『ざぶけ』襲撃、そして
「御頭、罠って事ありませんか」
「罠?」
大男の言葉に、御頭は頭を上げる。
「巫女の情報がこんな簡単に流れてくるはずがありません。俺達を誘き出す罠なんじゃないですか?」
「巫女というのは、そこまで狡猾なのか?」
「巫女の性格は知りませんが、余りにも出来過ぎています」
大男は、慎重になるように具申する。
「そうですよ御頭。巫女なんてほっといて、他の町襲いましょう」
女は”巫女”と関わり合いたくないのだろう。大男の言葉を受け、ここぞとばかりに作戦の変更を提案する。
「御頭ァ、巫女で楽しみましょうや」
「お前は黙ってろよ!」
痩せた男は、欲に塗れた提案をする。女の罵声をかわしながら、御頭と肩を組む。
御頭は少し考えた後、作戦を告げる為に立ち上がる。
「予定通りザブケュを襲う。深夜だ」
御頭の言葉に、女以外は嗤う。
「ザブケュの物資、巫女の船、巫女を盗るぞ」
「御頭も男だったんだな。安心しましたぜ」
女性に興味がないと思われていた御頭の発言に、痩せた男はニヤニヤとする。
「巫女は売り物だ」
「売り物?」
女が途端に機嫌を直す。
「どっかの金持ちなら高値で買うだろ。だから、手は出すなよ」
「そんなァ……」
痩せた男が激しく落ち込む。
それでも従うあたり、御頭という男は部下達から慕われているらしい。
(どこぞの変態貴族に買われて、ぐちゃぐちゃに犯されちまえ……!! 森に引き篭もってた田舎者が……出てきた事後悔させてやる……)
女はやる気に満ちてる。盗賊としてではなく、女として負けた事がムカついていた。
「深夜決行だ。作戦はアレでいく」
御頭の言葉に、全員が頷き準備を開始した。
「それに、もしもの時の保険は用意してある」
御頭は不敵に嗤い、地面を見た。
アリスさんが起きるのを感じて、目を開けようとします。でも、アリスさんの手で塞がれて暗いままです。
「アリスさん?」
呼び掛けに応えてくれなくて、少し不安感があります。
アリスさんが立ち上がり、私の後ろに回り込みます。その間ずっと、暗闇のままです。
「リッカさま」
「うん?」
くいっと私を引き寄せるアリスさんが、私を優しく呼びます。
アリスさんの柔らかさが、頭の後ろを包み込みました。
「今度は私が」
「うん。お願い、ね?」
アリスさんが、見張りを交代してくれます。
目を塞がれた私の意識は、巻き付く様に、スルスルとアリスさんに向かっていきます。
「食事とかお風呂どうしようか」
「一度戻るか、迷いますね……」
アリスさんも、決めあぐねています。
私たちが居るという情報を得たのであれば、私たちの行動を調べた上で襲い来るでしょう。
戦力の分散と、拠点である船からの退去。それらの隙を突くはずです。
でも、今回は調べる余裕を与えていません。
猶予は明日までとしています。
それ以上に設定する事は、私たちの特性上無理なのです。マリスタザリアには、盗賊退治なんて関係ないのですから。
もし仮に偵察に時間を割き、私たちが出発してもそれはそれで仕方ないと思える人たちなら、こちらから攻め入るしかないでしょう。
マリスタザリアの動向を見て滞在を長引かせるという事は、出来ないのです。
そこまで露骨に滞在すると、罠だとバレます。
もしバレたとしてもこの町は、一先ずの安寧を手に入れるでしょう。でもそれは、先送りでしかありません。
他の町が被害を受けた後、また襲われるのは自明の理です。
根本的解決をしなければいけません。だから、確実にここで捕まえます。
その為に私達は、襲ってもらう必要があるのです。
「船に居る時に襲ってもらうのが一番楽だけど」
お風呂はこの際、捕まえた後でも構いません。でも食事はとっておきたいです。
「全員で船を襲ってくれるでしょうか……?」
「んー。町長さんが言うには、三人は確認してるんだっけ」
「はい。先の襲撃でやっと、三人だけ確認できたとの事です」
三人と戦闘を行った兵士は、特に大きな怪我をする事無く撃退できたそうです。
「三人じゃ、少ないよね」
「そうですね。他にも居ると思います」
「この町も標的だから、船に全員でとはならないね。きっと向こうも手分けして事に当たるだろうから」
理想は一網打尽です。全員纏めて捕まえたい。その為にはやはり、分散して両方同時に守った方が良いでしょう。
「一度戻り、夜の分含め作りましょう」
「うん」
お昼と一緒に夜の分を作り、ここで敵襲を待つ作戦でいきます。
盗賊が私たちを、ただ景色を楽しんでる行楽者と見てくれたら作戦成功です。
アリスさんが、私の目から手を離しました。久しぶりの光です。目がしぱしぱとします。
私の後ろに居るアリスさんを見上げます。
ニコリと笑い、私の頬を挟みこんで撫でてくれるアリスさんの手に、私は手を添えました。
アリスさんの温もりから離れるのは気が進みませんけど、行動しないといけません。
「ご飯ですカ」
シーアさんが、パスタ? スパゲティ? を両手に持ってやってきました。
「夕食も作っておこうと思いまして」
「夕食だけお願いしまス。お昼は作っちゃいましたかラ」
シーアさんが両手に持っていた二つの料理を私たちにくれまうす。
「シーアさんが作ったの?」
「はイ」
少し照れて、頷いています。
あの調理場は、少し高めに作られています。
アリスさんも、王国の宿にあった調理場より使いにくそうにしていますから、シーアさんなら尚更でしょう。
「私たちの分まで、ありがとう」
「ありがとうございます。シーアさん」
「いエ、そノ。お礼は食べてからの方がいいかト」
シーアさんが視線を左右に揺らしています。
少しだけ嫌な予感がしてしまいました。だからといって、せっかく作ってくれたのです。ここで止める訳にはいきません。
「じゃあ」
「いただきます」
一口食べてみます。
「ぅ」
「……」
トマトペーストと挽肉、鷹の爪やにんにくが使われたミートソースです。でも、甘い。
麺は少し芯が残ってしまっています。アルデンテよりも更に、硬めです。
予想した味より甘くて吃驚しましたけど、麺さえちゃんと茹でられていれば、こういった味と思えなくも……ないです。
「もう少し砂糖を減らせば、味が良くなるでしょう」
「そうですカ? サボリさんは酷評でしたけド」
「砂糖さえ減らせばおいしくなるって私も思うよ」
砂糖とトマトで甘さが際立ってるだけだと感じます。砂糖が適量ならば、おいしいアラビアータになると思うんですよね。
「砂糖入れれば美味しくなるって思ってましタ」
「甘さは美味さですけど、料理次第ですから」
シーアさんが腰掛け、足をぱたぱたとさせています。
「茹で加減も分かりませン」
「一,二ミリは三分です。そこから一ミリ太くなる毎に一分追加していくのが良いでしょう。目安の時間辺りで味見する事をお勧めします」
パスタは柔らかいものより、プツンと切れるくらいの方がおいしいですよね。芯が残ってても茹ですぎても味が落ちる気がします。
「茹でる時、塩も入れるんだよね」
「パスタの麺は塩を入れて茹でる事でもちもち感が少し増し、芯が丁度良く残ったアルデンテになりやすいです。後は、下味も重要ですね」
「塩入れないといけなかったんですネ」
「水一リットルに対し、二十グラム前後が適量です」
正確な分量を今知りました。
結構な量を入れていたんですね。
海水より少し薄いくらいと、学校の調理実習では習いました。
今ではなんとか形になっている料理ですけど、あの時は謎のドジを踏んでいた所為で余り力を入れていなかったのです。
それに、海に言った事ないのに海水より少し薄いくらいと言われても、ぴんと来なかったのです。
「意味が分かれば、よりよい物が作れるでしょう」
「お菓子だけじゃなく料理も頑張ってみまス」
「旅から帰ったら、エルさんに作ってあげたら? きっと喜ぶよ」
「そうですネ。成長した私を見せたいでス」
シーアさんなら、エルさんの為に本気で頑張りそうですね。
「では早速。夕飯は私に任せてくださイ。毒見はサボリさんを使うのでご安心ヲ」
シーアさんがお皿を回収して、トテトテと船に走り出しました。毒見と言っていましたね。味見ではダメなのでしょうか。
「大丈夫、かな?」
「シーアさんは甘いものが好みですから……。その辺りを制限出来れば、大丈夫のはずです」
アリスさんも心配なようです。
先ほどのパスタも、シーアさんの好みで砂糖を多くいれていたようです。
欲の赴くままに甘くさえしなければ、おいしい物が出来ます……よね?
「シーアさんが作ってくれるみたいだから、私たちはもう少しここに居ようか」
「はい。リッカさま」
アリスさんが、私の肩に頭を乗せます。アリスさんの息遣いと鼓動が聞こえてきます。
この時間をもっと堪能したい。盗賊なんて来なければ良いのに。と思ってしまいます。でもさっさと捕まえてしまった方が、アリスさんとの時間を多くとれますよね。
前言撤回です。盗賊として私たちの前に現れた事を後悔させてあげます。戦う力を盗賊として使う愚かな人たちです。手加減なんかしません。
緊張してない時間の方が短い旅なのです。今のような時間を大切にしたいです。街中であっても私達は目立ってしまい、狙われるのですから。
「お前、巫女のとこ行ったんじゃねぇのか」
サボリさんが怪訝な顔で私を見ています。
「これから夕飯作りでス」
「あ? 巫女は」
「私に任せてくれましタ」
「……正気か?」
正気か? とは酷い物言いです。
「味見係に任命してあげまス。まともな物が食べたいのなら付いて来てくださイ」
「……」
嫌な顔しながらも付いて来ます。
わざと不味いのを食べさせようかと思ってしまいましたけど、食べ物は粗末にできません。
外でも手軽に食べられる物。
ハンバーガーでも作りますか。偶にはそういうのも食べたいでしょう。
ハンバーグ作ってトマトとレタスと、ベーコン。
さて……。
(ハンバーグってどう作るんですかね)
まぁ、挽肉を適当にこねて塩コショウで出来るでしょう。
後砂糖。
「おい、嫌な予感が――」
「さテ、いきますカ」




