『ダル……しう』喧嘩好き②
「「縫いつけよ、氷の茨」
深い海を思わせる青い氷が、ウィンツェッツと男達を絡め捕る。
「今度は私が助けて上げましたヨ。サボリさン」
レティシアがクふふふっ と、路地の入り口で仁王立ちしていた。
「なんで俺まで縛ってんだ!」
「喧嘩なんかして巫女さん達の評判を落とされても困るのデ」
「まだ動く前だったろうが」
「まだじゃないですカ」
まったく、喧嘩好きのサボリさんですね。聞き込みはどうしたんですか。
「あァ、動いたら更に酷い事になりますヨ」
「ほざ――」
「雷よ、我が敵の言の葉を止めよ。喋るなって言いませんでしたっケ」
「言ってねぇ」
舌を雷で縫い付けられた男たちがビクンビクンと跳ねています。
悪意の有無は分かりませんけど、拘置所に入れておいて明朝対処してもらいましょう。
「それデ、何があったんでス」
「いいから俺のだけでも外せ」
「それくらい自分で外せるでしょウ」
「チッ……」
”風”で私の氷を斬って外してしまいました。ほんとに外すなんて面白くないです。
サボリさんから話を聞くと、後悔してしまいました。
「もっと強い雷を当てるべきでしたネ」
「今からでも良いんじゃねぇか」
「それでは追い討ちとなってしまいまス。拘束した後では問題になるんですヨ」
野蛮人さんは野蛮人さんのままですね。
「普段虐められてる腹いせに連れて行くかと思いましたけド」
「お前、俺をなんだと……」
どうやら、仲間意識はそこそこあったようですね。
「シーア!」
「あん? ッ」
「ソフィお姉ちゃン、遅いでス」
「シーアが急にっ走るから……はぁ……はぁ……」
「運動不足ですネ」
荒く息を吐きながらお姉ちゃんが項垂れています。
こんな昼間、市場の近くの路地から魔力色が光ったから何事かと思えば、サボリさんが喧嘩してるじゃありませんか。
喧嘩両成敗と全員を縛ってみれば、サボリさんは巻き込まれただけだったとは。
ソフィお姉ちゃんを置いてかけつけた意味なかったです。
「……」
サボリさんが黙ってますね。ソフィお姉ちゃんを見て……。! そうですか、そうですか。
「通りで巫女さんやリツカお姉さんを子供扱いするはずでス」
「ん? どったの」
「なんでもないでス」
ソフィお姉ちゃんは研究中毒者ですからね。色恋沙汰に関してはど素人です。
「サボリさン」
「あ?」
「ソフィお姉ちゃんは手強いですヨ」
「何言ってんだ?」
何をすっとぼけているんですかね。
「狙うなら同じ趣味を持つ事でス」
「お前は勘違いをしとる」
「違うんですカ」
やっと気付いたみたいですけど、ため息つかれました。ムカつきます。
「知り合いに似てただけだ」
「なんダ、先約があったんですカ」
「そんなんじゃねぇ……」
「ん?」
ソフィお姉ちゃんが首を傾げています。
本人が知らない所で一つの春が終わってしまいました。いえ、始まってすらなかったですね。
「それデ、酒場の情報ハ?」
「……」
「まさカ、お酒飲んだだけですカ」
魔力を練り、今度は抜け出せない程度の魔法を浴びせる準備をします。
「なんでか知らねぇが、無視されんだよ」
「は?」
なんで出会ったばっかのサボリさんを無視するんですか。適当な嘘? いえ、嘘をつくくらいなら黙る人です、この人は。
「状況を教えてくださイ」
「店入って、酒頼んで、巫女一行ってのがバレたんだが。あぁ、魔王討伐ってのも言っちまったな」
魔王を恐れ、情報を出すのを渋った? いえ、今までそんな人は居ませんでした。
というより、魔王の存在を疑っている人がまだ居るという現状ですからね。知らないの一言で済む話です。無視までいきません。
”巫女”の手伝いを蹴ってまで――”巫女”?
「……まさカ」
「俺は悪くねぇだろ」
「そうですネ」
男の嫉妬って可愛くないです。
羨むのも分かりますけど、そこは有力情報を伝えて巫女様の為にーとかならないんですかね。
「はぁ……。サボリさんは市場の女性に聞き込みをお願いしまス。私が酒場に行きますかラ」
「女性……?」
「男性だと同じ事になりかねませン。私はこのお馬鹿たちを連行しまス」
「あぁ、分かった」
サボリさんが遠ざかって行くのを確認後、お馬鹿たちを運びます。
「あれがシーアたちの?」
「です。あれでも昔よりは丸くなったんですよ」
「へぇ。確かに怖い感じはしなかったわね」
ソフィお姉ちゃんにもついてきてもらいます。
「ハッ……。巫女だけじゃなくお前みたいなガキのお守りとはな」
抵抗すれば、また魔法を当てる大義名分が出来ると思って口の拘束はしてませんけど、うるさいですね。
「お守リ? 馬鹿言っちゃいけませんヨ。貴方たちを拘束したノ、誰だと思ってるんですカ」
この状況で私を子供と侮ってるってだけで、この人たちの浅さが際立ちます。
「横からの不意打ちだろうが」
「マリスタザリアとの戦いでは全てが不意打ちでス。それに対抗できないって言った時点デ、貴方達が雑魚って自白してるって事に気付かないんですかネ」
怒りに魔力を練っています。
「雷よ」
「グギャッ」
「ほラ、自由に魔法を撃てるのにこの様でス」
こんなに弱いのに、リツカお姉さんの手を掻い潜って、巫女さんまで手にかけようっていうんですから笑ってしまいます。
「その様子でハ、サボリさんにも勝てませんネ」
「余り強くないって感じで言ってたけど、それくらいは信頼してるのねぇ」
目の前で起きているごたごたに驚くこともなく、ソフィお姉ちゃんが質問してきます。
これくらいの度胸を持っていないと魔女になんて選ばれませんからね。
「あれでモ、キャスヴァルの戦争を生き抜キ、北門を守りぬいた人でス。人間相手なんテ、片手間で出来ますヨ」
実力を知らなかったのか、男達が狼狽しています。
「この人たちくらいなラ、さくっと殺せるでしょウ。私で良かったですネ。一生病院生活だったかもしれませんヨ」
相手がいくら知り合いであっても、何年も前の人間と同一視するなんて、お馬鹿ここに極まれりってやつです。
まぁ、リツカお姉さんの成長に感覚が麻痺してますね。
この世界の人は、向上心がなければそんなに変わりません。だから、ソフィお姉ちゃんの授業は重宝されるのです。ある程度魔法を扱えるようになった時点で、人は努力を止めてしまいます。戦うのは、戦いたい人が戦うんです。
そんな人にならないために、向上心を忘れないことを学ばせるのが、学校です。人生常に勉強です。
そしてこれが、向上心を失くしたお馬鹿です。私の最弱の雷で気絶しています。
私が片手間で行っている拘束から抜け出すことすら出来ずに震えている、この男の部下達。あの補習生たちに見せたいくらいです。反面教師としての良い教材です。
さて、憲兵に引き渡して酒場を目指しますか。一度船に寄るのも良いかもしれませんね。お昼を食べたいです。
「ソフィお姉ちゃん、船でお昼にしましょう」
「ん? それって」
「巫女さんとリツカお姉さんに会ってもらいます」
”伝言”で巫女さんに、今大丈夫か聞きます。
丁度今から作るところだったようです。
二人分追加できるか聞いたら察してくれました。
来客も大丈夫みたいです。
「大丈夫? 私スイッチ入っちゃうかもよ?」
「その時は無理やり連れて行くので気にしないでください」
「ははぁ、それなら安心だねぇ。優しく頼むよ」
「確約は出来ませんね」
研究者としての面が出てしまったソフィお姉ちゃんを止めるのは一筋縄ではいきません。
まぁ、私の方が強くなっているでしょうし、なんとかなるでしょう。
それに、最悪リツカお姉さんにも手伝ってもらいます。
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