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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
32日目、先生なのです
345/934

『ダル……しう』シーア先生

A,C, 27/03/27



「……」

「まだ根に持ってるんですカ」

「お酒がないくらいで何を不機嫌になっているのですか」


 朝の修行を始めようと思うのですけど、レイメイさんが不機嫌です。アリスさんとシーアさんに呆れた目で見られています。


 お酒をシーアさんの”氷”で瓶毎貯蔵庫に封印したのですけど、それはもう……キレましたね。

 アルコール中毒者になってしまうのではないでしょうか。


「――シッ!」

「あ゛?」


 木刀でレイメイさんの脛を狙います。


「いっ……でェ……」

「よーいドンで始まる戦いなんてありません。気を引き締めてください」


 お酒を一日飲めなかったくらいで何を落ち込んでるんですか。大体、二日酔いで打ちのめされていたでしょう。


「殺す……」

「出来るものならやってみてください」


 まず当たりませんし。アリスさんが許しませんよ。


「敵の隙を突くのは当然です。そこまで丸くなる必要ありませんよ」


 尖っていた時なら反骨心でそのまま戦いに突入していたでしょうに。


「刀を持ち、貴方に向けた時点で――私は敵ですよ」

「……」


 立ち上がり木刀を構えました。やっとやる気になったようです。


「戦いの中で学んでください。丁度足場が悪いです。足腰にきますよ」

「ォラァ!!」


 話している最中に殴りかかってきました。


「踏み込みがまだ甘いです。振りも遅い。マリスタザリアが相手ならば大振りしたいでしょうけど、小さく纏めて削っていくのも手です」


 軽くいなし、柄頭で腹を殴りつけます。


「――ッグゥ……」

「どんどんいきますよ」


 短い時間でボッコボコに……もとい、しごいてあげます。


 アリスさんが朝食を作り終えるまで、レイメイさんは三十四回、地面に打ち付けられました。その回数がどんどん減っていけば、実感も湧くでしょう。

 体の奥からじわじわとくる痛みがなければ、もう少し転がしてあげたのですけど、残念です。



 お風呂に入り身嗜みを整えた後、朝食を食べながら今日の予定を話します。


「次は、ダル……しう? そこもブレマみたいな?」


 ブレマに行く時に聞いた街の名前です。カセンツから北西に進んだ所らしく、結構距離があるそうです。


「ダルシュウは小さい王都といった感じと聞いています」

「そうですネ。これといって特産があるわけではありませんけれド、北の貿易を担っていまス」


 アリスさんに補足する形で、シーアさんが詳しい説明をしてくれました。


 王都には東西南北の全てが集約しますけれど、ダルなんとかには、北の品が集約するそうです。北の特産や、共和国の物まであるとの事です。


 王都には有名どころしかありませんけれど、その街には知る人ぞ知る逸品なんかもあるとか。


「東西南北のどこかにハ、そういった街が多く点在していまス」

「リッカさまが昔、集落の流通を気にしていましたけれど、南にあるノヘネという街から仕入れていたのですよ」


 ノヘネは集落から東に真っ直ぐ行ったところにあるそうです。王都に行くより近いそうで、そこから食材や日用品を買い付けていたと、アリスさんが教えてくれます。


「そういった街には情報も集りまス。北の町村の情報収集も兼ねていきましょウ」


 情報収集ということですし。食事時にする話とも思えませんけど、予定は伝えておかなければいけません。


「シーアさん、ごめんね。私、ちょっと船で休むことになるかも」

「私も、少し休ませていただけませんか」

「ン? それは構いませんけド」


 シーアさんは、なんで私達が休むか分かっていないようです。まだ、来ていないのでしょうか。遅い子は十三歳と言いますけど……。


「ごめんね。明日には、大丈夫と思うから」


 いつもより、少し体が重いです。

 昨日問題なく戦えたので朝の修行をしましたけれど、それがいけなかったのでしょうか。


 向こうの世界では起こらなかった程の痛みに困惑してしまいます。

 今日は戦わずに、薬を飲んで安静にしようと思います。明日には動けるように……なっていれば良いですね。


「はイ」


 頭に疑問符をつけたシーアさんが了承してくれます。

 レイメイさんが居るので、詳細は言えません。後で伝えますので、許してくださいね。

 

 不貞腐れたレイメイさんが部屋に篭ったので、私達が休む理由をシーアさんに説明しました。

 どうやら本当に、まだ来ていなかったようです。一応エルさんから教えてもらっていたらしく、理解してくれました。


「少し大きい街ですかラ、少々時間がかかると思いまス」


 浄化が必要な人たちを調べたり、魔王の情報なんかも知りたいです。

 それらをシーアさんに任せることになってしまいます。


「余り長居は出来ないけど、明日までかけた方がいいかな?」

「その方が良いかもしれませんネ」

「今でも”箱”は使えますけど、”拒絶”の大魔法は少々厳しいです。浄化は明日の朝お願いしてもよろしいでしょうか」


 私の”光”ならば今でも辛うじていけますけど、痛みがある私の浄化では、王都と違っておいそれと出来ません。

 アリスさんの体調と、シーアさんの疲労を慮って、明日までかけさせてもらいます。


 出発を明日の朝とし、その時に浄化が必要な人たち全員を、箱と大魔法で浄化します。

 すぐにでも必要な人がいれば、大変申し訳ないことですけど、私が行うということで話は纏まりました。

 


 レイメイさんにも伝えた方が良いですね。


「レイメイさん」

「……なんだ」

「はぁ……」


 そんなに飲みたいんでしょうかね。


「私達は町長さんと話をした後は船で休みます。特に()()()()()わけではありません」


 だからその時なら、まぁ……好きにして良いですよ。


「ただし、シーアさんに何かがないようにだけはしてください」

「あぁ、分かったよ」


 お酒が飲めると理解したのか、途端に機嫌を良くしました。

 シーアさんに頼んで、封印を解いてもらった方がいいかもしれませんね。


「酒場で聞き込みとかもお願いします」

「何を聞きゃいいんだ」

「急に豹変した人とマリスタザリアの動向」

「後は魔王関係です。恐らく何も聞けないと思いますけど、一応お願いします」

「分ぁった。そん代わり好きにさせてもらうぞ」

「どうぞ」


 アリスさんがジト目で見ています。


 確かに、お酒のために頑張るダメ人間にしか見えませんもんね。

 シーアさんの護衛と聞き込みさえしてくれるのなら、後は好きにしてもらって良いです。レイメイさんも()()大人ですし。


 ただ、抜き身のナイフ時代よりは、今の方が取っ付き易いですね。

 長い旅になるかもしれないんです。肩肘張った関係っていうのは疲れますから、仲間くらいの関係性は保ちたいところです。


 

 甲板にシーアさんだけというのは、もしもの時に危ないので私達も甲板で休みます。

 風が気持ちいので、部屋に居るよりは良いかもしれませんね。


「そういえバ」


 シーアさんが何かを思い出したようです。


「ダルシュウには友人が居ましたネ」

「共和国の?」

「はイ」

「どういった方なのでしょう」

「歳は離れていますけド、確カ、魔法の先生でス」


 シーアさんの研究友達といったところでしょうか。


「私に魔法を教えてくれた人でス」

「シーアさんに?」

「優秀な魔法使いのようですね」

「ですネ。多くの人に魔法を教えたいからト、『魔女』の名を蹴った人でス。この名をもらうと本来ハ、共和国内で過ごす事になりますからネ」


 今まさに共和国を出ているシーアさんが言うと、結構自由なんだなぁと思ってしまいますけど、国から頂く名前なのですから、それに合った振る舞いを求められるのでしょうね。

 

 それにしても、蹴った人ですか。権力や権威に興味がなく、純粋に魔法の発展に尽力する人という印象を持ちます。

 シーアさんが名を頂いたのはエルさんの為ですし、権力に興味がある人には与えないのかもしれません。


「会ってみたいなぁ」

「お連れしますヨ。きっと向こうも会いたがってると思いまス」

「シーアさんと同じで、私達の魔法に興味が?」

「でス。きっと根掘り葉掘りでス」

「はは……。聞かれても答えられる事は少ないよ?」


 シーアさんと似たもの同士なようです。きっと毎日の様に、二人で研究をしていたのでしょう。


 遠くに街が見えてきました。

 あれが、だるしうですね。



ブクマありがとうございます!

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