私と彼女の魔法
『リツカの魔力とこの世界のマナが馴染んだから、魔法が発現したんだよ。私は蓋を開けただけ、こっちの世界に来ればいつになるかは分からないけど、魔力さえあれば誰でも使える』
こんなにも早く馴染んで、あんな力を使えるようになるとは思わなかったけど。と、つぶやくように神さまが一番驚いています。
私は世界を救うという言葉に困惑していましたが、話し始めた神さまに集中することにしました。
『魔法だけどね。んー。そうだなぁ』
神さまは私にどうやって教えようか迷っているようです。
『あぁ、リツカの世界にテレビあるだろう。それとリモコン』
神さまの口からもはや懐かしさすら覚える単語が出てきました。離れてからまだ……一日くらいですけど。
『世界がテレビ、人間がリモコン。マナは電力、魔力は電池。さ』
まだ、よくわかりません。
『テレビをつけるためにリモコンでスイッチをいれる。これが世界へ魔法という奇跡を起こすための【イグナス】、発動さ』
イグナス、アリスさんが不思議な力を使うときに唱えていた時に聞こえた物です。
『世界にはマナが滞在している、でも見えない。その見えないマナに対して魔力を使い”言葉”と”想い”で現象を起こす』
イメージはリモコンでチャンネルを変える感じさ。と神さまが言います。
『例えば、アルレスィアの【シルテ】という盾の魔法だけどね』
昨夜、私を助けるために使った魔法……。否応無く、飛ばされたアリスさんが思い浮かびます。
『マナはあるけど何もない場所に、【シルテ】の言葉と、”守る”という想いを込めて魔力を発するとだね。マナがその想いを受け、現象が起きるのさ。守るための、”拒絶の盾”がね』
”【シルテ】・イグナス”。そう言った瞬間、アリスさんと私を守るように壁ができました。あの時私には見えませんでしたけど……。
『マナに感情はない、込められた想いを形にするだけさ。善も悪もなく、ね。だからイメージさえ掴めれば簡単に起こせる。想いさえあれば誰でもね』
テレビやリモコンの例えは一体……。
『イメージは大事だよ、本当ならこの世界に生まれれば誰でもできるんだけど、リツカはこの世界の人間じゃないからね。イメージしやすいように、さ』
後々大事になる、と……神さまは念押ししました。
『一つずつ確認していくよ』
これからリツカも使っていくんだからね。と神さまがいいます。でも……。
「あの、先に聞いておきたいことが……」
私は気になっていたことを先に聞いておきます。
『ああ、なんでも聞いてくれ』
優しく慈愛を込めた。
母のような顔で私を促してくれます。
「昨夜は、見えなかったんです。盾の魔法が……。でもさっきのは見えました。銀色の壁が広がっていくように、それに、アリスさんのローブの紋様も銀色にっ!」
昨夜は銀色に光ってなかった、魔法も、見えなかったんです。
『それはリツカの魔力が世界と馴染んだことで魔法をよくわからないままとはいえ、認識したからさ。言ったろう。イメージは大事だ』
認識したことで、見えるようになった。と、教えてくれます。
『まさか、個人の魔力の色まで認識できるとはね。本当にアルレスィアと何から何まで一緒だ』
アリスさんと一緒という言葉にわけもわからず喜んでしまう、私の深奥。その感情に気づかずに、声が少し弾みます。
「色が見えるのって、皆じゃないんですか?」
『私が知っている限り、この世界で魔力の色が見えるのは3人だよ。きみとアルレスィアそして……まぁ、今はいいよ』
そうなんですね。色が見えるとどうなんだろう?
『感受性がいいっていうのと、力が強いっていうのもあるだろうね。あまり意味はないよ。ただちょっと綺麗なだけさ。普通の人には、湯気のような白っぽい感じにしか見えないよ』
綺麗なだけ、そうです、ね。綺麗でした。今まで見たことがないほどの、綺麗さでした。アリスさんの銀色。あれに今も包まれています。
聞いている話は、荒唐無稽でしっかりと自分の身に起きたことなのに……まだフワフワとしているのに、それでも心は落ち着くのです。この、銀色に包まれていると―――。