私と彼女の世界⑤
「……」
アリスさんが顔を赤くして固まってしまいます。
「アリスさん、ありがとうございます。私のこと心配してくれて……」
私はアリスさんに感謝を述べて、笑顔を向けます。
「―――。い、いえ、その……ありが、とうございます」
えっと、どうしてアリスさんがお礼を。でも、アリスさんが笑顔になってくれてうれしいです。
『――。さて、リツカの変化だけどね』
神さまが微笑ましそうに、慈愛の目で私たちを見ていました。
『リツカが私の名前が聞こえるようになったり、声が聞こえたり、姿が見えるようになったり。驚くべき強さでアレを圧倒したことについてだけどね。簡単に言えば――私がちょっとだけ手を加えた』
(まぁ、殆ど力を使う必要はなかったんだけど)
……?
「アルツィアさま、リッカさまに何かあったら……。」
私の肩がビクっとなってしまうほどの怒気がアリスさんからもれます。
『安心なさい、アルレスィア。その辺は大丈夫。流石随一の巫女力持ちだね』
どういうことでしょう。それに、干渉できないはずじゃ。
『干渉はね、人間にはできないよ。人間にはね』
意味深です、ね。
『私の使徒としての役目を果たしてくれている”巫女”は、人間として認識してないよ。そうやって抜け道を作ったんだ。おかげで神格ごっそり落ちたけどね』
ハハハッと楽しげに笑います。
『愛すべきわが子たちのためだからね、多少は無茶もズルもするよ』
思い違い、でしたね。神さまの愛は深すぎて、今の私には理解出来ないだけのようです。本当は誰よりも、世界に生きる全てを愛しているのでしょう。
『こっちの世界に呼ぶとき、リツカの体の蓋を開けた』
蓋? ですか。それって……。
『そう、蓋。君が隠している蓋じゃなくて、別のだから安心しなさい。この蓋を開けたことでリツカの体に魔力が通うようになったんだよ』
君が隠している、この言葉に私は強く動揺します。
アリスさんにだけは――。
『安心しなさい、誰にも言わないよ』
神さまが愛しい者を見るように、私を見つめます。
少しだけ動揺が落ち着きます。
「……」
アリスさんが神さまと私を、複雑な表情で見ていたので、そっちのほうが気になったのもあるのかもしれません。
『湖から上がってきた時、体重かっただろう。私の名前がノイズで聞こえなかったりもそうさ。魔力が行き成り溢れてきて、馴染んでなかったからさ。私の名前は神力があるからね。自分の魔力に慣れるために必死な体が拒絶してたんだろうね』
神さまがアリスさんを見ないように、矢継ぎ早に言葉を重ねます。
私は昨日の出来事を思い返していきます。
『――ちなみに、体が重かった時すぐ楽になったのはアルレスィアが』
「ちょ、ちょっとアルツィアさまっ!?」
私が思い返している間に、アリスさんと神さまが何やら言い争いをしていました。
何でも無いとアリスさんが言うので、私は思考に戻る事にしました。
『そして、アレとの戦いで、アルレスィアが飛ばされたときに、脳のリミッターが焼ききれた。そのお陰で魔力が体に一気に馴染んだのさ』
焼き切れ……その言葉にアリスさんが神さまに詰め寄りました。
『いや、本当に、大丈夫だから』
「……」
『こほんっ。これは誤算だったけどね。本当はじっくり馴染ませたかったし。説明を先に、アルレスィアからさせるつもりだったんだけど』
結果的にはよかったね。と神さまが少しだけ反省しながら言いました。
危うくアリスさんを失いかけた私としては、複雑すぎてどんな顔をすればいいのか――。
『あー、えーっとリツカサン? コホン、私の声が聞こえるようになって姿が見えるようになったのは、当たり前さ』
神さまが冷や汗をかいて、早口気味に続きを話します。
『アルレスィアと同等の巫女としての才能をもったリツカが、六花として最上級で、これまたアルレスィアと同等の魔力を有している。そんなリツカが魔力に目覚めたら、そうなるよ』
アリスさんが嬉しそうに聞いています。
『さて、次は魔法とリツカの力の説明をしよう』
魔法……。この世界の根幹である、奇跡……。
『そして、最後にこの世界に今おきてることを話すよ』
この世界に今起きてる……?
『それを知って、決断して欲しい。アルレスィア、リツカ。きみたちの運命を』
神さまの瞳が、光ったように感じました。そして――。
『世界を、救っておくれ』
アリスさんと同じ、お願いをしたのでした。