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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
32日目、先生なのです
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『ダル……しう』研究者



「おかえりシーアさん。それと――」

「ソフィア・バランドですッ! お招き頂きありがとうございます!」


 シーアさんと一緒に、ソ……ひあさんがやってきました。昔シーアさんに魔法を教えた人で、今は学校の教師と。


「そひあ、さん」

「へ?」

「……」


 顔が赤くなっていくのが分かります。


「リツカお姉さんはこちら世界の発音に苦労していますから」


 シーアさんが注釈してくれます。


「あ、あっ! はい!」

「すみません……」

「い、いえ! ソヒアで大丈夫ですッ!」


 許可も出ましたし、開き直ります。でるくさんも、それで最後まで押し切りましたし。


「甲板で食べるから、もうちょっと待っててね」


 私はアリスさんを手伝いに行きますから。

 椅子とテーブルを整えて、船内に戻ります。



「いやぁ。吃驚した。エルヴィ様と謁見した時より緊張したよぉ」

「リツカお姉さんでそれだと、巫女さんはどうなるんでしょうね」

「え……」


 リツカお姉さんは向こうの世界で普通の女の子として生きていたからか、話しかけやすくはあるんですよね。

 でも巫女さんは、巫女としての教育を受けているので。


「お待たせしました」

「は、はい」


 ソフィアお姉ちゃんの緊張が高まっていきます。

 エルヴィお姉ちゃんですら最初は、飲まれるかと思ったと言ってました。

 でも巫女さんも話してみれば普通なので、緊張するのは最初だけですよ。




 そひあさんの緊張が解けるのを待って食事を始めます。

 レイメイさんにも連絡をしてもらいましたけど、女だけの食事会に居られるか、と断ったそうです。

 

「授業はどうだった?」

「しっかりやり遂げましたよ」

「シーアの成長を感じたねぇ。私より授業上手だったかも」


 ハハハッ! とカラっと笑い、シーアさんの頭を撫でています。歳の離れたお姉さんって感じですね。


 敬語は止めてもらいました。

 激しい抵抗には会いましたけど、了承するまで根気強く、根気強くお願いしました。


「シーアさんに魔法を教えていたのですよね」

「えぇ。エルヴィ様の為にって私のところに来たのよ」


 まだアリスさんには緊張してしまうみたいですけど、敬語ではなくなってくれています。

 

「その時から学校の?」

「んー、その時は魔法研究家だったんだよねぇ」

「ソフィお姉ちゃんが作った職です」


 魔法研究家という職があるんですね。

 私はアリスさんと神さまから、魔法がどうやって生まれたという所から教えてもらいましたけど、他の人はそうではないのですよね。


「そひあさんが研究家になるまでは、皆魔法の事を研究しなかったのですか?」


 言ってから気付きましたけど……私は、人間はなんで生まれた時から呼吸するのか、なんて調べようと思いませんし、魔法も使えるから使うって感じだったのでしょうか。

 

「小さいながら民間の研究室はありました。それを国営に上げたのがソフィアお姉ちゃんです」

「そこまで大した事はしてないけどねぇ。好きで調べてただけだからさ」


 民間を国営にって、かなりすごいと思うのですけど。

 それだけの功績を挙げたって事ですし、国の発展に尽力したって事ですよね。


「なぜ魔法が発動するのか。生まれた時から知らず知らずのうちに使える私達にはそこが疑問でした。ちょっと考えれば頭に詠唱が思い浮かぶのですから」

「研究としては、個人差から等級制度を作るまでは出来てたのよね。今の特級や下級っていう枠組みは、私が研究家になる前からあったの」


 神さまから直接教えてもらえた私と違って、他の人たちは自分達でどれが特級なのかを調べるそうです。


「特級とは自由自在に扱える物。どこかで制限がかかる瞬間があるものが下級から上級、こうやって分類しているのでしたね」


 どうやって人々が魔法の等級を調べているのかを、アリスさんが教えてくれます。

 そんな曖昧な方法では……。


「じゃあ、本当は特級が二つあるのに一つって思ってる人も」

「居るかもしれません」


 神さまから、多い人は特級が二つはあると聞いています。アリスさんと私の三つはこの世界が出てきて初の事であると。そして、魔王は三つ以上――。


「等級は魔法を伸ばしていくかどうかの指針として重宝しているの。でも、どうやったら魔法を強く出来るのか、もっと言えば、魔法はどうやって発動するのかも分かってなかったのよ」

「詠唱して体の中の魔力によって発動する。これが当時の考えでした」

「でも実際は違ったのよねぇ」


 そひあさんがアリスさんを見ています。


「私はそれに疑問を持った。魔法でも日によって強弱があるってね」


 それを体調ではなく、魔法の発動法に問題があると思ったのですね。


「そこからは毎日魔法を使った。同じ”水”の魔法を何度もやったり、”水”の系統をやってみたりね。ある日、水を火に変えてみようと思ったの」


 水を火に、全く想像できませんね……。


「考えてみたけど、まったく頭に思い浮かばなかった。無理なんだなぁって思ってたら、出来るっていう女の子に出会ったのよ」

「まさか」

「いえ、私じゃありませんよ。その時私は生まれてませんし。お姉ちゃんがまだ十代の時ですよね。ですからもう二十――」

「シーア?」

「ハイ」


 二十後半から、一気に年齢を気にしだすのよ。三十で年齢を恨むようになって、そして、四十を超えた辺りで空しくなるの。五十を超えると羨むようになって、六十でどうでもよくなっちゃう。とは、お母さんの言葉です。


「おほんっ! 女の子がさらっと水を火に変えてねぇ。それを見て私、あっ出来るんだぁって思ったのよ」

「それで、想いが生まれたんですね」

「そっ! 本当に小さい火花だったけど、水から火が上がったわ」


 出来ると分かり、想うことが出来るようになったんですね。でもそれで想える辺り、すごいと思うのです。

 私はまだ、自分の物以外はぼろぼろです。


「そこで私は、魔法は魔力と詠唱で発動するんじゃなくて、自分の考え、想いで発動するって気付いたの」

「そこからは簡単だったそうです。それを実証するために、想う修行です」

「魔法はどんどん強くなっていったわ。魔力を練りながら想って、詠唱して発動する。魔力の巡りも良くなっていった」


 独自でここまで発想を飛ばせるのですね。研究者ってすごいです。


「そしてアルレスィア様が現れて、魔法の全てが開示されたの」

「魔法とは想い、魔力をもって世界のマナへ訴えかける祈りの力と」

「魔法色が見えるシーアが、世界のマナに魔力が灯る所を視たことで、私はそれを実感した」


 多くの人が繋げていくことで真実へとたどり着いたそひあさん。発想力という言葉で片付けられない程の実験の数々があったのでしょう。


「あっ……、アルレスィア様を信じてなかったという訳ではないのよッ」


 あたふたとそひあさんが弁解しています。でも、アリスさんは気にしていないようです。


「研究者の性というものです。自分で見るまで、確かめるまで気がすまないのです。許してあげてください」

「気にしていませんよ。私も聞いた側の人間であったのなら信じるか迷うと思いますから」


 アリスさんが頷いてそひあさんを止めます。

 

「そういう事で、ソフィお姉ちゃんは国に認められ、研究機関が生まれたのです。なのにこのお姉ちゃんときたら」

「魔女を断って、国も出て教師に?」

「……あははぁ」

「それだけなら無責任ですけど。一応引き継ぎはしたんですよ」


 しっかりと、大人の事情はクリアしていたようです。


「その引継ぎ相手が私だった事を除けば、概ね常識人です」


 シーアさんは適任と思うんですけど。


「その時シーアさんは何歳だったのですか?」

「七歳です」

「……」


 アリスさんの質問にさらりと応えたシーアさんに、私達は固まり、そひあさんを見ます。


「いやぁ。シーアってば才能の塊なんだもの。この子ならもっとって思っちゃって」


 思い切りが良いと言いますか、なんと言えば良いのか……。

 照れながらあははぁと笑うそひあさんの笑い声だけが、甲板に響いています。



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