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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
32日目、先生なのです
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『ダル……しう』研究者②



 食事を終え、お茶を飲んでいます。


「ソフィお姉ちゃん、良いんですか」

「だって、知られるとマズいんじゃ……」

「この船はリツカお姉さんの感知範囲内ですし」


 シーアさんとそひあさんが内緒話をしています。


 魔法研究家ってことですし、私達の魔法が知りたいのでしょうね。

 とはいっても、私の”強化”と”光”は授業でやったそうですし、後は……”抱擁”と”拒絶”でしょうか。


 ここで、そひあさんだけになら問題ないでしょうけど。

 アリスさんを見ると、問題ないと頷いてくれます。


「あのぅ……」

「私達の魔法ですよね」

「”抱擁”はリッカさま自身、まだ知らない所が多いので教えることは出来ませんけれど、”拒絶”だけで良いのなら」

「ほ、本当ですかッ!」

「その代わり、魔王討伐まで他言無用でお願いします」

「もちろんですッ!」


 やったよシーア! とシーアさんを膝に乗せて頭をがしがしと撫でています。独特な喜びの表現です。


「”拒絶”は、私が拒絶したい物を弾く魔法です。実態を持っていなくても、魔法であっても、私が拒絶したいと思えば弾けます」


 アリスさんの想い次第で、”拒絶”の範囲が決まります。

 アリスさんへかけられようとしている、”洗脳”などの魔法も、アリスさんに当たる前であれば拒絶できます。


「”拒絶”を纏えば、”盾”や”光”もより強いものとなります」


 ”盾”に”拒絶”を含ませれば、敵の攻撃を弾く盾の出来上がりです。普通の”盾”より数段上の魔法となります。


 純粋な強度ではでるくさんの盾の方が硬いです。

 でも、”拒絶”を考えるとアリスさんの盾の方が頑丈となります。


 ”光”に”拒絶”を含ませれば、悪意をより強く剥がす事が出来ます。

 これが、私との圧倒的差です。


 私では剥がせない分、強く魔法を打ち込む必要があります。アリスさんにはそれがないので、滑らかな浄化になります。


 そしてマリスタザリアに行えば、一時的に元の動物体にする事もできるのです。これこそが対マリスタザリアでの切り札。


「”治癒”は、”拒絶”を纏わないのですか?」


 メモを血走った目で取っているそひあさんの隣で、シーアさんが質問をします。

 シーアさんはすでに、メモをした後でしたね。


「……」


 アリスさんが応えるか迷っています。


「弾けるのは私が考える事が出来る物だけなので、”治癒”ですと、余計な物まで弾くかもしれませんから、纏いません」

「戦争の時、リツカお姉さんに輸血してましたけど、あれって”治癒”の派生ですよね」

「はい」

「自分にかけてましたよね」

「アリスさんのが私の中にあるんだから、そうなるよね」


 そういえば、そうです。


 死にかけてアリスさんに迷惑をかけてしまった訳ですけど、アリスさんと一心同体みたいな感じで嬉しいなぁとか思ってしまって、その事に気づきませんでした。


「あの時だけは、出来ると思ったんです」


 アリスさんが私を抱き寄せ頭を撫でてくれます。撫でているアリスさんの方が、何か物足りなさそうです。


「巫女さんにも分からないのですね」

「はい。今同じ事をしろと言われても、出来ません」

「ただの”治癒”では無理ですし、”拒絶”の隠された効果かと思ったのですけど」

「残念ながら、”拒絶”にその様な効果はありません」


 シーアさんもメモに追加し始めました。横に線を引くようにしているので、訂正しているようです。


「”拒絶”の範囲は最初に決めるの? それとも発動中?」

「始めに決めるときもありますけれど、基本的には相手の行動に合わせて変えます」


 メモを終えたそひあさんが質問を開始します。


 相手の行動の先読み。アリスさんも出来ます。


 私の先読みは、第六感と相手の行動その起こりを視ての予知です。第六感が優れている点を除けば、ライゼさんと変わりありません。


 でも、アリスさんの先読みは異質です。まるで、相手が何をするのか分かっているかのように読むのです。


 対処が早いのです。

 絶対に、この世がひっくり返ってもありえない事ですけど、アリスさんが一対一で、よーいドンで戦い始めたならば、誰もアリスさんに攻撃を当てることは出来ないでしょう。


 現実では私が居て、行動選択の余地が無い為、読む事ができても盾が壊されたりしてしまいます。


 私を守るため、怪我した場合の治癒を行う魔力を残すため、広い範囲を守るため。

 それらを考えなければいけないアリスさんは、戦闘中誰よりも思考しています。

 ただ斬ればいい私とは大違いです。


「最初に決める範囲って何があるのかしら」

「その場その場で守る対象は変わりますけど、絶対に変わらない方が一人だけ。その一人以外は、戦場によって変わります」

「暈さなくても分かりますよ」

「一応です」


 アリスさんが頬を染めます。私も、染まってます。


 そひあさんは首を傾げています。

 今の状況からすぐに分かると思うのですけど、結構鈍感な人なのでしょうか。


「その一人には”拒絶”が絶対に効かないって事かしら」

「対象から外れます。盾を張ろうともその方だけは自由に通れますし、その方の攻撃を邪魔する事はありません」

「対象以外は絶対に通さない?」

「相手の攻撃が強ければ壊れますから、絶対ではありません」


 何度か壊されてしまっていますし、壊されなくても……アリスさん事吹き飛ばされた事もあります。思い出したら魔力が荒ぶってしまいました。お茶を飲んで落ち着きます。


 シーアさんからのジト目が辛い。


「最初に決める事で有利になる事って何かしら」

「最初に考えるほどの強い想いです。私にとって最高の想いとなります。気持ちも昂ぶりますから、その後に紡ぐ言葉に熱が篭ります。私の守るという想いが、より強く発揮されるのです」

「リツカお姉さん、カップを降ろしてください」

「絶対笑われるから無理」


 今の顔を見られたら、シーアさんに笑われます。アリスさんが肩を抱いてくれました。


「考えなければいけない事が多いみたいね……」

「私達には悪意を感じ取る力がありますから、まず”拒絶”するのはそれです。戦闘で考えなければいけないことは、そう多くありません」


 相手の攻撃を拒絶するといった漠然とした想いでも、拒絶は出来ます。ですけど、相手の攻撃の詳細を知れば、より強い想いで拒絶出来ます。


 拒絶を扱うとき、アリスさんは常にそれを考えているのです。冷静な判断力と瞬発力が必須の魔法です。


「……」


 目を閉じて、そひあさんが魔力を練っています。きっと出来るかどうか試しているのでしょう。


「出来ないわね」

「”強化”も出来ませんし、”抱擁”も無理でしょうね」

「”抱擁”はまず、全貌が分かってないからね」


 やっと”強化”と合わせる事が出来ましたけど、木刀に”強化”が乗った、あの魔法。あれはきっと”抱擁”の効果です。


 でも、全く出来る気配がありません。

 刀であれが出来れば、斬れない物なんてないはずです。


「出来ない魔法があるって良いわね。全てを知りたいって思っちゃうわ」

「です。平和になったら、世界を巡るのもいいでしょう」

「そうねぇ。その時はシーアを借りようかしら」

「きっとその時なら許可が出ると思いますよ」

「ん? 冗談のつもりだったけど、そうなの?」

「ソフィお姉ちゃんの耳にも、何れ届くでしょうから。楽しみにしておいてください」

「ほほぅ」


 魔法研究の旅の計画を立てている二人。微笑ましいですね。


 闇の魔法たる、影に潜る魔法や、司祭が行った闇の砲撃、悪意の吸収、洗脳。


 そんな黒い物もありますけど、アリスさんやシーアさん、もっと言えば神さますら知らない魔法があるのです。


 きっと世界には、もっともっと、知らない魔法があるんです。

 知る事は楽しい事です。分からない事が分かるって、世界が広がるって事です。

 

 それを教えているそひあさんは、これからもどんどん世界を広げていくのでしょう。

 そして、そひあさんに教わった子たちも、世界の広さに目を輝かせるのです。

 


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