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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
31日目、モデルなのです
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『カセンツ』辺境の絵描き②



「この町は芸術の町だったのです。絵画や陶芸なとが盛んでした」

「七年前来た時はそうだったな」

「お越しになっていましたか。七年前は細々とですがやれていました。それでも、ギリギリだったのです」


 レイメイさんの言った事は正しかったようです。ですけど、その時には既に、限界であったと。


「先代国王は美術品に糸目をかけませんでした。ですから、この町の品を買うことも多かったですし、多数流れた美術品の修繕も一手に引き受けていました」


 美術館にあった数々の品。あれはここの物も含まれていたようです。

 話が見えてきました。コルメンスさんになってから、あの王都では――。


「ですが、コルメンス様になってからは……商談は一切なくなりました」

「それハ、復興で忙しかったからでハ」

「はい。ですから、最初の四年は耐えることが出来ました。しかし、その時期を過ぎると王都では、自国のみの職人を雇ったのです」


 職人通りの事でしょうか。若い職人や腕利きの職人が多数居ましたけれど、それが原因で?


「この町には見向きもせず、そういった職人を雇っていったのです。そこからは、若者の流出が始まりました。王都の職人通りに行った者。遠くの地へ夢を追いかけた者」


 より稼ぎが良い所へ、若い人たちは旅立ったとの話です。

 町にしろ国にしろ、若い人が居なければ、寂れていきます。人々の活気こそ、町の栄養。栄養のない町は、萎れていってしまうのです。


「逆恨みなのは、分かっています。ですが……」


 感情をぶつける場所がないのです。


 若者の流出は何も、コルメンスさんだけの所為ではありません。大口の顧客である先代国王を贔屓にしていたのでしょう。他の買手が居ればここまで寂れることはありません。


 逆恨みと言っていることから、そういった原因も少なからずあるのです。


「町民には話をつけます。どうぞ、ご自由にお調べください」

「ありがとうございます」


 事情を話し、悪意の捜索を開始します。


 ですけど、この町に悪意は感じません。負の感情は淀んでいますけれど、悪意には至っていません。

 気付かない部分もあるかもしれませんから、調査はします。


「私は少し別行動をとりまス」

「レイメイさん――」

「いエ。今回は食べ歩きはしないのデ、大丈夫でス」


 レイメイさんを護衛にと思いましたけど、どうやら一人で歩きたいようです。

 コルメンスさんも慕っていましたし、思うところがあるのかもしれません。


「気をつけてね?」

「お二人モ」


 シーアさんが町長さんの家に戻っていきました。


「俺は休んでいいか」

「はい。余り人は居ませんけど、朝言った事はお願いします」

「あぁ」


 二日酔いが辛いのか、木陰で座り込んでしまいました。


「まず町中を」

「はい。それと――」

「うん。病人、だね?」


 アリスさんが微笑みます。

 どんな病気かは分かりませんけれど、治せるものであれば、アリスさんは治したいのでしょう。


「一軒ずつ回っていこう」

「はいっ」


 アリスさんには”拒絶”があります。感染症であっても問題ないでしょうけど、”治癒”は、自身にかけることは出来ません。


 アリスさんの体に入る前に”拒絶”する必要があります。

 一応、注意だけはしておきましょう。

 接触感染であった場合、触れられてしまえば罹ってしまう恐れがあります。


「ごめんください。”巫女”のアルレスィアと」

「立花です。少し時間をいただけませんか?」

「はい……?」


 半信半疑の返事が聞こえ、女性が出てきました。体は痩せていますけど、栄養が足りていないという訳ではなさそうです。


「み、巫女様……。どうしてここに――ゲホッ」

「北に用事がありまして、立ち寄らせていただきました」

「そ、そうでしたか……。ですが、何のおもてなしも……」

「そう畏まらないでください。本日は、治療に参ったのです」

「治療、ですか?」


 困惑している女性に、事情を説明します。


「町長さんに教えてもらったんです。今この町に居る病人の皆さんの事を。ですから、治せるものでしたら治療をと」


 病気が治れば、少しは心に余裕が出来ると、思いました。


 アリスさんの診察と”治癒”が始まります。

 私は何か出来るという訳ではないので、片付けや掃除をしながら待つことにします。あからさまなゴミ以外は、綺麗にまとめておきましょう。


 その中に、写真がありました。この方の、息子さんでしょうか。若い男の子と笑顔で写っています。

 もしかしたら、出て行ってしまった若者の一人なのかもしれません。


 私に何かが出来る訳ではありませんけど、せめて……健康で長生きして欲しいと願っています。

 そうすれば、いつかは会えると、思っているから。




「どうか、なさいましたか?」

「いエ」


 町長さんの家に残り、お茶をいただいてます。


 お兄ちゃんがどう思われようともどうって事ありませんけど、お姉ちゃんが悲しみますし。

 それ以外の理由なんて、ないですよ?


「……」


 チラチラと私を気にしています。

 黙ってお茶を飲んでいるだけですし、気になるのも仕方ないですね。


「国王さんが憎いですカ?」

「……王国を、一代で立て直し……多くの人を助けた英雄とは思っています」

「町長さんの考えを尋ねていまス」


 当たり障りのない評価なんてどうでもいいのです。


「私は、この町を誇りに思っています。多彩な感受性を持ち、多くの名作を生み出し続けたこの町を」


 美術館には一回だけ行きました。あの中のいくつかが、この町から生まれ出たのでしょう。芸術は良く分かりませんけど、見応えの在る物がちらほらとあったと記憶しています。


「ですから、憎いです。陛下の件はきっかけにすぎません。私達の怠慢によって現状があります。ですがッ!」


 段々と熱が篭っていきます。

 お茶を飲み、落ち着くために一息ついています。それでも手の震えが、怒りを物語っています。


「私はフランジール共和国、エルヴィエール女王陛下の護衛兼情報部所属でス」

「なんと……?」


 お姉ちゃんとお兄ちゃんの関係は、この国には知れ渡っているでしょう。お姉ちゃんに近しい存在である私に、お兄ちゃんの悪口を言ってしまった所為か、顔を青ざめています。


「告げ口したりしませン。たダ、国王さんも苦労しているという事だけは知って欲しいでス」

「それは、理解しております」

「後」


 お茶を飲み干し、立ち上がりまス。

 私には何かが出来るわけではありません。ここで何かを言っても、町長さんの心が晴れることはないです。


 ですけど。


「お兄ちゃんはちゃんト、見てると思いますヨ」


 ぽかんとする町長さんに背を向けてから、町の外に向かいます。周囲を見ましょう。

 

 お兄ちゃんに連絡でもしておきますかね。そろそろ()()しても良いんじゃないかと。


 魔王討伐を待ちたいっていうのは、分かるんですけどね。こうやって落ち込んでいる人が居るんです。

 ちゃんと伝えるべきでしょう。


 王都の整備は完了したのです。次は領土内全ての整備に着手すると。国民の声に耳を傾け、全ての人が幸せに過ごせるようにすると。


 そのための第一歩たる私達、魔王討伐隊です。国王さんは、貴方達を見捨てたわけではありませんよ。


(と、カッコ良く出てきたのに)

「何してんですカ」

「あ゛……?」


 ひどい顔――いえ、ツラです。お酒は封印しますか。


「巫女さんとリツカお姉さんハ?」

「病人居るっつったろ。その治療だとよ」


 周りの家々を見ると、確かに巫女さんの魔力色が見えます。心だけでなく体まで病んでいた人たちです。少しは心が晴れると良いのですけド。


「それでハ、私()は外の警備に行きますヨ」

「……達ィ?」

「そんな仏頂面が町の真ん中に居ては心が荒みまス」

「修行の一環だろが」

「人が見えないと意味ないでしょウ」

「……水持ってこい」


 仕方ねぇと、隠すことなくじわじわと動いています。

 水が欲しいんですか。


奔流を(【ト・ロォン】)受けよ(・イグナス)!」

「ハ?」


 大量の水で流し、外に押し出します。

 家を気付けないように、一点集中の奔流です。サボリさんくらいなら為す術なくサヨナラです。


「うごッ!?」

「行きますヨ」


 歩くのも辛いのでしょう? 私が運んで上げます。

 そのお酒臭い体も洗い流せて一石二鳥です。

 綺麗な水ですから飲んでもいいですよ?



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