な顔に皺が残ってはいけないので、頬を撫で緩和を図ります。

 アリスさんはにへらと、脱力した笑みを浮かべましたけれど、すぐに表情を正しました。


「私としては、コルメンスさん達に確認したい所です。リッカさまの似顔絵をどこまでバラまいたのかと」

「そうだよね。王国内だけって思ってたんだけど……。他の町とかにも配ってたんだね」


 私、そこまで許可した覚えはないのですけど……。ちょっとだけ、私も確認したくなってきました。


「お兄ちゃんに逃げるように”伝言”しまス」


 シーアさんが本当に”伝言”を開始しました。私達の本気の追及に気付いてしまったようです。


「何ちんたらしてんだ。日が暮れるぞ」


 レイメイさんに促されて、歩く速度を上げました。

 町ではきっと、住民の皆さんが不安で待っているでしょうし、急ぐ事にしましょう。


「まだ昼頃ですヨ」

「お前の歩幅に合わせとったら日が暮れるって意味だ。チビ」

「お二人は先に行ってくださイ。そろそろ決着をつけなければいけませン」


 シーアさんとレイメイさんがじゃれるのを横目に、アリスさんと私は町へ歩を進めました。



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