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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
34日目、手がかりなのです
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『ざぶけ』朝の惨劇③



「おかえりなさイ――って雰囲気でもないですネ。事件ですカ?」


 シーアさんが出迎えてくれました。

 ですけど、私達の様子から臨戦態勢を整えてくれます。


「何があったんでス?」

「殺人事件と魔王の手がかりかな」

「殺……?」

「順を追って説明します」


 アリスさんがシーアさんに説明しようとします。


「レイメイさんは?」

「その辺ブラブラとしてますヨ。後で私から伝えておきまス」

「そっか。ありがとう、シーアさん」


 こんな時に……と思いましたけど、殺人事件の事を知らないのですから仕方ないですね……。


 アリスさんが説明していきます。

 殺人事件が起き、それは解決した事。

 影の中に、魔王の手下と思われる者が居た事。

 

 アリスさんは、犯人に対して良く思ってないようで……私への暴言を事細かく伝えた上で、怒りを露にします。シーアさん、ちょっと引いちゃってます。


「昨日の女盗賊もそうでしたけど……! リッカさまの事を……男に媚を売る売女などと……!」

「そんな事言われたんですカ? しかも、二人に」

「う、うん。私は、ほら……交流の第一段階として、笑顔で話しかける節があるから……。それが気に入らなかったみたい?」

「それだけデ……?」


 シーアさんも疑問を感じているようです。


「勘違いするとか、言ってたかな?」

「勘違いする方がおかしいのです。リッカさまは質問に対し朗らかに答えただけなのですから、勘違いしたらどうするというのであれば、相手の男性を責めるべきです」


 町の中では言えなかったからでしょう。アリスさんの怒りはヒートアップしていきます。


 私のために怒ってくれるアリスさんに、場違いながら私は……少し喜んでしまっています。


「まァ、リツカお姉さんに微笑みかけられたらドギマギするのは分かりますけド、それで自分に気があるとか思うのはどうかしてますネ」

「そうでしょうとも」

「リツカお姉さん程になるト、嫉妬やらはないと思ってましタ。でモ、世の中分からないものですネ」


 シーアさんがしみじみと言い、アリスさんは頷いています。


「私の事は、もう大丈夫だから……そろそろ本題に」

「帰ってたのか」


 レイメイさんが帰ってきました。

 とりあえず説明して、すぐにでも警備にいこうと思ったのですけど。


「サボリさんモ、リツカお姉さんに微笑みかけられるとドギマギするんですカ」

「はぁ?」


 シーアさんの知的好奇心は止まらなかったようです。


「先ほど町デ、リツカお姉さんが微笑みかけた所為で思い人が靡いたと言ってきた人が居たようでしテ。男の人は皆、リツカお姉さんに微笑みかけられると靡いちゃうのかト」

「……どんなに顔が良かろうが、微笑まれたくらいでどうこうなんかねぇだろ」


 レイメイさんも律儀に答えなくていいんですよ。

 随分コミュニケーションを取ってくれる様になって、一緒に旅をする仲間として安心はします。ですけど、今はそういう状況ではないのです。


「顔が好みト」

「おい、そんな事言っ――」

「……」

「おい赤いの。巫女止めろ。お前も聞いてただろ」


 アリスさんがレイメイさんを強く睨み付けています。


「レイメイさんが私をどう思っているかはどうでも良いので、警備に行きましょう。レイメイさんは道中、シーアさんから説明を受けてください」

「あ? ……何かあったのか」


 レイメイさんが少し緊張感を持ちます。察しがよくて助かります。

 でも、話す時間も本当は惜しいのです。


「それも含めて聞いてくださいって事、ですよ」

「リ、リッカさま!?」


 アリスさんをひょいと抱え”強化”し、船から飛び降ります。


 談笑は終わりです。町の警備と周辺の警戒を行うために、町へ向かいます。


「リッカさまっ! まだ――」

「レイメイさんにどう思われてるかは、結構どうでも良いんだよね。嫌われてるか苦手意識持たれてるかだし」


 アリスさんを抱えたまま町への道を歩きます。


 まだレイメイさんに言いたい事があったらしいアリスさんは、船に戻ろうとしています。


 私の本音としては、アリスさんがレイメイさんと会話するだけで胸がざわついてしまうので、やって欲しくないのです。


「女盗賊のもバルバラさんのもちょっと傷ついたけど、余り気にならなかった」


 訳の分からない感情と理由をぶつけられて、困惑が一番強かったです。

 ただ――ある事実に気づかされ、私はそれだけが気になって仕方ありませんでした。

 

「私はただ、女性に嫌われる部分があるってだけで――アリスさんに、嫌われた世界もあったのかって……それだけが、気がかりだった……だけ」


 媚を売っているように見える私の態度は、女性にはイラつきの対象みたいです。

 私にそんな意図がなくとも、受け取る側の気持ちというものがあります。

 

「そんな世界はないって、分かってるんだ。アリスさんに嫌われるなんてことはないって。でも、もしそうだったらって考えたら……足元覚束無くて……」


 アリスさんに嫌われてたかもって思い至った瞬間から、向こうの世界で感じていた……宙に浮いているような、この世界に存在を許されていないような感覚に陥ってしまったのです。

 

 歩く速度が遅くなっていって、ついには……止まってしまいます。

 抱えたアリスさんを強く抱きしめ、言葉に出来ない感情を伝えようと、必死になります。


「リッカさま。下ろしてください」

「ぅ……」


 震える手で、アリスさんを下ろします。

 嫌だったの、でしょうか……。こういう所が、嫌われて――。


「抱えられたままでは、抱きしめられません」

「ぁ……」


 ふわりと、アリスさんが私を包み込みます。


「何度も言っているではありませんか。私が貴女さまを嫌いになることなどありえません」


 頭を撫で、諭す様に……私の耳元で囁きます。


「何度出会いを繰り返そうとも、私が貴女さまを想う気持ちは変わりません」

「うん……。ありがと……」

「可愛いです。リッカさま」


 崩れ落ちそうだった膝は、しっかりという事をきいてくれます。

 でも、アリスさんの言葉に……やっぱり、崩れ落ちそうになってしまうのでした。




 サボリさんに説明を終え、二人で適当に警備してます。

 一人で警備するとサボりさんは言いましたけれど、相手は幹部級らしいので却下しました。


「幹部級ってのは、あれか。マクゼルトか」

「もしそうなラ、リツカお姉さんと戦ってるでしょウ」


 マクゼルトならば、リツカお姉さんはすぐさま戦闘を開始していたでしょう。 

 リツカお姉さんから仕掛けるのではなく、マクゼルトが、ですけど。


「マクゼルトは好戦的とリツカお姉さんが言っていたでしょウ。隠れてこそこそなんてしないと思いますけド」

「赤いのを殺すために裏で色々やったんだろ。今回もそうなんじゃねぇか」

「あれはあくまデ、魔王の作戦でしタ。結局、マクゼルトは自ら出て来ていまス。何よリ、マクゼルトにはない防御力があるという話ですシ」


 マクゼルトと戦ったリツカお姉さんが言うには、確かに鋼の様な筋肉を持っているけど、斬れない程じゃないと言っていました。


 でも今回の敵は、難しいと言っていました。明らかに別人です。


「マクゼルトとも何れ戦う事になりますけド、相手の手の内と仲間の一人が分かっただけでモ、今回は収穫でス」

「それが分からねぇ」

「わざわざ私達に教えるような真似をした事がですカ」

「あぁ」

 

 サボリさんの言うことも分かります。

 悪意は隠せるという事と、魔王直属と思われる敵の存在。

 隠しておいた方が効果的というものです。


「これはあくまで予想ですガ、こちらの動きに制限を欠けるためではないでしょうカ」

「制限? 赤いのが良く言ってたな」

「それと同種でス。あえて見せることデ、こちらの動きの幅を狭めるのでス」

「今回のがそれだと?」

「はイ。悪意が隠せると知れバ、リツカお姉さんも巫女さんモ簡単に人を信用できませン。そうでなくてモ、常に気を張って影に注意しなければいけませんかラ、消耗が激しいでス」

「あいつらが思い通りになるとは思えないが」

「そうなる可能性と、悪意を隠せるという情報。それを天秤にかけた場合、そうなる可能性の方が重要と考えたのでしょウ」

「仲間を知らせたのは」

「マクゼルト級というだけデ、こちらは警戒を強めまス。上手くいけば、士気も下げられるでしょウ」


 私達の士気が下がるなんて事はありえませんけど、これも――情報と可能性を天秤にかけた結果です。


「それニ、今回の作戦が重要なのであれバ、魔王は信頼出来る部下にしか任せないでしょウ」

「裏でこそこそと、ムカつく連中だ」

「巫女さんとリツカお姉さんの脅威度ガ、魔王にとっては無視出来ない程という事でしょウ。そしテ、それこそが私達が魔王を目指すに当たって必要な物なのでス」


 魔王が巫女さん達を警戒しているからこそ、私達は魔王の痕跡を辿る事が出来るんです。


「なんとしても痕跡を探しますヨ」

「あぁ」


 いつでも巫女さんとリツカお姉さんを呼べる準備をして、警備と探索を行います。


 ジョルアでの食事は無理そうですね。残念です。


「ところでサボリさン」

「なんだ」

「先ほどの続きですけド、リツカお姉さんに微笑みかけられて――」

「俺は靡かねぇと言ったろうが!」



ブクマありがとうございます!

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