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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
33日目、恨みなのです
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『ダル……しう』だるしう浄化⑦



「おい」


 戻ってくるなり私を呼ぶレイメイさん。いい加減おいだけで表現するのは止めて欲しかったり。


「どうしました」

「昨日の監禁事件あったろ」

「はい。何か起こりました?」

「娘っ子が母親の事避けてたぞ」

「え?」


 事件解決時、あの子は母親の頭を撫でていました。 そんな風になるようには、思えなかったのですけど。


「何があったんですか」

「……」


 私はレイメイさんに尋ねました。

 アリスさんが目を伏せ、ため息をついています。母親へのため息でしょうか。つまり、母親は話さなかったのですね。


 

 レイメイさんの話を聞くと、やはり監禁は別の理由でした。

 方法は不合理ですけど、それは悪意により歪んだからです。想いは純粋に、娘さんへの愛情。


 娘さんも、エオラルさんがアレ以上豹変しないようにと考えた結果の行為だったとのことです。


 話し合えば終わっていた事とはいえ、中途半端に終わらせたのは失敗でした。ちゃんとあの時、追求した方が良かったかもしれません。


 でも、解決のためにレイメイさんが動いてくれたようです。今エオラルさんと娘さんは話していると聞きました。


「ありがとうございます。レイメイさん」

「お手数をおかけしました」

「偶々だ」


 レイメイさんが言うだけ言って、船室に戻っていきました。照れたんでしょうか。

 人の心はやはり、難しいです。


「ちゃんと伝えた方が良かったのかな」

「あれ以上の介入は、過干渉と私も考えてしまいました」

「そうだね。あの時全部話してくれたら良かったんだけど」


 私たちが居たから言い辛かったとの事です。

 

 時間を空けたことで、娘さんに伝わらなかったのが問題でした。


 私達は気にしないのですけど、エオラルさんの配慮だっただけに、申し訳なく思ってしまいます。

 解決したとはいえ、今後の活動をもう少し考える必要があるかもしれません。


「仲違いしたままにならなくて、良かった」

「はい。本当に……」


 アリスさんと手を繋ぎ、椅子に座ります。

 安堵からか、少し力が抜けました。


「戻りましタ」

「おかえりなさい」


 シーアさんも帰って来ました。満足そうな表情をしています。たくさん食べる事が出来たようですね。


「そひあさんおはようございます」

「ありゃ、バレちゃった」

「だから言ったじゃないですカ」


 隠れるようにやってきたそひあさんは、私たちを驚かせるつもりだったようです。

 

「今もダメなの?」

「リツカお姉さんを気絶させないと無理ですヨ」

「なんて物騒な事を」


 そうでもしないと私は感知するとはいえ、気絶を勧めるなんて。冗談でしょうけど、苦笑いになってしまいますよ。


「もう出発ですカ?」

「レイメイさんも帰ってるから、出発は出来るけど」


 頭の奥がジリジリと焼きつきます。違和感が、止まりません。


「リッカさま……」

「一回、広域を」

「……分かりました」


 私の世界は広がっています。アリスさんは隣に居て、想いは強く煌いています。


 であれば。


「――っ」


 今までの比では無いほどに、世界が広がっていきます。王都を出て、世界を知ったからでしょうか。

 でも、長続きはしません。すぐに、違和感の正体を暴かなければ。


(船にはない――いや、違う)


 ()()には気をつけていました。アリスさんも、しっかりと。

 でも、シーアさんとレイメイさんに言うのを忘れてしまっていました。


 あの時も()()は感知しました。でも、感じなかった。

 マクゼルトは悪意を感じさせずに近づいてきました。


 そして、ヨアセムが持っていたビンは、私が集中してやっと分かるくらいに遮断していました。


 もしあの、悪意遮断がビンの効果ではなく魔法であり、人や動物にもかけられるのなら――。


私の(【グフュ)想いに(・フラス】)()光を(オルイグナス)


 刀に”光”を纏わせ、”強化”を帯びた体で空へ跳躍します。


 船が少し揺れる程の衝撃を与えてしまいました。

 でも、全体が見えます。やはり、そこに居るんですね。


「――シッ!!」


 刀を投げ、船の()を――射抜く!!


「なんの揺れだ」


 レイメイさんが甲板に上がってきました。揺れを感じて急いで上がってきたのでしょう。


 そんなレイメイさんの心配とは関係なく、刀は地面に向かって一直線に放たれ、突き刺さります。


「なんッ――!?」

「わっ!?」


 地面が爆発したかのような轟音を上げました。


 この結果を予測していたアリスさんとシーアさんは船に掴まり無事でした。でも、そひあさんは尻餅をつき、レイメイさんは、船内に続く階段を転げ落ちていきました。


「グギャアアアアアア!!!」


 地面を大きく凹ませ、クレーターを作り上げた刀が、一体のマリスタザリア肩を貫いています。


疾風(【コルヴェ】)のように(・イグナス)――」


 ”疾風”で刀の元に飛び、柄を掴みます。


「――シッ!!」


 肩に刺さっている刀を、そのまま縦にっ!


「グッギャ……!」


 私の首に伸びる手。右前に回りながら進み避け、回転斬りを首に――。


「――」


 断末魔を上げる事無くマリスタザリアは、事切れました。



「リッカさま」

「大丈夫」


 アリスさんを手で制して、周囲の警戒を強めます。


「影の中にも攻撃当てられるんですカ」

「”光”のお陰かな」

「”影”、”闇”の一端だったのでしょう」

 ”影”に対抗する術を手に入れられたのは嬉しい誤算です。


 何故潜んでいたのかを知ることが出来ないのは不穏ですけど、早目に対応出来たのは良かった。


「何の騒ぎですかッ!?」


 町長さんがやってきました。クレーターを見てぎょっとしています。


「マリスタザリアです。すでに倒し、周囲にも居ません」

「そ、そうですか……。マリスタザリアなど、ここ最近出ていなかったものですから……」


 私たちが来たことでマリスタザリアが現れた。不信感を抱く理由になりえるでしょう。これが、狙い?


「私達はもう行きます」

「分かりました……」


 町長さんに短く告げ、船に戻ろうとしたのですけど。


「巫女様、赤の巫女様」

「昨日の――」

「ありがとうございました。娘も孫も、元気です」

「ありがとうございました!」


 娘さんが、憧れにも似た視線を、私たちに向けています。


「エオラルさんの悪意は、完全になくなっています。安心してください」

「はい。お仲間の方にも何とお礼を言ったら良いか……」

「レイメイさんなら、船室で照れています」


 昨日の事件、そのお礼の言葉を頂きます。私たちが解決したのは半分までです。

 残りは、家族の絆ですから。


「気をつけてくださいね。悪意は簡単に、人を飲み込みます」

「それでも前を向いている方に、悪意は自然感染しません」


 アリスさんがやって来て、クラースさんの治療経過を見ています。

 自然発生した悪意ならば、前向きな気持ちで跳ね除ける事は可能です。

 でも……魔王が直接、という事もあります。


「家族の支え、信じてください」


 一言だけ残し、私たちは船に乗り込みました。



「行くんだね」

「はイ」


 いたた……。とお尻を摩りながら、そひあさんが立ち上がりました。


「ごめんなさい。ちょっと一声かける暇を惜しみました」


 狙いが分からない以上、一言も発する事無く攻撃に移りたかったです。相手の油断を突く為に。


「大丈夫! 良いの見せてもらったから!」

「間近で”強化”と”光”を見られたのでス。ちょっとした痛みくらい軽いものですよネ」

「そういう事!」


 そひあさんは大喜びです。”強化”は、見るだけでは分かり辛いと思うのですけど……。


「俺は許さねぇぞ」

「復活しましたか」

「言いましたよね。敵に気付かれない為に声をかける事は出来なかったのです」


 許さないというレイメイさんに、アリスさんが再度説明します。


「いや、惜しんだしかコイツ言ってねぇんだが」

「それくらいは読んで欲しいです。修行の一環で」


 状況を読む訓練も、課したはずです。


「チッ……」


 レイメイさんが甲板の椅子に腰掛けて頭を触っています。頭打ったんですかね。


「シーア」

「はイ」

「またね」

「元気で居てくださいネ」

「シーアもね」


 そひあさんと、短いお別れをするシーアさん。抱き合い、頭を撫でられています。

 短くても、伝わるものがあります。

 また会おうという短い言葉。それに、想いの全てを込めて。


「アルレスィア様、リツカ様、サボリさん」

「待てサボリじゃ――」

「えイ!」


 レイメイさんにシーアさんが蹴りを入れています。腰の入った良い蹴りです。しばらく悶絶することでしょう。


「シーアを、お願いします」

「もちろんです」


 アリスさんが頷きます。


「お世話になる事の方が、多いですけど」

「リツカお姉さんは偶に頼りないですからネ」

「あはは……」


 少し肩が落ちてしまいます。湿っぽい空気にならないようにする、シーアさんの軽口ですけどね。


 そひあさんが船を降ります。


「ソフィお姉ちゃん」

「うん?」

「ありがとうでス」

「世話の焼ける妹の為だもの。任せなさい!」


 にかっと笑ったそひあさんは、手を振りながら街に戻っていきました。


「じゃあ行きますカ。サボリさン」

「はぁ……」


 文句を言う事すら諦め、レイメイさんが”風”を送ります。

 次は、ザブケ……なんたらです。



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